スキップしてメイン コンテンツに移動

歴史に残らなかった機体(11)コンベアB-58ハスラー


歴史に残らなかった機体(11)はコンベアB-58ハスラーです。外観と高性能と裏腹に使えない機体になってしまったのですね。システム構築が誤ったというより時代の変化についていけなかったので全員の熱意が無駄になった例です。進化の木の変な枝に入り込んだような機体ですね。そういえば同社の前作B-36も結局使えない装備になってしまいましたね。

The B-58 Hustler Was a Beautiful Mistake

B-58は美しい失敗作だった

Blazing-fast nuclear bomber had many problems

高速核爆撃機には多くの問題があった

The B-58 Hustler Was a Beautiful Mistake
November 16, 2017 Robert Beckhusen


1956年11月11日、B-58ハスラーが初飛行した。高速飛行で核攻撃を目的に作られた独特の美しさを備えた爆撃機だがソ連の戦術変更や技術開発がハスラーの運命も変わった。B-47ストラトジェットの後継機の想定だったが実戦には投入されなかった。
  1. コンベア製デルタ翼のハスラーはマッハ2.0超音速飛行が可能でB-52ストラトフォートレスやB-47より大幅に高速で上昇限度も63,400フィートと他機より高高度だった。
  2. ハスラーは爆撃機としては小ぶりでB-52より全長で64フィート、翼幅で128フィートも小さい。
  3. ハスラーではスピードがすべてで、空軍は9メガトンB53核爆弾一発あるいはB43あるいはB61核爆弾4発を搭載させソ連や中国に飛び込ませ迎撃態勢が届かない高速と高高度を活用するつもりだった。
  4. 1964年にCIAは同機を迎撃可能な中国機はMiG-21フィッシュベッドのみで、迎撃成功の確率は「わずか」と評価した。
B-58A Hustler in 1968. U.S. Air Force photo

  1. それを可能にしたのは四基のJ79-GE-5Aターボジェットで各10,400ポンドの推力を発揮した。デルタ翼で抗力が生まれたため機体形状は再設計で「コークボトル」形にした。大型爆弾ポッドと燃料ポッドは機体下に取り付けた。
  2. 耐熱対策でコンベアはB-58の表皮をはにかむハニカム構造ファイバーグラスをアルミ、鋼板の上にリベットではなく接着剤で貼り付けた。この工法はその後の民間航空機に応用された。
  3. ただしハスラーの小型外寸がソ連領空への侵入機として決定的な欠陥を生んだ。空中給油なしでは行動半径が1,740マイルしかなかった。このためハスラーはヨーロッパに配置するか、相当数の給油機を配置する必要があった。
  4. 短距離性能が空軍内部でも深刻に受け止められていたことが2012年刊行のRearming for the Cold War, 1945-1960 でわかる。著者は米空軍退役大佐エリオット・V・コンヴァースIIIである。
  5. 戦略航空軍団司令カーティス・ルメイ中将は同機を忌み嫌い、SACから排除したがっていた。「1955年に作戦担当のジョン・P・マッコネル少将はカナダならまだしもソ連が敵なら距離が肝心だと皮肉を込め発言していた」とコンヴァースが記している。
B-58 Hustler. U.S. Air Force photo

