2020年12月2日、ドイツのグラーフェンヴェール訓練場で、第1騎兵師団第1機甲旅団戦闘チーム第5騎兵連隊第2大隊所属のM1エイブラムス主力戦車が主砲を発射した。
西側の国防指導層は、ウクライナにNATOの戦車を投入することを拒否している。ここ数日、米国はウクライナに対し、過去最大規模の装甲車両や殺傷能力の高い支援物資を提供すると発表した。しかし、金曜日にドイツのラムシュタイン空軍基地で開かれた50カ国からなるウクライナ防衛コンタクトグループ会合で、米独はウクライナにM1エイブラムスやレオパルド2戦車の供与は拒んだ。
とはいえ、主戦闘戦車を抜きにしても、ウクライナに提供された近代的な装甲車のリストは重要なものだ。
しかし、ウクライナが最終的にハイテク戦車を手に入れたとしても、ウクライナ軍(UAF)を今春以降にロシアを駆逐できる近代的な軍隊に変えられるだろうか。
その可能性は多くの人が考えるほど大きくはない。
時間が経てば分かるはずだが、西側の支持者とウクライナの指導者は、ゼレンスキー部隊が直面している課題の規模を理解する必要がある。あらゆる軍備の総体を、プーチン軍をロシアに追い返す戦闘力に転換しようとしている。古代から変わらないのは、戦争は人間が行い、勝負は、機械や道具ではなく、人間が決めることだ。
ウクライナが入手した装備品
米国がウクライナに約束した最新の装備だけでも相当なものだ。ブラッドレー戦闘車(BFV)59台、ストライカー装甲戦闘車90台、ハンビー350台などだ。
侵攻以来、米国はウクライナに対人ミサイル6万発以上、155ミリ榴弾砲160門、105ミリ榴弾砲72門(各口径の砲弾約150万発含む)、HIMARSロケットランチャー38基、M113装甲人員運搬車300台、M1117装甲警備車250台、MRAP装甲車580台、小銃弾薬1億1100万発、その他数多くの武器や戦争道具の供与や提供を確約してきた。
これは膨大な量だ。先月、ウクライナ軍のヴァレリー・ザルジニー司令官は、戦車約300両、装甲兵員輸送車500台、榴弾砲500門が必要とエコノミスト誌に語った。ラムシュタイン防衛グループはザルジニーが望む戦車を約束しなかったが、すべての国が提供したソ連時代の戦車、兵員輸送車、砲兵システムを合わせると、驚くべき数に達する。
金曜日のラムシュタイン会議に先立つブルームバーグ会計報告によると、西側諸国やその他の国々は、ゼレンスキー軍にソ連時代の戦車410両、ソ連時代の歩兵戦闘車300両、米国製以外の装甲人員輸送車550両、米国製以外のMRAP約500両、歩兵車輪付き車両1500台(うちハンビー1250台)、米国製以外のロケットランチャー50基以上、牽引砲と自走砲ほぼ500基などを与えたという。 これは、ウクライナがまだ自前で持っている装備に上乗せされたものである。
ある資料によると、ウクライナは戦争前に戦車を各型式合わせ約2000台保有し、昨年10月時点(本稿執筆時点の最新情報)で320台を失ったとされる。仮にその2倍と仮定しても、西側が提供した戦車と合わせると、キエフの戦車保有台数は1700台程度となる。NATOの最新戦車を少数保有することが差別化につながるという考え方は、現代の戦闘の仕組みに対する深い理解に基づいたものではない。
M1エイブラムス対ソ連製T-72
「砂漠の嵐」作戦では、米M1A1エイブラムス戦車がサダム・フセインのソ連製T-72を一掃し、2003年の侵攻もT-72がアメリカ戦車に敵わないことを明らかにした。そして、本当にアメリカの戦車は活躍した。例えば「砂漠の嵐」では、アメリカとその連合軍はイラクの戦車を3,000両以上撃破している。 しかし、サダムの機甲部隊はエイブラムス戦車を1両も撃破できなかった。エイブラムスや同等の戦車を保有したいと考えるのは理解できる。特に、ロシアが保有する戦車と全く同じタイプの戦車に効果的だと証明ずみなのでなおさらだ。
しかし、問題は、なぜエイブラムスがここまで成功し、T-72がこれほど失敗したのかを理解することだ。戦車は、それを運用する個人と、それを採用する部隊と同じくらい良いものでしかありません。筆者は第2装甲騎兵連隊第2中隊のイーグル部隊で73イースティングの戦いで戦い、ソ連時代の戦車やその他の装甲車両を多数破壊したが、味方の戦車やブラッドレー戦闘車両は1台も失わずにすんだ。その理由は2つある。
