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台湾防衛にウクライナ、バルト三国向けの訓練支援の教訓を。ウクライナ軍の奮闘ぶりには米国等による軍改革の支援があった。では台湾にその時間の余裕があるのだろうか。

 台湾、ウクライナ、エストニア、ラトビア、リトアニアの各国国旗


シアのウクライナへの再侵略、ナンシー・ペロシ前下院議長の台湾訪問への中国からの反発など、2022年は台湾の国家安全保障にとって大きな影響を及ぼした年で、台湾の国防政策にも重大変化が生まれた。12月27日、蔡英文総統は全国向け演説で、台湾人男性の兵役義務期間を4カ月から1年に延長し、国防当局に米国の訓練方法を模倣するよう指示した。



 これは歓迎すべき決断だ。アメリカの専門家や政府関係者、台湾の立法委員や現国防相も、台湾の安全保障環境の悪化に鑑み、4ヶ月では不十分と長い間考えていた。台湾の有権者も支持している。台湾世論財団の2022年3月の世論調査では、76%が徴兵制延長に賛成している。蔡英文総統が11月選挙で党が大敗した後、すぐにこの呼びかけを行ったことは称賛に値する。

 政治はさておき、徴兵制延長は軍事的にも必要だった。台湾の志願制軍隊は、若い男女を十分集めるのに苦労してきた。2024年より施行となる1年間の徴兵制により、台湾は今後3年間で少なくとも現役兵力を6万人増強できる。

 これからが本番だ。徴兵制延長と同時に、台湾は訓練方法を全面的に見直す必要がある。特に台湾軍の訓練は、不適切で非現実的なことで有名だ。兵員は座学の時間が長すぎ、戦闘技術の訓練時間が少なすぎる。演習は台本通りに行われる。若いリーダーは命令服従を期待され、決断することはない。

 ありがたいことに、蔡英文は問題を認め、オースティン米国防長官は米軍が台湾防衛を支援すると公に約束した。アメリカの「軍靴」はすでに「地上」にある(何十年も前からそうだった。著者らの一人は2000年代初頭に台湾海兵隊の訓練を手伝った)。そして、2023年国防権限法は、台湾軍を支援する明確な枠組みと根拠を作り出した。ワシントンの多数は、中国が侵攻を開始するまで時間がなくなってきていると考えている。

 ウクライナやバルト三国での米軍による軍事訓練が台湾支援の青写真になる。これらの経験から得られた最も重要な2つの教訓は何か?第一に、急速な変革には、戦術、技術、手順を重視するボトムアップ戦闘に焦点を当てた訓練と、制度、法律、政治の改革を重視するトップダウンを組み合わせた、全体的なアプローチが必要だ。第二に、軍事改革において「急速」とは相対的な言葉でウクライナ軍の劇的な改革でさえ、ここまで到達するのに7年を要し、現在も進行中だ。

 以下、東欧・中欧における安全保障協力の取り組みから学んだ7つの重要な教訓を明らかにする。さらに教訓を台湾が直面するユニークな課題に関連付け、最後に米国の政策立案者に向けに提言する。


教訓を伝える意義

ウクライナ紛争の教訓を台湾防衛に生かす分析には事欠かない。いずれにせよ、研究の多くは、ウクライナ戦が台湾に教えるべきことは何か、現代の高密度戦争の性質、非対称防衛態勢の必要性、ロシアのウクライナ攻撃で台湾侵攻の可能性が高まるのか、習近平指導部とその将軍たちが進行中の戦争から何を学んでいる可能性があるか、に焦点を当てている。

 著者らの関心は異なる。米国がNATO同盟国と、エストニア、ラトビア、リトアニア、ウクライナの軍隊を数年で変革させた教訓は、台湾軍向け訓練で最良のモデルとなると考える。バルト三国については、2004年のNATO加盟前から変化が始まった。ウクライナの場合は、2014年にロシアが二手に分かれて侵攻し、当時のムジェンコ参謀総長が「廃墟の軍隊」と表現した当時のウクライナ軍に衝撃が走り、プロセスが始まった。

