歴史に残る機体30 ロッキード・マーティンF-16ファイティングファルコンはベトナム戦の教訓から生まれた軽量高機動戦闘機。F−35の遅延で2040年代まで供用される傑作戦闘機になった。世界中で多数が供用中。
歴史に残る機体30
F-16は米国、同盟国双方が供用中だ。なかでも性能向上型は驚くほど高威力ながら購入しやすい価格を実現している。
F−16ファイティングファルコンは傑出した機体だ。世界トップクラスの戦闘機でありながらコスト性能比が優れる。高速かつ高い操縦性を有する軽量戦闘機の欠点は航続距離、ペイロードが大型双発機のF-15イーグルより劣ることだが、価格を見ればそんなことは二の次になる。1999年当時の単価18百万ドルは2017年価格で27百万ドルに相当する。この価格性能比が各国空軍部隊に魅力となり、現在も世界で最も多く運用中の戦闘機で製造4,500機中、2,700機が26カ国で現役だ。
F-16誕生の背景には空軍がヴィエトナム戦で直面した難題があった。F-4ファントムは高速大型戦闘機だったが、北ヴィエトナム空軍に苦戦を強いられた。一つには空対空ミサイルの技術成熟度が足りなかったためで、ドッグファイト技量も未熟だった。ここからファイターマフィアと呼ぶ一派が生まれ、空軍はこれまでの設計思想を捨て、安価かつ軽量で運動エナジーを最大活用し、ドッグファイトに耐える機体を実現すべきと唱え始めた。当時開発中だったF−15イーグルも故障しがちの空対空誘導ミサイルへの依存度が高いと批判した。ただし、イーグルはその後双発大型機でも操縦性が高い機材は可能と実証したが、コストに目をつむればという条件で、ミサイル技術が大きく進歩したわけではない。
軽量戦闘機を求める声はペンタゴンにも広がり、単純な経済の問題だった。空軍はF-15を好み、一方で戦闘飛行隊全部に同機を配備するのはあまりにも高額の予算が必要だったので、「ハイロー」ミックスの機材配備を決定する。そこから試作機2型式が生まれ、1974年に性能比較が行われた。ノースロップYF-17とジェネラルダイナミクスYF-16である。後者が応答性がよい評価を全員一致で得たが、YF-17はその後ホーネットに進化し、米海軍海兵隊が共用している。F-16Aの量産仕様初号機は1980年に部隊配備され、その後複座のF-16Bも加わった。
単発F-16はデザイン技術の最新動向を取り入れ運動性能を最大限活用するねらいだった。強力なブラット&ホイットニーF100エンジンに機体下部に空気取入口を備え、推力重力比が優れたのは機体の軽量化に成功したためで、高高度ならマッハ2を出せる。主翼はデルタ形状に近く、ハイロールが可能となった。バブル状のキャノピーでパイロットは優れた視界を確保し、30度傾斜つきの座席は過激な機体操縦のG対策である。実際にF-16は過激な操縦が可能で旋回で9Gまで可能だ。これはF-22ラプター登場までは最大だった。空軍アクロバティックチームのサンダーバーズが同機を採用した理由だ。
F-16では機動性を最大限にすべく空力学的に不安定な形状に意図的にされている。問題があればフライト制御システムが自動補正する設計だ。ここに当時は革命的とまで言われたフライバイワイヤー制御が加わり、パイロットの制御を電子インターフェースで伝え、油圧やケーブル経由の手動制御は姿を消した。フライバイワイヤーの信頼性が高いこともあるが、同時に機内コンピュータで必要に応じパイロット制御を補いファルコンの機体限界を超える事態を回避する。別の特徴として統合スロットルがジョイスティックにつけたハンズオンスロットル及びスティック(HOTAS)があり、パイロットの制御がよりスムーズになった。フライ・バイ・ワイヤーとHOTASの組み合わせはその後の戦闘航空機で標準仕様となった。
ファルコンは多任務戦闘機の想定で生まれ、最大17千ポンドまでの兵装または電子戦装備をハードポイント17箇所に搭載可能で、精密誘導兵器のマーヴェリックミサイルやレーザー誘導爆弾を運用できる。20ミリヴァルカン砲も搭載しバックアップ兵装として利用できる。
ファイターマフィア派は誘導ミサイルを信用しなかったが、F-16では最初から誘導ミサイル運用を想定し、APG-66ドップラーレーダー、ヘッドアップディスプレイ、照準コンピュータによりミサイルの威力を最大に引き上げる。この効果を実証したのが1982年のイスラエルで、F-15とF-16A編隊でべカー渓谷でシリア機と3日に渡る激烈な空中戦を展開した事例だ。イスラエルのファルコンはシリアのMiG-21、-23を44機撃墜しながら被撃墜機は皆無だった。その前年の1981年にファルコン8機編隊でバグダッドのオシラク原子炉を空爆し、マーク84(2千ポンド爆弾)16発を投下し、サダムフ・セインの核兵器開発を中断させた。
1980年代中頃になると今も供用中のF-16C、複座のD型が運用を開始した。エイビオニクスを更新し、液晶ディスプレイや新型APG-68レーダーで長距離ミサイル交戦が可能となり、AIM-7スパロウやAIM-120AMRAAMミサイルの運用が可能となった。C型D型はその後数回に渡り性能改修を受け、GPS誘導兵装やAIM-9Xサイドワインダー熱追尾ミサイルも導入され、パイロットはヘルメット搭載照準システムにより視界内の敵機を自機の機首を敵に向けずに攻撃できるようになった。
