北大西洋条約機構(NATO)のブラッセル本部では9/11記念碑が来訪者を迎える。条約第五条を執行し、米国との連帯を示した唯一の事例が9/11だ。NATO結成の1949年当時は史上で最も成功した同盟関係に育ち、民主体制と共通価値の防御で戦略的な柱になる姿を多くが期待していた。
NATOは単なる都合で生まれたわけではない。72年間にわたり関係を維持できた事実は簡単にまねができない。敵勢力たるロシア、中国、イラン、北朝鮮に同様のしくみは存在しない。ただし、この関係に最近になり亀裂が現れているのを大西洋両岸が見ている。国内生産の2パーセント相当を国防に支出するよう加盟各国に求める米国の動きは正しい。加盟各国が負担を共有する事が重要だ。一方で、米国がヨーロッパ駐留軍の司令部要員、アフガニスタン、イラクから撤兵を一方的に決定したことで同盟国、協力国に米国の責任体制への信頼が減じたのも事実だ。
NATOがここまで成功したカギは新状況へ適合しながら成長したことにある。NATOは独裁国家の台頭に対抗しつつ適合し進化してきたし、自由で民主的な体制を国栖奏する過激暴力集団にも対応してきた。だが、新しい形の脅威が姿をあらわしつつあり、ここで慎重に同盟への責務を検討しないと、NATOはサイバーや宇宙といったドメインで対応不能になるかもしれない。
NATO2030レポートは敵対勢力のロシア、中国、イラン、過激組織が攻撃の頻度、西側への影響工作、技術競争それぞれ強化していることに注意喚起している。例えばロシアはクリミアで通常兵力を増強し、情報工作や影響工作をジョージア、米国、西バルカンで展開し、民主社会を分断し、反NATO、反EUの世論を醸し出し、「われら対奴ら」の論調を広げている。中国はヨーロッパ、アフリカ双方でCOVIDパンデミックを利用し情報工作、影響工作を展開した。中国政府は同時にデジタル独裁体制を推し進め、軍事演習で隣国を脅かし、経済・技術両面のスパイ工作で自国の経済発展と軍拡を進めている。
次期大統領ジョー・バイデンは「NATOは米国の安全保障の核心部分であり、自由民主体制を支える骨格である」と述べており、大統領就任後に現時点の課題にこたえるためにもNATO強化に向かうだろう。
米国民一般にはまずNATO以上に強力で重要な同盟関係は他にないこと、また必要が生じれば各国が米国とともに対応することを覚えておいてもらいたい。新大統領には2021年ミュンヘン安全保障会議に参加し、NATOを力強く支えてもらいたい。同様に延期中の民主国家サミット、次回NATOサミットにも関与してもらいたい。
つぎにバイデン政権はNATOと連携しグローバル規模でのCOVID対応に尽力すべきだ。COVID-19のパンデミックは国家安全保障問題であり、NATOは軍事空輸活動を拡充し野戦病院を設営し、医療要員を共有し、感染予防装備を提供している。だが米国とさらに連携を強化し、ワクチン配布を進める必要がある。COVIDへ共同対応を強めることで生命を救える。COVIDは国家安全保障やNATO加盟各国の幸福に明白かつ実在する危険となっている。これは大西洋両岸で共通している。
チェコ共和国軍用機がCOVID関連の医療支援をマケドニア北部に2020年春に提供した。 (NATO photo)
三番目に、ダイバーシティと包括性を標榜する新政権はNATOの求める女性、平和、安全保障の動きに同調できるはずだ。ともに行動すれば同盟は共通課題を実現し、軍民両面で女性を統合し平等に扱える。
四番目にバイデン政権がNATOとともに強硬に対応すべき対象に情報工作、サイバー攻撃、技術競争、デジタル独裁の動き、選挙結果介入がある。こうした課題にNATO加盟各国が共通して守るべき基準を設定してはどうか。その一環として、バイデン政権はNATOとともに第五条のレッドラインを設定し、加盟国がサイバー空間あるいは国政選挙で妨害を受けた場合を想定してはどうか。技術面の競合に関してはペンタゴンの新幹部がNATOと緊密に作業して解決できる。人工知能や機械学習といった新技術には相互安全保障を拡充する大いなる可能性があり、民主体制も強化できる。とはいえ、中国やロシアはわがほうの競争相手としてこうした技術を悪用して偽情報を流布したり、国民統制の道具にしたり、サイバー空間で攻撃を敢行している。NATO戦略通信センターオブエクセレンスや協調型サイバー防衛センターオブエクセレンスを支え強化することで敵の情報工作やサイバー攻撃に対抗できる。最も重要なのは民主社会に強靭な弾力性をあたえることで、敵が外部から与える干渉や競合に耐えさせることだ。このためNATO2030報告書の提言を実行に移し、民主国家のセンターオブエクセレンスを発足させ、大西洋の両岸で目にする民主体制の後退をこれ以上進めないことだ。