  1. 構造が複雑なことが事態を悪くしたし、運用費用はB-52の三倍で開発も手間取った。機体を「コークボトル」形状に変更したため開発が遅れ費用が増大した。
  2. 調達機数も変更され、116機と当初の三分の一に削減された。高速性能のため航法、爆撃照準装備もスぺリー AN/ASQ-42を新たに導入したがこれが開発の足を引っ張った。
  3. J79エンジンもトラブルが続き、ブレーキ、射出座席も同様で後者は射出可能ポッドに変えられた。「スピード記録こそ樹立したがB-58は支出の価値があるのか疑問だった」(コンヴァース)
  4. ハスラーの運命を決めたのは二つの要素だった。まずソ連が地対空ミサイル性能を向上し1960年5月に高高度飛行中のU-2スパイ機を撃墜した。使われたS-75(NATO名SA-2ガイドライン)はB-58の上昇限度を数千フィート上回る性能があった。
  5. 解決策として低空飛行があったが空気密度が高いため高速飛行ができない。またハスラーは高速飛行を想定したので低速では機体制御が難しい。これで機体の2割を喪失した。
  6. 次に空軍が開発を同時並行で求めたことがある。
  7. 「中心にシステムは最初から統合された形で企画すべしとの考えがあり、これに基づいて各要素がシステム、サブシステムとして成り立ち、その他支援装備、訓練内容まで同時に準備するものとされた」(コンヴァース)
  8. だがいざ着手すると問題が洪水のように全体事業に影響した。「技術問題が出現するたびに事業全体の見直しが必要となるか問題解決まで待たされた。このため開発が遅れ、せっかく準備した生産体制を廃棄する事態も発生し、費用が上昇し、展開が先延ばしされた」
  9. どこかで聞いたような話に聞こえるのはF-35のためだ。空軍は同時並行方式で費用を抑えられるとステルス戦闘機事業で公約していたが事実はその真逆だ。
  10. B-58は一回も実戦投入されず、非核任務も想定外だった。1970年1月に全機が退役し、空軍の核攻撃ミッションはB-52、B-1、F-111、ステルスB-2、弾道ミサイルに引き継がれた。なお、ミサイルは同時並列開発の成功例である。
  11. B-58の失敗例は画期的な新型機開発で同時並列手法を誤る危険性を包み隠していたのだ。■

コメント

このブログの人気の投稿

漁船で大挙押し寄せる中国海上民兵は第三の海上武力組織で要注意

目的のため手段を択ばない中国の思考がここにもあらわれていますが、非常に厄介な存在になります。下手に武力行使をすれば民間人への攻撃と騒ぐでしょう。放置すれば乱暴狼藉の限りを尽くすので、手に負えません。国際法の遵守と程遠い中国の姿勢がよく表れています。尖閣諸島への上陸など不測の事態に海上保安庁も準備は万端であるとよいですね。 Pentagon reveals covert Chinese fleet disguised as fishing boats  漁船に偽装する中国軍事組織の存在をペンタゴンが暴露   By Ryan Pickrell Daily Caller News Foundation Jun. 7, 3:30 PM http://www.wearethemighty.com/articles/pentagon-reveals-covert-chinese-fleet-disguised-as-fishing-boats ペンタゴンはこのたび発表した報告書で中国が海洋支配を目指し戦力を増強中であることに警鐘を鳴らしている。 中国海上民兵(CMM)は準軍事組織だが漁民に偽装して侵攻を行う組織として長年にわたり活動中だ。人民解放軍海軍が「灰色」、中国海警が「白」の船体で知られるがCMMは「青」船体として中国の三番目の海上兵力の位置づけだ。 CMMが「低密度海上紛争での実力行使」に関与していると国防総省報告書は指摘する。 ペンタゴン報告書では中国が漁船に偽装した部隊で南シナ海の「灰色領域」で騒乱を起こすと指摘。(US Navy photo) 「中国は法執行機関艦船や海上民兵を使った高圧的な戦術をたびたび行使しており、自国の権益のため武力衝突に発展する前にとどめるという計算づくの方法を海上展開している」と同報告書は説明。例としてヘイグの国際仲裁法廷が中国の南シナ海領有主張を昨年7月に退けたが、北京はCMMを中国が支配を望む地帯に派遣している。 「中国は国家管理で漁船団を整備し海上民兵に南シナ海で使わせるつもりだ」(報告書) 中国はCMMはあくまでも民間漁船団と主張する。「誤解のないように、国家により組織し、整備し、管理する部隊であり軍事指揮命令系統の下で活動している」とアンドリュー・エリク...

