スキップしてメイン コンテンツに移動

オーストラリア:原子力潜水艦調達でインド太平洋での兵力投射効果拡大を期待。一方で東南アジアにAUKUSへの懸念も残る。では日本はどう関与するべきか。

 

 

Royal Australian Navy submarine HMAS Rankin

王立オーストラリア海軍のコリンズ級潜水艦HMASランキン。ダーウィン北方海域で行われた演習にて。

Royal Australian Navy/POIS Yuri Ramsey

  • AUKUS加盟国には課題として域内問題の解決はまったなしだ。

  • その中でオーストラリアは英米協力のもと建造する潜水艦の運用海域を想定している


英米三か国の安全保障同盟関係で潜水艦が中心になっているが、オーストラリアは運用想定を明確に認識している。


AUKUS同盟が9月に公表され、防衛技術面での協力が深化するが中でも8隻調達するオーストラリア向け原子力潜水艦で英米両国の支援が注目される。


関係者が同盟関係は特定国に向けたものではないと繰り返し説明しているものの、駐米オーストラリア大使アーサー・シノディノスArthur Sinodinosは域内安全保障環境の変化に呼応するものと強調しており、その大きな要因が中国である。


「相手側の軍事力、行動半径、物量が大切な要因だ」と大使は潜水艦取得に言及した。「防衛思想として戦略状況が悪化しても兵力投射効果を今後増強した。自国防衛に防衛力すべてを振り向けてはだめだ」


SSK and SSN time on station in Western Pacific

オーストラリアの原子力攻撃型潜水艦が展開を目指す重要地点を示した図。Center for Strategic and Budgetary Assessments


「これはわが国がどのように兵力投射を実施してその結果として安全保障環境をインド太平洋に構築していくかという課題だ」とシノディノス大使はハドソン研究所で講演した。


オーストラリアはディーゼル電気推進式コリンズ級潜水艦を6隻供用中で、各艦は1996年から2003年にかけ就役している。


バッテリー潜航の潜水艦は原子力潜水艦より静粛度で優れるものの、原子力推進により高速かつ長距離展開が可能となり、兵装搭載量も増え、長時間潜航を維持できる。インド太平洋の広さ、第一列島線の広がりを考えると重要な要素だ。


域内各国に潜水艦調達の流れがここにきて活発化しており、運用能力の向上も進んできた。特に中国が劇的な戦力拡大を図り、近隣海域の調査も進めている。とくに台湾周辺やインドネシア=オーストラリア間で活動が目立つ。


三国は潜水艦案の検討作業を開始しており、12-18月かけ完成させるが、このままだと一号艦の就役は2030年代末になる。


シノディノス大使はスコット・モリソン首相が新規設計で「もてあそぶ」より「既存設計をもとに建造」をするほうが重要と「極めて明確に」述べていると発言した。


大使は合わせて暫定的な既存艦のリースあるいは購入案を除外しているようで、コリンズ級は供用期間延長を受け、AUKUSは「英米艦を使いまわす、あるいは建造中の艦を融通することはない」と述べた。


「南オーストラリアで建造する方針で、既存設計案をもとにわが国の事情及び対応対象の複雑な事情に合わせる」(シノディノス大使)


大使はAUKUSとは新たな同盟関係というよりは「戦力協定」であり、潜水艦はその一部に過ぎないと強調した。


「他にも重要なのが人工知能、機械学習、サイバー、量子コンピューティング、水中戦能力で、各種能力で首相は英米両国とのシナジー効果を期待している」


AUKUSで導入をめざすものに「長距離打撃戦力」があり、トマホークミサイルを駆逐艦に、また射程延長型対艦ミサイの戦闘機への搭載を目指す。


今年初めにオーストラリアは2,000億ドル超を今後10年に投入して新型装備導入を図ると発表し、米国支援で製造する誘導ミサイル、新型艦艇、F-35など戦闘航空機でオーストラリア軍の作戦をより密接に米軍と展開して効果を上げるねらいがある。


「国防予算は増額しGDP2.5%をめざしており、従来よりも前広に域内環境の形成を達成したいと考えているからだ」(大使)


「わが国周辺の戦略状況の変化を注視している」とし、オーストラリアは事態の進展に対応し、抑止効果を発揮し、「協力国と対応すべく調整する」とシノディノス大使は述べた。


