スキップしてメイン コンテンツに移動

中国の極超音速滑空飛行体が別のペイロードを放出していた可能性が浮上。中国技術が米ロの先を行くのか。極超音速兵器迎撃技術の開発も米国で始まった。まずグアム防衛をSM-6で進める。

China Hypersonic Missile

DADEROT/WIKICOMMONS/RUSSIAN YOUTUBE SCREENCAP

 

 

国が今夏行った核兵器運用可能と思しき極超音速ミサイルテストでは、大気圏内をらせん状に飛翔する間に何らかのペイロードを放出していたとの報道が出てきた。真実なら、興味深い技術ではあるものの、内容は不明だ。

 

フィナンシャルタイムズ(FT)は7月27日の実験では極超音速滑空飛行体がペイロードを南シナ海上空で放出し、「少なくともマッハ5で標的に向かわせた」との記事を昨日掲載した。

 

これまでこの滑空体は宇宙空間から大気圏に突入し、地球を軌道飛行に似た形で横断し、標的に向かうFOBS(Fractional Orbital Bombardment Syste 準軌道爆撃システム)の一種と思われきた。冷戦時代の構想であるFOBSは早期警戒体制が想定する方向の逆から攻撃でき、飛翔経路も想定よりはるか下となり、警戒態勢の虚をつくことが可能だ。

 

GAO

極超音速滑空飛行体と通常の弾道ミサイルの飛翔パターンの違いを示す図。

 

FOBSの機能とは別に極超音速滑空体自体が予測困難となる飛翔経路を大気圏内の飛翔制御で行う。

 

先にCBSのインタビューでジョン・ハイテンGeneral John Hyten統合参謀本部副議長が7月27日テストを「長距離ミサイル」関連だと評していた。ハイテン大将は「地球一周し、極超音速滑空体を投下し、中国国内の標的に命中した」と述べていた。

 

今回のフィナンシャルタイムズではデメトリ・セヴァストプロemetri Sevastopulo記者が「情報筋に近い取材源」の話として、滑空体が「空中で別のミサイルを分離した」と伝えている。

 

話が混乱しているが、同じFT記事内でミサイルが発射された、正体不明の対抗措置が放出された、と報じ、匿名の専門家がこの対抗装置は中国がロシア、米国より極超音速兵器開発で先を行く姿を示していると評している。

 

他方でホワイトハウスはFT問合わせに応じておらず、7月27日テストは「域内外で平和安定を目指す我々にとって懸念となる」との具体性に欠ける声明を発表しているだけだ。FTは在英中国大使館にもコメントを求めたが、情報はないと拒否された。

 

記事のトーンには総じて深刻さが見られ、「ペンタゴン技術陣は虚を突かれた」とあるが、肝心の装備の詳細では内容が薄く、とくに有事にどう使われるのかについて深く報じず、今回の実験が今後の装備にどうつながるのかにも触れていない。一方で、記事には過激な内容はあらかじめ除去されている。

 

セバストプロ記者は問題のペイロードをミサイルとしながら、記事では「ペンタゴン専門家には発射体は空対空ミサイルだと見る向きがある」ともしており、一貫性がない。同時に記事には匿名の「DARPA専門家」がペイロードを何らかの対抗装置とみており、ミサイル防衛体制を打破するもので、米国が開発中の装備と同じだとする見解を伝えている。

 

さらにDARPA専門家は「中国が対抗装置を極超音速飛翔中の本体からどうやって発射できたのか不明だ。放出そのものは大陸間弾道ミサイルで実用化しているが、今回はペイロードを大気圏内で放出している点が異なる」と述べているのを伝えている。

 

極超音速飛翔中に大気圏内でペイロード放出したとすれば技術面の突破口を実現したことになる。誘導ミサイルを放出したとなればなおさらだ。いずれにせよ、滑空中の本体の飛翔を不安定にさせずペイロードを放出するのは容易ではない。

 

現時点では実際に何が放出されたのか、目的は何だったのか不明だ。FT記事では放出体には「明瞭な標的がなく、南シナ海に落下した」とある。

 

そうなるとFTが報じたテストが本当に初めての実験だったのか疑問が生まれる。あるいは初めて実施が確認されただけなのかもしれない。7月27日テスト後に8月13日にもテストがあったが、その際にもペイロード放出があったかは不明だ。

 

中国側からはFT記事が混乱を招いた、あくまでも平和利用が目的の再利用可能宇宙機を武装装備と取り間違えているとの発言が出ているが、The War Zonはこれを一蹴している。

 

ただし、最新の情報では何らかの再利用可能宇宙機にペイロード運搬能力をつけた者との可能性が浮上しており、米空軍のX-20ダイナソアの爆撃機型に似たものかもしれない。X-20はボーイングが1960年代に開発していたい。この可能性を支持する核政策専門家が出ている。

 

NASA

 