海自の次期イージス艦ASEVはここがちがう。中国の055型大型駆逐艦とともに巡洋艦の域に近づく。イージス・アショア導入を阻止した住民の意思がこの新型艦になった。

  Japanese Ministry of Defense 日本が巡洋艦に近いミサイル防衛任務に特化したマルチロール艦を建造する  弾 道ミサイル防衛(BMD)艦2隻を新たに建造する日本の防衛装備整備計画が新たな展開を見せ、関係者はマルチロール指向の巡洋艦に近い設計に焦点を当てている。実現すれば、は第二次世界大戦後で最大の日本の水上戦闘艦となる。 この種の艦船が大型になる傾向は分かっていたが、日本は柔軟性のない、専用BMD艦をこれまで建造しており、今回は船体形状から、揚陸強襲艦とも共通点が多いように見える。 この開示は、本日発表された2024年度最新防衛予算概算要求に含まれている。これはまた、日本の過去最大の529億ドルであり、ライバル、特に中国と歩調を合わせる緊急性を反映している。 防衛予算要求で優先される支出は、イージスシステム搭載艦 ( Aegis system equipped vessel, ASEV) 2隻で、それぞれ26億ドルかかると予想されている。 コンピューター画像では、「まや」級(日本の最新型イージス護衛艦)と全体構成が似ているものの、新型艦はかなり大きくなる。また、レーダーは艦橋上部に格納され、喫水線よりはるか上空に設置されるため、水平線を長く見渡せるようになる。日本は、「まや」、「あたご」、「こんごう」各級のレーダーアレイをできるだけ高い位置に取り付けることを優先してきた。しかし、今回はさらに前進させる大きな特徴となる。 防衛省によると、新型ASEVは全長約620フィート、ビーム82フィート、標準排水量12,000トンになる。これに対し、「まや」クラスの設計は、全長557フィート強、ビーム約73フィート、標準排水量約8,200トンだ。一方、米海軍のタイコンデロガ級巡洋艦は、全長567フィート、ビーム55フィート、標準排水量約9,600トン。 サイズは、タイコンデロガ級が新しいASEV設計に近いが、それでもかなり小さい。Naval News報道によると、新型艦は米海軍アーレイ・バーク級フライトIII駆逐艦の1.7倍の大きさになると指摘している。 武装に関して言えば、新型ASEVは以前の検討よりはるかに幅広い能力を持つように計画されている。 同艦の兵器システムの中心は、さまざまな脅威に対する防空・弾道ミサイル防衛用のSM-3ブロックII...

次期高性能駆逐艦13DDXの概要が明らかになった 今年度に設計開始し、2030年代初頭の就役をめざす

最新の海上安全保障情報が海外メディアを通じて日本国内に入ってくることにイライラしています。今回は新型艦13DDXについての海外会議でのプレゼン内容をNaval Newsが伝えてくれましたが、防衛省防衛装備庁は定期的にブリーフィングを報道機関に開催すべきではないでしょうか。もっとも記事となるかは各社の判断なのですが、普段から防衛問題へのインテリジェンスを上げていく行為が必要でしょう。あわせてこれまでの習慣を捨てて、Destroyerは駆逐艦と呼ぶようにしていったらどうでしょうか。(本ブログでは護衛艦などという間際らしい用語は使っていません) Early rendering of the 13DDX destroyer for the JMSDF. ATLA image. 新型防空駆逐艦13DDXの構想 日本は、2024年度に新型のハイエンド防空駆逐艦13DDXの設計作業を開始する 日 本の防衛省(MoD)高官が最近の会議で語った内容によれば、2030年代初頭に就役開始予定のこの新型艦は、就役中の駆逐艦やフリゲート艦の設計を活用し、変化する脅威に対し重層的な防空を提供するため、異なるコンセプトと能力を統合する予定である。  防衛装備庁(ATLA)の今吉真一海将(海軍システム部長)は、13DDX先進駆逐艦のコンセプトは、「あさひ」/25DD級駆逐艦と「もがみ」/30FFM級フリゲート艦の設計を参考にすると、5月下旬に英国で開催された海軍指導者会議(CNE24)で語った。  この2つの艦級は、それぞれ2018年と2022年に就役を始めている。  13DDX型は、海上自衛隊(JMSDF)が、今吉の言う「新しい戦争方法」を含む、戦略的環境の重大かつ地球規模の変化に対抗できるようにするために必要とされる。防衛省と海上自衛隊は、この戦略的環境を2つの作戦文脈で捉えている。  第一に、中国、北朝鮮、ロシアが、極超音速システムを含むミサイル技術、電子戦(EW)を含むA2/AD能力の強化など、広範な軍事能力を急速に開発している。第二に、ウクライナにおけるロシアの戦争は、弾道ミサイルや巡航ミサイルの大規模な使用、EWやサイバー戦に基づく非対称攻撃、情報空間を含むハイブリッド戦争作戦、無人システムの使用など、新たな作戦実態を露呈したと説明した。  新型駆逐艦は、敵の対接近・領域拒否(A2/A...