 以下7つの教訓が際立つ。


1. 具体的な戦闘スキルに焦点を当てた少人数による訓練 

ウクライナでの米欧による安全保障支援活動の特徴の中心は、厳格かつ現実的な戦闘訓練に重点を置いてきたことだ。2014年の大惨事の後、NATO加盟国はそれまでの取り組みと大きく異なる訓練ミッションをウクライナに急派し、「ホームステーション」駐屯地と機動訓練センターの両方で、ウクライナの戦術的陣形の能力を拡大する戦闘重視の各種訓練支援を提供した。英国(オービタル作戦)、カナダ(ユニファイア作戦)、リトアニアの機動訓練チームは、ウクライナ部隊に対し、歩兵、空挺、狙撃、医療活動など、多くの任務について個人および小部隊レベルで技能向上を支援した。

 一方、米国はドイツの第7陸軍訓練司令部の下、ウクライナのヤヴォリブ訓練センターに多国籍合同訓練グループ・ウクライナを設置した。米陸軍と州兵のローテーション部隊が、ウクライナ旅団に難易度の高い複合武器訓練を行うと同時に、ウクライナのオブザーバー/コントローラーを指導し、自国部隊を率先して訓練できるようにした。また、NATO特殊作戦部隊も、ウクライナ部隊のため機動訓練チームと戦闘訓練センター支援を組織した。

 米軍の安全保障協力担当者とウクライナ軍将校との会話から、こうした取り組みが、ロシア軍に対し戦術的に優位に立てる小規模部隊の能力開発に不可欠であったとうかがえる。


2. 合同演習・多国間演習で上級指揮官・幕僚の学習が進んだもちろん、最も効果的な小規模部隊の戦術も、大規模戦闘作戦において上位陣形の統制、兵器の結合、統合を行う相応の能力なしでは意味がない。このような上級士官やスタッフの能力を向上させるのは、戦術能力訓練よりはるかに困難で、達成に長い時間がかかることが多い。平時の下級将校には、部隊の訓練に専念する余裕がある。これに対し、参謀や上級士官は、時間の大半を行政や官僚的な事柄に費やす。戦闘で成功するために習得すべき仕事と根本的に異なる。さらに、上級士官や部下に新しい訓練システムや教義を受け入れさせるには、そもそも上級レベルに昇格した理由と根本的に異なる技術、スキル、慣行を教える必要がある場合が多い。

 興味深いことに、バルト三国と緊密に協力してきた元米陸軍特殊作戦将校へのインタビューによれば、エストニア、ラトビア、リトアニア軍との協力では、旧ソ連時代の将校が参加できくなり、上級指導者がすべて新人となり、この問題はそれほど困難でなかったという。一方、ウクライナ軍ではそのような禁止令はなく、2015年時点でもソ連システムを堅持していることが他の安全保障協力関係者の観察からわかった。西側の軍事的慣行への移行は、「古いやり方」に最も慣れ親しんでいる将校にとって最も困難であり、また彼らこそ最も権力と権威を握っている人たちであることが分かった。

 いずれの場合も、上級将校は多国間演習から恩恵を受け、戦術レベルから戦略レベルまでの指揮官や幕僚が戦時指揮統制業務を実践し、同時に、連携する米軍やNATO軍の技術やベストプラクティスに触れた。バルト三国には、毎年行われるNATO演習で、米国はじめとするNATOの地上軍と空軍を迅速に展開して地域を強化し、その後バルト三国とNATO軍の双方で高強度の統合訓練を実施してきた。また、バルト3国すべて(ポーランドも含む)に設置されたNATO主導の多国籍前方展開強化戦闘部隊も役立っている。ウクライナでは、ウクライナとNATOが毎年実施している「ラピッド・トライデント」シリーズが、旅団規模の部隊を集め共同訓練を行っている。リトアニア・ポーランド・ウクライナ旅団はポーランド指揮下の旅団レベルで、両国の大隊スタッフが毎年、戦闘スタッフ訓練、大隊スタッフコース、多国籍合同訓練グループ・ウクライナでの演習のために集合した。 

 やがてウクライナの新指導部もこれに同意し、NATOの指導を受けたウクライナの大規模演習が増えた。侵攻直前の2021年夏の共同エンデバー演習では、初めてNATO監視員がウクライナの旅団レベル以上の司令部(作戦司令部と統合軍司令部の両方)に組み込まれた。インタビューに応じた安全保障協力担当者は、これをウクライナ軍変革におけた大きな変化であり、NATOの相互運用性という目標に向けた軌道の上昇を示すものであると見た。


