アジア太平洋での陸軍の役割は拠点防衛であり、ハイテク部隊として領土を守りつつ空海軍の作戦を支援すること、というのでは米陸軍としても面白いはずがありません。ただし以下の構想はよく練られており、米議会内にも支持者が生まれそうですね。そうなると陸軍はますますしぶしぶ対応を迫られることになりますね。それにしても陸上自衛隊が対艦ミサイルを整備してきたのは先見の明があったのでしょうか。CSBAからはたくさんの提言が出ていますね。
Reshape US Army, Asian Alliances To Deter China: CSBA
WASHINGTON: 米陸軍に太平洋で中国を封じ込める役目を与えるべきとワシントンDCでも著名な国防専門家が議会で本日語る。大きな役割として政治的にも財政的にもきびしい決断を下さないと新装備、新配備場所の確保は不可能とアンドリュー・クレピネヴィッチが議会での発言の前に記者に語ってくれた。
クレピネヴィッチの構想の中心はこうだ。米陸軍のミサイル部隊(対空、対艦、ミサイル防衛、長距離攻撃)を定期的にあるいは恒久的に西太平洋諸国に駐留させる。受け入れ同盟国もそれぞれの能力の許す範囲で地上部隊を提供して重要な役割を果たす。日本には初期段階だが対艦ミサイル部隊がある。フィリピンでは国が支援して非正規防衛隊を組織し、レバノンのヒズボラから技術上の教訓(倫理面は除く)を応用する。
米軍と現地地上部隊をともに日本からインドネシアに至る第一列島線上に配置し、西太平洋防衛の強力な背骨にする。空軍、海軍、海兵隊が自由に活動する一方で島しょ部分に配備する陸軍部隊は不動の金床になる。
「地上部隊は空軍海軍兵力の重要な補完機能を果たす」とクレピネヴィッチは記者に語る。「列島上の地形のため地上部隊は地点防御に専念することになる。紛争発生時には各島の間の移動は困難になるからだ」(輸送機、輸送艦は途中で撃墜、撃沈される可能性が高い)
そこで「海空の部隊が機動作戦兵力の中心となる」という。「地上軍は多方面の作戦に従事する。C4ISR、対空、対ミサイル、沿岸防御や対潜戦も想定できる。第一列島線に沿って防御の姿勢をとることで、海軍や空軍の兵力は本来すべき仕事に専念できる」
上下両院で陸軍の役割拡大には大きな関心が寄せられているが、簡単に売り込める話でもない。影響を受ける方面が多数あるからで、陸軍自体、国防長官官房、また同盟各国も含まれる。
- 同盟各国は米軍基地が恒久的に残ることを懸念するはずだ。既存の各国でも政治的な摩擦が増える。日本と韓国がその例で、今のところ基地のないフィリピンでも火種になる可能性はある。
- 陸軍も島しょにとどまったままでの空軍や海軍の作戦の支援は望まない。第二次大戦で欧州を席巻した実績や第三次大戦で想定したロシアと正面から戦う構想に比べるといかにも華がないためだ。
- 国防長官官房ではチャック・ヘイゲル前国防長官を除けば欧州を差し置いて西太平洋での任務を中心にした予算編成には抵抗があるはずだ。
「海兵隊も陸軍もハイテク戦場で相手方も高性能装備を投入してくる可能性を想定しており、まずロシアがあるが、中国との地上戦は想定外だ」と記者に語った国防高官がある。中国は巨大すぎるとしてこんなジョークもある。もし米陸軍が中国に上陸したら北京政府は現地警察署に全員逮捕すべしとの命令を出せばよい。
だがクレピネヴィッチが想定するのはアジアの地上戦ではない。陸上部隊に敵の海、空、サイバー空間の目標にあたらせるほか、中国が占拠する島しょ部分あるいは本土に長距離ミサイル攻撃を実施させる構想だ。このような分野横断的な作戦は新しい共用陸軍教本ですでに記述があるが、いまだに軍内部では理解しにくいあるいは快く思わない向きが多いままである。
米陸軍を変革する
