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AIP搭載潜水艦の現況と今後の展望


Air-Independent Propulsion Submarines: Stealthy, Cheap and the Future? 大気非依存型潜水艦はステルス、安価だが将来が約束されているのだろうか






January 28, 2018


こ十年ばかり、大気非依存型推進方式(AIP)の潜水艦応用が世界で広がっている。大型原子力潜水艦(SSN)に代わってAIP搭載艦(SSP)が中心の座に就く可能性も出てきた。潜水艦が安上がりだが大きな戦略的な意味を持つ装備となり大国海軍の強力な艦船に太刀打ちできる可能性が出てきた。では米国も追随すべきだろうか。おそらくしないだろう。

AIPの歴史
20世紀に数か国海軍がAIPを実験している。そのうち、ドイツとソ連が第二次大戦中と最も早く着手したが、運用に耐える形にはできなかった。戦後は英国、米国、ソ連がドイツ研究成果をもとに実験艦を建造したが、原子力推進のほうが潜水艦用に有望と判断された。
2000年代に入り各方面の技術を統合して開発がはじまり世界数か国で実用に耐えるAIPの開発が始まった。フランス、ドイツ、日本、スウェーデン、中国がAIP搭載艦を建造し、輸出も行う。

技術
AIPで通常型潜水艦はバッテリー充電のために浮上の必要がなく、長期間潜航したまま探知を逃れる。AIPの潜水艦搭載には三型式がある。

クローズドサイクル蒸気タービン
フランス建造艦で使われているクローズドサイクル蒸気タービンは原子力潜水艦でのエネルギー利用を参考にしている。蒸気に酸素とエタノールを混合する。この方式はフランスでMESMAと呼び、大量のエネルギーを生むが複雑かつ効率が低い。

スターリング機関Stirling Cycle
 スターリングサイクル機関はディーゼルでエンジン内部に封印した液体を加熱しピストンを動かし発電する。排気は海中に捨てる。この方式はフランス型より効率がやや上回り機構も簡単になり、日本、スウェーデン、中国の各国が採用している。

燃料電池 Fuel Cell
燃料電池は最高のAIP技術だろう。燃料電池は水素、酸素で発電し可動部品は皆無に近い。廃棄物は最小で大量のエネルギーを生みつつ極めて静粛である。ドイツ製潜水艦が燃料電池技術の搭載に成功し、フランス、ロシア、インドもこの技術の実用化を目指している。

導入の傾向

AIPの利点は供用中潜水艦にも艦体を挿入して搭載できることだ。ドイツが209型でこれを実施し、ロシアもキロ級で搭載している。スウェーデン、日本も同様だ。導入済み艦の戦力引き上げ手段として改装は費用対効果が高い。
ただし大部分の海軍は新規建造に前向きで、ドイツはSSP四形式を各国に提供する。新造209型にも搭載され、スウェーデンもAIP搭載艦を三隻建造し、日本のそうりゅう級、フランスもスコルペヌ級、アゴスタ90B級(パキスタン輸出用)、スコルペヌ派生型のカルバリ級(インド輸出用)がある。スペインのS-80級もAIPを搭載し、ポルトガルにも小型トリデンテ型がある。ロシアがラダ級のAIP搭載にてこずっているで次期アムール級も搭載の見込みだ。中国の元級14隻がAIPを搭載し、さらに5隻が建造中だ。

戦闘場面では

SSPがSSNの性能を上回る場面がある。長期潜航機能と静粛性を武器に待ち伏せし接近する敵艦を攻撃する。これには敵動向で確度の高い情報が必要だが、SSPも単中距離偵察を行える。浅海など小型で機動性の優れた艦が有利な環境では原子力潜水艦にも大きな脅威になる。

米国への影響

では米国もSSP建造に向かうべきか。米国はディーゼル電気推進型潜水艦の建造は1959年を最後に行っていない。原子力潜水艦の知見を応用できそうだが、まだマスターできていない分野もある。燃料電池では米国が世界をリードしているので米国の潜水艦建造で採用する可能性はある。
ただし米海軍は汎世界的に活動する部隊で、米本土から遠距離地点での作戦を想定する。ディーゼル電気推進式潜水艦はAIPを搭載しても航続距離で原子力潜水艦にかなわず、基地の確保が必要となる。さらに費用節約のため米海軍は省人化をめざしているので、高性能な潜水艦少数の方が安価な潜水艦多数を運用するより望ましいと考えている。
AIP搭載艦に資金をつぎ込む前に米海軍は将来の潜水艦戦のシナリオを想定し水中無人機の投入を考慮すべきだ。自律運用や半自律運用の無人潜水艦にはAIPを上回る長所があり、さらに新型潜水艦技術への投資は不要である。
そうなると大型原子力攻撃型潜水艦にAIP搭載艦が脅威となるのは一定の条件下となるのは間違いない。だがらと言って米海軍が通常型潜水艦に乗り出すのは得策でない。SSPでは海軍の要求内容すべてを実現できないし、今後の技術向上で現在のAIPの利点も優位性を失いかねない。■

米海軍にはどうしても通常型小型艦の建造に抵抗があるようです。であれば、日本の潜水艦部隊が米海軍のできない任務を請け負うしかないのでしょうか。以前に日米共同運用案などと無責任なことを提唱しましたがやはり実現の可能性は低いんでしょうか。

Robert Farley, a frequent contributor to TNI, is author of The Battleship Book. He serves as a Senior Lecturer at the Patterson School of Diplomacy and International Commerce at the University of Kentucky. His work includes military doctrine, national security, and maritime affairs. He blogs at Lawyers, Guns and Money and Information Dissemination and The Diplomat.

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