だが協力国候補国には今回の協定への懸念も残る。中国が否定的反応を示したのは想定通りだが、フランスがオーストラリアが締結済み潜水艦建造をキャンセルしたことで反発しているのだ。


一方で中国に大きく懸念を占めているベトナムなどは国内では静観する態度があっても協定を歓迎しそうだ。インドネシア、マレーシアでは域内軍拡を心配しつつ、東南アジア連合の弱体化につながるとの懸念もある。


こうした懸念の解消には対話が必要だが、それでもとくにインドネシア・マレーシアで見解の不一致は残り、「域内情勢の見方が深部で異なっている」とシドニー大米国研究センターの主任研究員スザンナ・パットンが解説している。


とはいえそうした各国の反応は米豪両国が「利害を共有し、中国の役割が増大する地域でどのように共同行動するのか」様子見としているのだとパットンは説明している。■



Australia's new nuclear-powered subs are decades away, but it's already hinting about where it will use them

Christopher Woody 43 minutes ago

https://www.businessinsider.com/australia-aukus-nuclear-powered-subs-in-pacific-amid-china-tensions-2021-11

 

コメント

このブログの人気の投稿

漁船で大挙押し寄せる中国海上民兵は第三の海上武力組織で要注意

目的のため手段を択ばない中国の思考がここにもあらわれていますが、非常に厄介な存在になります。下手に武力行使をすれば民間人への攻撃と騒ぐでしょう。放置すれば乱暴狼藉の限りを尽くすので、手に負えません。国際法の遵守と程遠い中国の姿勢がよく表れています。尖閣諸島への上陸など不測の事態に海上保安庁も準備は万端であるとよいですね。 Pentagon reveals covert Chinese fleet disguised as fishing boats  漁船に偽装する中国軍事組織の存在をペンタゴンが暴露   By Ryan Pickrell Daily Caller News Foundation Jun. 7, 3:30 PM http://www.wearethemighty.com/articles/pentagon-reveals-covert-chinese-fleet-disguised-as-fishing-boats ペンタゴンはこのたび発表した報告書で中国が海洋支配を目指し戦力を増強中であることに警鐘を鳴らしている。 中国海上民兵(CMM)は準軍事組織だが漁民に偽装して侵攻を行う組織として長年にわたり活動中だ。人民解放軍海軍が「灰色」、中国海警が「白」の船体で知られるがCMMは「青」船体として中国の三番目の海上兵力の位置づけだ。 CMMが「低密度海上紛争での実力行使」に関与していると国防総省報告書は指摘する。 ペンタゴン報告書では中国が漁船に偽装した部隊で南シナ海の「灰色領域」で騒乱を起こすと指摘。(US Navy photo) 「中国は法執行機関艦船や海上民兵を使った高圧的な戦術をたびたび行使しており、自国の権益のため武力衝突に発展する前にとどめるという計算づくの方法を海上展開している」と同報告書は説明。例としてヘイグの国際仲裁法廷が中国の南シナ海領有主張を昨年7月に退けたが、北京はCMMを中国が支配を望む地帯に派遣している。 「中国は国家管理で漁船団を整備し海上民兵に南シナ海で使わせるつもりだ」(報告書) 中国はCMMはあくまでも民間漁船団と主張する。「誤解のないように、国家により組織し、整備し、管理する部隊であり軍事指揮命令系統の下で活動している」とアンドリュー・エリク...

