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北朝鮮のEMP攻撃は現実の脅威だ、防衛体制は整備できるか

北朝鮮の動きを見ているとEMP攻撃を想定しているように思えてなりません。全米が影響を受けるのには大規模な高高度核爆発数十発必要でしょうが、日本の場合はどうでしょう。例えば東京の中心部だけを狙ったEMP攻撃なら日本経済は機能不全となります。昨年の台風で停電が一番怖いことは国民も痛い体験をしています。太陽嵐もこわいのですが、ここは電力業界にもEMP対策としての強化策を真剣に実施してこそ国土強靭化が実現するのでは。米国全土で20億ドルなら日本はその数分の一程度でしょう。
本軍の真珠湾奇襲攻撃から78年目になったが、もっと恐ろしい奇襲攻撃の脅威が米本土で現実になりかねないことを忘れがちだ。米本土へのEMP攻撃の脅威の評価委員会は議会EMP委員会として知られ、2004年の時点で「米国を高高度核爆発による電磁パルス(EMP)で攻撃する能力を有する敵性国家があり、能力を整備中の国家もある。攻撃は西側諸国も狙うだろう」と指摘していた。
この十年でEMP攻撃の脅威に党派を超えた警戒意識が生まれた。2010年には民主党が多数を占める下院がGRID法案を賛成多数で通過させている。上院も批准し、20億ドルで全国電力網をEMPならびにスーパー太陽嵐から防御するものだ。2017年には重要インフラ防御法案が両党の圧倒的多数の賛成で成立している。
これだけ多数の議会人の賛同があるのに、フリーランス記者マシュー・ゴールトは2016年にEMPの脅威は非現実的と主張していた。EMP兵器が一度も試験されておらず、本当に専門家が述べるような壊滅的効果があるのか不明とも述べていた。これに対し米国の国防関係者、情報機関関係者のトップの面々さらにEMP委員会が反論した。これについてもNational Interestで「米国人死者数百万人:EMP攻撃への備えはできているか」との表題で以前記事が配信されており、巧妙に仕組まれたEMP攻撃を受ければ国家機能の喪失は十分有り得るとの見解が出ている。
別の記事「国防関連補佐官もEMPを正しく理解せず」で議会EMP委員会の首席補佐であり全国有数の核兵器EMP専門家であるピーター・プライ博士が寄稿しゴールト記者の誤りを論破した。プライは「高高度EMP攻撃は大気圏外で起こり、爆風・高熱・放射性降下物は地上に全く到達しない。EMPのみ到達する。そのためEMPより爆風やその他核兵器の影響のほうが恐ろしいとの記者の言い分はナンセンスだ」と述べていた。
プライ博士は同時に「EMP攻撃に高出力熱核兵器が必要というのは間違っている。EMP委員会ではいかなる核兵器もEMP脅威につながるとし、テロリストが用いる荒削りな装置でも同じだ。最大のEMP効果はスーパーEMP爆弾が生む。低出力ながらガンマ線を発生しこれがEMP効果となる。この場合の爆発規模は小さい。スーパーEMP兵器の出力は非常に低く10KT(キロトン)以下でよい。だがEMP磁界は100–200 KV/meterと25MT(メガトン兵器)の50KV/meterより高い」と説明。
ゴールト記者の最大の誤りは「北朝鮮には核兵器を米国まで飛ばすミサイルがない」と記したことだ。プライ博士は「国防総省の2015年版朝鮮民主人民共和国関連軍事安全保障面での進展報告書では北朝鮮が保有する核搭載の移動型ICBMのKN-08、KN-14での米国攻撃の可能性に触れている」と指摘しており、「EMP委員会、韓国軍事情報部、中国がそれぞれスーパーEMP兵器が北朝鮮に配備済みと警句を発している」とした。
また2017年10月に発表された「北朝鮮による核EMP攻撃の脅威は現実に存在する」の中でEMP委員会委員長ウィリアム・グラハム博士が議会にこんな警告を出していた。「EMP攻撃を北朝鮮衛星が今この瞬間にも行うかもしれない。超強力EMP兵器は比較的小さく軽量で北朝鮮の光明星-3、-4衛星の中に収まる。同衛星は米国上空を周回中だ。南極軌道にあるため米弾道ミサイル早期警戒レーダーや国家ミサイル防衛体制で探知できない」。またプライ博士は北朝鮮が超強力EMP衛星を遠隔起動できる。この形の攻撃だとあらかじめ探知できず、米指導部も誰の犯行か特定できない。ロシア、中国ともに同様の兵器を米国上空の軌道上に配備しているといわれる。
