スキップしてメイン コンテンツに移動

戦闘機パイロット養成の民営化に向かう米空軍の事情


なるほど米空軍も背に腹は代えられないほど追い詰められてきたわけですか。今回の民間委託対象は高度空戦訓練だけでないようですが、どうせやるならもっと大幅なアウトソーシングはできないのですかね。第四世代機の中古なら日本のF-4という手もあるでしょう。国有財産の処分手続きがこの度変わったのでまんざら可能性がないわけでもないでしょう。民間業者の狙いは中小国の訓練業務の一括業務受注ではないでしょうか。

 

The Air Force is getting ready to privatize a big part of its training program

米空軍は訓練民営化にむけ準備中
pilots flight line air militaryUS Air Force
Foreign PolicyPaul McLeary, Foreign Policy
  1. 米空軍エリック・「ドック」・シュルツ中佐がネヴァダ州での訓練飛行中に9月初め死亡したが、米空軍が事故の事実を認めたのは三日後だった。空軍は中佐の乗機機種で論評を拒んだ。
  2. 空軍が新型極秘機材の存在を明らかにしたくないのではとの観測が生まれた。F-35墜落の事実を軍が隠そうとしているとの観測もあったがこれは軍が後日否定している。
  3. その後、シュルツが外国製機材の飛行評価にあたる空軍部隊に所属しロシア製Su-27で空戦訓練中に死んだとの報道が出ると観測が一気に静まった。
  4. 航空機愛好家がSu-27がネリス空軍基地上空を飛行する様子をとらえることが以前からあり、同基地にロシア戦術を採用した訓練飛行隊があることが知られている。ただし冷戦中と比較すると今のロシア機材の利用は控えめなものに過ぎない。
  5. 1970年代80年代にかけ米空軍は極秘飛行隊通称レッドイーグルズでソ連製機材を飛ばしパイロットに敵対戦に備えた訓練を行っていた。だが同隊は1990年解隊され残存機はテスト飛行隊に移管された。シュルツ中佐が所属したのがはその一つだった。
  6. レッドイーグルズは残存しないが、海外機材をアグレッサー部隊で運用するニーズは残ったままだ。近年のロシア機材の性能向上やウクライナ侵攻(2014年)を受けてニーズはソ連解体以後最高水準になっている。
  7. その結果、米空軍航空戦闘軍団(ACC)は民間企業所有機材を訓練に利用する「敵部隊」“adversary air”の活用を検討している。
  8. 空軍から正式「事前要請書」が今週発出され、業界に正式な競争提案を求めようとしている。契約規模は数十億ドル相当とうまみのある内容ですでに海外機材の買い付けに動く数社があらわれた。
  9. 米空軍の基本業務の一部を民間企業に委託することになり過去からの決別を意味する。
  10. ACC司令官ジェイムズ・ホームズ大将Gen. James Holmesは今回の外部委託の主な理由にパイロット不足の悪化を挙げている。
  11. ISIS相手の航空戦が続く中でパイロットを通常任務から外すのはアフガニスタン情勢の悪化、イラン・北朝鮮との緊張増大の中では考えにくい。「実戦戦闘機部隊のほうがアグレッサー飛行隊より重要だ」とホームズは述べ、20機から24機とパイロットがアグレッサーに取られることに言及している。
AP_041118014814旧ソ連国旗を掲げるのは第64アグレッサー飛行隊のF-16ファイティングファルコンだ。ネリス空軍基地にて。 November 16, 2004. Associated Press
  1. アグレッサー飛行隊は冷戦の産物で国防総省はコンスタントペッグの名称でソ連機材をひそかに集めていた。レッドイーグルズはここから生まれ、MiG-17、MiG-21、MiG-23を運用した。解隊後も空軍はソ連機材をテスト評価用に調達していた。
  2. 各種筋によれば空軍にはMiG-29数機がモルドバ経由で在籍しており、Su-27二機もあり、シュルツ中佐の命を奪ったのがこの一機と見られる。
  3. ロシア機材の取得はソ連崩壊後に容易になったと内部事情筋が述べるが、機材を飛行可能に維持するのは大変だという。スペアパーツ取得が困難だった。
  4. 非ロシア製機材にロシア機のふりをさせることで空軍はこの問題に対処中だ。「政治的判断でソ連製以外の機材に向かっているのでは」とロシア機を取り扱う民間業者のオーナーが述べている。空軍は「大企業により保守点検され運用可能になっている」のが望ましいと考えているという。
  5. だが機体価格だけが契約を推進するのはではない。軍用パイロットが手に入るかも要素だ。米空軍のパイロットで訓練ミッションに回せる余裕が急速に縮まっている。
  6. パイロット不足1,500名になっており、訓練専門飛行隊を維持する余裕がなくなっている。今後のパイロットには新機種を相手に模擬空戦する余裕が減っていることを意味する。