海自の次期イージス艦ASEVはここがちがう。中国の055型大型駆逐艦とともに巡洋艦の域に近づく。イージス・アショア導入を阻止した住民の意思がこの新型艦になった。

  Japanese Ministry of Defense 日本が巡洋艦に近いミサイル防衛任務に特化したマルチロール艦を建造する  弾 道ミサイル防衛(BMD)艦2隻を新たに建造する日本の防衛装備整備計画が新たな展開を見せ、関係者はマルチロール指向の巡洋艦に近い設計に焦点を当てている。実現すれば、は第二次世界大戦後で最大の日本の水上戦闘艦となる。 この種の艦船が大型になる傾向は分かっていたが、日本は柔軟性のない、専用BMD艦をこれまで建造しており、今回は船体形状から、揚陸強襲艦とも共通点が多いように見える。 この開示は、本日発表された2024年度最新防衛予算概算要求に含まれている。これはまた、日本の過去最大の529億ドルであり、ライバル、特に中国と歩調を合わせる緊急性を反映している。 防衛予算要求で優先される支出は、イージスシステム搭載艦 ( Aegis system equipped vessel, ASEV) 2隻で、それぞれ26億ドルかかると予想されている。 コンピューター画像では、「まや」級(日本の最新型イージス護衛艦)と全体構成が似ているものの、新型艦はかなり大きくなる。また、レーダーは艦橋上部に格納され、喫水線よりはるか上空に設置されるため、水平線を長く見渡せるようになる。日本は、「まや」、「あたご」、「こんごう」各級のレーダーアレイをできるだけ高い位置に取り付けることを優先してきた。しかし、今回はさらに前進させる大きな特徴となる。 防衛省によると、新型ASEVは全長約620フィート、ビーム82フィート、標準排水量12,000トンになる。これに対し、「まや」クラスの設計は、全長557フィート強、ビーム約73フィート、標準排水量約8,200トンだ。一方、米海軍のタイコンデロガ級巡洋艦は、全長567フィート、ビーム55フィート、標準排水量約9,600トン。 サイズは、タイコンデロガ級が新しいASEV設計に近いが、それでもかなり小さい。Naval News報道によると、新型艦は米海軍アーレイ・バーク級フライトIII駆逐艦の1.7倍の大きさになると指摘している。 武装に関して言えば、新型ASEVは以前の検討よりはるかに幅広い能力を持つように計画されている。 同艦の兵器システムの中心は、さまざまな脅威に対する防空・弾道ミサイル防衛用のSM-3ブロックII...

次期高性能駆逐艦13DDXの概要が明らかになった 今年度に設計開始し、2030年代初頭の就役をめざす

最新の海上安全保障情報が海外メディアを通じて日本国内に入ってくることにイライラしています。今回は新型艦13DDXについての海外会議でのプレゼン内容をNaval Newsが伝えてくれましたが、防衛省防衛装備庁は定期的にブリーフィングを報道機関に開催すべきではないでしょうか。もっとも記事となるかは各社の判断なのですが、普段から防衛問題へのインテリジェンスを上げていく行為が必要でしょう。あわせてこれまでの習慣を捨てて、Destroyerは駆逐艦と呼ぶようにしていったらどうでしょうか。(本ブログでは護衛艦などという間際らしい用語は使っていません) Early rendering of the 13DDX destroyer for the JMSDF. ATLA image. 新型防空駆逐艦13DDXの構想 日本は、2024年度に新型のハイエンド防空駆逐艦13DDXの設計作業を開始する 日 本の防衛省(MoD)高官が最近の会議で語った内容によれば、2030年代初頭に就役開始予定のこの新型艦は、就役中の駆逐艦やフリゲート艦の設計を活用し、変化する脅威に対し重層的な防空を提供するため、異なるコンセプトと能力を統合する予定である。  防衛装備庁(ATLA)の今吉真一海将(海軍システム部長)は、13DDX先進駆逐艦のコンセプトは、「あさひ」/25DD級駆逐艦と「もがみ」/30FFM級フリゲート艦の設計を参考にすると、5月下旬に英国で開催された海軍指導者会議(CNE24)で語った。  この2つの艦級は、それぞれ2018年と2022年に就役を始めている。  13DDX型は、海上自衛隊(JMSDF)が、今吉の言う「新しい戦争方法」を含む、戦略的環境の重大かつ地球規模の変化に対抗できるようにするために必要とされる。防衛省と海上自衛隊は、この戦略的環境を2つの作戦文脈で捉えている。  第一に、中国、北朝鮮、ロシアが、極超音速システムを含むミサイル技術、電子戦(EW)を含むA2/AD能力の強化など、広範な軍事能力を急速に開発している。第二に、ウクライナにおけるロシアの戦争は、弾道ミサイルや巡航ミサイルの大規模な使用、EWやサイバー戦に基づく非対称攻撃、情報空間を含むハイブリッド戦争作戦、無人システムの使用など、新たな作戦実態を露呈したと説明した。  新型駆逐艦は、敵の対接近・領域拒否(A2/A...