スキップしてメイン コンテンツに移動

中国経済が米国を追い抜く日は来ない



今回も中国経済の虚像に挑戦する論調ですが、バランスシートの概念が分からないと理解が難しいかもしれません。一方で中国統計の疑わしさには言及していないので正しい(会計上の原則で)数字が出れば(誰にもわからないでしょう)さらに中国経済の本当の姿が露呈するはずです。経済を理解しないまま軍事力だけで大国だと言っているのが中国の現状ではないでしょうか。交渉もそれを背景にしていれば、すごいポーカープレイヤーだとなりますね。しかし中国国営企業の債務は政府を上回る規模とすざましいですね。21世紀の課題は中国をいかに「世界秩序」に組み入れるかでしょう。中国はその秩序に抵抗する勢力でこのままでは受け入れられない存在です。北朝鮮問題のように少しずつですが中国にも変化の兆候が見られ、かすかな希望を殺さないようにしたいものです。


Is China's Economic Power a Paper Tiger?

中国経済は張子の虎なのか

中華人民共和国のGDP成長が米国より高いのは事実だが、問題は成長の中身だ。
A painter contrasts the reddish-pink hue on a painting knife with China's 100 yuan banknote before he works on portraits for Chinese artist and film-maker Zhang Bingjian's "Hall of Fame" project in a studio in Shenzhen, south China's Guangdong province
November 27, 2017

  1. オバマ政権時に中国の台頭に対し米国の退潮を問題提起があったが、トランプ政権下で人は変わっても同じ主張が出ている。両政権の政策の違いが議論の種だが事実の基本は明らかにしたい。最も重要な点は経済力で中国は米国と肩を並べる存在でなく、追いつく可能性もないことだ。

GDPを過大評価していないか

  1. 奇異に思う向きもあろう。中国の国内総生産GDPは数十年にわたり高成長中だ。だが中国は経済が苦境にあることをいつ認めるのか。中国発表の2009年第二四半期のGDP成長率は7.9パーセントだったが世界最大の債務を抱えての高成長だ。経済実態は中国共産党の主張と反対だ。
  2. 人民共和国がGDP成長率で40年間にわたり米国より高かったのは事実だが、問題はその中身だ。中国人の可処分所得は(中国発表の数字で)国民一人当たりGDPの半分に満たない。可処分所得は年間支出金額だが一人当たりGDPは会計上の概念で実経済であまり意味がない。
  3. もっと意味がないのは購買力平価(PPP)によるGDPだ。PPPでは中国国内の物価すべてを米国とそのまま比較する必要があり、無意味な概念だ。この計算の根拠は「一物一価」だが、中国市場の閉鎖性でこの原則はかならずしも通用しない。またPPPは消費者の購買力であるが、中国の消費支出は中国GDPの半分に満たない。購買力調整したGDPは多数の国で通用しない尺度で中国も例外ではない。

民間純資産

  1. 単純なGDPの方ならよさそうだが最重要指標とは言い難い。各国が国益のために使う資源が国民純資産であり、実際に金銭支出を伴うもので会計上の概念ではない。年間GDPは国富の蓄積につながるはずだ。だが中国ではGDPが資産形成と密接つながっていないのは驚くべきことではない。
  2. クレディスイスが2000年から各国の民間純資産を算定している。データは修正などあり一定しておらず、最新版も確定していると言い難いが、それでも二つの特徴がある。1)中国政府による統計の偏り以上に大きなものはない 2)中国の2012年以降の成果でこの傾向が顕著になっている の二点だ。
  3. 2000年から2012年の中国民間資産は4.66兆ドルから21.7兆ドルへ年間14パーセント近く増加した。同時期の米国は42.3兆ドルから67.5兆ドルへ増加した。米国の優位がさらに伸びたが、米経済の年間成長率は4パーセントにすぎない。中国はらくらくと実績で上回れたはずだ。
  4. ところが状況はその後急変している。2012年末から2017年央までの中国の民間資産は7.3兆ドル伸び、年間成長は9パーセントに達した。これに対し米民間資産は26兆ドル伸びた。米国の経済規模ははるかに大きく、さらに米経済の成長率が高くなってきた。その結果、2017年央の中国民間資産は29兆ドル、米国は93兆ドルになった。連邦準備制度はクレディスイス推計と同意見で米国の家計純資産は96兆ドルとしている。
  5. 端的に言えばGDPは経済実績の完璧な尺度ではなく、民間資産も同様だ。だが資産規模で米中間交渉が変わる。民間資産で64兆ドルもの差がある中では中国が米国を脅かすほどの経済になるとの主張の根拠が怪しい。中国経済の成長が米国を上回るとの主張も民間資産の差がこの4年半で18兆ドルも広がったことで疑わしい。民間資産で見る限り中国は米国からはるか後ろを追う存在だ。

