スキップしてメイン コンテンツに移動

スエズ運河巨大船事故で露呈。海上交通閉塞戦術が今日でも有効な点について、安全保障上の関心が必要だ。

 

 

大コンテナ船がスエズ運河を閉塞した今回の事件から海上交通の脆弱性があらためて示された。問題のエヴァー・ギヴィングは誤って通航をストップさせたようだが、軍事部門は今回のような通航封鎖が意図的に行われた場合を想定すべきだ。

 

「閉塞船」戦術には長い歴史がある。英軍は両大戦でこれを使い、南北戦争で北軍も採用した。歴史上では1,000年前の記録がある。古代の話だと笑っていられない。21世紀でも実施例がある。ロシアがウクライナ海軍をクリミアで2014年封鎖した事例だ。老朽船二隻を沈め港湾入り口をふさいだため、ウクライナ艦艇は外海に出られず、陸上から捕獲された。

 

世界各地の港湾で船舶は限られた水路を航行している。水路の幅は大型コンテナ船より狭い。攻撃勢力が船員を買収し意図的に沈没させる、座礁させる、狭い地点に衝突させればどうなるか。閉塞船を除去するのに数日、数週間要すれば、敵対側は軍事的に有利となり、優位性をそのまま維持できよう。動きの取れなくなった艦艇、潜水艦はミサイル攻撃の格好の標的となる。

 

こうした事態を回避するには船舶を交通難所に近づけなければよいが、巨大な民間船舶が通行量の多い水路を航行しており、時には軍港近くを常時移動しているのが現状だ。悪意ある動きの排除は困難だ。巨大船は停止するのも容易でない。今回スエズ運河をふさいだ船は20万トンだった。エンパイアステートビル並みの全長があり、フットボール競技場15個分の面積がある。このような一隻が狭い水路で固定施設に衝突する、別の船に衝突する、座礁する、あるいは爆発物を作動して自沈したら....

 

悪意ある行為でこの戦術を使えば、解除は困難になる。時限爆弾や仕掛け爆弾が船内いたるところにあればどうなるか。ひとつ爆発すれば別の爆弾探知に時間がかかり、解除作業は大幅に遅れる。貨物艙に電子妨害装置を隠せば、サルベージ作業の交信に障害が生まれる。船舶の制御系にマルウェアがあれば、各システムが障害を受ける。そこにミサイル攻撃があれば、問題船の除去はさらに遅れ、艦艇は軍港から出られないままとなる。

 

閉塞船戦術の効果をさらに高める新技術がある。2013年のRANDレポートは無人船舶による攻撃の可能性を指摘している。高い技術は不要だ。老朽船を使えばよい。自律運航技術が向上しており、海軍研究本部のロボット装備制御センシング制御アーキテクチャCARACaSは低コストで無人船舶を実現できる。船舶からセンサー情報や映像を衛星経由で送れば遠隔操作が可能となる。ただし、この場合は通信妨害で機能を阻害できるが、無人自律船舶は妨害手段に比較的強い。

 

この手段は米軍立案部門に費用対効果が高い選択肢となる。安価な老朽船舶で高額な潜水艦、水上艦の動きを止められる。すでに海軍は敵軍港近くを通行する民生海上運航の現状を観察しており、老朽船を実際に購入し CARACaSを装着して通航の難所近くに移動させる案を検討している。出動可能な敵潜水艦や水上艦の数を減らせば、米海軍の対応も容易になる。さらに開戦前なら、事故を装って犯行の意図を隠せる。

 

反対に米国は敵対勢力が閉塞船で米海軍艦艇、同盟国艦艇の動きを封じる戦術に警戒する必要がある。これは海軍だけの問題ではない。各軍の作戦は海上輸送に依存している。米陸軍が海軍以上の輸送船舶を保有しているのはその証左である。米軍は各地の港湾、水路を民生船舶と共有している。閉塞船攻撃を防ぐため、各軍は沿岸警備隊あわせ民間部門との連携を強め、障害物の早期除去能力を実現すべきだ。同様に海外でも連携を深めるべきだ。

 

