ここのところ原油価格はバレル当たり50ドル台前半で比較的安定しています。世界的な株価上昇の背景に原油価格の心配が必要がないのもあるのでしょう。ただし、いつまでも続かないからこそ、今がWindfall=絶好の好機と米国はとらえるのでしょうか。中東湾岸諸国さらにイランも再び影響力を強める時代がくるのでしょうか。あるいはそれまでに非石油文明が根付くのでしょうか。これからが見ものです。
How the New 'Energy' Affluence Strengthens the United States
エネルギー潤沢時代にあり米国の国力は強化される
November 2, 2017
- ドナルド・トランプ大統領はイランに対して制裁を発動させると先週発言して脅かした。イランはOPEC三番目の石油生産国で市場は迅速に反応した。中東で緊張が生まれるのか、外交政策とエネルギー市場の関連に関心が集まった。
- 外交政策をエネルギーの視点で研究する第一人者オサリバンは世界はエネルギー枯渇の恐怖からわずか数年でエネルギー潤沢状況に移行したと明らかにしている。新技術で原油は過剰生産となり、ここに天然ガスの過剰供給が加わる。水圧で岩盤を破砕するフラッキング技術のおかげで米国は今や世界最大の原油・天然ガス生産国だ。
- オサリバンの主張は新事態で混乱が生じたのではなくマーケット構造の変化で国力影響力の行使方法が変わった国が多数生まれたというものだ。エネルギー供給過剰でロシア、ヨーロッパ、中国、中東の政治状況が変わった。OPECの原油価格統制機能が揺らぎ、米国の敵ロシアが弱体化した。エネルギー過剰により伝統的な提携関係が逆転し、新しい協力関係のきざしも中国中心に出てきた。
- この本の真の価値はオサリバンが外交政策およびエネルギー市場を包括的に見る視点を加えた形でエネルギー問題を提示してくれたことだ。オサリバンはエネルギー地政学には外交政策だけ見ているのでは不十分との仮題を出発点としている。つまりエネルギー供給過剰の現状を外交政策の視点からだけで見るとあらたにエネルギーで自立した米国が中東から撤退するように見える。だが中東での進展の状況はこの仮説の反対なのだ。
- オサリバンが提供してくれる別の視点が必要だ。オサリバンの著作はホワイトハウス中枢での外交政策形成過程や国際交渉の経験に裏付けられている。外交政策とエネルギー市場を組み合わせてオサリバンは驚くべき視点もいくつか提供している。
- 常識と反するが、オサリバンはシェール革命が米国で進んでも中東の退潮にはつながらないとする。原油価格低下で中東は長期的に今より重要な原油生産地になるという。中東以外の各地で原油生産コストが上がるのでゆくゆく原油生産が商業的に成り立つのは湾岸だけになる。そうなると原油は中東に依存度を高めることになる。
- 世界のエネルギー資源に関する著作はたくさんあるが、エネルギーの現実を地政学とむすびつけた本はすくない。オサリバンのWindfallは実務家、政策決定者、研究者に必読書になった。外交政策・エネルギー政策の通念を改めさせる本であり、新エネルギー事情を米国がどう利用すべきかを示している。■
Juergen Braunstein is a research fellow at the Belfer Center’s Geopolitics of Energy Project, which is headed by Meghan O’Sullivan.
Image: The setting sun illuminates the sky behind wind turbines of a wind park near Neusiedl am See, December 22, 2014. REUTERS/Heinz-Peter Bade
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