公共部門

  1. クレディスイスが中国を正しく把握していない可能性もある。そこで二つの疑問が生まれる。まず、米国の優位性が2012年から広がったのは米国の株式市場と不動産バブルが中国のバブルを上回る規模になったためなのか。そうだとしたらバブルが弾ければ差は縮まるのか。これはありうるが、実現しても大きな影響は生まない。民間資産がこれだけの規模になるとグローバル金融危機時でも米国は56兆ドルの差をつけており、これは2014年とほぼ同規模だった。
  2. 民間純資産を阻む制約は「民間」にある。各国の目指す目標に投入する国富の総額を意味し、ここに公共部門も入る。共産党はPRCの巨大銀行システムの債務情報を出そうとしない。米政府も公共部門の資産評価で疑わしいものがあるが、米連邦政府の債務と中国の国家資産はともに巨額で国富の格差を縮める要素だ。
  3. 国営企業資産に関する公式中国データはここ数年一貫性がある。2017年央の資産総額は145兆元(7.4兆ドル)で債務は95兆元(4.8兆ドル)以上だ。ただし国営企業には資産を過大評価し債務を過小表示する傾向がある。したがって先に示した数字は最大値と見るべきだ。
  4. その他の公的債務に中央政府地方政府の借入金がある。国営企業に比べれば小規模であるが、それでも2016年末で4.1兆ドルになった。中国政府発表の数字に変動がないことが信ぴょう性を逆に疑わせている。2017年3月末時点の国際決済銀行(BIS)の推計は1.1兆ドル多い5.3兆ドル(2017年央)だ。
  5. 企業部門に次ぐ大きな国家資産は土地だ。大量売りが入れば土地価格が下がるため広大な規模の不動産の価格鑑定は困難だ。PRCでは政府の役割がいびつなためさらに困難だ。土地売買収入は2016年末時点で3.7兆ドルだった。2017年はこれを上回るとみられるが売買は不安定だ。
  6. 土地価格が低すぎるため企業部門の負債規模も低くおさえられるのだろう。ただし公共部門資産の誤差で正味民間資産が6兆ドル上乗せされ、中国の2017年央の国富は35兆ドルになる。もう少し高いかもしれない。
  7. これに対し米国では連邦政府負債が最大で2017年央で19.8兆ドルだった。州地方政府債務が3兆ドルある。構造は単純で、資産問題だ。
  8. 連邦政府は全米土地の27パーセントを保有し、その他州地方政府が33%を保有する。土地評価は合計125兆ドルだ。連邦準備制度によれば米政府部門の非金融資産は2017年央で14兆ドルとで、その他州地方政府は10兆ドル相当なので米国の純国富は88兆ドル超となる。ただし国有建築物を売却すれば価格低下を招き資産規模も縮小する。
  9. 連邦準備制度の不動産データから計算すると政府部門資産は2017年央で9.1兆ドルになる。これで米公共部門の総勘定は13.6兆ドルの赤字となり、純国富は80兆ドルを下回る。公共部門まで含むと米中の国富の差は縮まるが、それでもまだ大きい。

米国の選択肢

  1. 土地価格の算定は不正確だ。資産価格は簡単に富が変動することを意味する。クレディスイスの民間資産推計データでも修正が入る。だがクレディスイス、米財務省、連邦準備制度理事会、BIS、さらに中国政府から意味のあるデータがわかる。
  2. 米国は純国富で中国を45兆ドル上回り、差に縮まる様子は今のところない。民間資産だけ見ても差は縮まっていない。これはBISの債務情報によるものではなく、中国政府発表の数字を基にした計算によるものでもない。つまり中国のGDP高成長は意味のない数字だ。少なくとも2010年代初頭において。
  3. 米国が中国と東アジアで覇権を競う、またはグローバル規模で主導権を維持するのであれば、国富の格差は意味がない。資産面の優位性は圧倒的に米国にあり、今後もそのままだろう。■
Derek M. Scissors is a resident scholar at the American Enterprise Institute, where he focuses on the Chinese and Indian economies and on U.S. economic relations with Asia. He is concurrently chief economist of the China Beige Book.


コメント

このブログの人気の投稿

フィリピンのFA-50がF-22を「撃墜」した最近の米比演習での真実はこうだ......

