今回の報告では中露同時対応を求めており、中国、ロシアが結託する可能性への対応を求めています。かなり空軍の現状の思考に近い内容のようです。新しい用語が出ているので原文併記で示しました。
ただし、実現に必要な予算をどう工面するのでしょうか、国の借金を再定義しないとお金が足りません。21世紀になり財政理論の再構築が必要なのかもしれません。でないとシンクタンクの報告書は絵に描いた餅となり、我々の常識と異なる行動を展開している中国は冷笑するだけでしょう。
中国、ロシアの脅威に対抗すべく、米空軍は戦力増強と近代化を図るべきで、例として高性能長距離無人機の追加や戦闘管理指揮統制 battle management, command and control (BMC2)によるマルチドメイン作戦運用の戦力増強策が必要とシンクタンクの戦略予算評価センター(CSBA)がまとめた。
「将来の空軍戦闘力に求められる優先5項目」の表題でCSBAは現状の難題を2035年までに解決する道筋を示した。難題とは機材老朽化と戦力減少が続いていること、機材の維持か近代化の選択を強いる予算環境だ。
今回の報告に先立つCSBA報告書がある。2018年国防戦略構想(NDS)が想定する大国相手の戦闘に今後の空軍力で勝利をおさめられるかを検討した議会への報告書だ。今回のCSBA提言では空軍に必要なのは有人機無人機の混合編成で二カ国相手でもほぼ同時に対応できる戦力を整備すべきとある。予算、人員双方で追加投入が必要とあるが、試算は示していない。
金額想定を質問された今回の報告書作成に加わったマーク・ガンジンガーは2018年版報告でDoD予算を年3%から5%増額続けると提言しており、空軍予算で言えば年間80億ドル増額に相当と解説している。ただし、その実現可能性は「薄い」と本人は語るものの、空軍装備の充実がないと21世紀型脅威に対応できないと強調している。
「厳しい選択が必要だ」とガンジンガーは空軍に現状の問題に目をつぶることは許されないと述べている。
過去のツケを払わされる
これまでの予算削減で空軍の戦闘機、爆撃機の維持が不可能になっているとし、陸軍、海軍より空軍に予算削減のしわ寄せが大きいとある。
「各軍おしなべて予算および規模が縮小されたが、空軍に1989年度から2001年度にかけ予算削減の大きな部分が押し付けられた」というのが今回の分析だ。空軍の31.6%削減に対し、海軍は28.2%、陸軍は29.2%だった。削減額には情報機関、特殊作戦、医療他空軍が管理できない支出項目は除いてあるという。
中でも空軍の調達予算で減額が目立つ。「調達の真水予算は同時期に52%減少している」という。
現在の調達予算は歴史的規模で低い。2020年予算要求では、F-35Aを48機調達するが、以前の二カ年は各56機で減少している。
調達予算が減少し、戦闘機部隊の即応体制は弱体化していると報告書は指摘する。爆撃機でも同様で「過去二十年にわたり爆撃機戦力の不足傾向が続いた原因に戦力削減や即応体制の低下、さらに近代化改修予算の不足がある」としている。
2018年の実態から作戦行動可能な空軍戦闘機は769機で、爆撃機は「最大で」58機とCSBAは試算。戦闘機総数は2,072機、爆撃は157機だ。(戦闘機の即応体制は2019年にF-35で改善が見られれば若干上昇の可能性がある)
CSBAによれば空軍で供用中の戦闘機の平均機齢は「前例のない水準の28年」に達しており、爆撃機は45年程度だ。国防総省で調達部門のトップのウィル・ローパーが嘆いているが、機材維持に経費と人員投下が増える原因となっている。
CSBAの提言5項目
そこでCSBAは次の5項目を提言している。
1. 中国、ロシアの同時侵攻を防止できる戦闘航空戦力 Combat Air Force (CAF)を実現する
検討では「片方の地域で米軍が忙殺される間に別の大国が侵攻を企てるリスク」が減らす空軍機材の「規模と能力」が必要と提言。とくに長距離侵攻攻撃能力により中国、ロシア他の侵略勢力に聖域を認めさせないことが必要とする。
2. 高性能ステルス機の調達数を増やし、その他CAF機材では残存性を高める
次世代ステルス機は将来の戦場で不可欠とガンジンガーは述べる。
CSBAによれば今後二十年にわたり空軍は「次世代ステルス性能機材の調達を加速化すべき」とし、B-21爆撃機、F-35A、「新型多任務侵攻形制空・侵攻型電子攻撃 Penetrating Counterair/Penetrating Electronic Attack (PCA/PEA)機材」、情報収集監視偵察機材を搭載した「侵攻型」無人機がその対象とする。同時に「F-22の残存性を維持しつつ次世代兵装として極超音速兵器ファミリーの調達」も進めるべきという。
