中国の弱み④
中国は海外の兵器技術に過剰依存の傾向がある。国内産業育成に走る中国がロシアからの輸入や米国技術の盗作に頼らる必要のない日が来るだろうか。だがその日は当面やってこない。
中国の国防産業界は外国設計の「借用」で悪名高い。特に航空宇宙産業にこれがあてはまる。中国で供用中の戦闘機は大部分が無許可のコピーが原型だ。J-10はイスラエルIAIのラヴィであり、もとをたどれば米国のF-16だ。J-11はロシアSu-27のクローン、JF-17はソ連MiG-21を近代化した機体、J-20にはF-22との類似性があり、J-31はF-35共用打撃戦闘機の技術を借用していると広く信じられている。海外技術の盗用で中国は研究開発費用と時間を節約し、PLAAFは安価に近代化が可能となった。ただし、盗用戦略ではテストデータがなく、産業基盤も揃っていないため肝心な技術に成約が生じる。この例が当てはまるのがエンジンの国産化で、まともなジェットエンジンがいまだに生産できない。
技術ミスマッチの根源は技術知識の欠如であり、人財の不足だ。このため、海外システムの摸倣が結果として高い代償につき、多大な時間の消費につながり、結局ゼロから製造工程を整備しなくてはならなくなる。最悪の場合は粗悪部品となり、性能が大幅に低下する。中国は1990年代2000年代にロシアのジェットエンジンをリバースエンジニアリングしたが、結果は極端に低寿命でロシア製より低出力のエンジンだった。現在も中国のジェットエンジンがPLAAF戦闘機材の近代化で足かせとなっており、最新型でも依然として出力不足の傾向だ。問題をさらに複雑にするのがSu-27搭載のAL-31エンジン以上の出力があるエンジンの供与にロシアが慎重になっていることだ。それでも中国には別の打開策もある。
オプションとしてまず、国産エンジンの性能を引き上げることがある。2016年に第13次5カ年計画で戦略的新興産業の育成が叫ばれ、国産ジェットエンジン設計の向上とあわせ航空宇宙産業の底上げを狙った。その成果が一部にせよ現れ、J-20試作型に改良版のWS-10エンジンが搭載され、当初のAL-10よりステルス性能、出力が向上したはずだった。しかし、中国国産エンジン関連の情報は不足気味で性能の確認ができない。WS-10初期型が中国製フランカーに搭載されたがAL-31より圧倒的に性能が劣っていた。成都航空宇宙高性能合金技術(CASTC)がターボファン技術で大きな飛躍を可能とし、高温域で高性能を発揮するエンジンに道を開いたが、この成果がPLAAFの現役機材に届くまでまだ時間がかかりそうだ。
民生部門が航空宇宙分野の技術の突破口を開けば、政治面でその後に成果が続くはずだ。国営航空機メーカー各社は政治面で力をつけつつあり、一部企業の首脳陣には裁量権が認められている。一方で、CASTCのような民間企業が優れた結果を実現すると、政治面での影響力が生まれ、既存の国営企業が民間企業と提携関係を樹立するようになるかもしれない。いずれにせよ、CASTCの成果は中国国防産業界ならびにイノベーション分野で深い意味を持ってきそうだ。
もっと簡単な方法は外国製戦闘機で高性能エンジンを搭載した機材を調達することで、この例がSu-35をロシアから導入したPLAAFだ。Su-35にはAl-41F1S(ALS-117S)が搭載されており、推力偏向方式を採用した強力なエンジンでAL-31から数段先をゆく技術になっている。中国はAL-117単独での導入を想定したが、ロシアがエンジン単体の輸出を拒み、さらにALS-117の知的財産の保護を強く主張した。
しかし、中国の知財遵守の実績はきわめて疑わしく、ALS-117を部分的にリバースエンジニアリングしてくるのは間違いない。ただし、これはそんなに簡単なことではない。ロシア筋は同エンジンの核心技術は分解しないかぎり見られないとしている。さらに中国がWS-10でも手こずった事例を見ると、外国製エンジン設計を入手したからと言って同等性能の製品の即実現には直結しない。
さらに中国がロシアの知財保護対策を守ると言いながら、破ればロシアの先端技術の利用を今後一層難しくなりかねない。更にALS-117の中核技術は分解しないとわからないというロシアの言い分が正しければ、リバースエンジニアリングしてもPLAAFにはエンジンの欠けた機材しか手に入らなくなる。そうなると、ALS-117のリバースエンジニアリングで短期的な成果を追求するのは、金の卵を生むガチョウを殺すのと同じだ。ただし、ロシア軍需産業の見通しが暗いため、ロシアとしても中国市場を失う損害を考え別の道に走るかもしれない。