3. 米州軍パートナーシップ・プログラムが築いた関係 ... 根付くまでの時間があれば

米国陸軍州兵プログラムの関係で、ウクライナやバルト諸国と、カリフォーニア州(ウクライナ)、ペンシルベニア州(リトアニア)、ミシガン州(ラトビア)、メリーランド州(エストニア)の州兵部隊との長期パートナーシップを構築し、これらの努力ラインを強化してきた。各プログラムは、米国の専門家の人材育成に役立ち、パートナー国の必要に応じ貴重な訓練を提供し、米国内での訓練のために受け入れてきた。このプログラムは、知名度は低いものの、効果的なプログラムだ。州兵の多くは、昇進しても同じ州内にとどまる。中尉から大佐へ、軍曹から少佐へと昇進しても、同じ人が交流を続けているので、一貫性が安定した関係構築を可能にしている。このような長期関係は、他の方法では不可能なレベルの信頼関係を築くのに役立つ。

 筆者らがインタビューしたペンシルバニア陸軍州兵将校は、緊密なパートナー関係から、2018年にペンシルバニア州兵大隊内に組み込まれたリトアニア機械化中隊が米陸軍のナショナルトレーニングセンターに配備されたと説明してくれた。逆に、ペンシルベニア州の将校は、NATO演習でリトアニア部隊の幕僚を務め、現役の治安部隊支援旅団の将校も同様である。

 重要なのは、国家間のパートナーシップ・プログラムは、定着するまで時間の余裕があるときに最も効果を発揮する点である。結果として、カリフォーニア州部隊とウクライナとのパートナーシップは、個別の戦術的スキルに焦点を当てる時間しかなかった。しかし、エストニア、ラトビア、リトアニアとの長期にわたる提携では、米国と提携した軍人は、下士官の育成から戦闘航空管制技術のリハーサル、大隊や旅団レベルの指揮統制技術の改善まで、あらゆることに取り組めた。


4. 国防の制度構築は不可欠だ

ここまでは、旅団レベル以下の戦術訓練に焦点を当てた議論だ。しかし、ボトムアップ変革には、トップダウン変革も必要だ。下層部の変化を恒久化するため、組織や省レベルの改革が必要だった。また、軍隊が教義変更を行うため必要な法的権限と財源の両方を確保するため、立法府による承認も不可欠だ。

 この点でウクライナの経験は大きく参考になる。米国大使館は、政府内のハイレベルな官僚的・法的改革を推し進めるため、総力を挙げた。その努力が大きな成果を上げた。米国の安全保障協力担当者と、ウクライナ国防省に派遣された米国および他のNATO顧問は、大使や他の国務省職員による重要な関与に支えられつつ、持続的に関与してきた。NATO将校が加わった多国籍合同委員会は、半年ごとにキーウを訪れ、両国の関係に関与し続ける機会を主要な指導者に提供した。これらは、国防の変革に必要な、困難だが必要なシステム上の変化を生み出すのに役立った。


5. 戦闘地帯が学びの場になる

ウクライナもバルト諸国も、派兵して戦うことで、指導者も兵士も実戦的な環境で戦争遂行能力を磨く機会を得た。バルト諸国にとってこの経験は、アフガニスタンへの派遣という形でもたらされた(主に特殊作戦部隊が担当したが、それだけにとどまったわけではない)。また、他のNATO軍と一緒に戦ったことで、これらの部隊は戦闘環境での連携や統合作戦を実践する比類ない機会を得られた。

 ウクライナでは、ドンバス地方での7年間にわたる戦闘が、ウクライナ人兵士と将校数千人に戦闘経験を提供した。米軍の安全保障協力担当者は、静的だが激しい戦闘によって、一部のウクライナ旅団にとって獲得したばかりの西側の戦術、技術、手順を実施する機会を得たと観察している。しかし、全体的に見れば、戦闘のほとんどが静的だったため、ミッション・コマンドのコンセプトや、NATOのパートナーが推進している下士官への権限委譲をさらに進めるには不向きであった。


6. 専門的な軍事教育

バルト三国と緊密に連携した元米軍特殊作戦士官によれば、バルト三国は米国や他のNATO諸国における職業軍人教育プログラムへの参加を、自国将校団の育成で重要な要素にしているとのことである。専門的な軍事教育は、特に上級士官にとっては、NATOの標準慣行や西側諸国の軍事仲間とのネットワークに触れる機会となる。バルト三国軍の上級指導層のほとんどは、米国のシニアサービスカレッジ卒業生で占められており、米国の国際軍事教育訓練プログラムの投資に対する大きな見返りとなっている。

