スキップしてメイン コンテンツに移動

2030年米中戦争が勃発すれば、こうなる。どちらが有利となるのか、どう終結させるか。

 

 

 

華人民共和国(PRC)と米国は貿易戦争の状態だ。結果は今後の経済秩序に影響を生みそうだ。だが今のところ両国で交戦に向かう兆候はなく、開戦を挑発したり正当化する動きはない。

 

とはいえ、変化が生まれる可能性はある。取るに足らないと思われる事態が時間がたつと緊急度を高めることがある。中国の軍事力増強で米国は小さいと思っていた問題が大きな結果に繋がりかねない事態に直面するだろう。一方で中国は米国の調達・近代化が長時間かかっている事態を好機と見るかもしれない。

 

2030年の軍事力の均衡や戦略の構図は今と異なるはずだ。では2030年に米中両国が開戦したらどんな様相になるだろうか。

 

 

開戦のきっかけは

衝突の根源は今と変わらない。中国の台頭に米国は警戒し、中国の軍事力増大は一見止まることがないようだが、国際秩序のルールづくりは依然として米国の手中にある。だがアテネの興隆を見たスパルタがペロポネソス戦争の原因となったように、世界を戦火に巻き込む結果が生まれかねない。PRC、米国の双方とも取るに足らない理由では本格交戦には至らないはずだ

 

米国同盟国の日本、韓国、インド、台湾あるいはフィリピンへの脅威は想像できる。各国と中国との紛争のたねはすでにまかれており、PRCは米国の介入を避けつつ各国を恫喝してくるだろう。日韓関係が軍事衝突に発展すれば米中両国も巻き込む対決が生まれる可能性がある。

 

投入される新軍事技術は

戦闘の実相は開戦理由により変わるが、重要な舞台は東シナ海、南シナ海だろう。両国ともここに空軍力海軍力を集中配備し、米陸軍・海兵隊はなんとかして「マルチドメイン戦」への貢献能力を整備しようと必死になっている。

 

軍事バランスが中国へ傾いてもおかしくない。だから中国が有利になるとは限らないが、時間はPRCに有利に働く。人民解放軍海軍(PLAN)の増強ぶりは米海軍を上回る。さらに人民解放軍空軍 (PLAAF)の装備近代化のペースは米空軍の先を行く。

 

とはいえ、双方とも相当量の従来型装備を保有している。中国は2030年には空母四隻を運用しているはずで、遼寧型STOBAR空母二隻と通常型CATOBAR空母二隻だ。米国は強襲揚陸艦まで含め数で凌駕し、戦力の中身でも上回るが、中国は局地的な優位性を開戦初期に確立するだろう。また中国の潜水艦、水上艦は数量面で優位で、しかも全世界的に配備する必要がない。これに対し、米海軍は不利な立場だが、双方とも優位性はそれほど大きくない。

 

航空戦力では米空軍、海軍、海兵隊のF-35が多数配備されている。空軍にはB-21レイダーステルス爆撃機も既存機種の爆撃機に加わっている。中国はJ-10、J-11戦闘機を増強し、数の上では米F-15、F-16、F/A-18に並ぶ。J-20に加え、導入を決めればJ-31も投入可能となる。中国の装備近代化では2030年でも米空軍の水準には至らないが、PLAAFは差を縮めているはずで、加えて莫大な数の基地があり、弾道・巡航・対空の各種ミサイルがある。

 

2030年の最大の変化は無人装備で、有人装備と併用され、あるいは単独で運用されるはずだ。この分野の変化は極めて早く、正確な予想が立てにくい。空中、海上、海中で無人装備が戦闘の大部分を実行する可能性がある。運用の前提は広範囲の偵察、通信機能であり、両陣営とも開戦直後からこれを妨害を狙してくるはずだ。

 

サイバー戦になるか

米中両国は社会、経済、軍事各面でサイバーでの接続性に依存している。接続を妨害すれば決定的な効果が生まれる。中国はインターネットへの依存度が高いが、接続の安全性を高めており、妨害を受けにくくなっている。20世紀のドイツ産業があれだけ空爆を受けても崩壊しなかったのは冗長性をもたせた内部体制が破壊されなかったためだ。これに対し、そこまで洗練されていなかった日本経済は海上封鎖と空爆で遥かに大きな打撃を受けた。ただし、複雑になることが必ずしも脆弱とはならず、経済でデジタル化が進めば攻撃しやすくなるわけでもない。