別の可能性としてICBMと同様に大気圏内の飛翔中に再突入体を放出したのか。そうならば、飛翔中二か所以上の標的を狙う機能となる。さらに別の可能性は、飛翔の最終段階の低高度でペイロードを放出したことがある。極超音速滑空飛翔体あるいは宇宙機が速力制御能力を付与されれば、ある程度の自由度でペイロード放出できるかもしれない。

 

興味を引くのは、国防長官官房と米陸軍が何らかの母機から長時間滞空弾薬類を展開する技術を2019年以来模索していることだ。この場合の母機は弾道ミサイルの可能性が高く、極超音速飛翔中に行う。この事業にはVintage Racerの名称がついている。ただし、詳細情報や作動原理はほとんどわかっていない。陸軍は別個に今後登場する精密打撃ミサイル(PrSM)に滞空型弾薬類あるいは無人機多数を搭載する構想を検討している。中国の最新テストとVintage Racerでは構想内容には広い意味で類似点がみられるが、相互に関連があるのかについては語れない。

 

US ARMY

2019年の米陸軍説明資料に掲載されたPrSM弾道ミサイルによる滞空型弾薬類放出機能の構想図。

 

中国の7月27日テストの背景がなんであれ、中国の極超音速技術が浮上しており、DF-17がすでに供用開始されており、これも極超音速滑空技術を応用している。人民解放軍ロケット軍(PLARF)は多用な戦力の整備にとりくんでおり、ICBM部隊の拡充も急速に進んでいる。

CHINESE INTERNET

DF-17のモックアップが軍事パレードに登場した。DF-17ではDF-16B短距離弾道ミサイルをブースターとして利用する。写真では無動力極超音速滑空体が搭載されている。

 

極超音速兵器の進展について米国側が口にすることが増えており、米国装備の実験が失敗していることで中国の進展ぶりが目立つ格好となっている。

 

ハイテン大将はFOBS機能をもつ極超音速滑空体を「真っ先に投入される兵器」とし、「技術面で大きな意味があり、緊急性を痛感すべきだ」と述べた。

 

発言にある「真っ先に投入される」とは第一次攻撃用に最適化された兵器を指し、米中間の核バランスを崩す可能性がある。これまで核兵器への中国の姿勢は「最小限の抑止力」を旨とし、核兵器整備は比較的小規模だった。米側の予想では現在の200発程度が2030年に1,000発までに増えると見ている。

 

他方で9月に空軍長官フランク・ケンドールFrank Kendall も中国軍がFOBSに似た兵器開発に進んでいる可能性を空軍協会主催の航空宇宙サイバー会議の席上で発言している。「この形なら従来型のICBMの飛翔パターンは不要となる」「防衛体制やミサイル警戒態勢を出し抜くものとなる」

 

そうなると、極超音速兵器への防衛体制整備が一層必要になる。

 

米国の例ではトム・ドラガン海軍少将Rear Admiral Tom Drugga(イージス弾道ミサイル防衛事業主管)からSM-6ミサイルを「極超音速ミサイル防衛の中心装備」とし、グアム島にはSM-6による防衛体制が「絶対必要」だとした。グアムが中国ミサイルの攻撃の的になることは十分予想されており、ミサイル防衛庁(MDA)もこの度、レイセオンロッキード・マーティンノースロップ・グラマンの三社を選定し、滑空段階迎撃体Glide Phase Interceptor (GPI)の開発を急ぐこととした。極超音速滑空体が無動力で飛翔する中間段階での対処をねらう。

 

今年6月にMDAはアニメーションによる映像を発表しており、「多層防衛体制を次世代極超音速滑空飛翔体を想定して構築する」と説明していた。飛翔制御可能な極超音速飛翔体の迎撃対応は極めて困難な課題であり、迎撃チャンスは極めて限られる。現時点では有効な防衛体制は存在しない。

 

いろいろ複雑な面もあるが、限られた証拠ながら7月27日には何らかのペイロードが極超音速飛翔体から放出されたことを示しており、中国が画期的な技術の実用化をめざしていることがわかる。ただし、現時点では入手できる情報が少なく、実際のテスト内容や中国相手の戦略構図にどんな影響が生じるかを論じるのは時期尚早といわざるを得ない。■

 

China’s Hypersonic Mystery Weapon Released Its Own Payload And Nobody Knows Why

The mystery surrounding China's hypersonic vehicle test last summer has deepened after the craft reportedly launched its own projectile.

BY JOSEPH TREVITHICK THOMAS NEWDICK TYLER ROGOWAY NOVEMBER 22, 2021


https://www.thedrive.com/the-war-zone/43242/chinas-hypersonic-mystery-weapon-released-its-own-payload-and-nobody-knows-why


コメント

このブログの人気の投稿

フィリピンのFA-50がF-22を「撃墜」した最近の米比演習での真実はこうだ......

