スキップしてメイン コンテンツに移動

★歴史に残らなかった機体(10)Tu-4はB-29のクローン爆撃機



映画「原爆下のアメリカ」Invasion USAにもTu-4と思しき機体が米本土を空襲するシーンがありますが(記録フィルムのB-29を使用)この経緯からB-29フィルムを使っても問題なかったわけですね。それにしても米側が知的財産の補償をロシアに求めなかったのはなぜでしょうね。

One of America's Most Dangerous Bombers Also Flew for Russia and China 米空軍最強の爆撃機はロシア、中国でも飛んでいた


May 26, 2017

  1. 歴史に残るという意味で広島、長崎に原爆投下したB-29に比類する機材は少ない。
  2. 余り知られていないがソ連にもB-29があった。ほぼ全面的に同じ機体で、B-29をコピーした同機もソ連初の原子爆弾空中投下を行った。
  3. 第一次大戦中のロシアは重爆撃機分野で進んでおりシコースキー設計のイリヤ・ムロメッツ四発複葉機はドイツ攻撃に投入されていた。戦略爆撃構想の元となり、運用概念はすぐに主要国に広がった。
  4. ただし第二次大戦までにソ連空軍(VVS)は戦線付近の目標攻撃をねらう戦術航空部隊になっていた。VVSには戦略爆撃機と呼べる四発機のPe-8は93機しかなかったが、英米両国は重爆撃機数千機を運用した。
  5. 大戦中の米国でB-29スーパーフォートレスは最も高額な機材開発事業になった。B-29は速力、航続距離、兵装搭載量のいずれも以前の機種を凌駕していた。また遠隔操作式の防御機関銃砲塔を備え、乗員11名は完全加圧式機内の恩恵を受けた。
  6. 新型B-29は太平洋戦線に1944年から投入され、長距離性能を活かし日本本土空襲を開始する。広島、長崎の原爆攻撃にくわえ 東京に恐るべき焼夷弾投下をした。中国国内で運用を開始し、新たに占領した島しょ部に基地を移動した。
  7. 当時のソ連は米国からレンド・リース方式で機材提供をうけていたが、モスクワは二度にわたりB-29提供を米国にもとめたものの、毎回ワシントンは断っていた。
  8. 1944年7月から11月にB-29が満州、日本の空爆後に計3機ウラジオストックに不時着をし、さらに四機目が墜落し機体が回収された。大戦中の米ソは同盟関係にあったが、ソ連はその時点で日本と交戦しておらず、ソ連は米機を接収し、機体返還の要請に応じなかった。乗員も数か月間抑留の後に中立国イランに送還された。
  9. 戦略爆撃機が喉から手が出るほど欲しいスターリンはツボレフ設計局に独自設計案を放棄させ、かわりにB-29の完全コピーを命じる。捕獲した一機は完全分解され、残りの機材は飛行訓練用につかわれた。
  10. 大規模盗作で最大の困難は単位の違いだった。B-29のヤード・ポンド法に対してソ連はメートル法で都度換算が必要なだけでなくアルミ素材や部品製造では測定器具から新しく調達する必要があったのだ。最終的に設計局が60か所、工場が900か所に新設された。
  11. この結果生まれたクローン機材はTu-4とされ、原型B-29より機体重量がやや増えたが、相違点はごくわずかだった。Tu-4が搭載した2,400馬力ASh-73TK星型エンジンは原型の二重サイクロンエンジンの2,200馬力より大きい。さらにB-29搭載の50口径機関銃のかわりに23ミリ機関砲が採用されている。
  12. Tu-4の飛行速度はB-29の348マイルよりわずかに低いが、運用最高高度はB-29の31千フィートより高いとロシアは自慢していた。標準爆弾搭載量も違っていた。B-29は最大20千ポンドを搭載したが、Tu-4は2,200ポンド爆弾6発を搭載した。さらにTu-4の航続距離はB-29後期型より短く、兵装搭載時に往復で900マイルまで進出できた。
  13. 対日参戦に踏み切ったスターリンは1945年になりB-29一機を返還した。その二年後に西側参観者が航空記念日のエアショーでツシノ空軍基地でB-29そっくりの機体が4機編隊で頭上を飛行し驚かされる。NATOは同機に「ブル」のコードネームを与え、戦略爆撃機に備えた防空体制の整備が急きょ求められた。
  14. Tu-4飛行連隊の編成は1949年に始まり、二年後に同機は歴史を作った。特殊改装したTu-4Aはソ連初の原爆投下機となり、42キロトンのマーリャ爆弾がセミパラチンスクに1951年10月18日投下された。
  15. Tu-4の生産は847機で1952年まで続き、冷戦初期のソ連戦略爆撃機場部隊の中心となる。しかしTu-4では米本土を爆機器して帰還する航続距離が不足していた。そこで一部に空中給油機能をつけこの問題を解決しようとしていた。
  16. 1950年代なかごろにはTu-4はTu-16バジャージェット爆撃機や今でも供用中の長距離型Tu-95に交代されている。最後のTu-4は1960年代にソ連空軍から退役した。
  17. Tu-4は機体サイズを活かし各種新技術の試験に使われた。空中給油技術、電子戦、放射性偵察等である。Tu-4NMはLA-16無人機を発進させ、Tu-4Kは対艦攻撃用にKS-1コメート(レーダー誘導方式対艦ミサイル)を50マイル範囲で運用した。またTu-70旅客機やTu-75貨物機の原型となった。さらにTu-4の三百機がTu-4D兵員輸送機に改装されている。
  18. スターリンはTu-4の10機を1953年に中国に供与し、中国は1988年まで供用していた。人民解放軍空軍はうち2機をAWACSに改装し、人民解放軍空軍博物館で展示されている。
  19. 結果としてB-29は米ソ両軍で有益性の高い機体となった。だがソ連の実例はリバースエンジニアリングで埋めることが難しい技術ギャップがほどんどないことを実証している。
Sébastien Roblin holds a Master’s Degree in Conflict Resolution from Georgetown University and served as a university instructor for the Peace Corps in China. He has also worked in education, editing, and refugee resettlement in France and the United States. He currently writes on security and military history for War Is Boring.
This first appeared in October of 2016.
Image Credit: Creative Commons.