 

とはいえ、戦闘がサイバーに発展しないわけではない。むしろデジタル戦が民生部門より軍事部門に大きな影響を与えそうだ。米中両国はネット接続を探知、妨害しようと全力を上げるはずで、敵を目眩ましにしながら、敵のセンサーの利用を目指すはずだ。サイバー攻撃を「リアル世界の」軍事活動で最も巧妙に実施できる側が勝利を収めるだろう。

 

どう終結するか

米中戦の結末をめぐり多くの著作がある。2030年の戦闘では開戦理由が明確にならないと双方ともどこまで攻勢をかけるのか予測が難しい。2030年の世界で米国の産業力を恒常的に制圧できる通常戦力が中国に実現するとは極めて考えにくい。他方で、米国がPRCを完全打破するシナリオの実現も年をおうごとに困難になってきた。敗北させても政治危機はその後も続く。勝利条件はどちらが敵陣営の初期戦力を撃破できるかにかかってくるのであり、その手段に巧妙な奇襲攻撃あるいは消耗戦が考えられる。

 

海上封鎖は解決にならない。中国のエナジー消費は2030年に増加しているだろうが、同時に同国は戦略的脆弱性の克服にも注力しているはずだ。ロシアとパイプラインを追加建設し、代替エナジー源も模索すれば、PRCは対米戦の場合も余裕を持って対応できる。

 

いずれにせよ、2030年米中戦争の終結にはきめ細かな外交が必要となり、これが不調だと武力衝突の初期段階が21世紀を通じた戦争に発展しかねない。

 

結論

ほぼ40年にわたり米ソ戦は不可避だとアナリスト多数が論じてきた。危険な場面もあったが、結局開戦にはならなかった。米国と中国でも再度の軍事対決に至る事態の回避は可能であり、その確率は高い。とはいえ、両国間の戦力バランスが今後どう変わり、またどんな機会が両国に生まれるのか考えてみる価値はあろう。幸運とともに技量があれば、ワシントンと北京は2030年の世界でも開戦を回避できよう。だが両国の政策部門が武力衝突した際の影響を真剣に捉える姿勢を保つことが前提だ。■

 

この記事は以下を再構成し、人力翻訳でお送りしています。市況価格より2-3割安い翻訳をご入用の方はaviationbusiness2021@gmail.comへご連絡ください


What Would War Between America and China Look Like in 2030?

https://nationalinterest.org/blog/reboot/what-would-war-between-america-and-china-look-2030-178628?page=0%2C1

February 22, 2021  Topic: Security  Region: Asia  Blog Brand: The Reboot  Tags: WarAmericaChinaMilitaryTechnologyTrumpXi Jinping

by Robert Farley 



Robert Farley, a frequent contributor to the National Interest, is author of The Battleship Book. He serves as a Senior Lecturer at the Patterson School of Diplomacy and International Commerce at the University of Kentucky. His work includes military doctrine, national security, and maritime affairs. He blogs at Lawyers, Guns and Money and Information Dissemination and The Diplomat.

 

コメント

  1. >海上封鎖は解決にならない。中国のエナジー消費は2030年に増加しているだろうが、同時に同国は戦略的脆弱性の克服にも注力しているはずだ。ロシアとパイプラインを追加建設し、代替エナジー源も模索すれば、PRCは対米戦の場合も余裕を持って対応できる。

    果たして本当にそうなんですかね?
    中共の貿易の94%を海運が占める。ロシアとのパイプラインとか、ミャンマーでのバイパス港とかで、
    この数値はマシになるでしょうが、抜本的な解決は無理に思える
    開戦後に沿岸のシーレーンに機雷を撒かれれば、WW2の日本と同じ末路になる
    だから現在の様な、開戦を焦らないグレーゾーン戦術が有用なんでしょう
    実際に軍事的衝突案件が無ければ、米軍は手を出せない
    グレーゾーン的にサラミスライス戦術で、自国の弱点を少しずつ埋めて行くと
    しかしそれを続けられるかどうかは、神のみぞ知る

