ウクライナ戦で西側が物資のみならず情報でも有益な支援をウクライナに与え続けているのは、ロシアに取って目の上のたんこぶといったところでしょうか。カナダのCBCがNATOのE-3に同乗取材を許されました。
NATOと同盟諸国は、専用機に搭載された巨大なレーダーを使って、ウクライナの戦場をほぼ24時間体制で監視している。(David Common/CBC)
ウクライナ周辺におけるロシア軍を監視し、同盟国に情報を提供するNATOの高性能偵察機のおかげでウクライナは迅速対応が可能になっている。
NATOの空中警戒・司令機が、ポーランドとウクライナ国境のすぐ内側を飛行しているとき、実際の行動はその背後で起きている。戦時下のウクライナの奥深くをのぞき込む多数の機内レーダースクリーンに、監視員や武器管制官が群がっている。
ロシアの軍事的な動きに関するリアルタイム情報は機密性が高いため、説明はない。しかし、高度な監視・通信機器を満載したE-3が搭載する巨大レーダードームを使って、何かを発見していることは明らかだ
CBCニュースは10月中旬、ドイツに拠点を置くNATOの14機空中警戒管制システム(AWACS)の一機に搭乗する貴重な機会を得た。同機は陸海空のレーダーやその他監視技術を通じて日常的に情報を収集し、戦闘時にはNATO同盟国に戦場を見渡す情報を提供する。
ウクライナ全土のロシアの位置を示す機密レーダー画面を覗き込む隊員たち。CBCニュースは2022年10月中旬、NATOのドイツを拠点とする14機のうちの1機に搭乗する貴重なアクセスを得た。 (David Common/CBC)
ウクライナはロシア侵攻軍との戦いで領土を一部取り戻したが、西側情報が成功の重要要素であったのは明らかで、AWACSが提供する全体像もその一つだ。
司令官たちは、航空機の400キロ先を「見る」ことができ、ウクライナ領空に接近するロシア戦闘機、攻撃に備える海軍船舶、ロシアの大型無人機を追跡できるシステムの能力を認めた。状況によっては、戦車など軍用車両も追尾している。
AWACSは航空機以外に、ミサイルの進路も把握できるとカナダ王立陸軍大学のウォルター・ドーンWalter Dorn教授は言う。「解像度はガチョウの群れも追跡できるほどです」。
ウクライナ南部で今最も活発な活動
ジョアオ軍曹はその他乗組員と同様、保安上の理由でファーストネームしか名乗らない。ジョアオ軍曹は、南部で急増しているウクライナ反攻を押し返そうとするロシアの努力を認め、「クリミアで多くの活動が見られます」と述べた。
公式には、情報は即座にNATO諸国にのみ送られる。しかし、NATO諸国には、情報をウクライナ軍と共有するところもある。ウクライナ軍は、迫り来る攻撃に対抗するため、また戦場全体におけるロシアの幅広い動きを理解するため、情報を利用していると広く認識されている。
「西側から、ウクライナはロシア軍のほぼリアルタイム画像を受け、効率的な戦闘作戦を組織できます」とカナダ地球問題研究所のアンドリュー・ラシウリスAndrew Rasiulisは言う。
業務の性質上、乗組員が共有できる情報、およびCBCニュースが撮影できたレーダー画像は限られているが、同機に長年勤務するある隊員は、これを「自分のキャリアで最も有益な仕事」と表現している。
また、この夏、ロシア機が黒海のスネーク島に接近し、爆撃を行った際に警告を発した。スネーク島はウクライナにとって非常に象徴的な島で、同島に配置された兵士が攻撃してきたロシア艦に無線で「ロシア軍艦よ、失せろ」と言ったことが知られている。
最近では、ウクライナ軍が南部のロシア前線を突破し、クリミアからロシア戦闘機が出発する様子を、AWACS機がいち早く見届けている。
NATOは公式には、収集した情報を軍事同盟の加盟国だけで共有している。しかし、そのうちの何カ国かはすぐにウクライナ軍に情報を渡して、すぐに使えるようにしていることが広く知られている。. (David Common/CBC)
ロシア軍のサインが消えるのを目撃
数では圧倒的に劣るが、ウクライナ空軍はロシアの戦闘機や地上目標を攻撃し、機能し続けている。
あるAWACS乗組員は、ウクライナ戦闘機とのドッグファイトや地対空ミサイルによる交戦の後、「ロシアのレーダー信号が消えていくのを見た」と述べた。
NATO同盟国が、非同盟国のウクライナにリアルタイムの情報を提供することの微妙さを理由に、こうした行動における自分たちの役割を詳しく説明する者は皆無だった。
しかし、多国籍乗組員のアメリカ人エリッサ上級曹長など、最近の出来事について話すことを許された者もいた。
「ウクライナ戦闘機が離陸し、領空を守り、ロシア戦闘機を追いかけるのを見た」監視オペレーターは、地上と空中のロシアの位置を追跡する何百ものシンボルが散りばめられた照明付きスクリーンを前に、「彼らは反撃し、愛する国を支配しているのです」と言った。
AWACSは、戦場での航空機の監視に特化して運用されるが、強力な監視ツールを備えているため、400km以上離れた場所まで詳細に見られる。ドローンや戦車などを追跡でき、リアルタイムで情報を提供するとともに、ロシアが何を計画しているのか、時間をかけて広く把握することができる。 (David Common/CBC)
