16年も小規模戦闘、対テロ作戦に忙殺されているうちに世界が変わってしまい、あわてて米陸軍が新環境に適応しようとしています。中国やロシアを相手にした大規模作戦を再び想定するわけですが、湾岸戦争のような圧倒的な戦勝を得るのは難しいと覚悟しているのでしょうか。
Army to Unveil New Major Land War "Operations" Doctrine
米陸軍が発表予定の新作戦方針は大規模会戦を想定
- 米陸軍はまもなく「FM3.0作戦」構想を発表し、将来の大規模機甲部隊の衝突に米軍と同等の戦力を有するロシア、中国を想定し陸軍の体制を整え、米軍の優位性を守る。
- 陸軍内で将来の脅威対象の検討が続いており、陸戦環境の変化を念頭に上層部は全地球単位の状況変化のため陸軍も運用構想を刷新する必要が生まれたと語っている。
- 新規の「作戦」構想は米陸軍協会年次総会の席上で発表される予定で、現行の「FM3.0完全版」を補足する。FMとは野戦マニュアルの略で数年前に初版が発表された。.
- 新編の著者によれば3.0の内容は大部分維持しつつ、一部を改定・追加したという。FM3.0が編纂されたのはロシアのウクライナ攻撃前であり、米陸軍はアフガニスタンにかかりきりで、南シナ海の緊張は表面化していなかった。リッチ・クリード大佐Col. Rich Creed(フォート・レヴンワース駐屯混成部隊指揮官)がScount Warrior独占インタビューに答えてくれた。
- 「陸軍は大規模戦闘でほぼ同格の敵と地域規模での作戦実施に備える必要がある。想定シナリオは以前とは大違いだ。過去の作戦構想から教訓と経験を抽出しているが、大規模陸戦実施にはしっかりした戦術と手順が必要だ。実情に応じ指導原則も変更していく」
- クリード大佐の説明では新規構想は2011年から2012年にかけて編纂された合同陸上作戦構想からの自然進化であり、冷戦時代の戦略構想「エアーランド航空ー陸上」バトルとして西ヨーロッパを守るため航空攻撃を陸上戦力を組みわせ実施する案も見直すという。
- 「エアーランドバトルはヨーロッパでの大規模陸上戦を想定しました。大国同士が大規模戦力で衝突する構想でした。現在でも米国は唯一の超大国ですが世界には大幅に戦力を向上させている勢力があります。いまや脅威の種類から作戦で一つだけの想定が許されない状況です」
- エアーランドバトルは米陸軍の大規模部隊を大規模空軍力の支援のもとフルダ峡谷経由で強襲させる構想だった。
- 別の米陸軍高官敵側が1990年代初頭の「砂漠の嵐」作戦の戦術、技術をつぶさに学ぶ中がScout Warriorに新「作戦」構想はどうしても必要だと語っている。
- 「砂漠の嵐で世界にエアーランドバトルの実情を示しました。それまでは想像の世界だったものを現実に見せてしまった。各国は米軍を研究している」
- クリードは新構想は将来と現在の脅威を想定したとし、北朝鮮、イラン、ロシア、中国の名をあげている。
- これから登場する「指導」原則ではゲリラやテロ戦闘員の脅威も国家単位、非国家勢力から今後も続くと想定しているが、強力な戦力を有する敵国相手のハイテク戦闘環境への対応を強調した内容になっている。
- 強力な敵国には空母、ステルス機、次世代戦車、極超音速兵器、無人機、長距離センサー、精密誘導技術もあり、米軍の側で戦術を適正に変えないと急速な変化に対応できなくなる。
- 例としてロシア、中国はともにステルス代後世代戦闘機、電子戦能力、防空体制を進化させており、以前より広範囲の周波数による長距離航空探知が可能になったと主張しており、長距離精密誘導兵器には米空母を900マイル先から狙えるDF-21D(中国)があり、米軍が従来のように自由活動できず、兵力投射も十分に行えない地点が生まれる新たな脅威を示している。
- 地上戦の新規構想では米陸軍は長距離陸上配備精密兵器を有する唯一の存在ではないことを前提にしている。JDAMやGPS誘導兵器は湾岸戦争時にすでにあったが、陸上配備の精密兵器として155㍉GPS誘導エクスキャリバーがあり30キロ先を狙える火砲がこの10年で登場している。精密誘導陸上火砲は他にも保有する国が現れている。