最後に、新大統領には米軍プレゼンスをヨーロッパ、アフリカ双方で守ってもらいたい。情報収集監視偵察能力で情報共有を進め、米ミサイル防衛体制が同盟各国の安全でカギとなる。同様に米国はNATOと連携し、アフリカでのプレゼンスを維持すべきだ。これにより平和維持活動を進め、過激暴力集団による攻撃や国家ぐるみの偽情報や影響工作を無効にできる。その手段としてANTO戦略南方方面ハブイニシアチブStrategic Direction South Hub Initiativeを支えることがり、前向きかつ横断的なNATO取り組みの好例となる。このハブはイタリア・ナポリに本拠をおき、ヨーロッパ、アフリカ、中東をつなぐ調整、意思疎通、協力によりアフリカの安定と治安に脅威となる要素にとりくもうというものだ。
NATOは9/11後のアメリカに寄り添ってくれた。これはNATOが緊急事態に目的を果たし、かつ対応準備ができていたためだ。バイデン次期大統領はNATOを一新し、強靭にし、強化する必要がある。これこそアメリカ及び世界が求めるものであり、史上最長かつ最強の同盟関係は対応準備できることになる。■
この記事は以下を再構成し、人力翻訳でお送りしています。
Celebrating NATO’s 72nd Anniversary: Time for Members to Renew Their Vows
By Admiral James Foggo III, U.S. Navy (Retired), and Vera Zakem
January 2021 Proceedings Vol. 147/1/1,415
Admiral James Foggo III, U.S. Navy (Retired)
Admiral Foggo is the former Commander of the NATO Allied Joint Force Command, U.S. Naval Forces Europe / Africa, and the U.S. Sixth Fleet in Naples, Italy. He currently serves as a Distinguished Fellow of the Center for European Policy Analysis (CEPA).
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Vera Zakem
Ms. Zakem is a Senior Technology and Policy Advisor at the Institute for Security and Technology and founder of Zakem Global Strategies where she leads efforts on U.S.- European partnerships, emerging threats at the intersection of technology and democracy, including disinformation, AI, and cybersecurity. Follow her on Twitter @verleza.
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NATOの欧州軍は、米軍のテコ入れがなければ、ロシアやイラン、イスラム過激派などの脅威に対応できないのであろうか。
返信削除確かに、NATO欧州軍は、ロシアのクリミアやジョージア侵攻やシリア内戦への介入を抑止できず、イランの中東浸透やIRBM防御ももっぱら米国任せに近い。本ブログでドイツ軍の問題が時々記事になるが、ドイツのみならずNATO欧州軍は全体的に弱体化し、ロシアの脅威に不安を持つ東欧NATO諸国はより米軍に依存するようになっている始末だ。
だからと言って、欧州のNATO加盟国がさらに米国に依存するのは筋違いだろう。数字上、NATO欧州軍はロシアを圧倒している。資金をつぎ込み、実効性のある軍にすれば良いだけのはずだ。そしてそれを背景に、欧州周辺に影響力を行使すべきだろう。
さらに、NATOの欧州加盟国のうち、英独仏が今年、なぜ西太平洋に艦隊を送り込もうとしているのか、この記事の筆者には考えてもらいたいものだ。
この記事を真に受けると、米国の国家戦略の転換を評価せず、特に対中国競合主軸を変えることになるだろう。欧州を米国の国家戦略の正面ととらえる限り、中国に対する抑止力は大きく低下し、それはとりもなおさず、米国の世界覇権の放棄につながることになるだろう。