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主張 日米同盟の本質は軍事力による抑止効果だ。日米両国は中国との戦闘を想定し、法的問題など構造面の準備で未解決問題が残るので、戦略思考で対応をひとつずつすませておくべきだ。

  

hornung

 

週、中国が「独立すれば即開戦」との強い口調で台湾へ警告してきた。台湾国防部も中国機計15機が一度に台湾防空識別圏に侵入したと発表していた。緊張が高まる中で、中国が軍事力投入に踏み来る可能性が続く状況をバイデン政権は最上位の優先事項とすべきだ。

 

トランプ政権は同盟国との取引を重視したが、バイデン政権は米国の国益を守ることを最上段にしたまま、同盟国との戦略的関与を続けるだろう。中国の軍事脅威により長年の米国の同盟国日本の存在が高まり、米日同盟の根本である有事対応が浮上するはずだ。

 

日本国内で平和志向が根強いためか、自衛隊に憲法上の制約がついてまわるためか、同盟関係の軍事側面が軽視されがちで、同盟を安定化させる、あるいは経済・外交面の協力を目指す戦略意見交換を取り上げる傾向のほうが強い。相互作戦体制の実現を求める動きの先に同盟関係の軍事側面があるのだが、言及されることが少なく、両国の軍事組織の関係は極めて複雑なまま一部で改善が必要になっている。

 

米日同盟関係の目的は侵略行為の抑止であり、そのため効果ある軍事力が前提となる。両国の同盟関係は域内の平和、安全、安定の基礎とよくいわれるが、両国が責任を共有してこそ、効果が実現するのであり、平時から意味のある対応をしておくことで緊急時に効果を発揮する。だが米日同盟に有事に必要となる装備、配備、認証が予め整備されていると言えるだろうか。

 

ここ数年の中国の行為を見れば、中国が台湾へ軍事行動を選択する可能性に両国が備えるのは当然だろう。この可能性が現実となる確率は低いと主張する向きがあるが、では、10年後はどうなっているだろうか。可能性がいかに低くても米国は事態に備えるべきだ。中国が台湾を攻撃すれば、日本は米軍への支援を求められるはずだ。中国が在日米軍も攻撃対象にすれば、日本自体が攻撃を受ける。同盟関係は有事活動に日本防衛も視野に入れた体制になっているのか。この答えは日本と共同してバイデン政権が個別に解決することであり、有事シナリオを左右する要素になる。

 

まず法的な権限を適正に確保しておくことがある。有事に日本が自国防衛しかできないのなら、日本の政治日程と米軍の作戦日程を同期化しておかなければならない。例として自衛隊に出動命令を出すため、総理大臣は日本の存亡に関わる事態だと定義する必要がある。その後に米軍支援の議論が発生する。米国が期待する支援内容をあらかじめ明確に定義しておけば、日本政府は必要な法的政治的枠組みを平時から準備でき、有事発生でも迅速な承認が可能となる。他の米同盟国が加われば、日本上空の飛行やアクセスが必要となろう。日本が主要欧州各国やオーストラリアのような域内有力国との協力関係を強化しているが、有事に増援部隊の移動を支援する合意ができていることが不可欠である。

 

日本の役目が後方支援に限定されるとしても、米日両国は目的を共有すべきだ。台湾の緊急事態に対応する共同作戦が事前にできていなくても、少なくとも自国の作戦方針は共有しておくべきだろう。さらに米国と日本で指揮統制の仕組みが並列している現状でいいのか検討すべきで、急進展する戦闘状況で情報が不完全なままでは自国部隊運用ができない。最後に、日本領土内から作戦行動を展開するため、両国の弾薬燃料備蓄が作戦継続に必要な水準になっているか。バイデン政権がこうした点を逐一検討すれば、欠点や未解決課題の共同解消にむかうのではないか。

 

中国との開戦になれば日本への攻撃も必至なので、強固な日本の防衛体制と攻撃能力へ期待するのは当然だ。防空・ミサイル防衛分野ではイージス・アショア弾道ミサイル防衛装備の導入を日本が断念したのを受け、受動的防衛体制として燃料補給系や補給処の防護やハンガーの強化、おとり装置などの検討が必要となっており、長期戦闘への準備体制を点検すべきだ。日本でイージスアショア導入が困難なら、地上配備の中距離攻撃ミサイルの配備も困難になるのではないか。このため、米装備を基地に導入する意思が日本にあるのか問う可能性が生まれている。あるいはこれが困難な場合、少なくとも米装備を日本に迅速配備する体制ができているかだ。こうした装備がないままでも両国に海上配備、空中配備のミサイル装備があるが、中国の装備近代化のスピードを意識し、データ共有や標的捕捉を共同実施する体制をすすめる必要がある。サイバー、宇宙、電磁部門が絡む戦闘となれば両国では情報ネットワーク、センサー、機材の強化が十分な水準となのか、指揮統制通信・コンピュータ・情報収集監視偵察拠点への中国の攻撃に耐えられるか点検すべきだ。こうした作業には時間がかかる。