  7. 可能な限り多数のパイロットを飛行させるため契約業者に「最短時間で準備させ費用対効果が最も優れる型」を期待するとACCで航空作戦顧問を務めるスティーブン・ブラネンは述べる。その試算では契約は年間5億ドル相当になる。「あくまでも戦闘機パイロット不足による措置」だという。
  8. 数十億ドル規模の商機を狙い二社が外国機材調達して受注を狙うほか数社も参画を狙っている。
  9. 食指を動かす対象は非ロシア機だけだ。ヴァージニア州に本拠をおく航空戦術優位性企業Airborne Tactical Advantage Company (ATAC) はフランスでミラージュ戦闘機63機購入しており、ドラケンインターナショナルDraken Internationalはスペインから用途廃止ミラージュ20機を導入した。
  10. 民間企業に旧式機でロシアや中国の第五世代機を真似させるのは大胆だがリスクもある。とはいえ空軍が必要と認識しているのはパイロット不足とF-35の大量購入や新型ステルス爆撃機の導入で予算も不足気味だからだ。
  11. 空軍は年間6万時間の訓練のうち約3.7万時間を民間委託に回す案を検討中で、民間企業には150機ないし200機が必要との試算がある。一社で賄いきれない規模で、受注は数社でわけあうかたちになりそうだ。前述のATACとドラケンが業界最大手だ。
  12. ドラケンは80機ほどを所有しており、ネリス空軍基地で運用中だ。一方、業界最大手のATACは90機を持ち、海軍の空母打撃群が長期間配置に向かう前に飛行訓練の相手をしている。
  13. だが各社保有機では最新の中国やロシア機の性能に匹敵しない。アグレッサー飛行隊はF-16やF-15を飛ばしている。
  14. 業者は第二世代、第三世代機を飛ばすことが多いが、軍は第四世代機を望んでおり、実戦の雰囲気をパイロットに味合わせたいとする。ミラージュは不合格だがエイビオニクス改良で第四世代機を真似させようという動きがある。
  15. ATACのCEOジェフリー・パーカーJeffrey ParkerがForeign Policyに「フランス空軍のほぼ全機」のミラージュを予備部品6百万点ともに購入し、空軍海軍の契約を見越し機体改修中と述べており、米国以外にも民間企業による訓練実施のニーズに期待している。
  16. パーカー他は海軍が第四世代練習機を求める要求を急ぎ出してきたのは空軍要求内容が漏れたためと指摘している。空軍が海軍と限られた第四世代機材の争奪戦の様相を示す中でATACやドラケンがフランス、スペインから機材手当てしたことが一層の供給不足につながっている。
  17. だが業界ウォッチャーは空軍の要求内容に業界が答えられるのは数年先と見ており、空軍は当面は妥協を迫られるはずと見ている。「需要が供給を上回っている」とパーカーは言い「中古軍用機の引き合いが増えている」のは新型高性能機材の単価が中小国の負担可能範囲を超えているからだ。
  18. 価格以外にも旧式機と契約パイロットで高性能機の真似ができるのか、さらに高度訓練を受けた空軍アグレッサー部隊の代わりを務められるのかという疑問も残る。「実際の戦闘同様に訓練が必要だ」と元戦闘機パイロットのローレンス・スタツリエム米空軍退役少将 Maj. Gen. Lawrence Stutzriemは述べている。
  19. スタッツリエムは冷戦真っ盛りの時期にロシア戦術を採用した空軍の同僚相手に長年飛んでおり、今何が足りないかを認識している。当時は「最高のパイロットにアグレッサーの任務が与えられたものだ」と言い、ロシアの教義や戦術を懸命に勉強していたことで空軍は「通常より優れたパイロットだと認定していた」という。
  20. 航空戦闘軍団司令のホームズ大将は民間委託企業を募るのは望ましいことではないが予算人員両面で不足に直面する空軍に実施可能な唯一の方策だという。「臨時措置で様子を見たい」とし、「いつかは空軍による実施に戻す」と述べた。
  21. 米パイロットは同等の実力がある敵を想定した訓練を受けてきたが、受託業者が旧式機を飛ばせば「現在以下の水準になるのは明らか」とも述べいる。
  22. だが現時点では予算もパイロットも十分でなく実施案のめどもつかない。少なくともここ数年は空軍内部で実施していた中核業務は受託業者にまかせるしかない。「内部実施に戻すまで数年かかるだろう」とホームズも認めている。■
* Sharon Weinberger contributed reporting to this article.
Read the original article on Foreign Policy. "Real World. Real Time." Follow Foreign Policy on Facebook. Subscribe to Foreign Policy here. Copyright 2017. Follow Foreign Policy on Twitter.

