F-16ファイティングファルコンがKC-135ストラトタンカーからの空中給油をアフガニスタン上空で受けようとしている。ハドソン研究所が公開したレポートは空軍の空中給油能力の現況に警鐘を鳴らしている。(Staff Sgt. Sean Martin/U.S. Air Force)
米軍の空中給油能力が「弾力性を欠き、もろく」なっており、老朽化が進み、大国相手の戦闘継続を支えられなくなっているとハドソン研究所がレポートで警鐘を鳴らしている。
レポートの題名は「空中給油の弾力性、米軍のグローバル展開を守る」“Resilient Aerial Refueling: Safeguarding the U.S. Military’s Global Reach,” で、給油機部隊の現況を解説しつつ世界各地で米軍の兵力投射能力が減退していると指摘している。
「2021年に米空中給油能力は失速した」とあり、2021年11月15日に公表された。まとめたのは同研究所で国防構想と技術を扱うティモシー・ウォルトンTimothy Walton とブライアン・クラークBryan Clarkだ。
冷戦終結はすでに30年前だが、給油機はその後も世界各地で平和維持並びに戦闘任務の支援に動員されている。「遠征展開」で部隊派遣が増えているが、空軍の給油機は往時の701機規模が473機に減っており、部隊運用にストレスを感じさせている。給油機を高ピッチ運用するのが通常になると給油機部隊に余裕がなくなるというのが同レポートの指摘事項だ。
「このままだと航空部隊は複雑かつ分散型の作戦展開ができなくなる」とあり、「紛争時に弾力性を失った空中給油と米国の作戦構想の弱点を敵勢力が広範についてくるだろう。空中給油体制が弱点となり、米軍は侵攻の抑止・撃退に無力ぶりをさらけだしかねない」
もう一つ懸念されるのが給油機の機齢が平均52年と高くなっていることで、稼働率も低下している。新型ボーイングKC-46ペガサス導入の遅れも状況悪化につながっている。旧型KC-10エクステンダー、KC-135ストラトタンカー両型では退役が近づいている。
ハドソン研究所では空軍含む各軍で空中給油能力の拡充は避けて通れず、機数を増やす以上の策が必要だと指摘している。今回のレポートでは最優先事項はインド太平洋での航空施設を多数整備、燃料貯蔵の確保、防御態勢の強化だとしている。このため今後の10年で毎年633百万ドルを、その後は毎年400百万ドルの支出が必要と試算した。これによりインド太平洋での給油能力は63%増え、2041年にほぼ倍増することになる。ただ給油機の調達数は少なくなると見ている。
空軍が空中給油能力の拡充にむかわず、燃料確保にも向かわないと、有事の際に中国による挑戦に対抗できなくなるとレポートは推論している。空中給油機部隊には施設の整った航空施設が多数必要となるし、政策上の考慮も求められるとハドソン研究所は主張。
各機にリスクが増えれば稼働可能な給油機が制限され深刻な結果を生むともレポートは主張している。
国防総省は「給油機部隊の運用弾力性を引き上げるため、現行のもろい体制を分散型に変化させ、軍用民用双方の航空施設を米領也日に各国領内に確保することで、米空軍がめざすアジャイルコンバット展開構想を実現すべきだ」とレポートは指摘している。
給油業務の分散化をさらに進めれば燃料貯蔵庫の防御が容易となり、海上輸送も活用すれば軍は必要な燃料確保が実現するというのがレポートの主張だ。
レポートでは日本や南朝鮮の民間空港を米軍が使用すれば中国は標的捕捉が困難となると指摘している。民間施設に給油機が「立ち寄り」、給油後に迅速に離陸すれば作戦実行が拡大できるとする。
米空軍には給油機材の進化が必要だとハドソン研究所は主張している。KC-46と次世代給油機KC-Zのギャップをつなぐ機材が必要だ。このつなぎ給油機はKC-Yとして知られ、候補にKC-46あるいはロッキード・マーティンのLMXT次世代給油機があがっている。後者はエアバスA330マルチロール給油輸送機(MRTT)を改修するものだ。
つなぎ給油機は燃料を大量搭載しての長距離ミッションの実施能力が求められるとハドソン研究所は主張。小型機では空軍の要求に合わない。だが同時につなぎ給油機が既存機材の改修予算を吸い取ってはいけないと注意喚起している。また次世代KC-Z高性能給油機開発の予算も別個確保すべきとする。
空軍はKC-Z開発を加速化すべきだとレポートは主張し年間18-24機のペースで生産が必要とある。これはKC-135が予想より早く退役となり、機材全体の機齢を引き下げることで空軍は調達予算支出を増やせる効果が生まれるからだ。
レポートでは指揮統制通信機能の近代化も空中給油業務で実施すれば実施効率効果がさらに引き上げられるとも指摘している。■
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