今回の事件で巨大船一隻で運河通航を不能にし、貿易全般に大きな負担を発生できることが実感された。ロシアがクリミアで示したように老朽艦一隻で大きな効果が生まれる。海上交通のもろさに無人船舶の利用、電子戦術、サイバー攻撃が加われば、同様の戦術を採用する動きにつながり、効果はさらに拡大しかねない。■

 

この記事は以下を再構成し人力翻訳でお送りしています。市況価格より2-3割安い翻訳をご入用の方はaviationbusiness2021@gmail.comへご連絡ください

 

 

The Suez Grounding Was an Accident. The Next Blocked Chokepoint Might Not Be

GETTY IMAGES

Military planners must bear in mind the tactic of blockships.

BY SCOTT SAVITZ

SENIOR ENGINEER, RAND

MARCH 30, 2021 12:51 PM ET

 

Scott Savitz is a senior engineer at the nonprofit, nonpartisan RAND Corporation.


コメント

このブログの人気の投稿

漁船で大挙押し寄せる中国海上民兵は第三の海上武力組織で要注意

目的のため手段を択ばない中国の思考がここにもあらわれていますが、非常に厄介な存在になります。下手に武力行使をすれば民間人への攻撃と騒ぐでしょう。放置すれば乱暴狼藉の限りを尽くすので、手に負えません。国際法の遵守と程遠い中国の姿勢がよく表れています。尖閣諸島への上陸など不測の事態に海上保安庁も準備は万端であるとよいですね。 Pentagon reveals covert Chinese fleet disguised as fishing boats  漁船に偽装する中国軍事組織の存在をペンタゴンが暴露   By Ryan Pickrell Daily Caller News Foundation Jun. 7, 3:30 PM http://www.wearethemighty.com/articles/pentagon-reveals-covert-chinese-fleet-disguised-as-fishing-boats ペンタゴンはこのたび発表した報告書で中国が海洋支配を目指し戦力を増強中であることに警鐘を鳴らしている。 中国海上民兵(CMM)は準軍事組織だが漁民に偽装して侵攻を行う組織として長年にわたり活動中だ。人民解放軍海軍が「灰色」、中国海警が「白」の船体で知られるがCMMは「青」船体として中国の三番目の海上兵力の位置づけだ。 CMMが「低密度海上紛争での実力行使」に関与していると国防総省報告書は指摘する。 ペンタゴン報告書では中国が漁船に偽装した部隊で南シナ海の「灰色領域」で騒乱を起こすと指摘。(US Navy photo) 「中国は法執行機関艦船や海上民兵を使った高圧的な戦術をたびたび行使しており、自国の権益のため武力衝突に発展する前にとどめるという計算づくの方法を海上展開している」と同報告書は説明。例としてヘイグの国際仲裁法廷が中国の南シナ海領有主張を昨年7月に退けたが、北京はCMMを中国が支配を望む地帯に派遣している。 「中国は国家管理で漁船団を整備し海上民兵に南シナ海で使わせるつもりだ」(報告書) 中国はCMMはあくまでも民間漁船団と主張する。「誤解のないように、国家により組織し、整備し、管理する部隊であり軍事指揮命令系統の下で活動している」とアンドリュー・エリク...