- さらに陸軍のGPS誘導ミサイル同時発射装備Guided Multiple Launch Rocket System (GMLRS) は70キロ先の敵軍を破壊できる最新装備であるが同様に敵国になりそうな勢力が同様の兵器を投入し始めている。
- 無人機では陸軍にシャドーやグレイ・イーグルがあるが、同様に多数国が類似装備を導入しており、高度脅威の高度技術が世界で生まれている。
- こうした高性能兵器の登場で新構想を練る必要が生まれ、新戦術や構想、戦略や戦闘方法を新たな作戦環境に適応させるのだ。その一環にジャミング戦術やセンサー機能の充実があり、サイバー攻撃や長距離精密兵器も拡充させる必要がある。
- 世界各地での脅威の高まりに呼応して米陸軍は新技術を盛り込んだ次世代装備の充実を図る一方で主要装備の性能向上も目指している。例としてエイブラムズ戦車、ストライカー装甲車、パラディン、ブラッドレー戦闘車両がある。エイブラムズではハイテク性能改修で、今後登場するロシアのT-14アルマータ戦車や中国の99式主力戦車を凌駕する存在になったと開発担当者は述べている。
- 米陸軍の現行教則である野戦教本3.0 では「全面対応」作戦として非国家勢力の脅威対抗も含めている。また「全政府対応でテロ対応、合同作戦、安定化作戦と合わせ将来に予想される進展に対応する」とある。
- 全面対応とは陸軍作戦に心理戦、人道援助作戦、非対称戦、訓練装備整備を含めるとともに同盟国との協調体制を維持しやあらゆる戦闘の可能性に備えることを意味する。
- イラク、アフガニスタンでの作戦が減少してきたため、米陸軍は訓練の主眼を機械化戦や大規模な直接対決に移し、これまで15年間を対ゲリラ戦に費やしてきた流れから脱しようとしている。ここでも新しい教導方針の注力点が見られる。
- これまでのFM3.0完全対応版でも最新の脅威として「ハイブリッド戦」などへの対応も盛り込まれているが相手国が整備中の装備がどこまでの内容になっているかまでは認識が十分でなく、米国装備と同等なのか優れているのかまで言及していない。
- ISISや国家支援を受けたテロ集団のハマスやヒズボラではテロ戦闘員特有の戦術に高性能兵器が加わり、高度センサーや監視ネットワークに加え、対戦車誘導ミサイルのような精密兵器も見られる。このように混在した脅威のため各種兵器や対テロ戦術を随時組み合わせるのが米陸軍が想定するシナリオの一部だ。
- 新教本では急進展を見せるペンタゴン戦略を「マルチドメイン」戦として取り込んでいる。これは敵戦術に新技術が加わってきたことで各軍横断的に多様な舞台での対応が必要との認識から生まれた構想だ。
- 主眼はサイバー、電子戦、精密兵器、宇宙空間、無人機、C4ISRの各ドメインにある。各分野での急速な進展により各装備横断的な接続による戦闘の重要性が浮かび上がっている。例として艦載F-18により陸上砲兵部隊が通常は不可能な長距離での目標捕捉情報を得ている。
- 「宇宙やサイバー作戦能力は地理条件とは無関係でむしろ無限の距離で作用する機能です。司令部はこのような作戦実施も考える必要があるのです」(クリード大佐)
- マルチドメイン戦の例に陸軍による海上戦対応があり、陸上配備ロケット砲で敵艦船の攻撃を想定している。陸軍が進めているのはペンタゴンの戦略装備整備室とともにATACMミサイルセンサーで海上移動する敵を有効に攻撃することだ。
- 構想が重要になるのは敵側が米軍の統合作戦を妨害あるいは分断摺る能力を整備してきたためだ。
- 背景にはジャミング戦術が各地で広がってきたこと、高性能センサーやサイバー攻撃さらに長距離精密攻撃兵器の普及がある。
- 大規模かつ全面的な陸上戦闘への関心は当然としても新構想では緊急対応にも言及しシナリオや戦略には武力を使わない場合もあるとクリード大佐が説明してくれた。■
Kris Osborn can be reached at krisosborn.ko@gmail.com
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