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北朝鮮の化学兵器は現実の脅威、しかも戦闘投入の可能性が高い


核兵器は使えない兵器になるとしても化学兵器は先手必勝で投入の敷居が低いようです。日本もこの脅威に立たされているのですね。北朝鮮が化学兵器放棄の交渉に応じるとは思えないのですが、筋道としては当然なのかもしれません。確かに核兵器には関心が集まっても北朝鮮の化学兵器には不思議なほど世間は無知ですね。ここまでのさばらせてしまった責任を誰がとるのか。これから考えるべき課題ですよね。

 


Everything You Need to Know: North Korea's Chemical Weapons Are No Joke
北朝鮮の化学兵器備蓄は本当の脅威だ

August 10, 2017

  1. ここ数年は北朝鮮化学兵器は核兵器の陰に隠れている観がある。ただし危険がなくなったわけではない。朝鮮人民軍(KPA)は化学兵器投入は勝利の条件と強く認識している。北朝鮮が化学兵器を使用するのはほぼ確実であり、騒擾鎮圧から致死性神経ガスまで多様な使用をするだろう。
  2. 化学兵器は戦線で局地的な戦術優勢を生み、敵の航空兵力優位性を中和する効果を生む。北朝鮮が大量保有するミサイルや火砲で化学兵器を戦線をはるか超えた地点に発射できる。韓国にむけ非武装ラインから釜山まで広範囲に化学兵器を打ち込むだろう。
  3. KPAには運搬手段が多数あり開戦となればすべての制圧は不可能だろう。
北朝鮮は化学兵器をどう使うのか
  1. 北朝鮮は大量破壊兵器の分類を説明している。核兵器は戦略抑止力として金王朝の存続のためという位置づけだ。核兵器を有事に投入するシナリオは北にはない。使用すれば韓国、米国が北朝鮮体制を転覆する動きにでるためだ。
  2. その反面、化学兵器は作戦投入を想定している。北朝鮮軍は化学兵器環境での作戦を日常から訓練しており、防護装備や探知機を備えている。一部がシリアに送られている。
  3. 化学兵器は各種使うはずだが、主目標は敵防衛体制の制圧でKPAが米韓軍の突破を狙う。化学防護装備を身に着けると兵員の動きは制約され化学攻撃の効果を下げようと防衛体制は分散される。
  4. 戦場で何が起こってもおかしくなく、化学兵器の場合は特に予測困難だが北朝鮮の投入開戦直後のはずだ。戦況が不透明になれば化学兵器の投入効果は減り、逆効果を生むかもしれないからだ。
どんな化学兵器を使うのか
  1. 化学兵器で北朝鮮には選択が多数ある。また任務に応じ選択し一時的なマヒから死亡まで調整可能だ。
  2. 韓国国防省の2012年推計では北朝鮮の化学兵器備蓄は2,500トンから5,000トンの間で年間生産量は平時に4,500トンで戦時には12,000トンに上る。
  3. 北朝鮮の化学兵器は騒擾鎮圧、呼吸停止、出血、水泡、神経作用と用途別に分類している。このうち暴動鎮圧用にアダムサイト(DM)、CN、CSの各ガスや催涙ガスで群衆を解散させるが通常は生命の危険は発生しない。
  4. また呼吸器系に作用するガスも北朝鮮は保有していると思われる。ガスに短時間触れただけなら入院ですむが長く触れると死に至る。KPAは塩素ガス、ホスゲンガス双方を備蓄している。
  5. 血液に悪作用を起こすシアン化水素や塩化シアンも準備している。
  6. その他マスタードガスは皮膚を刺激し眼球や鼻腔内に粘液を分泌させる。
  7. さらに致死性の高い神経ガスがあり、神経系統の機能を損なうものとしてサリン、ソマン、タブン、VM、VXの各化学品を貯蔵している。
運搬手段
  1. 北朝鮮には多様な化学兵器運搬手段があり、長距離ミサイルから決死隊まで選べる。平壌の攻撃範囲は韓国にとどまらず中露国境まで広がる。
  2. ここで問題になるのが距離だ。朝鮮半島は短く中国国境から韓国南端までは500マイル未満しかない。平壌から非武装地帯までが100マイル、ソウルまではわずか120マイルしかない。
  3. ロケットやミサイルで北朝鮮は遠距離まで化学兵器を投入できる。米国防総省は2014年の推計では短距離ミサイル発射装置は100基未満とし、トクサ/KN-02ヴァイパー(ロシアSS-21スカラブ派生型)が射程75マイル、スカッドが最大185マイルから625マイルとする。ともに国境付近に配備されている。
  4. またノドンミサイルの発射台が50基ほどあり、スカッドをもとに開発したノドンは800マイル飛翔し、韓国や日本を北朝鮮内陸部から狙う。
  5. 砲兵隊が圧倒的に多く、多連装ロケット弾発射機5,100門、その他火砲が4,400門ある。ロケットでは122ミリ以上、火砲では152ミリ以上あると化学砲弾を運用できる。北朝鮮砲兵隊の多くは化学攻撃の能力がある。