3. 前方戦闘力の確保とともに小規模脅威地区で分散化を
「中国、ロシアによる米軍の前方航空基地への大規模ミサイル攻撃がCAF残存で最大の脅威とは限らない」(ガンジンガー)
今後の空軍機材は「共同作戦を支援し中国ないしロシアの既成事実の積み上げを否定する能力」が必要となり、同時に「ミサイル大量攻撃を受ける可能性が低い地域から出撃し攻撃数波を実施しつつ、前線基地は分散ネットワークで制空任務他を実施する」とある。
この実現には「大規模攻撃やミサイル攻撃を想定した航空基地防衛体制の強化」をDoDは実現すべきで、空軍も「航空基地防衛ミッションに装備人材を追加投入すべき」と提言している。
4. 各種ミッションに投入可能な無人機を開発し、多様な脅威に対応させる
「空軍のCAFではハイエンド戦闘作戦、本土防衛がともに能力不足で2018年国家防衛戦略の要求が同時に満たせない。能力不足は2030年代まで続きそうで、それまでにCAF能力の拡大が必要だ」としている。「不足によるリスクを減らすには空軍は戦闘構想を新構築し、既存及び今後登場するUAS(無人航空システム)の活用を考えるべきだ」とし、MQ-9リーパーの他、「低コスト使い切り装備」を想定している。
ガンジンガーは低コスト無人機の例として国防高等研究プロジェクト庁(DARPA)のグレムリンズ(小型無人機多数で集中攻撃を想定)、スカイボーグ、クレイトスのヴァルキリーを上げる。
新型無人機各種は「有人ステルス機と組んで制空、長距離スタンドオフ広域偵察、攻撃、電子戦その他作戦を行う。従来型のISR、軽攻撃ミッションも行う」とあり、空軍が描く次世代航空優勢構想 Next Generation Air Dominanceの各種装備と重なる。
5. 戦力増強効果を生む新装備開発を加速化する
ここには「次世代極超音速兵器、巡航ミサイルに電子対抗用の高出力マイクロウェーブペイロードを搭載し、一本で多数標的を攻撃すること、高性能エンジンでCAF機材の航続距離・ミッション時間を延長すること、マルチドメイン作戦支援を過酷環境下でも可能なデータリンクの開発」が含まれる。
供用中のBMC2機材にE-3 AWACSやE-8 JSATRSがあるが、「全ドメインで有効な各軍共用BMC2装備があれば将来の作戦で全部隊の強靭性および作戦効果が高まる」と報告書にある。提言内容は空軍が進めるマルチドメインC2環境での高性能戦闘管理システム Advanced Battle Management System (ABMS)と重なる。
ABMSはJSTARS後継装備としてまず構想され、その後各種システムに変貌しており、ハードウェア、ソフトウェアでローパーが言う「モノのインターネット」を軍に実現する。空軍はABMSをDoDがめざす各軍共用全ドメイン指揮統制構想の柱となる技術と見ており、各軍にABMS対応能力の採用を働きかけている。■
今回の記事は以下を参考にしました。
"Creating a more range-balanced, survivable, and lethal force will require a commitment by DoD and the Congress to significantly increase the Air Force’s annual budgets," CSBA says.
on January 22, 2020 at 2:52 PM
米空軍は、対テロ戦争で酷使され、新たな機材も十分に補充されず、米戦略変更で主敵とされる中露への抑止力が低下し続けているようだ。この状況は、米空軍に限ってのことでもないようだ。記事に書いているように、対テロ戦争の戦略の誤りのツケを米国は払うことになる。
返信削除最近の将来の米軍構想へのシンクタンクの提案は、現政権の軍事力強化のやり方では十分でないか、あるいは方法の変更を求めている。しかし、どのような構想でも軍事費の増大を必要とし、それが足を引っ張ることになり、十分な成果は得られないかもしれない。そして、このことは中露の軍事的冒険を促すことになりかねないと考える。既に一部の分野では、米軍の軍事的優位は大きくなく、また、損なっている分野もある。
米国は、軍事戦略の転換で中露の軍事力に対抗することになるが、米国単独でそれを行うつもりでいるのだろうか。過去のソ連との冷戦では、NATOを始め数多くの軍事同盟によりソ連を包囲し、ソ連を崩壊させたが、その後、圧倒的な軍事力を持つ米国は増長してしまったように見える。この状況では有効な中露包囲網を形成できないだろう。米国は、過去の冷戦時の戦略を今一度見直すべきでなかろうか。