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この兵器はなぜ期待通りに機能しなかったのか② 米巡洋戦艦アラスカ(CB−1)級

 期待はずれに終わった装備品 ②米海軍巡洋戦艦アラスカ級


 

海軍で最強の艦種となるはずの艦艇が役に立たなかったというのはなんとも皮肉である。

 

USSアラスカは姉妹艦USSグアムと第二次大戦中で最大規模の巡洋艦となり、実現しなかった脅威に対抗すべく建造された。高速力と強力な兵装を実現したが、航空戦力へ中心が移り、当初の想定から航空母艦の援護に投入された。

 

巡洋艦の概念は19世紀に生まれ、蒸気機関、砲弾その他海軍技術の革新が進む中で海軍力再定義の重要な要素とされた。巡洋艦の長所は高速、重兵装だが比較的薄い装甲艦として駆逐艦を撃破し、民間商船を防御史、偵察任務を遂行することだった。巡洋艦は「経済的な戦力実現」の選択肢となり、各国が重宝し、戦艦では過大な場面に投入された。

 

米海軍は巡洋艦を重視し、第二次大戦開始前に重巡洋艦18隻を建造していた。各艦は大戦初期に活躍し、とくガダルカナル戦では航空母艦整備が進み、航空戦力を十分活用できるまで戦闘の中心だった。

 

1930年代に米海軍は日本帝国海軍が大型水上艦艇を整備し、海上交通路の遮断を狙うと疑っていた。帝国海軍はドイツのシャルンホルスト級をお手本に高速重巡洋艦を建造中と見られていた。重武装艦が輸送部隊を襲撃すれば、連合軍の海上輸送に大きな脅威になると危惧された。

 

米海軍は対抗策として攻撃力を充実した大型巡洋艦CBの小規模建造で、日本海軍の通商破壊艦艇を撃破することとした。艦名は当時の米領土からとり、1号艦アラスカにつづき、グアム、ハワイ、フィリピン、プエルトリコ、サモアを建造し、通商破壊艦を殲滅する構想だった。高速、重装備で長距離移動可能なこの艦種は巡洋戦艦と呼ばれ、最小限の支援で敵を撃破する期待が寄せられた。

 

巡洋戦艦の全長808フィートはエセックス級空母より60フィート短く、満載排水量は34,253トンとエセックス級空母より大きい。各艦はバブコックアンドウィルコックスのボイラー8基を搭載し、ジェネラルエレクトリックのタービン4基を駆動した。航続距離は15ノット航行で12千カイリだった。最大速力は33ノットを誇った。

 

アラスカ及び姉妹艦は当時として相当の火力を有し、砲塔3基に各3門の12インチ主砲を搭載した。二次兵装として5インチ砲塔3基があり、小型水上艦、航空機に対応した。米航空力の勢力外でも単独行動可能とする構想で、このため対空火力は強力だった。40ミリ砲56門、20ミリ砲34門が搭載された。航空機カタパルト二基で4機搭載したヴォウトOS2U水上機を偵察任務に投入した。

 

アラスカ級で注目されたのは装甲だった。CBs は装甲を犠牲に速力を確保し、通商破壊艦を追尾しつつ敵火力を回避する想定だった。装甲は側面で5-9インチ、砲塔は12.8インチ、上部構造で4インチ、艦橋は10.6インチとなった。

 

初号艦は真珠湾攻撃の10日後に起工され、1943年8月15日にアラスカ (CB-1) として進水したが、その時点で日本には通商破壊手段がないことがあきらかになっていた。また、ドイツ戦艦ビスマルクが英巡洋戦艦フッドを撃沈し、各国海軍に衝撃が走っていた。別の英巡洋戦艦HMSレパルスが日本の航空戦力で沈められていた。軽装甲の大型水上戦闘艦のアラスカ級に不利な状況になった。米海軍は1943年に同級の未完成三隻フィリピン、プエルトリコ、サモアの建造を取りやめた。

 

想定した任務が取り消されたアラスカ、グアムの二隻は太平洋で高速空母任務部隊の援護に投入された。強力な対空装備が日本軍機の撃破で効果を示した。両艦は1947年に予備艦になり、1961年にスクラップ処分された。三号艦ハワイは終戦時で82%の完成度だった。一時は誘導ミサイル艦あるいは指揮統制艦に転用する案もあったが、結局スクラップになった。

 

当初の期待と裏腹にアラスカ級は過酷な運命に直面した。建造開始前から旧式化していたが、6隻建造の決断は裏付けのない憶測を根拠とし、過誤だったのは明らかだ。航空戦力が主役になると、巡洋艦は空母戦力の護衛役に変更され、存在が陳腐化した。にもかかわらず、アラスカ級巡洋戦艦は優秀な艦種であり、当初の想定なら十分な効果を発揮しただろう。日本海軍の通商破壊艦艇の憶測が事実でなかったのが悔やまれる。■

 

 

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The Sad Tale of That One U.S. Battlecruiser That Did Nothing


March 11, 2021  Topic: Security  Region: Asia  Blog Brand: The Reboot  Tags: MilitaryTechnologyWeaponsWarNavy

The Sad Tale of That One U.S. Battlecruiser That Did Nothing

by Kyle Mizokami

 

Kyle Mizokami is a defense and national-security writer based in San Francisco who has appeared in the Diplomat, Foreign Policy, War is Boring and the Daily Beast. In 2009 he cofounded the defense and security blog Japan Security Watch. You can follow him on Twitter: @KyleMizokami.

This first appeared in early August 2019 and is being republished due to reader interest.


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