たしかにロシアの優位性は縮まりつつあり、中国の技術、産業の基盤が強化される一方、ロシア技術の導入は減りそうだ。中国は自信を深めるだろうが、ロシアとの友好関係にひびが入るリスクが生まれれば、外交面の投資が無駄になりかねない。
最後に、中国は民生ジェット産業の発展をバネに軍事用途も一気に発展を目指すかもしれない。民生航空分野の強化が西側企業との協力関係につながれば、中国航空技術の輸出市場も生まれる。ドイツはタービンブレイドの購入を中国から狙っており、ドイツ製品より優秀な出来上がりとなっているからとする。皮肉にも中国はドイツから同技術を習得したのだが。さらに、中国国内の需要に応えれば民生航空機分野で世界最大の規模の中国市場に参入できる。とはいえ、欧米企業は技術移転の厳しい条件で操業を続けているのが現実で、そこに政治圧力や知財窃盗が加わり、西側企業は中国事業への投資に及び腰だ。知的財産の保護が鍵となり、米中関係が冷え、貿易戦争を加熱しかねない。その結果として中国が拡大近代化をめざす産業基盤に損害が生まれかねない。
こうした障害にもかかわらず、中国の軍事航空での進展は今後も続くはずで、中国が技術面でいつまでも遅れたままとなる可能性は低い。3Dプリント技術によりジェットエンジンの試作、製造、開発が加速化される日が来るかもしれない。とはいえ、3Dプリント技術はすでに各国で利用されており、航空機部品の製造にも応用されている。が、ジェットエンジンの複雑さを考えると、3Dプリント技術を広く応用するまでまだ数年かかりそうだ。中国は戦闘機用エンジン技術の習得という困難な選択に当面取り組み、空軍機材の戦力向上を狙うのではないか。■
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Engine Trouble: Why China Needs a Domestically-Produced Air Force
February 10, 2021 Topic: Security Region: Asia Blog Brand: The Reboot Tags: ChinaAir ForceMilitaryTechnologyWorld
Robert Farley, a frequent contributor to TNI, is a Visiting Professor at the United States Army War College. The views expressed are those of the author and do not necessarily reflect the official policy or position of the Department of the Army, Department of Defense, or the U.S. Government. This article first appeared earlier and is being reposted due to reader interest.
Image: Reuters.
中国のジェットエンジン製造技術のレベルを推定するには、海洋に進出する航空機が搭載するエンジンを見ればよい。プロペラ機はともかく海洋を飛ぶようだが、ジェットエンジンを搭載する戦闘機や爆撃機は、ほぼロシア製のエンジンでなかろうか。
返信削除中国製ジェットエンジンは、記事のように性能に問題があり、さらに時々問題を起こすと言われており、信頼性が強く求められる海上での飛行は、恐怖だろう。また、海上飛行を行えたとしても、信頼性を得たことにならない。なぜなら、海上飛行のほとんどは巡航速度の穏やかな条件下であり、実際の戦闘では出力を大きく変動させ、Gもかかる厳しい作動環境下であるため、この条件下の信頼性とは別の話であろう。
もし戦争が起きれば、短期でジェットエンジンの損耗が激しくなり、他国に依存しないで取り換えや修理ができなければ、航空機の稼働率は著しく低下することになる。このことはPLAAFが長期の大規模な戦争ができないことを意味する。