さらにプライ博士はEMP効果について、「高度30キロ以上での核爆発でEMPが発生する」としている。「EMP効果は発生が不安定でテストされたことがない」と言われることに対し、「EMP効果は半世紀にわたり確認されており、サイバー戦より理解度は高い」と述べている。シンガー博士は高性能ICBMでEMP攻撃の実施が想定されるが、EMP委員会は各種手段で実施可能で衛星、中長距離ミサイル、短距離ミサイルを貨物船から発射、巡航ミサイル・対艦ミサイルの利用、民間旅客機の利用、さらに気象観測用気球も考えられる。ICBMを利用する場合だが、精密誘導は必要なく、大気圏再突入の必要もない。
ゴールト記者はこれまでEMP攻撃の実施が皆無なのは核戦争につながる恐れがあるためと記しているが、プライ博士の指摘の通り、ロシア、中国、北朝鮮、さらにイランの軍事指導教義はすべて低出力EMP兵器は核攻撃とみなさずサイバー戦の一部だと明白に解説している。米国や同盟国に対する決定的な勝利を最小限の負担で実現できるとある。となると米国にこうした兵器を投入するしきい値は実はこちらの想定よりずっと低いのかもしれない。
安全保証に詳しいビル・ガーツはワシントンフリービーコン紙に昨年1月「中国、ロシアがスーパーEMP爆弾を開発中で『停電戦』を狙っている」との記事を発表した。「中国、ロシア等が強力な核兵器で超大型電磁パルスを発生させ電子製品全般を数百マイルに及ぶ範囲で使用不可能にしようとしているとの議会調査結果がある」とあり、この調査は「核EMP攻撃のシナリオおよび各種サイバー戦」でEMP委員会がまとめた。「核EMP攻撃はロシア、中国、北朝鮮、イランの軍事方針、演習で既定方針となっており、軍事部隊や民間重要インフラに対する画期的な新型戦としてサイバー、妨害工作と並びEMPが掲げられている」と報告書は述べている。更にガーツはロシアがEMP攻撃を宇宙空間から行う新戦略を採用し、大規模な破壊的効果を与え敵は抵抗できなくなると考えているのだという。
ガーツは「中国あるいはロシアとの大規模戦となれば第一発は宇宙空間でスーパーEMP兵器を起動し米国の核指揮命令系統や核兵器を使用不可能にするだろう」と述べ、「スーパーEMP兵器はすでにロシア、北朝鮮が保有しており、もっとも有効な防御を施した米装備でさえ影響は不可避で米核抑止力も機能維持が危うくなる」とも書いている。さらにガーツは機密解除になったEMP委員会研究内容からロシア原子力ミサイル潜水艦一隻ないし二隻でスーパーEMP兵器による奇襲攻撃に出れば米国の核・非核兵力が使用不能となり電力網への攻撃で大規模停電となる他、ミサイル防衛体制が不能となり、指揮命令センターがダウンし、NORADや核爆撃機基地、核潜水艦基地が被害を受ける。ここまで大規模なEMP攻撃でも事前警告はほぼなく、数分で効果が発生する。スーパーEMPを大気圏外で起動すれば爆発後の痕跡が残らず犯行元を探知されずに米重要インフラを破壊し、米国民数千万人の生命を奪える。同研究ではロシアがNATOを制圧しヨーロッパを占領する際、あるいは中国が台湾の防衛体制を破壊し、米空母戦闘群をノックアウトし、台湾侵攻を実行する際にも投入の可能性があると指摘している。
EMP委員会は別の資料も発表しており、大規模EMP攻撃が米本土を狙った場合、米国人口の9割が一年以内に死に直面するとしている。これは食品流通が崩壊し飢餓が広がり、飢餓から疾病が蔓延するなど悪効果が生まれるためだ。ゴールト記者はこの試算を疑い大げさと一蹴している。だが米国民数千万人を死に追いやる可能性のある危険をゴールト記者が読者に信じてもらいたい「想像の世界だけの存在」のままとしていいのだろうか。
米国に立ちふさがる脅威には全面核戦争からその存在が疑わしい人工気候変動まであるが、EMP攻撃が中でも財政的に対応が一番容易だ。全米の配電網の防御はわずか20億ドルで可能だ。米指導部は核兵器体系を再編し、国家ミサイル防衛を広げ、電力網をEMPの脅威に耐えるよう強化すべきだ。しかも迅速に。これで核ミサイル・EMP攻撃に対する備えができ、そうした攻撃を加えようとする敵への抑止効果も生まれる。米国も独自にスーパーEMP兵器の開発に踏み出すべきで、同様の兵器による米国攻撃を企てる勢力に対する抑止効果を柔軟に生み出すべきだ。■