コメント

このブログの人気の投稿

漁船で大挙押し寄せる中国海上民兵は第三の海上武力組織で要注意

目的のため手段を択ばない中国の思考がここにもあらわれていますが、非常に厄介な存在になります。下手に武力行使をすれば民間人への攻撃と騒ぐでしょう。放置すれば乱暴狼藉の限りを尽くすので、手に負えません。国際法の遵守と程遠い中国の姿勢がよく表れています。尖閣諸島への上陸など不測の事態に海上保安庁も準備は万端であるとよいですね。 Pentagon reveals covert Chinese fleet disguised as fishing boats  漁船に偽装する中国軍事組織の存在をペンタゴンが暴露   By Ryan Pickrell Daily Caller News Foundation Jun. 7, 3:30 PM http://www.wearethemighty.com/articles/pentagon-reveals-covert-chinese-fleet-disguised-as-fishing-boats ペンタゴンはこのたび発表した報告書で中国が海洋支配を目指し戦力を増強中であることに警鐘を鳴らしている。 中国海上民兵(CMM)は準軍事組織だが漁民に偽装して侵攻を行う組織として長年にわたり活動中だ。人民解放軍海軍が「灰色」、中国海警が「白」の船体で知られるがCMMは「青」船体として中国の三番目の海上兵力の位置づけだ。 CMMが「低密度海上紛争での実力行使」に関与していると国防総省報告書は指摘する。 ペンタゴン報告書では中国が漁船に偽装した部隊で南シナ海の「灰色領域」で騒乱を起こすと指摘。(US Navy photo) 「中国は法執行機関艦船や海上民兵を使った高圧的な戦術をたびたび行使しており、自国の権益のため武力衝突に発展する前にとどめるという計算づくの方法を海上展開している」と同報告書は説明。例としてヘイグの国際仲裁法廷が中国の南シナ海領有主張を昨年7月に退けたが、北京はCMMを中国が支配を望む地帯に派遣している。 「中国は国家管理で漁船団を整備し海上民兵に南シナ海で使わせるつもりだ」(報告書) 中国はCMMはあくまでも民間漁船団と主張する。「誤解のないように、国家により組織し、整備し、管理する部隊であり軍事指揮命令系統の下で活動している」とアンドリュー・エリク...