 

日本本土が攻撃を受け日本民間人がまきこまれる事態には、日本政府をあげての対応が必要だ。死傷者が現実に発生するのは人口密集地だろう。両国は史上最大規模の一般市民退避作戦の準備ができているだろうか。艦船や航空機の規模の問題ではない。むしろ、両国に法的な権限が正しく備わっており、退避行動に使う港湾・空港を防御できるかが問題となる。また食料・物資の補給を民間人多数に提供することになる。他方で両国で戦闘中に方不明が発生すれば、捜索救難活動を東シナ海で展開しつつ、日本国内の民間医療従事者向け支援も必要となる。このため事前集積の準備が必要となるが、日本政府から要請があっても市町村レベルの医療機関の支援を米軍が行う法的根拠の問題がある。すべて米日両国の政府間で共通化されていない課題につながる。平時から調整しておくのが混乱が予想される事態に備えることにつながる。

 

最後に、両国は最適な軍事姿勢を協議しておく必要がある。直近のRANDコーポレーション報告書では、東シナ海の有事で日本が何ができるかを検討している。沖縄のはるか西方で軍事衝突が発生すれば、日本は空輸・海上輸送、補給支援で課題に直面する。こうした課題を理解した上で米日両国は現状の部隊配置が最適なのか検討できる。日本が困難な状況になれば、米日両国で必要な調整を協議し、米軍配備を検討すべきだ。自衛隊が南西部に基地を整備しているが、米日両国の部隊を新基地に配備できるだろうか。また日本がF-35導入を進め、水陸両用部隊を創立し、次世代戦闘機や無人装備の開発に向かっているが、両国の機能を強化するため米軍部隊にどんな変化が必要になるだろうか。

 

バイデン政権が上記課題を短時間で全て解決するとはだれも期待していない。両国で駐留支援経費の日本側負担が協議されているが、もっと大事なのは両国に域内有事への対応能力があるのかという問題であり、ともすれば日本本土に近い地域だけに目がむきがちだが、広義の戦略課題に焦点をあわせるべきだ。両国は戦闘実施能力を強化し、有事対応で勝利を収めるべきだ。各課題の解決を先送りすれば、次の政権に大きな重荷を押し付けるだけだ。■

 

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The United States and Japan Should Prepare for War with China

JEFFREY W. HORNUNG

FEBRUARY 5, 2021

COMMENTARY

 

Jeffrey W. Hornung is a political scientist at the nonprofit, nonpartisan RAND Corporation. 

Image: Mass Communication Specialist 2nd Class Natalie M. Byers


コメント

  1. ぼたんのちから2021年2月8日 16:51

    「平和を欲さば、戦への備えをせよ」の警句が、身に染みる状況になってきています。記事の主張はまさしくその通りで、日本としての戦略をどう形付けるか、日本周辺、特に台湾をどのように位置付けるかが、今、問われていると考えます。
    本ブログの「中国の弱み②…(1/26)」でも書きましたが、「一つの中国」の主張は、中国の言い分を日米が全てを認めたわけでなく、特に台湾関係の部分で中国の主張、「台湾は中国の不可分の一部」とするのに対し、日米は「理解した」、あるいは「認知した」だけです。情勢の変化により、この部分の変更を、中国の姿勢にもよりますが、主張する時が来ると推測します。
    そればかりか、「中国大陸に存在する政権はただ一つ」の部分も、チベットやウイグル等の民族が中国内にありますので、変えていくべきかもしれません。
    台湾の独立への努力を、日米は非公式にでも承認し、支援すべきであると考えます。
    日本は、独自の戦略を打ち立て、東アジアの平和と民主主義を積極的に維持するよう、法改正も含め、実行すべき時期にきていると考えます。
    米国の政策は、トランプ時代とは大きく変わる可能性があり、さらに米政権が変わる毎に東アジアの政策が変わり、振り回されるようでは、台湾を含む東アジアの安定は望めません。ここは日本が重石になって安定させるよう努力すべきと思います。

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