 このプログラム予算は、米国のシニアサービスカレッジでのウクライナ人将校向け教育にも使われているが、卒業生が上級指導者にまだ抜擢されていない。米国の元安全保障援助関係者は、今後の対ウクライナ支援において、上級士官学校卒業生をウクライナ軍の所定の役職に就かせ、学費を正当化することを条件とする必要性を指摘している。これは重要なことで、単に士官を派遣するだけでなく、その教育を自国軍で最も活用できるポジションにつかせることが最も重要だからである。


7. 急激な変化に対応する包括的なアプローチ

安全保障協力担当者との会話から、2022年2月以前、ウクライナの旅団レベル以上の指揮統制は大幅改善されていたものの、まだ未完成であったことがうかがえる。国防変革には時間がかかる。関係者は、防衛制度構築とNATO顧問への高官演習の開放が徐々に定着したものの、ウクライナ軍内で変革の機運が高まるのに時間がかかったと述べている。

 重要なのは、相乗効果で、それぞれの取り組みが他の取り組みの効果を増幅させたことだ。例えば、NATO軍から訓練を受けた部隊(あるいは指揮官が米国やNATOのスタッフ・カレッジで教育を受けた部隊)は、その後のウクライナでの訓練に寛容であったが、NATO指導者のアクセスを許可したがらない部隊も存在した。同様に、ドクトリン変更も、ウクライナ軍全体で大規模実施する前に、ウクライナ議会の承認を得る必要があった。


では教訓は台湾に当てはまるか?

台湾はウクライナではない。また、エストニア、ラトビア、リトアニアでもない。特に米台双方の意思決定者が、安全保障協力のどの部分を見習い、どの部分を捨てるかを検討する際、相違点は重要だ。ありがたいことに、最も明白な相違点で互いに相殺されるものがあるため、ウクライナとバルト三国双方から学んだ教訓を考慮できる。例えば、バルト三国は正式な米国からの防衛コミットメントを享受している。台湾はそうではない。しかし、ウクライナも同じである。ウクライナには戦略的な深みがあるが、台湾はバルト三国と同様、それがない。ウクライナとバルト諸国はともにNATOと陸上で国境を接しているが、台湾は最も近い潜在的軍事パートナーから何百マイルも離れている。

 つまり、現実味を帯びる安全保障上の脅威に対処するためには、旧式兵器に過度にまで依存した階層的で空虚な組織から、分散化された戦闘力の軍へ転換する必要があったのだ。この5カ国はいずれも、制度的な慣性を克服し、改革を急発進させるため外部から「衝撃」を必要としていた。エストニア、ラトビア、リトアニアは、独立の瞬間からロシア復権への不安とNATO加盟への希望が原動力となった。ウクライナでは、2014年のロシアによるクリミア奪取とドンバス地方の不安定化の衝撃があった。台湾にとっては、2022年のロシアによるウクライナ再攻撃で、ようやく必要な警鐘が鳴らされたように思える。  

 同時に、台湾における今後の安全保障協力の取り組みでは、キーウ、リガ、タリン、ビリニュスで直面する課題と台北が直面する課題との間に存在する重要な違い3点に対処が必要だ。 

 第一に、台湾軍は、はるかに高度な訓練を受け、「今夜戦う」準備が必要だ。ウクライナには戦略的な奥行きがあり、NATOと国境を共有しているため、戦闘が激化しても両者の協力は比較的容易だ。エストニア、ラトビア、リトアニアはウクライナ(あるいは台湾)よりはるかに小さいが、(可能性は極めて低いが)圧倒的なロシアの猛攻に直面しても、同盟国の領土に後退し部隊を再編成し、再訓練を行うことは十分考えられる。残念ながら、台湾と最も近い安全保障上のパートナーである米国とは、海路7,000マイルで隔てられている。北京が台湾を侵略する前に、台湾を孤立させようとあらゆる手段を講じるのは当然で、その結果、敵対行為が始まれば意味のある訓練の機会が失われる。