海自の次期イージス艦ASEVはここがちがう。中国の055型大型駆逐艦とともに巡洋艦の域に近づく。イージス・アショア導入を阻止した住民の意思がこの新型艦になった。

  Japanese Ministry of Defense 日本が巡洋艦に近いミサイル防衛任務に特化したマルチロール艦を建造する  弾 道ミサイル防衛(BMD)艦2隻を新たに建造する日本の防衛装備整備計画が新たな展開を見せ、関係者はマルチロール指向の巡洋艦に近い設計に焦点を当てている。実現すれば、は第二次世界大戦後で最大の日本の水上戦闘艦となる。 この種の艦船が大型になる傾向は分かっていたが、日本は柔軟性のない、専用BMD艦をこれまで建造しており、今回は船体形状から、揚陸強襲艦とも共通点が多いように見える。 この開示は、本日発表された2024年度最新防衛予算概算要求に含まれている。これはまた、日本の過去最大の529億ドルであり、ライバル、特に中国と歩調を合わせる緊急性を反映している。 防衛予算要求で優先される支出は、イージスシステム搭載艦 ( Aegis system equipped vessel, ASEV) 2隻で、それぞれ26億ドルかかると予想されている。 コンピューター画像では、「まや」級(日本の最新型イージス護衛艦)と全体構成が似ているものの、新型艦はかなり大きくなる。また、レーダーは艦橋上部に格納され、喫水線よりはるか上空に設置されるため、水平線を長く見渡せるようになる。日本は、「まや」、「あたご」、「こんごう」各級のレーダーアレイをできるだけ高い位置に取り付けることを優先してきた。しかし、今回はさらに前進させる大きな特徴となる。 防衛省によると、新型ASEVは全長約620フィート、ビーム82フィート、標準排水量12,000トンになる。これに対し、「まや」クラスの設計は、全長557フィート強、ビーム約73フィート、標準排水量約8,200トンだ。一方、米海軍のタイコンデロガ級巡洋艦は、全長567フィート、ビーム55フィート、標準排水量約9,600トン。 サイズは、タイコンデロガ級が新しいASEV設計に近いが、それでもかなり小さい。Naval News報道によると、新型艦は米海軍アーレイ・バーク級フライトIII駆逐艦の1.7倍の大きさになると指摘している。 武装に関して言えば、新型ASEVは以前の検討よりはるかに幅広い能力を持つように計画されている。 同艦の兵器システムの中心は、さまざまな脅威に対する防空・弾道ミサイル防衛用のSM-3ブロックII...

次期高性能駆逐艦13DDXの概要が明らかになった 今年度に設計開始し、2030年代初頭の就役をめざす

最新の海上安全保障情報が海外メディアを通じて日本国内に入ってくることにイライラしています。今回は新型艦13DDXについての海外会議でのプレゼン内容をNaval Newsが伝えてくれましたが、防衛省防衛装備庁は定期的にブリーフィングを報道機関に開催すべきではないでしょうか。もっとも記事となるかは各社の判断なのですが、普段から防衛問題へのインテリジェンスを上げていく行為が必要でしょう。あわせてこれまでの習慣を捨てて、Destroyerは駆逐艦と呼ぶようにしていったらどうでしょうか。(本ブログでは護衛艦などという間際らしい用語は使っていません) Early rendering of the 13DDX destroyer for the JMSDF. ATLA image. 新型防空駆逐艦13DDXの構想 日本は、2024年度に新型のハイエンド防空駆逐艦13DDXの設計作業を開始する 日 本の防衛省(MoD)高官が最近の会議で語った内容によれば、2030年代初頭に就役開始予定のこの新型艦は、就役中の駆逐艦やフリゲート艦の設計を活用し、変化する脅威に対し重層的な防空を提供するため、異なるコンセプトと能力を統合する予定である。  防衛装備庁(ATLA)の今吉真一海将(海軍システム部長)は、13DDX先進駆逐艦のコンセプトは、「あさひ」/25DD級駆逐艦と「もがみ」/30FFM級フリゲート艦の設計を参考にすると、5月下旬に英国で開催された海軍指導者会議(CNE24)で語った。  この2つの艦級は、それぞれ2018年と2022年に就役を始めている。  13DDX型は、海上自衛隊(JMSDF)が、今吉の言う「新しい戦争方法」を含む、戦略的環境の重大かつ地球規模の変化に対抗できるようにするために必要とされる。防衛省と海上自衛隊は、この戦略的環境を2つの作戦文脈で捉えている。  第一に、中国、北朝鮮、ロシアが、極超音速システムを含むミサイル技術、電子戦(EW)を含むA2/AD能力の強化など、広範な軍事能力を急速に開発している。第二に、ウクライナにおけるロシアの戦争は、弾道ミサイルや巡航ミサイルの大規模な使用、EWやサイバー戦に基づく非対称攻撃、情報空間を含むハイブリッド戦争作戦、無人システムの使用など、新たな作戦実態を露呈したと説明した。  新型駆逐艦は、敵の対接近・領域拒否(A2/A...