大気非依存推進方式(AIP)潜水艦(SSPs)が急速に普及してきた。この技術で通常型潜水艦も外部空気を取り入れず運用可能となり、原子力潜水艦 (SSNs) の独壇場だった水中戦の様相が一変する可能性があらわれ、小型通常型潜水艦が注目を集めている。小型で安価な装備品として敵の高価格艦を撃破できれば戦略上の意味が出てくる。では米国もSSPsに予算投入すべきだろうか。答えはノーだろう。
AIP技術の誕生 一部国でAIPは20世紀から試行された。一番古いのは第二次大戦時のドイツ、ソ連だが作戦上意味のある艦は実現していない。終戦で英国、米国、ソ連がドイツの研究成果を入手し試験艦を建造したが、原子力推進のほうが有望と写った。
2000年代に入り、技術の進展で実用に耐えるAIPが実現し、フランス、日本、ドイツ、スウェーデン、中国がSSPs建造に踏み切った。一部は輸出され世界各地で採用されている。
技術上の特徴 SSPsは浮上せずバッテリー充電が可能で、潜航時間が伸び、敵探知を逃れる。以下の三方式が主流だ。
①クローズドサイクル蒸気タービン方式 フランス建造の潜水艦で採用しているのがクローズドサイクル蒸気タービン方式で原子力潜水艦の発電方式を模し、酸素とエタノールを混合する。フランスはこの方式をMESMAと呼び、発電容量が大量になるが複雑となり、効率は劣る。
②スターリングサイクル スターリングサイクルエンジンではディーゼルでエンジン内に密閉した液体を熱し、ピストンを動かし発電する。排気は海中に排出する。フランス方式より効率は高く、機構も単純で日本、スウェーデン、中国が採用している。
③燃料電池 燃料電池方式がAIPで最高峰だろう。燃料電池は水素、酸素で発電し、可動部品は皆無といってよい。排出物は最小で最大の発電が可能かつ極めて静粛だ。ドイツが燃料電池技術でリードし、フランス、ロシア、インドが追いつこうとしている。
調達の傾向 AIPですばらしいことは既存艦に後付けで搭載可能なことだ。ドイツはこの方法で209型を改修し、ロシアもキロ級で実施したとの報道がある。スウェーデンは4隻を改修し、日本も一隻で実施している。潜水艦戦力の増強策として後付け改修は費用対効果が優れる。
ただし、新規建造SSPsへの関心のほうが高い。ドイツは輸出用SSPを4形式そろえ、新規建造209型にもAIPを導入した。スウェーデンにはAIP艦3形式があり、日本の大型艦そうりゅう級もSSPだ。フランスのスコルペヌ級、アゴスタ90B型(パキスタン向け)、カルヴァリ級(インド向け)も同様だ。スペインの新鋭S-80級もSSPで、ポルトガルには小型トリデンテ級がある。ロシアはラーダ級で手こずっているが、次のディーゼル電気推進艦アムール級もSSPsとなる。中国の041型(元級)14隻にAIPが搭載され、さらに5隻が建造中だ。
戦闘効果は SSPsは一定条件ならSSNsを上回る性能を発揮する。長時間潜航性能と超静粛性を生かした待ち伏せ攻撃が可能だ。ただし、これは優れた情報収集能力が前提。また短中距離なら敵部隊の監視偵察任務に投入できる。浅海域など小型艦に有利な条件なら原子力潜水艦に対し相当の威力を発揮できる。
米国はどうすべきか では米国もSSPsを建造すべきだろうか。米国ではディーゼル電気推進艦の建造は1959年以降皆無だ。原子力潜水艦建造のノウハウを流用できるが、未知の内容があるはずだ。燃料電池技術で米国は先を走っているので米国が同技術を採用する可能性がある。
ただし米海軍の視点はグローバルで、米本土から離れた海域での戦闘を想定する。SSPsは原子力潜水艦より航続距離が劣るので近くに基地が必要となる。さらに予算に厳しい米海軍は人員増ができず、ハイエンド高機能艦艇を少数運用するほうが組織上有利となる。
SSPsに予算を投じる前に無人潜水機を投入する将来の潜水艦戦シナリオを米海軍は検討すべきだろう。自律、半自律運用の無人潜水艇にはSSPs同様の可能性があり、あえて新型潜水艦建造に費用を投じる合理性がない。
結論としてSSPsが大型艦の脅威となるのは一定の条件下である。だからといって米海軍が通常型潜水艦建造に対応する必要はない。通常型では米海軍の潜水艦作戦の多くが実行できず、今後登場する新技術でSSPsの優位性に陰りが現れる可能性もある。■
この記事は以下を再構成したものです。一時は米海軍も通常型潜水艦を建造する、日米で共同運用する案もありましたが、落ち着く先としては日米の潜水艦部隊で役割分担することでしょうかね。UUVが今後の鍵でしょう。UUVで中国の数の優位性を打ち破るという方向でしょうか。
Could the Navy Make Use of Conventional Stealth Submarines?
December 31, 2020 Topic: Technology Region: Americas Blog Brand: The Reboot Tags: SubmarinesSubsU.S. NavyAir IndependentMilitaryTechnologyBoomer
Robert Farley, a frequent contributor to TNI, is author of The Battleship Book. This first appeared in October 2018.
Image: Reuters
Farleyさんには、日本がなぜ「そうりゅう」後期型や「たいげい」にAIPを搭載しなかったのか、考察して欲しかった。もし、熟考したなら記事の結論は異なったものになるかもしれない。
返信削除AIPは、あくまで鉛蓄電池の補助であり、艦内容積を奪い、その能力は限定的であるばかりか、API作動時、潜水艦探知の手がかりを与え、また、酸素や水素の艦内漏洩は致命的結果をもたらす危険性がある。このように考えると、日本のリチウムイオン電池の使用とAIP不積載は合理的判断であろうし、通常型潜水艦を運用する各国も安全性の高い高性能リチウムイオン電池等を開発するようになるとAIPは廃れることになるだろう。