 第二に、ウクライナ軍は2014年から2022年のドンバス戦闘から学べた。7年間の戦争で戦闘経験のある部隊や指導者が生まれ、重要な教訓を得た。エストニア、ラトビア、リトアニアの兵士はアフガニスタンに従軍し、もちろんウクライナの戦闘も最前線で見ている。北京が台湾に同様の機会を与えることはないはずだ。中国の戦争立案部門がその気になれば、台湾軍の火の洗礼は台湾軍の葬式になる。

 最後に、中国のレッドラインで、台湾への軍事訓練の提供を、ウクライナやバルト三国よりはるかに複雑になる。米国とNATOの政策立案者は、エストニア、ラトビア、リトアニアへの訓練プログラム設計で、ロシアのパラノイアとNATO・ロシア建国法を回避しつつ設計する必要があった。ウクライナの西側への接近へのモスクワの不信感は、2014年以降、同国における西側取り組みに制約を課した。しかし、こうした制約は、台湾での安全保障が直面する制約とは比較にならない。具体的には、台湾に外国軍が駐留すれば戦争の正当な理由と北京がみなすことは以前からわかっている。この懸念は、米国が過去40年間、台湾に派遣してきた軍人や軍属を最小化するか、あるいはもっともらしい否認を維持するため、長い間、意図的に行ってきた重要な理由である。したがって、台湾に大量の教官を派遣したり、大規模演習を行うのは、選択肢としてありえない。


ワシントンと台北への提言

では、ワシントンはどう行動すべきだろうか。著者らは以下三点を提言する。


1. 武器売却ではなく、訓練を優先させる 

ワシントンでは、武器売却が台湾の議論の中心だ。しかし、世界最高の武器を持っていても、台湾軍がそれを使用する訓練や現実的な教義上の概念を欠いていれば、何の意味もない。さらに、最も注目される兵器の多くは、台湾に届くのに数年かかる。例えば、2022年9月に販売が承認されたAIM-9XブロックIIサイドワインダー100発が、台湾に届くのは2030年だ。また、販売済み兵器の納入を早める方法を見つかったとしても、台湾の国防部は吸収するのに苦労することになる。昨年1月、米国がF-16戦闘機66機(2019年売却)の納入を早める方法を検討し始めた際に、台湾国防部がそれを認めていた。

 歴史には、米国から供与されたり売却されたりしたハイテク兵器を有効活用できなかった軍隊(イラクやアフガニスタンが最近の例だ)が散見される。米国の国防評論家や台湾の元参謀総長と同様に、台湾軍がこのプロセスの一環として非対称的なドクトリン概念を受け入れるよう期待している。しかし、国防部が中国の侵略部隊にどう対抗するかにかかわらず、米国が台湾を支援する可能性を残す限り、台湾軍を可能な限り効果的にするため、できることを行うべきである。


2. ボトムアップの包括的な安全保障協力プログラムの承認と資金提供 

エストニア、ラトビア、リトアニア、ウクライナの事例は、変革にボトムアップ変革が必要であることを物語っている。したがって、議会は台湾との包括的な安全保障協力プログラムを制定するため認可と資金提供を行うべきだ。最近承認された国家パートナーシップ・プログラム、台湾を国際軍事教育訓練プログラムに参加させる決定、2023年国防権限法に規定された台湾での持続的なローテーション訓練のプレゼンスを維持する権限など、既存の努力はすべて良い出発点だ。また、環太平洋合同演習(通称リムパック)のような大規模かつ注目度の高い多国間演習に台湾オブザーバーを参加させる動きも同様だ。

 米国は、3つの方法でこの基盤を構築できる。第一に、外国軍の駐留に北京がどう反応するかの懸念から、米国の台湾駐留は比較的小規模にとどまるだろうが、小規模でもその影響は最大化できる。特に、バイデン政権は、台湾の訓練司令部や部隊に米国顧問団を組み込むよう台北に働きかけるべきであり、同盟国にも同じことを奨励できる。ウクライナの2021年合同演習は、このことがウクライナ軍高官レベルでようやく実現し始め、実を結びつつあることを示している。米国は目立たないようにするため民間軍事会社を活用するかもしれないが、そのような努力の実績は一筋縄ではいかない。契約による助言支援は、米軍に代わって行うのではなく、米軍内に組み込む必要がある。