コメント

このブログの人気の投稿

漁船で大挙押し寄せる中国海上民兵は第三の海上武力組織で要注意

目的のため手段を択ばない中国の思考がここにもあらわれていますが、非常に厄介な存在になります。下手に武力行使をすれば民間人への攻撃と騒ぐでしょう。放置すれば乱暴狼藉の限りを尽くすので、手に負えません。国際法の遵守と程遠い中国の姿勢がよく表れています。尖閣諸島への上陸など不測の事態に海上保安庁も準備は万端であるとよいですね。 Pentagon reveals covert Chinese fleet disguised as fishing boats  漁船に偽装する中国軍事組織の存在をペンタゴンが暴露   By Ryan Pickrell Daily Caller News Foundation Jun. 7, 3:30 PM http://www.wearethemighty.com/articles/pentagon-reveals-covert-chinese-fleet-disguised-as-fishing-boats ペンタゴンはこのたび発表した報告書で中国が海洋支配を目指し戦力を増強中であることに警鐘を鳴らしている。 中国海上民兵(CMM)は準軍事組織だが漁民に偽装して侵攻を行う組織として長年にわたり活動中だ。人民解放軍海軍が「灰色」、中国海警が「白」の船体で知られるがCMMは「青」船体として中国の三番目の海上兵力の位置づけだ。 CMMが「低密度海上紛争での実力行使」に関与していると国防総省報告書は指摘する。 ペンタゴン報告書では中国が漁船に偽装した部隊で南シナ海の「灰色領域」で騒乱を起こすと指摘。(US Navy photo) 「中国は法執行機関艦船や海上民兵を使った高圧的な戦術をたびたび行使しており、自国の権益のため武力衝突に発展する前にとどめるという計算づくの方法を海上展開している」と同報告書は説明。例としてヘイグの国際仲裁法廷が中国の南シナ海領有主張を昨年7月に退けたが、北京はCMMを中国が支配を望む地帯に派遣している。 「中国は国家管理で漁船団を整備し海上民兵に南シナ海で使わせるつもりだ」(報告書) 中国はCMMはあくまでも民間漁船団と主張する。「誤解のないように、国家により組織し、整備し、管理する部隊であり軍事指揮命令系統の下で活動している」とアンドリュー・エリク...

