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★F-22の潜水艦版シーウルフ級の建造はなぜ三隻だけになったのか



 

Why the U.S. Navy Stopped Building the 'F-22 Raptor' of Submarines

米海軍は「F-22ラプター」の潜水艦版の建造をなぜ途中で止めたのか

August 5, 2017


  1. シーウルフ級各艦は史上最強の潜水艦を目指し建造された。ロサンジェルス級攻撃潜水艦の後継艦として米海軍の水中優位性の維持をめざしたものの建造費超過とソ連崩壊で打撃を受ける。最高性能の潜水艦とはいえ隻数が削減されてしまった。多くの点で水中のF-22というべき存在だ。
  2. 1980年代の米海軍は危機的状況にあった。1980年にソ連がウォーカー一家のスパイ網から入手した情報で米海軍がソ連潜水艦のプロペラ音で追尾していると判明した。その結果、ソ連は高性能西側工作機械でプロペラ製造を狙った。1981年に東芝が現在は普通になった九軸CNCフライス加工機をノルウェー企業コングスバーグ経由でソ連に売却した。
  3. 1980年代末になるとソ連の新鋭工作機械が効果を表わし始めた。新型アクラ級は「音響ノイズ特徴が急減した」と政府関係者がロサンジェルスタイムズに語っている。「東芝製品を入手して潜水艦の静粛性が急に向上した」 潜航が静かになったのに加え、アクラ級は2千フィートまで潜航できた。これに対し米海軍の主力潜水艦ロサンジェルス級の最大潜航進度は650フィートだった。
  4. アクラ級の脅威に対抗すべく米海軍はシーウルフ級攻撃潜水艦を企画する。HY-100合金製の艦体は厚さ二インチで深度潜航に耐える設計だ。HY-100はロサンジェルス級のHY-80より20パーセント強い。これによりシーウルフの最大深度は2千フィートになり、艦体破壊深度は2,400フィートから3,000フィートと試算された。
  5. 全長353フィートとシーウルフ級はロサンジェルス級よりわずかに短いが、艦体は2割も幅広の40フィートになった。排水量は潜航時12,158トンにふえた。
  6. シーウルフ級の動力はウェスティングハウス製S6W原子炉一基で蒸気タービン二基から52千馬力を得る。ポンプジェット式推進を米潜水艦で初めて採用した。つづくヴァージニア級も採用している。その結果、シーウルフ級は水上18ノット、水中35ノットを実現し、静粛潜航時でも最大20ノット航行できる。
  7. BQQ 5Dソナーシステムを艦首に搭載し、艦の側部に高開口パッシブアレイもつける。就役後にTB-29Aえい航式アレイソナーシステムを搭載した。機雷など近接距離ではBQS24を使う。
  8. 戦闘データシステムとして当初はロッキード・マーティン製BSY-2を搭載し、モトローラ68030プロセッサー70基でネットワークを形成していた。このプロセッサーは当時のマッキントッシュコンピューターも使っていたが、現在はAN/BYG-1兵装制御システムに換装されている。
  9. シーウルフは真のハンターとして企画され魚雷発射巻数も8門と従来の2倍になった。マーク48大型魚雷、サブ-ハープーン対艦ミサイル、トマホークミサイルを組み合わせて50発まで搭載できる。また一部は機雷に変更できる。
  10. その結果誕生した同級は米海軍によればあらゆる音域で改ロサンジェルス級より10倍の静粛度があり、旧型ロサンジェルス級との比較では70倍の差があるという。静粛度を守りながら水中速度は以前の艦の二倍になった。
  11. 大幅な性能向上には大幅な価格上昇がついてきた。シーウルフ級建造計画は12隻で330億ドルの予定だったが、ソ連崩壊でアクラ級および後継艦の脅威が消えて縮小されわずか3隻を73億ドルで建造した。
  12. 極限までの静粛性を追求したシーウルフ級を見て米海軍は最終艦USSジミー・カーターを極秘作戦支援用に改装した。艦体を100フィート延長し、MMP多用途任務プラットフォームを搭載。MMPにより遠隔操作水中艇・無人水中艇やシールズ、ダイバーの運用が水中から可能となった。シールズ隊員50名まで収容できる。カーターには艦首艦尾に補助推進装置があり正確な艦の制御が可能で水中ケーブル盗聴などに活用する。
  13. 突出した性能を有するシーウルフ級潜水艦だが冷戦思想が設計に反映され高水準脅威に対応できる高性能を追求して生まれた。冷戦後に登場したヴァージニア級では従来型より性能を向上させながら建造費抑制を海軍は求められた。成功した級とは言えず三隻しかないヴァージニア級は今でも米海軍潜水艦戦力の中できわめて有用な艦でありヴァージニア級では不可能な性能を実現しているのだ。■
Kyle Mizokami is a defense and national security writer based in San Francisco who has appeared in the Diplomat, Foreign Policy, War is Boring and the Daily Beast. In 2009 he cofounded the defense and security blog Japan Security Watch. You can follow him on Twitter: @KyleMizokami.
This first appeared last year.


コメント

  1. 近年の米軍装備は冷戦期の予算軽視に近い生産開発の影響がもろに出ているのかと思います。
    ここにきて米軍装備開発も費用対効果・ライフサイクルを意識し始めているのかも知れませんが装備の老朽化も考慮するとより可及的速やかに装備を揃える必要があるのではないでしょうか。

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