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オーストラリアSSN選定はここまで困難な作業となる。ヴァージニア級対アステュート級の比較。米設計案の採用が有望に見えるが、2060年代の安全保障を左右しかねない重大な決断。

 

英海軍のアステュート級。. Image: Creative Commons.

 

 

立オーストラリア海軍(RAN)向けの原子力潜水艦の選定は非常に複雑かつ困難な選択となる。現在、二型式が候補にあがっている。米海軍(USN)のヴァージニア級ブロックV、英海軍(RN)のアステュート級だ。

 

ともに優秀な艦で性能は互角といえる。原子炉は燃料交換が不要な点で共通しており、高性能ポンプジェット方式の採用も同じだ。またトマホーク巡航ミサイルを運用できる点も共通する。

 

オーストラリア政府が検討すべき点として何隻を整備するのか、供用期間、国内産業界への裨益などがある。

 

今回は両級の違いに着目し、リスク、サイズ、乗員規模、ペイロード、供用開始時期、また輸出規制について論じたい。

 

 

 

【設計上のリスク】ヴァージニア級ではオーストラリアが運用を望むAN/BYG-1 戦闘システムとMk-48魚雷の運用が最初から可能だが、アステュート級は想定してない。アステュート級を改装すれば、ち密に設定されている艦内配置、重量、浮力、バランス、動力、冷却機能の変更が必要となり、想定外の問題になりそうだ。既存設計の変更は数億ドル相当の作業となり数年かかる。代替策として最初から英装備を受け入れ、英国製戦闘システムとスピアフィッシュ魚雷を採用することがある。

 

【サイズ】両級とも通常型の既存艦コリンズ級を上回るサイズで、オーストラリアのインフラ整備が必要だ。これは低規模予算では実施できない。アステュート級は全長97メートル、排水量7,800トン、ブロックV仕様のヴァージニア級は140.5メートル、10,364トンだ。コリンズ級は77.8メートル、3,407トンにすぎない。

 

【乗員数】RANではコリンズ級の60名の乗員確保にも苦労しているので乗員数は少ないに越したことはない。アステュート級は90名、ヴァージニア級は130名程度が必要だ。

 

【ペイロード】ヴァージニア級がアステュート級より大きく、トマホークミサイルに加え将来の新型装備にも対応する。英艦は魚雷発射管を使うのみで、スピアフィッシュとトマホーク合計38発の発射が可能だ。ブロックVヴァージニア級は65発を搭載する。魚雷発射管から25発、ペイロード発射管からトマホーク12発のほか、セイル後方の大直径ペイロード発射管からトマホーク28発も運用するほか、AIM-9X対空ミサイルや極超音速滑空ミサイルも発射できる。

 

【調達見込み】米国が同意すれば既存のヴァージニア級ブロックV数隻をRANに比較的短期間で提供できる。RANの求める原子力安全運用基準と乗員訓練、運用方針の策定に供される。同時に8隻はオーストラリア南部で建造する。2018年のASPIレポートではSSN10隻を整備すればオーストラリアの要求水準を満たすのが可能で、乗員確保が必要とある。

 

原子炉運転では少なくとも当初数年間はUSNによる指導が必要とされ、米向け建造数隻をRANに回す想定だが、これはあくまでも米国が優先順位の変更を認めた場合のことだ。米海軍はヴァージニア級を66隻まで整備する計画だ。アステュート級では英海軍が想定する7隻での建造中止を改める必要が生まれるが、そのため新鋭ドレッドノート級原子力潜水艦の建造が遅れることになる。

 

ヴァージニア級の維持運用は米海軍実績を見ると容易なのではないか。新鋭技術の研究開発も運用隻数が少ないと長期化したり予算超過となることが多い。オーストラリアが最終的にSSNを10隻整備する場合、アステュート級なら17隻、ヴァージニア級なら76隻がそろうことになる。米海軍では静粛性を高めたヴァージニア級ブロックVの企画をすでにはじめている。

 

【補給体制】有事の補給体制も考慮すべき分野で、ヴァージニア級を採用の場合はオーストラリア海軍艦は米海軍艦とともにオーストラリア、日本、グアム、ハワイ、サンディエゴで補給を受けられる。だが英艦採用の場合は英国はAUKUS加盟国であり、スピアフィッシュ魚雷を一部のRAN/USN施設に確保しておく必要が生まれる。

 

【乗員の確保】アステュート級を選択する場合はオーストラリア国内の艦長副長人材の確保が短縮化できる。英海軍の艦長副長は原子力推進コースを修了しており、専門の原子炉技術士官も補助にまわる。これに対し米海軍の艦長副長クラスは全員が原子炉技術をマスターしており、原子炉運転をまじかに見てキャリアをつでいる。オーストラリアで原子力技術をマスターした士官が潜水艦艦長になるには15年かかるため、英米の扱いの違いが大きく作用する。

 

【技術移転の制約】輸出規制がヴァージニア級を選定した際に大きくのしかかる。米国務省の国際武器取引規制(ITAR)制度では米軍事技術の移転を厳しく制限している。ITARのためオーストラリア国民で二重国籍とみなされるものは米政府承認を取るのが困難となる。そもそも二重国籍市民は最初から対象から外されそうだ。

 

ITARの違反罰則が厳しい。米政府指定のリストに違反すると一回につき100万米ドルまたは10年の懲役が科される。ITARの想定する二重国籍者排除の原則はオーストラリアで問題になる。移民が多いためだ。これに対し、英政府の輸出規制には柔軟性がある。

 

【まとめ】見る角度により、最適な原子力潜水艦の選択はオーストラリアにとって極めて技術面で複雑かつ困難になりかねない。最も楽観的に見ても引き渡しまで数か年がかかり、オーストラリアの乗員が艦運用に自立するまで15年かかってもおかしくない。正しい選択によりオーストラリアにおける2060年代以降のSSNの運用維持が左右されかねない

 

長期にわたり影響を与えかねない政府の決断はそうたくさんあるものではなく、間違いを許容できる余地はほぼない。今回がまさしくその例である。■

 

Astute vs. Virginia: Which Nuclear Submarine Is Best for Australia?

BySam GoldsmithPublished2 days ago

 

Sam Goldsmith is the director of Red Team Research, has a Ph.D. on Australian defense industry innovation, and has published through the US Naval War College. This first appeared in ASPIs the Strategist. 

In this article:Astute-Class, AUKUS, Australia, China, Virginia-class

 


 

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