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中国の弱み 規模こそ巨大だが中国の空軍力にはまだ実力が不足しているのが現状だ。

 


 

ハイライト PLAAF ・PLANAFあわせた戦闘機材の三分の一が旧世代機で戦闘性能に制約がつく。一斉飽和攻撃しか活躍の余地がないといってよい。28%の機材が戦略爆撃機など性能は高いが第3世代設計の旧型機だ。

 

人民解放軍空軍PLAAF、人民解放軍海軍航空隊PLANAFと合計1.700機と相当な規模の戦闘機材を運用している。これを上回るのは3,400機供用する米国だけだ。中国は多様な機種を運用しており、一部は西側も把握できていない。

 

ただし、中国の軍用機は大部分がロシア、米国の設計をもとにしており、出自がわかれば性能の推定も困難ではない。

 

ソ連機のクローン

ソ連と共産中国は1950年代に最良の友好関係にあり、ソ連は戦車、ジェット戦闘機など大量の技術を移転してくれた。中国生産の初期機体にJ-6があり、これは超音速MiG-19のクローンだった。J-6は大量生産され、一部を除き今日でも供用が続いている。同機の派生型南昌Q-5は対地攻撃機で供用中で、精密誘導弾運用の改修を受けている。

 

ところが中ソ関係は1960年ごろから怪しくなった。それでも1962年にソ連は最新のMiG-21戦闘機を友好の証として贈与している。中国は甘い言葉にはつられず機材をリバースエンジニアリングで堅牢かつ重量を増やした成都J-7に変えた。文革の影響で生産開始が遅れたが、1978年から2013年にかけ数千機が生産され、現在も400機近くがPLAAF、PLANAFで供用中。

 

J-7は1950年代設計としては操縦性、速力がすぐれ、F-16並にマッハ2飛行も可能だが、燃料兵装の搭載量が少ない。J-7Gは2004年に登場し、イスラエル性ドップラーレーダー(探知距離37マイル)、改良型ミサイル、視界外対応能力、デジタル「グラスコックピット」を備える。

 

こうした機材では第4世代戦闘機へ対応は苦しいだろう。敵機には遠距離探知能力がある。仮説だが、一度に大量投入し敵を圧倒する攻撃形態を想定しているのだろう。

 

中国のB-52

もうひとつソ連時代のクローン機材が西安H-6双発戦略爆撃機で原型は1950年代初頭のTu-16バジャーだ。米B-52、ロシアTu-95ベアのような大型機と比べれば性能は劣るが、空中給油対応となったH-6Kは今も有効な機体で長距離大型巡航ミサイルを敵の防空圏外から発射できる。ただし、PLAAFはこの想定で同機への期待を捨てたようで、西安航空機では新形H-20戦略爆撃機の開発を進めていると言われる。だが同機の情報は皆無に等しい。

 

国産戦闘機の開発

中国は国産戦闘機開発を1960年代中に開始し、1979年に瀋陽J-8が生まれた。大型双発超音速迎撃機のJ-8は最高速度マッハ2.2を実現し、MiG-21とSu-15の中間の存在となった。ただし、エイビオニクスは旧型で操縦性も劣った。とはいえ、J-8IIではイスラエル製レーダーの導入でエイビオニクスを改良し、大量兵装を運用するところはF-4ファントムを思わせる。現在も150機が活躍している。

 

1992年に供用開始した西安JH-7飛豹は200機以上が第一線にあり、大型複座の海軍用戦闘爆撃機として20千ポンドのミサイル等を搭載し最大速度はマッハ1.75だ。ドッグファイトには不向きだが、対艦ミサイルを長距離発射すれば安全だ。

 

成都J-10猛竜は対照的に中国のF-16で、高度の操縦性能の軽量多任務戦闘機でフライ・バイ・ワイヤのエイビオニクスで空気力学上の不安定さを補正している。エンジンはロシア製AL-31Fターボファンに頼らざるを得ず、J-10B型が21世紀にふさわしいエイビオニクスとして赤外線探知追尾装備やアクティブ電子スキャンアレイ(AESA)レーダーを搭載し、後者はF-16でも一部にしか搭載されていない。250機ほど供用中のJ-10で死亡事故が数件発生しているのはフライ・バイ・ワイヤ関連で問題があるのか。

 

フランカーの導入

ソ連崩壊後のロシアはキャッシュほしさにイデオロギー対立は捨てて、当時最新鋭のスホイSu-27を求める中国の要望を受け入れた。Su-27は双発で高度の操縦性を誇り、F-15イーグルに匹敵する長距離運用とペイロードを実現した。これが運命的な決定になった。今日、Su-27原型の各機が中国の新鋭戦闘機部隊の中心となっている。

 

Su-27を輸入した中国は国内生産ライセンスを購入し、瀋陽J-11が生まれたが、ロシアにとって悲報は中国がより高性能のJ-11B型、D型を勝手に製造したことだった。

 

ロシアは怒りつつ、さらに76機の新型対地攻撃仕様のSu-30MKK、海軍仕様のSu-30MK2を売却した。問題は中国がSu-30からも独自の派生型を瀋陽J-16紅鷲としてAESAレーダー搭載、空母運用用の瀋陽J-15飛鮫を製造したことだ。後者はウクライナから調達したSu-33が原型で約20機を001型空母遼寧で運用中。さらにJ-16Dはジャミングポッドを搭載した電子戦用機材で米海軍のEA-18グラウラーに匹敵する。