西太平洋で将来発生する戦役を想定すればすべての軍部隊が変革を迫られる。「中でも最大の変化が米陸軍に必要だ」とクレピネヴィッチは指摘する。「ちょうど特殊部隊がこの20年で急成長したように、列島防衛作戦で大きく伸びるのは砲兵隊、防空、ミサイル防衛、沿岸防御つまり対艦巡航ミサイル部隊であり、攻撃用のロケット部隊だ」
「特殊部隊と同様に陸軍が従来の地上部隊では重要視されてこなかった部門に優先順位を置くべきだと言っている。歩兵部隊については言及していない、装甲部隊も同様、重砲部隊も同様だ。旅団規模の戦闘部隊に各種装備を組み合わせる」
また陸軍が優先してきた部隊配備方法とも違う構想だ。冷戦終結後、陸軍は西ドイツと韓国に配備した大部隊を「遠征部隊の編成に切り替えてきた」とクレピネヴィッチは指摘する。
だが迅速展開はここでは必要とされない。いったん戦闘が始まれば中国の「接近拒否領域否定」の防衛体制が米国内から部隊が戦闘地域に移動するのを邪魔するはずだ。代わりに「列島防衛体制として第一列島線の最北部にある日本を支援するか、南方のフィリピンなどを守るのか、どちらにせよ陸軍の大部分は戦闘開始の段階で前方配備あるいは前方駐屯しているはずだ」という。
「これは一夜にして実現するものではない」とクレピネヴィッチは強調するが、それでいいのだ。「1949年時点で西ヨーロッパにはわずかな兵員しか配置していなかったが、その後拡張した。同じように西太平洋の安全保障リスクが高まれば、呼応して基礎固めが必要になり、時間をかけて軍の配備場所は前方に移動するはずだ」
そこで最初はゆっくりスタートし次第に加速して最後は一気に実現する方法論が良いとする。共同演習の頻度を増やし、その後定期交代で部隊を配備し、その後恒久的基地に配備する。
「現状では陸軍旅団で定期的に各国軍と演習をしている部隊がありますが、これをもとにストライカー旅団だけではなく防空任務、ミサイル防衛も進めるのです。時間がたてば各要素は通常の実施になります。そうですね数か月あれば十分でしょう」
「次の段階として現地に半年ほど駐留する部隊を指定し、帰国後二か月して別の部隊がまた半年駐留します」 最終的に米陸軍の恒久的プレゼンスを認める同盟国があらわれるだろう。
「このやりかたはゆっくり進めるのが肝要です。時間をかけて進化するもので各国もこのやり方の恩恵がわかるはずです」
アメリカのプレゼンスを期待する域内各国
上院軍事委員会において戦略国際研究所のマイケル・グリーンはアジア太平洋地区は米軍プレゼンスをより多く受け入れる用意があると証言。ただし限界もあるとした。
「米陸軍のパシフィックパスウェイズ事業は域内で好意的に受け止められています」とグリーンは発言。「課題はアジアでストライカー旅団や巨大陸軍の編成を運用できる国は限られることです。(クレピネヴィッチが提唱するのはもっと小規模の部隊で容易に現地で受け入れられそうだ)
「この5年間でアジア10か国のエリート層を対象に調査をしており、ヴェトナム、インド、日本で戦略的に思考できる人たちが米軍増派を望んでいるのは注目に値します」とグリーンはジョン・マケイン上院議員に対して発言。「各国は協力体制の強化を望み、共同演習の回数増を望み、貿易協定の拡大を望んでいます。ただし基地の設置は各国とも歓迎していませんが、新しい取り決めを受け入れる用意はあります」
例としてオーストラリアは米海兵隊の巡回配備をダーウィンで受け入れており、まもなく米戦闘機部隊もオーストラリア空軍基地に配備できるようになるとグリーンは紹介。フィリピン最高裁は新規の「強化した防衛協力取り決め」を合憲とし、米軍部隊の駐留増加を認めている。ただしスービックベイやクラーク基地への恒久的駐留は話が別だ。今やかつての南ベトナムのカムランベイへの米軍寄港さえも可能になったという。