  Wikimedia Commons フィリピン空軍のかわいい軽戦闘機FA-50が米空軍の獰猛なF-22を演習で仕留めたとの報道が出ていますが、真相は....The Nationa lnterest記事からのご紹介です。 フ ィリピン空軍(PAF)は、7月に行われた空戦演習で、FA-50軽攻撃機の1機が、アメリカの制空権チャンピオンF-22ラプターを想定外のキルに成功したと発表した。この発表は、FA-50のガンカメラが捉えた画像とともに発表されたもので、パイロットが赤外線誘導(ヒートシーキング)ミサイルでステルス機をロックオンした際、フィリピンの戦闘機の照準にラプターが映っていた。  「この事件は、軍事史に重大な展開をもたらした。フィリピンの主力戦闘機は、ルソン島上空でコープ・サンダー演習の一環として行われた模擬空戦で、第5世代戦闘機に勝利した」とPAFの声明には書かれている。  しかし、この快挙は確かにフィリピン空軍にとって祝福に値するが、画像をよく見ると、3800万ドルの練習機から攻撃機になった航空機が、なぜ3億5000万ドル以上のラプターに勝つことができたのか、多くの価値あるヒントが得られる。  そして、ここでネタバレがある: この種の演習ではよくあることだが、F-22は片翼を後ろ手に縛って飛んでいるように見える。  フィリピンとアメリカの戦闘機の模擬交戦は、7月2日から21日にかけてフィリピンで行われた一連の二国間戦闘機訓練と専門家交流であるコープ・サンダー23-2で行われた。米空軍は、F-16とF-22を中心とする15機の航空機と500人以上の航空兵を派遣し、地上攻撃型のFA-50、A-29、AS-211を運用する同数のフィリピン空軍要員とともに訓練に参加した。  しかし、約3週間にわたって何十機もの航空機が何十回もの出撃をしたにもかかわらず、この訓練で世界の注目を集めたのは、空軍のパイロットが無線で「フォックス2!右旋回でラプターを1機撃墜!」と伝え得てきたときだった。 戦闘訓練はフェアな戦いではない コープサンダー23-2のような戦闘演習は、それを報道するメディアによってしばしば誤解される(誤解は報道機関の偏った姿勢に起因することもある)。たとえば、航空機同士の交戦は、あたかも2機のジェット機が単に空中で無差別級ケージマッチを行ったかのように、脈絡な

主張:台湾の軍事力、防衛体制、情報収集能力にはこれだけの欠陥がある。近代化が遅れている台湾軍が共同運営能力を獲得するまで危険な状態が続く。

iStock illustration 台 湾の防衛力強化は、米国にとり急務だ。台湾軍の訓練教官として台湾に配備した人員を、現状の 30 人から 4 倍の 100 人から 200 人にする計画が伝えられている。 議会は 12 月に 2023 年国防権限法を可決し、台湾の兵器調達のために、 5 年間で 100 億ドルの融資と助成を予算化した。 さらに、下院中国特別委員会の委員長であるマイク・ギャラガー議員(ウィスコンシン州選出)は最近、中国の侵略を抑止するため「台湾を徹底的に武装させる」と宣言している。マクマスター前国家安全保障顧問は、台湾への武器供与の加速を推進している。ワシントンでは、台湾の自衛を支援することが急務であることが明らかである。 台湾軍の近代化は大幅に遅れている こうした約束にもかかわらず、台湾は近代的な戦闘力への転換を図るため必要な軍事改革に難色を示したままである。外部からの支援が効果的であるためには、プロ意識、敗北主義、中国のナショナリズムという 3 つの無形でどこにでもある問題に取り組まなければならない。 サミュエル・ P ・ハンチントンは著書『兵士と国家』で、軍のプロフェッショナリズムの定義として、専門性、責任、企業性という 3 つを挙げている。責任感は、 " 暴力の管理はするが、暴力行為そのものはしない " という「特異な技能」と関連する。 台湾の軍事的プロフェッショナリズムを専門知識と技能で低評価になる。例えば、国防部は武器調達の前にシステム分析と運用要件を要求しているが、そのプロセスは決定後の場当たり的なチェックマークにすぎない。その結果、参謀本部は実務の本質を理解し、技術を習得することができない。 国防部には、政策と訓練カリキュラムの更新が切実に必要だ。蔡英文総統の国防大臣数名が、時代遅れの銃剣突撃訓練の復活を提唱した。この技術は 200 年前のフランスで生まれたもので、スタンドオフ精密弾の時代には、効果はごくわずかでしかないだろう。一方、台湾が新たに入手した武器の多くは武器庫や倉庫に保管されたままで、兵士の訓練用具がほとんどない。 かろうじて徴兵期間を 4 カ月から 1 年に延長することは、適切と思われるが、同省は、兵士に直立歩行訓練を義務付けるというわけのわからない計画を立てている。直立歩行は 18 世紀にプロ