情報共有は西側の役割の一部に過ぎない
ロシアは、ウクライナへの武器や情報の提供を声高に批判し、反撃に出ると脅している。AWACSのある乗組員は、ロシア戦闘機が時折、距離を取りながらも高速で向かってきたことがあると語った。
「確かに状況は違う」と指揮官のウェイン少佐は言う。
彼は過去に米空軍で紛争地帯に隣接する空域で勤務したことがある。中東などでは、「我々が懸念するような有能な空軍の脅威はなかったが、ここでの脅威ははるかに大きい」という。
乗員はみな、公表内容に慎重だ。外国の諜報機関は、「私たちが言ったこと、報告されたことをパズルのピースのように捉えることができる」と、NATO機の機長ウェイン少佐は言う。 (David Common/CBC)
NATO機の自衛能力は限られており、戦闘機の護衛付きで飛行することもある。ウクライナ戦争中にロシア機がAWACS機に嫌がらせをするためNATO領空に侵入したことは、公には知られていない。
木曜日、イギリスの国防大臣は、ロシア戦闘機が9月29日に黒海上の国際空域をパトロール中の非武装の英偵察機の近くにミサイルを発射したと発表した。ベン・ウォレス国防相は議会で、これは明らかな事故で、意図的な緊張の激化ではないと述べ、ロシア側が調査した結果、誤作動が原因であったと指摘した。
ラシウリスは、ロシア側は現在、この戦争をNATOとロシアの事実上の戦争とみなしており、冷戦期の暗い時代を思い起こさせると指摘した。「重要なのは、常に米・NATOとロシアとの直接戦闘を避けることだ」。
AWACSは12時間以上滞空し、飛行中に米空軍タンカーから燃料補給される。米国やフランスなど多国籍クルーが運用する偵察機と組み合わせ、ウクライナの戦場をほぼ24時間体制で把握することができる。
陸上だけではない。
「AWACSは黒海の船舶を追跡し、ウクライナに警告とターゲティングの両方の情報を提供できます」とドーンは指摘する。「海上での追跡は、西側によるロシア製品への制裁措置の実施にも役立つのです」。
母国からの制約で名前を明かせない乗組員の一人は、「敵に変化を生じさせている実感がある」 と語っている。
元国防省官僚のラシウリスは、プーチンの最近の行動と、ウクライナ戦争が冬の陣へ発展する中、NATOが継続的に行っている支援活動を説明してくれた。
ほぼ絶え間なく戦争の監視を続ける
AWACSに搭乗する唯一のカナダ人は、コリン・ワイリー大尉だ。この記事のためフルネーム掲載の許可を得た。監視活動の管制官として、すべての探知結果は彼のもとに送られ、確認された後、地上のオペレーションセンターに直ちに送信される。ワイリーは、ロシア機が「低空を飛行し、再び上昇する」のを何度もスクリーンで見てきた。
カナダ空軍のコリン・ワイリー大尉は、ドイツのガイレンキルヒェンにあるNATO AWACS基地に少なくとも3年間赴任している。少なくとも週に一度は監視管制官として空中で、ウクライナの広大な地域とロシアの軍事機器や軍隊の動きを監視している。(David Common/CBC)
非現実的な仕事だと彼は言う。
「朝、ベッドで起きて、東側へ飛び、戻って夜ベッドで寝る。(戦争から)離れられない人たちのことを考えさせられます」。
AWACSが日の出前に始まり日没後に終わる任務を終えドイツのガイレンキルヒェン基地に戻ると、別のNATO監視機がすでに空中で、ウクライナの空などをほぼ常時監視している。■
Flying just outside Ukraine, NATO's sentinel planes warn of Russia's battlefield moves | CBC News
David Common · CBC News · Posted: Oct 22, 2022 4:00 AM ET | Last Updated: October 30, 2022
ABOUT THE AUTHOR
David Common covers a wide range of stories for CBC News, from war to disrupting scams. He is a host with the investigative consumer affairs program Marketplace, and a correspondent with The National. David has travelled to more than 85 countries for his work, has lived in cities across Canada, and been based as a foreign correspondent in the U.S. and Europe. He has won a number of awards, but a big career highlight remains an interview with Elmo. You can reach David at david.common@cbc.ca, Twitter: @davidcommon.
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