米軍のF-16が初めて実戦投入されたのが1991年の湾岸戦争で、13千回にわたり爆弾、マーヴェリックミサイルによる空爆を展開した。この内最大規模のバグダッド空爆では72機が投入され、2機が対空ミサイルで撃墜され打逸出したパイロットが捕虜となった。「ワイルドウィーゼル」任務をこなした機材はイラクの地対空ミサイル陣地をAGM-88Harmミサイルで撃破した。
空軍はA-10のかわりにF-16を近接航空支援に投入できないか検討し、138戦闘飛行隊のF-16C、D型にペイヴクロー30ミリガトリング砲ポッドを搭載した。しかし、軽量ジェット機には発射反動が大きく飛行姿勢が揺れたため構想は断念され、A-10は存続を許され、その後何度も続いた空軍上層部による廃棄案を生き残った。
終戦でF-16は飛行禁止空域が設定されたイラク上空のパトロール任務につき、AIM−120スコーピオン長距離ミサイルで高速MiG-25フォックスバットを撃墜している。
湾岸戦争後にファルコンは米軍NATO軍の航空作戦が展開したユーゴスラビア、イラク、シリアでいつもその姿を見られた。1990年代のセルビア、コソボで米軍及びベルギー軍のF-16が敵戦闘機を撃墜しているが、セルビア軍の地対空ミサイルで2機が犠牲となった。海外へ販売された機体には実戦の機会も訪れた。パキスタン軍のF-16は1980年代に国境地帯でソ連アフガン機合計10機を撃墜した。1992年にはヴェネズエラ空軍のファルコン2機がOV-10を2機、トゥカーノ練習機1機を撃墜してユーゴ・シャベス支持勢力によるクーデターを阻止した。
ファルコンの撃墜実績は72機で、被撃墜数は2機で実際の状況には不明の点がある。パキスタンの一機は事故での喪失、ギリシアのミラージュがトルコF-16を模擬空中戦で撃墜している。ファルコンはレバノン、イラク、リビア、シリア、アフガニスタン、パキスタンで空爆の中心として活躍している。
最高水準の性能を誇るF-16は米空軍機材ではない。ブロック62仕様のE型、F型をアラブ首長国連邦が発注している。この新型では一体型燃料タンクがつき、欠点だった航続距離不足を最小限の空気抵抗追加で実現しながら、APG-80アクティブ電子スキャンアレイレーダーも搭載する。AESAレーダーは戦闘機搭載レーダーでは最高水準といわれ、高解像度と低探知性を両立している。更に高性能のブロック70仕様がインド国内生産を想定し検討に入っている。ただし、こうした新型ファルコンの機体単価は急上昇している。
F-35の遅延と価格上昇を受けて米空軍ではF-16の1,200機を2040年代まで供用すべく機体寿命を12千時間まで延長する。ファイティングファルコンは戦闘機材として性能は実証済みで、飛行時間あたり経費も22千ドルと双発F-15の42千ドルより魅力的だ。
F-16の欠点をあげるとしたら、米空軍で供用中機材のレーダーが旧式化していること、燃料搭載量が少ないこと、戦闘行動半径が増槽をつけないと340マイルしかないことだろう。ペンタゴンは同機を改修し、APG-83AESAレーダーへの換装や一体型燃料タンクの採用に向かう。F-16にはパイロットから「ヴァイパー」の愛称がつき、今後数十年に渡り世界各地の空軍で重要な役目をこなしていくはずだ。■
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Yes, the F-16 Is Still a Mighty Warplane
January 23, 2021 Topic: Security Region: Americas Blog Brand: The Reboot Tags: F-16Fighting FalconU.S. Air ForceMilitaryTechnology
Sébastien Roblin holds a master’s degree in conflict resolution from Georgetown University and served as a university instructor for the Peace Corps in China. He has also worked in education, editing and refugee resettlement in France and the United States. He currently writes on security and military history for War Is Boring. This piece was originally featured in August 2017 and is being republished due to reader interest.
Image: Reuters.
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