海自の次期イージス艦ASEVはここがちがう。中国の055型大型駆逐艦とともに巡洋艦の域に近づく。イージス・アショア導入を阻止した住民の意思がこの新型艦になった。

  Japanese Ministry of Defense 日本が巡洋艦に近いミサイル防衛任務に特化したマルチロール艦を建造する  弾 道ミサイル防衛(BMD)艦2隻を新たに建造する日本の防衛装備整備計画が新たな展開を見せ、関係者はマルチロール指向の巡洋艦に近い設計に焦点を当てている。実現すれば、は第二次世界大戦後で最大の日本の水上戦闘艦となる。 この種の艦船が大型になる傾向は分かっていたが、日本は柔軟性のない、専用BMD艦をこれまで建造しており、今回は船体形状から、揚陸強襲艦とも共通点が多いように見える。 この開示は、本日発表された2024年度最新防衛予算概算要求に含まれている。これはまた、日本の過去最大の529億ドルであり、ライバル、特に中国と歩調を合わせる緊急性を反映している。 防衛予算要求で優先される支出は、イージスシステム搭載艦 ( Aegis system equipped vessel, ASEV) 2隻で、それぞれ26億ドルかかると予想されている。 コンピューター画像では、「まや」級(日本の最新型イージス護衛艦)と全体構成が似ているものの、新型艦はかなり大きくなる。また、レーダーは艦橋上部に格納され、喫水線よりはるか上空に設置されるため、水平線を長く見渡せるようになる。日本は、「まや」、「あたご」、「こんごう」各級のレーダーアレイをできるだけ高い位置に取り付けることを優先してきた。しかし、今回はさらに前進させる大きな特徴となる。 防衛省によると、新型ASEVは全長約620フィート、ビーム82フィート、標準排水量12,000トンになる。これに対し、「まや」クラスの設計は、全長557フィート強、ビーム約73フィート、標準排水量約8,200トンだ。一方、米海軍のタイコンデロガ級巡洋艦は、全長567フィート、ビーム55フィート、標準排水量約9,600トン。 サイズは、タイコンデロガ級が新しいASEV設計に近いが、それでもかなり小さい。Naval News報道によると、新型艦は米海軍アーレイ・バーク級フライトIII駆逐艦の1.7倍の大きさになると指摘している。 武装に関して言えば、新型ASEVは以前の検討よりはるかに幅広い能力を持つように計画されている。 同艦の兵器システムの中心は、さまざまな脅威に対する防空・弾道ミサイル防衛用のSM-3ブロックII...

次期高性能駆逐艦13DDXの概要が明らかになった 今年度に設計開始し、2030年代初頭の就役をめざす

最新の海上安全保障情報が海外メディアを通じて日本国内に入ってくることにイライラしています。今回は新型艦13DDXについての海外会議でのプレゼン内容をNaval Newsが伝えてくれましたが、防衛省防衛装備庁は定期的にブリーフィングを報道機関に開催すべきではないでしょうか。もっとも記事となるかは各社の判断なのですが、普段から防衛問題へのインテリジェンスを上げていく行為が必要でしょう。あわせてこれまでの習慣を捨てて、Destroyerは駆逐艦と呼ぶようにしていったらどうでしょうか。(本ブログでは護衛艦などという間際らしい用語は使っていません) Early rendering of the 13DDX destroyer for the JMSDF. ATLA image. 新型防空駆逐艦13DDXの構想 日本は、2024年度に新型のハイエンド防空駆逐艦13DDXの設計作業を開始する 日 本の防衛省(MoD)高官が最近の会議で語った内容によれば、2030年代初頭に就役開始予定のこの新型艦は、就役中の駆逐艦やフリゲート艦の設計を活用し、変化する脅威に対し重層的な防空を提供するため、異なるコンセプトと能力を統合する予定である。  防衛装備庁(ATLA)の今吉真一海将(海軍システム部長)は、13DDX先進駆逐艦のコンセプトは、「あさひ」/25DD級駆逐艦と「もがみ」/30FFM級フリゲート艦の設計を参考にすると、5月下旬に英国で開催された海軍指導者会議(CNE24)で語った。  この2つの艦級は、それぞれ2018年と2022年に就役を始めている。  13DDX型は、海上自衛隊(JMSDF)が、今吉の言う「新しい戦争方法」を含む、戦略的環境の重大かつ地球規模の変化に対抗できるようにするために必要とされる。防衛省と海上自衛隊は、この戦略的環境を2つの作戦文脈で捉えている。  第一に、中国、北朝鮮、ロシアが、極超音速システムを含むミサイル技術、電子戦(EW)を含むA2/AD能力の強化など、広範な軍事能力を急速に開発している。第二に、ウクライナにおけるロシアの戦争は、弾道ミサイルや巡航ミサイルの大規模な使用、EWやサイバー戦に基づく非対称攻撃、情報空間を含むハイブリッド戦争作戦、無人システムの使用など、新たな作戦実態を露呈したと説明した。  新型駆逐艦は、敵の対接近・領域拒否(A2/A...