ただし複雑な法的問題により「台湾とは前方配備や前方基地設置の話ができない」とクレピネヴィッチは記者に述べている。「それでもシンガポール、フィリピン、ヴェトナムのような例を見れば5年10年前よりはるかに大きな機会を歓迎する機運がひろがっている」
フィリピンの「ヒズボラ」から巡航ミサイル運用まで
では各国別に何を期待でき、何を米国から期待するのか。以下まとめてみた。
日本は第一級の軍事力を保有しており、見方によっては中国を上回る戦闘能力だ。装備の多くは米軍と親和性があるが、「日本にあって米国にないのは沿岸防御能力だ」とクレピネヴィッチは指摘する。「陸上自衛隊の部隊には対艦巡航ミサイルが配備されれており、列島防衛の任務では大きな役割を果たせると思う」
「また自衛隊は普通師団一個を迅速対応部隊に変換中だ」とし、「さらに一個旅団を揚陸教習部隊に変えて、米海兵隊のような兵力投入強化効果を狙っている」とする。
総じてクレピネヴィッチが接した日本側は第一列島線北部にあたる日本は中国に対して防衛可能だと自信を持っているが、南方に下がると台湾とフィリピンが大きな危険にさらされており、大規模な援助が必要だ。だが両国とも全く無力というわけでもない。
「フィリピン、台湾で共通して必要なのは侵攻部隊に手ごわい抵抗を与える能力の整備です」とクレピネヴィッチは言うが、どうやってこれを実現するのか。「現代に合った形の非正規部隊を創設するのです。ヒズボラ型の部隊です。フィリピンでは米軍が教官や顧問を送ることができます」
ヒズボラはよく「ハイブリッド戦」の実行例とされる。ゲリラ戦術に国家級の戦力を組み合わせている。ロシアが支援する分離派も同様にハイブリッド部隊の例だ。侵攻軍に楽しい思いを許しておく必要はないだろう。
「ヒズボラを見てください。ロケット弾があり、砲兵もあり、迫撃砲やミサイルも使っています。それでも非正規部隊の扱いですよ」とクレピネヴィッチは言う。「台湾やフィリピンでも同様の部隊を組織すれば敵側は簡単に占領できなくなります」
米側は(台湾以外なら)訓練を提供し、高性能でも安価な兵器類として精密誘導迫撃弾を提供するほか、連絡司令部をネットワーク接続し米軍の持てる力すべてとリンクさせる。衛星や無人機で情報収集監視偵察をすれば同盟国側は目くら撃ちしなくていよい、空爆や長距離ミサイルで精密攻撃を加えれば同盟国側が火力で圧倒されることはない。
ただしクレピネヴィッチ構想で最大の難関は基地取り決めではなく国防総省内部の価値観でもなければフィリピン版ヒズボラの創設でもない。それは長距離攻撃用ミサイルだ。多くの専門家が中国本土の目標を攻撃すれば即座に紛争はエスカレートすると恐れている。クレピネヴィッチはこれに対して長距離攻撃の実施が不可能であれば抑止力が弱まり、中国は一層多くの資源を攻撃に回してくると反論している。
「中国国内の重要目標の攻撃で中国にリスクを意識させる能力は米国の指導部に重大な選択肢となる。人民解放軍の側にも問題が生まれる。重要施設が米軍の攻撃対象ではないとなれば、防空体制や施設の強化が必要でなくなる。その分の資金は攻撃手段に回るはずで潜水艦やミサイルが強化されてしまう。もしこちらが相手方にリスクを感じさせれば、中国はPLAの装備強化を防御に回すことが多くなるはずでその分脅威が減る」という。
「中国との対決は1980年代の空陸一体型戦闘でソ連を想定した場合とは異なる。もし中国側が戦力を効果的に使っても周囲国を自分の思い通りにできないと判断すれば、攻撃の実行を思いとどまるのではないか」■
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