この記事は以下を参考にしています。

The Threat of EMP Attack is Very Real

This can't be minimized--this is a threat to the American people that must be taken seriously.
December 15, 2019  Topic: Security  Region: Americas  Blog Brand: The Buzz  Tags: EMPEMP AttackAmericaFaraday CageNuclear Attack


コメント

  1. >EMP兵器が一度も試験されておらず

    上記一文につきますね。
    もちろん、ロシアや中国もEMPの研究や小規模な地上実験・試験はやっているでしょう。
    しかしながら、実戦相当規模の実証試験(確実に検知される)が確認されない限り、
    対米戦に投入される可能性は、やたらに脅威を煽るほどなのかな??と感じます。
    もちろん、対策を考えておくことは必要でしょうけど。
    だいたい、いくら攻撃側が勝手に
    >低出力EMP兵器は核攻撃とみなさず
    などと言ったところで、北米上空で核爆弾が炸裂した時の米国の反応は明らかです。
    確実性が実証されていない核兵器を、米国に打ち込むアホがいるでしょうか??
    ましてや。
    北朝鮮が虎の子のロケットや核弾頭を、効果未知数のEMP攻撃に使う?ありえん!
    核戦争(強烈な電磁パルスが吹き荒れる)を前提で建造されたミサイル・サイロ群、
    ミサイル原潜群、その他艦船、それらを初手で一掃できると北朝鮮が確信する?
    そこまでアホとは思えない・・・。
    結局、
    >米国も独自にスーパーEMP兵器の開発に踏み出すべきで
    これが言いたいだけのような気がしますね。

    返信削除
  2. 電力の下流の話題ですが、上流の発電所はEMPでどうなるのでしょうか?
    原発がブラックアウトとなれば破滅的ですからここだけでも早急な対策が望まれます。

    返信削除
  3. >全米の配電網の防御はわずか20億ドルで可能だ。

    本当にこんな額で電力網を防衛する事が可能なら、日本政府は是非やってもらいたいと思います。
    電力さえ防衛できれば、国民生活はどうにかはなります。逆に電力がダメなら、

    >だが米国民数千万人を死に追いやる可能性のある危険をゴールト記者が読者に信じてもらいたい「想像の世界だけの存在」のままとしていいのだろうか。

    こういう数千万人の犠牲が出る深刻な危険性が生じます。
    20億ドルなんて日本の財政からすればどうにでもなるレベルのものです。
    三陸沖の巨大な防潮堤とか、福一の無限に積み上がっている排水タンクとか、
    必要性に議論が分かれる疑問の大きい案件より、こうした問題に国費をかけてもらいたい。
    国土強靭化を言う一派が居ますが、土建業者の代弁では無く、本当に国民生活の安全を志向するなら、
    この問題にこそ声を上げて欲しいと思います。

    EMP攻撃の確実性の問題を言われる方もいらっしゃいますが、
    北はいざとなればこれしか無いと考えているかも知れません。個人的には結構不安です。

    返信削除
    返信
    1. 初コメの者です。
      >EMP攻撃の確実性の問題を言われる方もいらっしゃいますが、
      >北はいざとなればこれしか無いと考えているかも知れません。
      >個人的には結構不安です。
      データがあるわけでもなく、あくまで個人的な主観なのですが、そうですねえ、
      北朝鮮が米国本土をEMP攻撃する可能性を1%とするなら、
      北朝鮮が日本本土をEMP攻撃する可能性は10%でしょうか?
      可能性は低いが10倍。
      地下核実験を超えるものとして、北朝鮮が次に用意できるのは、核弾頭を実際に
      ミサイルに搭載し、洋上で炸裂させる実験でしょう。
      この時、副次的な効果を狙って日本にEMP被害を及ぼす空域を選定することは
      十分にあり得ると思います。
      現状を鑑みれば、北朝鮮が効果未知数の兵器を米国に打ち込むメリットは殆ど
      何もないですが、対日となれば、どのような実験成否レベルでも利があります。
      ・打ち上げ失敗→資材は無駄になるが計画は露呈しない。
      ・予定通り飛翔したが弾頭不発→弾頭有無は北にしかわからない。ロケットの
       実証は成功とアピールできる。
      ・核は爆発したがEMP効果なし→核ICBMの実証は成功とアピールできる。
      ・EMP攻撃成功→核ICBM及びEMP兵器の実証に成功とアピールできる。
       しかも、日本国民を殺傷したのは弾頭ではなく、破壊された日本のインフラ。
       日本に被害が及んだのは遺憾である、等の強弁もありえる。
      問題は、北朝鮮が対日EMP攻撃に対する米国の反応をどのように推測するか
      ですね。

      削除

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