 

中国のスホイ派生型各機は理論上は第4世代機のF-15やF-16に対抗可能のはずだが国産WS-10ターボファンエンジンが整備性の悪さ、推力の性能不足で足を引っ張っている。ジェットエンジン技術が中国軍用機で大きな制約条件となっている。2016年に高性能版フランカーSu-35の24機を購入したのは、AL-41Fターボファンエンジン取得が目的だったのだろう。

 

ステルス戦闘機

驚くべき短期間で中国はステルス戦闘機2型式を開発した。成都J-20は20機がPLAAFで2017年から供用されている。J-20はF-22、F-35のいずれとも異なり大型双発の機体でスピードと航続距離、大量兵装を運用する狙いで操縦性は二の次にしている。

 

J-20は対地対艦の奇襲攻撃に最適だろう。ただし、機体後部のレーダー断面積の大きさが問題になりそうだ。あるいは敵陣営に忍び込み、脆弱な支援機材の給油機やAWACSレーダー機を狩るねらいがあるのか。任務特定型のステルス戦闘機として高度な作戦内容の実行を始めたばかりの中国には意味のある機体になりそうだ。

 

他方で、小型の瀋陽J-31シロハヤブサ(別名FC-31)はF-35ライトニングを双発にしたような機体だ。ロッキード社のコンピュータに侵入して得たデータを流用している可能性が高い。中国は垂直離着陸用の構造など空気力学を洗練させているが、ライトニング並みの高性能センサーやデータ融合機能は搭載していないはずだ。

 

J-31は今後登場する002型空母に搭載をするようだ。また輸出用にはF-35より相当低価格に設定されるだろう。ただし、同機もロシア製エンジンを搭載しており、中国製WS-13エンジンが信頼性十分になるまで本格生産はお預けのようだ。

 

展望

PLAAF・PLANAFの戦闘機材のほぼ三分の一が第2世代戦闘機や戦闘能力に限定がつく機材で、一斉攻撃に投入するしか使いみちがないはずだ。28%が戦略爆撃機など一定の性能はあるものの第3世代機だ。第4世代機は38%でF-15やF-16に対決可能な機材で、ステルス戦闘機は1%相当だ。

 

だが、機体の性能だけがすべてではない。同様に重要性を持ってくるのが訓練であり、組織の運用思想であり、支援体制だ。

 

中国にも情報収集機材があり、空母攻撃用のミサイルや機材があるのは事実だ。だが、各機材を一体運用しキルチェーンを構成するのは簡単ではない。2016年のRAND研究所レポートでは中国の訓練方法には現実的な状況設定が欠如し、地上海上部隊と一体化した運用経験は未確立とある。

 

いずれにせよ、中国に旧型機の更新を急ぐ様子はない。国内航空産業が実力をつけるまで大規模な新型機調達事業は待つという考えなのだろう。■

 

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Size Isn’t Everything: Why China’s Huge Air Force Is Not That Scary


March 10, 2021  Topic: China Air Force  Region: Asia  Blog Brand: The Reboot  Tags: ChinaMilitaryTechnologyWorldAir ForceJ-20J-10

Size Isn’t Everything: Why China’s Huge Air Force Is Not That Scary

by Sebastien Roblin

 

Sébastien Roblin holds a Master’s Degree in Conflict Resolution from Georgetown University and served as a university instructor for the Peace Corps in China. He has also worked in education, editing, and refugee resettlement in France and the United States. He currently writes on security and military history for War Is Boring. (This first appeared several years ago.)

 


コメント

  1. ぼたんのちから2021年3月17日 14:16

    確かに今のPLAAFは記事の通り実力が不足している。
    最近の米国国防総省は、現在のPLAAF戦闘機数が1250機であり、2025年までに1950機まで増強されると見込んでいる。僅か数年で1.5倍になる。PLAAFは質的劣勢を数的優位で補おうとしているかに見える。しかも増強される戦闘機は、第5世代機やSu-27系の有力な機体になるだろう。
    これに対抗する日米の戦闘機数は合わせて600機弱と想定されているから、単純に考えると益々不利になるのは明らかだ。
    海洋についても同じ状況であり、PLANの著しい建艦ペースは継続すると考えれば、2025年には圧倒的とも言える艦艇数の差が生まれてしまうだろう。
    中国は、この圧倒的数量の装備を第2列島線に押し出し、空海域を支配し、台湾や尖閣を占領する機会を窺う戦略のように思える。
    習は、毛を越える絶対的権力を手にしようとしている。そのためには国内の実績だけでは足らず、台湾・尖閣占領や南シナ海完全支配のような領土拡張や、一体一路政策による朝貢国の増加、シベリア、中央アジア等のハートランドの獲得等、目に見える成果を欲しがっている。これらを達成するには巨大な軍事力の構築と戦争の勝利が不可欠であると考えているのだろう。これはとても危険な国家目標である。
    さらにPLAの台湾侵攻のケースでは、同時に中国と表裏一体の北朝鮮による韓国侵攻も起きる可能性がある。これは台湾方面に米軍主力がPLAに対抗することになり、韓国にまで手が回らない状態になることによる。あるいは韓国を援助すれば台湾方面の米軍が殺がれることを目的とする。
    弱体化し、足が地に着いていない状況の韓国軍と縮小した在韓米軍だけでは北朝鮮軍の捨て身の攻撃を防げないかもしれず、また、韓国内に内応するものも多く、韓国は崩壊する可能性がある。

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