  6. 北朝鮮人民空軍も化学攻撃能力があるが、機材が老朽化しており、韓国防空網の突破はほぼ不可能とみられる。通常戦で出動を求められることが多いだろう。とはいえSu-7BMK「フィッター」18機とSu-25「フロッグフット」32機に化学攻撃弾を搭載するだろう。
  7. 大規模な北朝鮮特殊部隊は確実に化学兵器を運用するはずだ。敵潜入訓練を受けており化学兵器投入後の混乱に乗じるだろう。
  8. 北朝鮮は化学兵器を隠匿するだろう。化学剤は潜水艦や無人機でも運び、地下トンネルも使い化学攻撃を韓国国内で展開するかもしれない。
どこが標的か
  1. 北朝鮮の狙いはハイテク兵器を運用する他国軍の動きを化学兵器で鈍らせることだ。なかでも韓国軍がまず標的になる。地上攻勢の突破口を開きソウルさらにその先への進軍をめざすはずだ。
  2. 化学攻撃の標的には空軍基地が選ばれるはずで基地機能を奪い、米韓軍の空軍力の優位性を奪おうとするはずだ。大邱航空基地は韓国空軍F-15K戦闘爆撃機の本拠地であり、米空軍はオサン、クンサン両基地を多用するがともに北朝鮮ミサイルの標的になる。
  3. 米増援部隊が到着する釜山など韓国の港湾各地も攻撃の標的になる。韓国軍予備役の拠点も化学攻撃を受ければ人員増派が困難になる。
  4. 北朝鮮特殊部隊は民間人相手にも化学兵器を使うはずだ。政治家を襲撃し、インフラ等価値が高い民間標的を狙えば社会はパニックになり政府への信頼も揺らぐ。1995年の東京サリンガス襲撃事件と似た事件が発生すれば、民間の士気が下がり社会が混乱する。パニックになった社会で深刻な問題が発生する。民間人が道路にあふれ脱出しようとするはずだ。
  5. さらに韓国国外の米軍施設も化学攻撃を受けるだろう。嘉手納空軍基地、三沢空軍基地、横田空軍基地が朝鮮半島の航空作戦の本拠地となるが(攻撃兵器を保有していないので日本攻撃で心配する要素は皆無に近い)化学攻撃の標的になる。さらに横須賀、厚木、佐世保に駐留する米海軍も標的となり、グアムの潜水艦基地、爆撃機基地も北朝鮮の長距離ミサイルの射程内に入っている。
結論
  1. 北朝鮮が化学兵器を投入する可能性は本当にあるのだろうか。北朝鮮通常兵力の敗色が濃くなればガス使用を必要と感じるだろう。KPAには戦場での勝利を確実にする手段は少なく、化学兵器を投入しても一気に戦況は好転しない。
  2. 化学兵器を投入すれば米韓両軍の「大量報復攻撃」が即座に実施される。米韓両国は核兵器以外の投入可能なすべての手段でKPA侵攻部隊の動きを封じようとするはずだ。北朝鮮の視点から見れば核兵器がでてこないのであれば化学兵器投入を政治的に恐れる必要はなくなる。
  3. シリアでの化学兵器使用に西側世界がしっかり対応しなかったことで「レッドライン」やガス使用への対応は空虚であると判明してしまった。シリア国民へのガス攻撃と米軍隊員へのガス攻撃では大きな違いがあるが化学兵器使用のタブーが消えていることは明らかだ。
  4. 北朝鮮の化学攻撃の脅威は現実であり、戦時に投入の可能性は高い。開戦となれば米韓連合軍は北朝鮮の指揮命令系統機能を低下させながら攻勢をかけないと化学兵器の影響を下げられない。北朝鮮軍令部が正しい情報を受け取れなければ命令を出せず化学攻撃の実施が困難になる。国連軍が迅速に攻勢をかければ鈍足の砲兵ミサイル部隊を捕捉できるはずだ。
  5. 北朝鮮の化学攻撃の脅威を緩和する最善の方法は時間をかけて化学兵器放棄を交渉することだろう。北朝鮮の化学兵器の放棄を説得できれば朝鮮半島や海外で被害が減るはずだ。このため米オバマ政権は全く関心を払ってこなかった北朝鮮への対話が必要で。世界が北朝鮮に化学兵器放棄を望むのであれば対話機会を作る必要がある。
Kyle Mizokami is a writer based in San Francisco who has appeared in The Diplomat, Foreign Policy, War is Boring and The Daily Beast. In 2009 he cofounded the defense and security blog Japan Security Watch. You can follow him on Twitter: @KyleMizokami.
This first appeared in 2015 and is being reprinted due to reader interest.
Image: Reuters.

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