    返信削除
  2. ぼたんのちから2021年2月24日 1:51

    クラウゼヴィッツ流に「戦争は政治の延長」と考えれば、今のところ米中共に戦争を起こす政治的理由は無いが、今後10年間の世界を予測すると、米中双方に戦争動機が生まれてくる可能性がある。米国は、覇権を奪われそうになる場合であり、中国は、政治、経済危機の打開とする場合だろう。
    どちらかが一旦戦争を決断すると、最初に奇襲攻撃で始まる。これは奇襲攻撃をかけた方が初期に圧倒的優位になるからである。
    しかし、中国が米軍を攻撃し、西太平洋で圧倒的な戦果を上げても戦争は終わらない。なぜなら米本土は無傷であり、損害を受けた米軍は全体の一部に過ぎないからである。
    これは太平洋戦争の展開と同じであり、この米国の圧倒的とも言える地政学的優位さを中国はどのように克服しようとするのだろうか。

    返信削除

コメントを投稿

コメントをどうぞ。

このブログの人気の投稿

漁船で大挙押し寄せる中国海上民兵は第三の海上武力組織で要注意

目的のため手段を択ばない中国の思考がここにもあらわれていますが、非常に厄介な存在になります。下手に武力行使をすれば民間人への攻撃と騒ぐでしょう。放置すれば乱暴狼藉の限りを尽くすので、手に負えません。国際法の遵守と程遠い中国の姿勢がよく表れています。尖閣諸島への上陸など不測の事態に海上保安庁も準備は万端であるとよいですね。 Pentagon reveals covert Chinese fleet disguised as fishing boats  漁船に偽装する中国軍事組織の存在をペンタゴンが暴露   By Ryan Pickrell Daily Caller News Foundation Jun. 7, 3:30 PM http://www.wearethemighty.com/articles/pentagon-reveals-covert-chinese-fleet-disguised-as-fishing-boats ペンタゴンはこのたび発表した報告書で中国が海洋支配を目指し戦力を増強中であることに警鐘を鳴らしている。 中国海上民兵(CMM)は準軍事組織だが漁民に偽装して侵攻を行う組織として長年にわたり活動中だ。人民解放軍海軍が「灰色」、中国海警が「白」の船体で知られるがCMMは「青」船体として中国の三番目の海上兵力の位置づけだ。 CMMが「低密度海上紛争での実力行使」に関与していると国防総省報告書は指摘する。 ペンタゴン報告書では中国が漁船に偽装した部隊で南シナ海の「灰色領域」で騒乱を起こすと指摘。(US Navy photo) 「中国は法執行機関艦船や海上民兵を使った高圧的な戦術をたびたび行使しており、自国の権益のため武力衝突に発展する前にとどめるという計算づくの方法を海上展開している」と同報告書は説明。例としてヘイグの国際仲裁法廷が中国の南シナ海領有主張を昨年7月に退けたが、北京はCMMを中国が支配を望む地帯に派遣している。 「中国は国家管理で漁船団を整備し海上民兵に南シナ海で使わせるつもりだ」(報告書) 中国はCMMはあくまでも民間漁船団と主張する。「誤解のないように、国家により組織し、整備し、管理する部隊であり軍事指揮命令系統の下で活動している」とアンドリュー・エリク...

