注 記事は2年前のものでそうりゅう案件などまだ進行中のものですが、本質的に変化はないと判断しお目にかけることとします。その後も大きな成約が出てこないのは根本的な問題があるからでしょう。販売は苦労していますが、共同開発は英米両国と進んできたのは平和法案の通過も大きな推進力になったのでしょうか。当面日本製航空機が海外で採用される期待が薄いとしても官民挙げて努力をつづけてもらいたいものです。さらに外交政策にもこうした分野を反映してもらいたいものです。
The Trouble With Japan's Defense Exports
日本の防衛装備品輸出は何が問題なのか
Opening Japan’s defense industry to the international market is a significant step, but it won’t happen overnight.
日本の防衛産業で輸出解禁は大きな一歩だが成果は一夜にしてえられない。
Visitors look at a model of JMSDF US-2 search-and-rescue amphibian plane during the MAST Asia 2015 defense exhibition and conference.
Image Credit: REUTERS/Toru Hanai
October 02, 2015
- 2014年4月1日、安倍晋三首相は日本の武器輸出自粛を撤廃し、「防衛装備品技術移転の三原則」を打ち出し、厳しい審査を経たのちに武器輸出を認め国際的な平和の実現と日本の安全保障に資することを条件とした。この動きは大きな関心を呼ばなかったが、日本の防衛政策上で大きな一歩であったと言える。
- 一年半後に防衛省(MOD)は1,800名態勢で防衛装備庁Acquisition, Technology, and Logistics Agency (ATLA)を発足させ、50名が輸出促進にあたっている。
- この歴史的と言える動きで新方針の背後の要素を考察し、今後の日本政府および防衛産業の方向性を見てみよう。日本政府は産業面とともに戦略面で期待するが、実際の運用に不明な点が多く日本製防衛装備に対する国際需要も高くないことから実現の難易度は高い。インド、オーストラリア向けでUS-2捜索救難飛行艇と潜水艦の大型案件があるが、これはともに特異例で今後の日本は小型装備品の輸出実現に向け努力を集中するだろう。
- では安倍首相に輸出禁止措置を解除させた原因としてジェフリー・ホーナンJeffrey Hornung笹川平和財団USA主任研究員によれば日本は①国産調達価格を下げる ②米国との協力強化 ③現状維持で利害を共通にする国に対して一層強い安全保障上のパートナーとなるの三点を目指しているという。
- 原価低減が重要なのは国産調達防衛装備の価格がとんでもなく高いためだ。研究開発費用が高いため、単価を下げるには大量販売する必要が生まれる。そうりゅう級潜水艦が好例でオーストラリア向け販売で日本が受注に成功するには単価を下げる必要があったが、そうりゅうの研究開発費は固定費でありすでに支出ずみだった。
- 禁輸措置の解除により価格面の変化がすぐに期待できるのだろうか。現実を見れば値下げの実現には10年単位といかずとも数年かかるのであり、一方で国際市場で日本製装備品にどこまで競争力があるのかという疑問も残る。
- Avascent International社長スティーブン・T・ガンヤードStephen T. Ganyardは日本製装備への需要が欠落しているため日本政府の思惑は実現困難だと指摘する。需要がないのは性能が理解されず、国際的に通用する装備が限られ、高価格のせいだと説明する。これまで日本の防衛産業の顧客は日本政府のみで業界に市場原理が欠落していた。日本の防衛産業は「世界に通用しないルールが大手を振る独自の世界」だという。
- 日本製防衛装備の値段を決めるのは日本政府であり、国際市場ではないため、効率を追求するメカニズムが不在とガンヤードは指摘。最大の皮肉はマレーシア、ヴィエトナム、インドネシア、フィリピン、タイ国など日本製装備を欲しい国は多いのに購入できる価格でない点だという。資金に余裕がある国は最良の選択ができる。例えばシンガポールだが、装備は米国から調達しており、日本製装備は優れているとは映らず、ましてや実戦の洗礼もない。そうなると短期では輸出解禁の効果は疑わしくなる。
- 日本の防衛産業に市場原理の導入が必要だろう。性能重視の姿勢を証明しつつである。武器輸出と共同生産は国内バランスを実現し国産産業基盤を強めつつ米国依存を減らし、次世代装備の研究開発費用を確保することになる。対外バランスの問題もある。
- 提案中の潜水艦技術に関する日本オーストラリア間の協力案件が古典的な例で日本が「負担共有」を米側に見せる効果がある。ここでは外部バランス(米国を日本の安全保障に関与させる)が内部バランス(日本独自の安全保障力を整備する)と組み合わさっている。
- 輸出は国内防衛産業の業務改善の刺激策になる。成果は日本だけで享受せず日本の同盟国協力国にも恩恵となる。米国が予算制約に苦しむ中で日本は防衛の価値がある同盟国であると自ら証明する必要があるのだ。この「証明」は地域の平和と安定の確保に尽力する米国を意識して日本が真剣さを示す両方向の努力となる。
- 大きな難関が残ったままだ。日本には防衛装備輸出を外交政策の一部とする経験が事実上存在せず、政治上のガイドラインは改訂したものの成文化も制度化も未着手だ。企業はあいまいさが残るうちは事業に飛びつかない。法制化は微妙な仕事で特にこの分野では想定外使用と第三者移譲が問題となる。
- 使用時の確認が頭の痛い問題になる可能性がある。ガンヤードが指摘するように日本の防衛産業が日本にとって「望ましくない」国家や非国家勢力に装備品を売却すれば大問題となる。ガンヤードはさらに「日本が求めているのは試験的な販売事例でこの方法が定着するかを見たいはずだ」という。ガイドラインの明確化以外に防衛生産増強のリスクを負担する覚悟も日本政府に必要だ。購入国に低金利貸付を提供するとか研究開発の交付金がある。
- ガーンヤードは日本企業へのコメントとして「強固な産業基盤の実現には企業合併が唯一の手段だ。日本が世界に通用する国防部門の競争力を実現するには合併、企業買収、国防関連の知財の購入しかない」と述べている。しかしここでも企業には動機が必要だ。防衛と関連がない海外企業を買収するのか(この場合はルールが明確にある)、あるいは防衛関連企業(将来は明確に予測できない)の選択を日本企業は迫られよう。国際的に活躍する防衛企業は資金投入の価値は十分ある。
- ビジネス上のリスクは財務関係だけでなく、企業の風評もある。日本の大企業は「死の商人」と呼ばれるのを嫌う。横浜の防衛産業展示会MASTは日本で初の防衛技術展示会で大事な一歩となった。ただし、日本企業ブースに銃器、ミサイル、その他の「あからさまに脅威を与える」装備は全く姿がなかったのが日本企業の考え方を物語っている。定評作りには大変大きな負担が必要なため日本政府はUS-2の販売促進で国内向けにはこれは非軍事装備の案件だと強調している。
- 日本はどこをめざすのか。ホーナンはUS-2のインド向け提案とそうりゅう潜水艦のオーストラリア向け提案はともに「例外」案件で、将来は小型かつすき間技術が輸出の中心と見ている。ミサイル追跡センサーが例だ。ATLAが輸出を促進すべく輸出や共同開発の架け橋になり、オーストラリアで三菱重工や川崎重工が展開した広報活動を上回る効果を上げることが期待される。
- 各種改革がどれだけ早く実行されるかは政治意思次第でさらに「武力を見せつける」中国や北朝鮮に依存する。日本の防衛産業の難題は変革の速度が遅く慎重すぎることだろう。■
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