まず、米軍の乗員が高度な訓練を受けていたこと。筆者の部隊では、運転手、装填手、砲手、車両指揮官がそれぞれの仕事をマスターし、戦闘の1年以上前から、小隊、中隊、そして連隊として相当の時間をかけて訓練してきた。
第二に、イラクがそのようなことをほとんどしていなかったことが、後に判明した。乗員は最小限の訓練しか受けておらず、訓練で主砲を撃つことはほとんどなく、部隊レベルの訓練もほとんど行われていなかった。また、戦車の運用で一般の理解よりもはるかに重要な整備も、事実上存在しなかった。要するに、T-72のオペレーターは訓練不足で、一方、わが方は高度な訓練を受けていたのだ。
戦車戦は、正確に先制攻撃した方が勝つことがほとんどだ。『砂漠の嵐』では、ほとんど常に先制攻撃を行い、しかも訓練を受けていたので、ほとんど外れることはなかった。しかし、イラクの砲手が撃っても、命中することはほとんどなかった。その結果が彼らにとって致命的となった。
人間か機械か?
イラクが同じM1A1を持っていたとしても、あるいはイラクが持っていたのと同じT72を我々が装備していたとしても、我々は勝利していただろう。エイブラムスは、ソ連時代のどの戦車よりもあらゆる面で優れていることは間違いない。しかし、適切な訓練とメンテナンスがなければ、M1でも敗北する可能性はある。
エイブラムスやレオパルドは、保有すればウクライナの戦場で大成功を収める「万能兵器」ではない。役に立つだろう。現在のウクライナ戦車よも能力が向上するだろう。しかし、この戦争の性質上、戦車対戦車の戦闘は珍しく、今日に至っても事実上皆無である。ただし、M1を追加しても戦場の力学を大きく変えることができない理由を示すため、現実的なシナリオを提示したい。
エイブラムスとレオパルドが実戦投入されれば
昨年8月、ウクライナ軍がケルソン地方のロシア軍前線に押し寄せたとき、ウクライナ軍がT-72、T-64、M-55の混合戦で、ロシア側がT-72、T-80、T-90数両を保有していたとしよう。結果的に、この地域の戦闘は砲撃とロケット弾が中心で、歩兵の突進はあっても戦車対戦車の戦闘はほとんどなかった。しかしロシア側が同じ戦車で、UAFがエイブラムスとレオパルドを持っていたとしよう。何が変わるか?
西側戦車はソ連型より精度の高い主砲を持ち、前面装甲の防御力も高く、射程距離も長い。しかし、T-72も十分な装甲保護と短距離で致命的な効果を生む主砲がある。しかし、NATO戦車はT-72の砲撃に対し不死身とはいかない。T-72、T-80、T-90が側面または背面から砲撃を加えれば、M1エイブラムス戦車を無効化または破壊できる。戦車は単独では戦えないし、全損(対戦車ミサイルで)こともよくある。したがって、ウクライナがケルソンの対岸にM1エイブラムス戦車があっても、戦闘は実質的に変わることがなかっただろう。
ウクライナの次は?
ゼレンスキー軍は、敵対勢力と同等の戦車を相当数保有している。戦いの勝敗は、現有の戦車でどれだけ訓練し、部隊レベルの能力を高め、戦車をどれだけ整備するかで決まるだろう。
平たく言えば、ゼレンスキーの対ロシア戦は、エイブラムスやレオパルドの取得では決まらないということだ。■
Ukraine Won't Get Leopard 2 or M1 Abrams Tanks: Does It Matter? - 19FortyFive
A 1945 Contributing Editor, Daniel L. Davis is a Senior Fellow for Defense Priorities and a former Lt. Col. in the U.S. Army who deployed into combat zones four times. He is the author of “The Eleventh Hour in 2020 America.” Follow him @DanielLDavis.
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