 第二に、国防総省は台湾将校と幕僚を米軍合同演習に参加させるべきだ。ウクライナやバルト諸国における変革の努力は、相手国軍の上級士官や将校を訓練し、双方の協調と親近感を向上させる点で、このような努力が多大な利益をもたらすことを示唆している。台湾のオブザーバーや連絡将校を米国の幕僚にすることが優先されるが、最終目標は、演習中に台湾軍幕僚に米国人将校を組み込むことだろう。有事に台湾軍と協調できるかがこのような努力にかかっている。

 最後に、議会は、国防総省が台湾部隊を米国内で訓練することを認めるべきだ。国防権限法は、国防総省が台湾で継続的なローテーション訓練を行うことは認めているが、台湾軍の訓練方法を根本から変えるには、はるかに大規模な取り組みが必要なのだ。一つの選択肢とsちえ、台湾の中隊、ひいては大隊を米国の施設、特に戦闘訓練センターでの訓練サイクルでローテーション参加させることである。米陸軍がハワイに新設した太平洋合同多国籍訓練センターが、目的地になりうる。しかし、カリフォーニア州フォート・アーウィンやルイジアナ州フォート・ポークにある米陸軍の国家および統合即応訓練センターや、ネリス空軍基地での空軍のレッドフラッグ演習も有意義だ。

3. トップダウン改革を推進し、ボトムアップ変革を強化する

ウクライナやバルト三国での改革努力は、軍隊下部の訓練方法を変えるには、上部のやり方を変える必要があることを明確に示している。台湾の国防部が長い間、改革に抵抗してきたことは周知の事実だ。蔡英文総統が上級将校の反対を押し切って苦労しているのは、少なくとも文民の監視、監督、統制を維持する官僚機構を欠いていることが一因である。具体的には、不人気な決定を下す際に頼れる国防長官室に相当する組織がない。

 国防部内に国防長官室のようなものを作ることは、明らかに途方もないことで、台湾が自ら決断しなければならないことだ。しかし、ワシントンは台北が土台を築くのを手助けできる。バイデン政権、特に国防長官室の職員は、台湾のカウンターパートに青写真とロードマップを提供できる。国防総省は、専門的な軍事教育で米国に派遣された台湾の中堅・上級将校が、国防長官室で仕組みを学ぶ時間を確保することができる。議会もまた、果たすべき役割がある。台湾の若手政治家に、民間の軍監督に関するより細かい点を教育するため、米国防高官との会談、上院・下院軍事委員会のスタッフとの対話、ワシントンDCのシンクタンクで防衛アナリストと一緒に仕事する機会など、個別プログラムを作成し資金提供することが可能である。台湾に渡航する議員は、台湾政府高官や立法委員と密室で会談する際に、この問題を主要な話題のひとつにできる。最重要なことは、議会は直近の国防法で認められた数十億ドルの対外軍事資金援助に条件や縛りを加えることを検討することである。


結論

台湾軍が、脅威環境に適応する時間は残り少なくなってきた。もちろん、戦争が迫っているかは誰にも分からない。習近平の頭の中はどうなっているのか、誰にも分からないからだ。しかし、習近平が武力行使の可能性を残す限り、台北とワシントンは、その選択をした際のコストが利益を大きく上回ることを習近平に納得させるため全力を尽くすべきなのだ。

 徴兵延長は、訓練の劇的な質的向上とセットなら、習近平の考え方を変えるまで長い道のりを歩むことができる。しかし、軍隊を変えるには時間がかかる。ウクライナ軍の急速な近代化でさえ、7年かかった。台湾軍の場合、制約が多いため、前途はさらに長くなってもおかしくない。

 ありがたいことに、ワシントンはこのプロセスの促進を手助けできる。ウクライナやバルト三国での支援経験がモデルを提供しているからだ。 ■



Learning to Train: What Washington and Taipei Can Learn from Security Cooperation in Ukraine and the Baltic States - War on the Rocks

JERAD I. HARPER AND MICHAEL A. HUNZEKER

JANUARY 20, 2023

COMMENTARY


Jerad I. Harper, Ph.D., is an active-duty U.S. Army colonel and an assistant professor at the U.S. Army War College. These views are his own and do not represent those of the U.S. Army War College, the U.S. Army, or the Department of Defense.

Michael A. Hunzeker (@MichaelHunzeker) is an associate professor at George Mason University’s Schar School of Policy and Government, where he is also associate director of the Center for Security Policy Studies. He served in the Marine Corps from 2000 to 2006.


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