2011年のこと、大型で矢じりに似た灰色塗装のジェット機の初飛行で中国は初のステルス機成都J-20「威龙Mighty Dragon」を公表した。六年後にJ-20は人民解放軍空軍(PLAAF)に配備を開始した。
同機はレーダー誘導式ミサイルで百マイル単位の距離から敵機を狙うステルス機で厳しい戦闘状況でもパイロットを無事帰還させるといわれる。
だがJ-20はどこまでの威力があるのか。またどんな任務を想定するのか。つまるところ米国初のステルス戦闘機F-117ナイトホークは実態は戦闘機ではなく、空対空戦闘能力は皆無だった。
PLAは装備品の情報を隠し、特に性能面では公表情報は少ない。そのためJ-20の最高速度、航続距離(マッハ2、2,000マイル)はともに推定にすぎない。兵装庫は4-6発の長距離ミサイルあるいは爆弾を搭載するものの大型兵装は搭載しないようだ。
各国筋は同機を高速かつ長距離運用可能な機体とみているが、同機には近接交戦で必要となる機敏な機体制御は欠如している。珠海航空ショーの飛行展示でも際立った操縦性を示していない。
これを見て観測筋はJ-20を長距離超音速攻撃機あるいは一撃離脱の迎撃機で敵防空網を突破し、脆弱な給油機やAWACS機を攻撃する存在と見ている。
だがThe Diplomatのリック・ジョーの主張はこうした推論は同機設計上の特徴に目をつぶり、中国がJ-20を多任務戦闘機で「強力な」ドッグファイト能力があると説明していることに目をつむった集団思考の典型だと指摘している。
たとえば、珠海ショー(2018年)で配布された資料ではJ-20は「航空優勢を確立し、中長距離迎撃に対応し、援護および深部進入攻撃」が可能としていた。これは多任務戦闘機だということだ。
「よく見られる誤りは中国航空宇宙産業界では第五世代制空戦闘機の製造はできないとし、技術的に低い芸芸機あるいは攻撃機に落ちつくというものだ」とジョーは述べている。
大型のJ-20だがロシアのSu-35フランカーEより短い。Su-35は最高性能の機体制御能力を有するといわれるジョーは2001年のSong Wecongによる検討内容を引用しており、Songはステルス機は「スーパークルーズ性能とともにストール後の機体制御などこれまでにない性能が必要だ」としている。SongはJ-20設計主任Yang Weiを指導した技術者だ。
Songの結論は理想的なステルス戦闘機はカナード翼、前縁部根本の延長(ストレーキとも呼ばれる)、S字状の機体下部空気取り入れ口を採用し、ステルス、スピード、操縦性のバランスをとるべきとした。このすべてがJ-20にみられる。
J-20搭載のレーダー性能は不明のままだが、一部には探知されにくいAESAレーダーといわれ、電子光学赤外線センサーで全周探知を可能とし、センサー情報を融合しデータリンクで僚機と共有できるともいわれる。これは米F-35の高性能センサーで実現している機能だ。こうした機能はステルス機探知に有効だ。
J-20二はヘルメット搭載画像機能もつき、PL-10E熱追尾ミサイルを標的の方向を向けば発射できる。短距離ミサイルは機体側部に搭載し機内で回転させて連続発射できる。
こうした新装備が採用されたJ-20は近接交戦も想定しており、あわせて機体兵装庫から長距離極著音速PL-15ミサイルも発射できる。高機動戦闘機との交戦では短距離ミサイルを使い、撃墜させる可能性は80%と推定する専門家もいる。
中国設計陣は推力偏向エンジンもJ-20に搭載した。排気口ノズルを操作し小回りをめざすもので、PLAAFは同じく推力偏向エンジンを搭載したSu-35もロシアから導入している。
推力偏向エンジンで高機動性能が実現するものの、新鋭機でことごとく採用されていないのは重量増、コスト増に加えレーダー断面積(RCS)の最小化に反するからだ。さらに推力偏向エンジンを戦闘時に多用すると機動エナジーが急減し、機体の動きが緩慢となり敵機の格好の標的となる。ネヴァダ州の空戦演習でこれが実際に見られた。米F-15とインド空軍フランカーの模擬空戦が展開されている。このため、西側で推力偏向エンジンを採用する例は少ないがF-22は例外だ。中国が推力偏向に関心を示すのは機動性をどうとらえているかを示している。
J-20をみるとステルス機と交戦となればどうなるのかという疑問が出てくる。両機ともステルス性能が高ければ、50マイル未満でやっと探知できるはずだ。この距離では空戦能力がカギとなる。米ステルス機が中国の想定する主要競合相手で、J-20が対抗する想定が十分考えられる。
J-20はF-22に対抗できる可能性が低いが、F-35相手なら危険な相手となる。F-35は視界内交戦に最適化されていないためだ。だが、F-22、F-35ともに全方位RCSはJ-20より低いと思われるものの、J-20はロシアのSu-57を上回るステルス性能を有しているようだ。
2011年にオーストラリアの航空部門専門家カーロ・コップが行った分析ではJ-20は前方方向でのステルス機能が高いとしたが側方や後方のRCSは高く、Su-57とも共通する制約条件とした。
だが、RCSは機体塗布のレーダー吸収剤により左右される。インド空軍がSu-30でJ-20をレーダー追跡したと公言しているが、ステルス戦闘機は通常の飛行でRCSを拡大するような「ルネバーグレンズ」を放出し、実際の性能を隠すことがあるので、いずれにせよ真の性能を知ることがむずかしい。
もうひとつ、分析を混乱させているのがJ-20に高推力WS-15エンジンがまだ搭載されていないことだ。当面はロシア製AL-31Fエンジンとしている。中国の第四世代機ではエンジン欠陥に悩まされている。WS-15はAL-31FNより推力が23%増え、J-20でスーパークルーズが実現する。そうなるとJ-20の最高速度もマッハ2.5を超えることになるが、国産エンジンが真価を発揮した場合の想定だ。
PLAAFにJ-20が数十機しかないことから、同機をヒットアンドラン攻撃戦術や特別深部侵攻攻撃用に温存しているのか。前述のDiplomat誌の指摘のように、J-20が今後全方位で活用できる機体に進化する可能性があり、ドッグファイト性能も加わるのではないか。■
How Stealthy is China's J-20 Fighter Jet?
November 9, 2021 Topic: J-20 Fighter Region: Asia Blog Brand: The Reboot Tags: Stealth FightersChinaMilitaryStealth TechnologyPLAAFRadar
Sébastien Roblin holds a master’s degree in conflict resolution from Georgetown University and served as a university instructor for the Peace Corps in China. He has also worked in education, editing, and refugee resettlement in France and the United States. He currently writes on security and military history for War Is Boring.
This article is being republished due to reader interest.
Image: Wikimedia Commons
J-20は内蔵機関砲を備えていないと聞きます。F-22、そしてF-35が紆余曲折の末に機関砲を具備したことを考えると、J-20は米軍のGen.5とは異なる運用が想定されているのか?それとも、中国人が独自の判断を下したのか?
返信削除>J-20が今後全方位で活用できる機体に進化する可能性があり、
>ドッグファイト性能も加わるのではないか。
いやあ、これは難しそうだと思うのですが。設計時からそのようなプロビジョンが設けられているのなら、別ですが・・・