  Wikimedia Commons フィリピン空軍のかわいい軽戦闘機FA-50が米空軍の獰猛なF-22を演習で仕留めたとの報道が出ていますが、真相は....The Nationa lnterest記事からのご紹介です。 フ ィリピン空軍(PAF)は、7月に行われた空戦演習で、FA-50軽攻撃機の1機が、アメリカの制空権チャンピオンF-22ラプターを想定外のキルに成功したと発表した。この発表は、FA-50のガンカメラが捉えた画像とともに発表されたもので、パイロットが赤外線誘導(ヒートシーキング)ミサイルでステルス機をロックオンした際、フィリピンの戦闘機の照準にラプターが映っていた。  「この事件は、軍事史に重大な展開をもたらした。フィリピンの主力戦闘機は、ルソン島上空でコープ・サンダー演習の一環として行われた模擬空戦で、第5世代戦闘機に勝利した」とPAFの声明には書かれている。  しかし、この快挙は確かにフィリピン空軍にとって祝福に値するが、画像をよく見ると、3800万ドルの練習機から攻撃機になった航空機が、なぜ3億5000万ドル以上のラプターに勝つことができたのか、多くの価値あるヒントが得られる。  そして、ここでネタバレがある: この種の演習ではよくあることだが、F-22は片翼を後ろ手に縛って飛んでいるように見える。  フィリピンとアメリカの戦闘機の模擬交戦は、7月2日から21日にかけてフィリピンで行われた一連の二国間戦闘機訓練と専門家交流であるコープ・サンダー23-2で行われた。米空軍は、F-16とF-22を中心とする15機の航空機と500人以上の航空兵を派遣し、地上攻撃型のFA-50、A-29、AS-211を運用する同数のフィリピン空軍要員とともに訓練に参加した。  しかし、約3週間にわたって何十機もの航空機が何十回もの出撃をしたにもかかわらず、この訓練で世界の注目を集めたのは、空軍のパイロットが無線で「フォックス2!右旋回でラプターを1機撃墜!」と伝え得てきたときだった。 戦闘訓練はフェアな戦いではない コープサンダー23-2のような戦闘演習は、それを報道するメディアによってしばしば誤解される(誤解は報道機関の偏った姿勢に起因することもある)。たとえば、航空機同士の交戦は、あたかも2機のジェット機が単に空中で無差別級ケージマッチを行ったかのように、脈絡な

主張:台湾の軍事力、防衛体制、情報収集能力にはこれだけの欠陥がある。近代化が遅れている台湾軍が共同運営能力を獲得するまで危険な状態が続く。

iStock illustration 台 湾の防衛力強化は、米国にとり急務だ。台湾軍の訓練教官として台湾に配備した人員を、現状の 30 人から 4 倍の 100 人から 200 人にする計画が伝えられている。 議会は 12 月に 2023 年国防権限法を可決し、台湾の兵器調達のために、 5 年間で 100 億ドルの融資と助成を予算化した。 さらに、下院中国特別委員会の委員長であるマイク・ギャラガー議員(ウィスコンシン州選出)は最近、中国の侵略を抑止するため「台湾を徹底的に武装させる」と宣言している。マクマスター前国家安全保障顧問は、台湾への武器供与の加速を推進している。ワシントンでは、台湾の自衛を支援することが急務であることが明らかである。 台湾軍の近代化は大幅に遅れている こうした約束にもかかわらず、台湾は近代的な戦闘力への転換を図るため必要な軍事改革に難色を示したままである。外部からの支援が効果的であるためには、プロ意識、敗北主義、中国のナショナリズムという 3 つの無形でどこにでもある問題に取り組まなければならない。 サミュエル・ P ・ハンチントンは著書『兵士と国家』で、軍のプロフェッショナリズムの定義として、専門性、責任、企業性という 3 つを挙げている。責任感は、 " 暴力の管理はするが、暴力行為そのものはしない " という「特異な技能」と関連する。 台湾の軍事的プロフェッショナリズムを専門知識と技能で低評価になる。例えば、国防部は武器調達の前にシステム分析と運用要件を要求しているが、そのプロセスは決定後の場当たり的なチェックマークにすぎない。その結果、参謀本部は実務の本質を理解し、技術を習得することができない。 国防部には、政策と訓練カリキュラムの更新が切実に必要だ。蔡英文総統の国防大臣数名が、時代遅れの銃剣突撃訓練の復活を提唱した。この技術は 200 年前のフランスで生まれたもので、スタンドオフ精密弾の時代には、効果はごくわずかでしかないだろう。一方、台湾が新たに入手した武器の多くは武器庫や倉庫に保管されたままで、兵士の訓練用具がほとんどない。 かろうじて徴兵期間を 4 カ月から 1 年に延長することは、適切と思われるが、同省は、兵士に直立歩行訓練を義務付けるというわけのわからない計画を立てている。直立歩行は 18 世紀にプロ