海自の次期イージス艦ASEVはここがちがう。中国の055型大型駆逐艦とともに巡洋艦の域に近づく。イージス・アショア導入を阻止した住民の意思がこの新型艦になった。

  Japanese Ministry of Defense 日本が巡洋艦に近いミサイル防衛任務に特化したマルチロール艦を建造する  弾 道ミサイル防衛(BMD)艦2隻を新たに建造する日本の防衛装備整備計画が新たな展開を見せ、関係者はマルチロール指向の巡洋艦に近い設計に焦点を当てている。実現すれば、は第二次世界大戦後で最大の日本の水上戦闘艦となる。 この種の艦船が大型になる傾向は分かっていたが、日本は柔軟性のない、専用BMD艦をこれまで建造しており、今回は船体形状から、揚陸強襲艦とも共通点が多いように見える。 この開示は、本日発表された2024年度最新防衛予算概算要求に含まれている。これはまた、日本の過去最大の529億ドルであり、ライバル、特に中国と歩調を合わせる緊急性を反映している。 防衛予算要求で優先される支出は、イージスシステム搭載艦 ( Aegis system equipped vessel, ASEV) 2隻で、それぞれ26億ドルかかると予想されている。 コンピューター画像では、「まや」級(日本の最新型イージス護衛艦)と全体構成が似ているものの、新型艦はかなり大きくなる。また、レーダーは艦橋上部に格納され、喫水線よりはるか上空に設置されるため、水平線を長く見渡せるようになる。日本は、「まや」、「あたご」、「こんごう」各級のレーダーアレイをできるだけ高い位置に取り付けることを優先してきた。しかし、今回はさらに前進させる大きな特徴となる。 防衛省によると、新型ASEVは全長約620フィート、ビーム82フィート、標準排水量12,000トンになる。これに対し、「まや」クラスの設計は、全長557フィート強、ビーム約73フィート、標準排水量約8,200トンだ。一方、米海軍のタイコンデロガ級巡洋艦は、全長567フィート、ビーム55フィート、標準排水量約9,600トン。 サイズは、タイコンデロガ級が新しいASEV設計に近いが、それでもかなり小さい。Naval News報道によると、新型艦は米海軍アーレイ・バーク級フライトIII駆逐艦の1.7倍の大きさになると指摘している。 武装に関して言えば、新型ASEVは以前の検討よりはるかに幅広い能力を持つように計画されている。 同艦の兵器システムの中心は、さまざまな脅威に対する防空・弾道ミサイル防衛用のSM-3ブロックII...

次期高性能駆逐艦13DDXの概要が明らかになった 今年度に設計開始し、2030年代初頭の就役をめざす

最新の海上安全保障情報が海外メディアを通じて日本国内に入ってくることにイライラしています。今回は新型艦13DDXについての海外会議でのプレゼン内容をNaval Newsが伝えてくれましたが、防衛省防衛装備庁は定期的にブリーフィングを報道機関に開催すべきではないでしょうか。もっとも記事となるかは各社の判断なのですが、普段から防衛問題へのインテリジェンスを上げていく行為が必要でしょう。あわせてこれまでの習慣を捨てて、Destroyerは駆逐艦と呼ぶようにしていったらどうでしょうか。(本ブログでは護衛艦などという間際らしい用語は使っていません) Early rendering of the 13DDX destroyer for the JMSDF. ATLA image. 新型防空駆逐艦13DDXの構想 日本は、2024年度に新型のハイエンド防空駆逐艦13DDXの設計作業を開始する 日 本の防衛省(MoD)高官が最近の会議で語った内容によれば、2030年代初頭に就役開始予定のこの新型艦は、就役中の駆逐艦やフリゲート艦の設計を活用し、変化する脅威に対し重層的な防空を提供するため、異なるコンセプトと能力を統合する予定である。  防衛装備庁(ATLA)の今吉真一海将(海軍システム部長)は、13DDX先進駆逐艦のコンセプトは、「あさひ」/25DD級駆逐艦と「もがみ」/30FFM級フリゲート艦の設計を参考にすると、5月下旬に英国で開催された海軍指導者会議(CNE24)で語った。  この2つの艦級は、それぞれ2018年と2022年に就役を始めている。  13DDX型は、海上自衛隊(JMSDF)が、今吉の言う「新しい戦争方法」を含む、戦略的環境の重大かつ地球規模の変化に対抗できるようにするために必要とされる。防衛省と海上自衛隊は、この戦略的環境を2つの作戦文脈で捉えている。  第一に、中国、北朝鮮、ロシアが、極超音速システムを含むミサイル技術、電子戦(EW)を含むA2/AD能力の強化など、広範な軍事能力を急速に開発している。第二に、ウクライナにおけるロシアの戦争は、弾道ミサイルや巡航ミサイルの大規模な使用、EWやサイバー戦に基づく非対称攻撃、情報空間を含むハイブリッド戦争作戦、無人システムの使用など、新たな作戦実態を露呈したと説明した。  新型駆逐艦は、敵の対接近・領域拒否(A2/A...