海自の次期イージス艦ASEVはここがちがう。中国の055型大型駆逐艦とともに巡洋艦の域に近づく。イージス・アショア導入を阻止した住民の意思がこの新型艦になった。

  Japanese Ministry of Defense 日本が巡洋艦に近いミサイル防衛任務に特化したマルチロール艦を建造する  弾 道ミサイル防衛(BMD)艦2隻を新たに建造する日本の防衛装備整備計画が新たな展開を見せ、関係者はマルチロール指向の巡洋艦に近い設計に焦点を当てている。実現すれば、は第二次世界大戦後で最大の日本の水上戦闘艦となる。 この種の艦船が大型になる傾向は分かっていたが、日本は柔軟性のない、専用BMD艦をこれまで建造しており、今回は船体形状から、揚陸強襲艦とも共通点が多いように見える。 この開示は、本日発表された2024年度最新防衛予算概算要求に含まれている。これはまた、日本の過去最大の529億ドルであり、ライバル、特に中国と歩調を合わせる緊急性を反映している。 防衛予算要求で優先される支出は、イージスシステム搭載艦 ( Aegis system equipped vessel, ASEV) 2隻で、それぞれ26億ドルかかると予想されている。 コンピューター画像では、「まや」級(日本の最新型イージス護衛艦)と全体構成が似ているものの、新型艦はかなり大きくなる。また、レーダーは艦橋上部に格納され、喫水線よりはるか上空に設置されるため、水平線を長く見渡せるようになる。日本は、「まや」、「あたご」、「こんごう」各級のレーダーアレイをできるだけ高い位置に取り付けることを優先してきた。しかし、今回はさらに前進させる大きな特徴となる。 防衛省によると、新型ASEVは全長約620フィート、ビーム82フィート、標準排水量12,000トンになる。これに対し、「まや」クラスの設計は、全長557フィート強、ビーム約73フィート、標準排水量約8,200トンだ。一方、米海軍のタイコンデロガ級巡洋艦は、全長567フィート、ビーム55フィート、標準排水量約9,600トン。 サイズは、タイコンデロガ級が新しいASEV設計に近いが、それでもかなり小さい。Naval News報道によると、新型艦は米海軍アーレイ・バーク級フライトIII駆逐艦の1.7倍の大きさになると指摘している。 武装に関して言えば、新型ASEVは以前の検討よりはるかに幅広い能力を持つように計画されている。 同艦の兵器システムの中心は、さまざまな脅威に対する防空・弾道ミサイル防衛用のSM-3ブロックII...

次期高性能駆逐艦13DDXの概要が明らかになった 今年度に設計開始し、2030年代初頭の就役をめざす

最新の海上安全保障情報が海外メディアを通じて日本国内に入ってくることにイライラしています。今回は新型艦13DDXについての海外会議でのプレゼン内容をNaval Newsが伝えてくれましたが、防衛省防衛装備庁は定期的にブリーフィングを報道機関に開催すべきではないでしょうか。もっとも記事となるかは各社の判断なのですが、普段から防衛問題へのインテリジェンスを上げていく行為が必要でしょう。あわせてこれまでの習慣を捨てて、Destroyerは駆逐艦と呼ぶようにしていったらどうでしょうか。(本ブログでは護衛艦などという間際らしい用語は使っていません) Early rendering of the 13DDX destroyer for the JMSDF. ATLA image. 新型防空駆逐艦13DDXの構想 日本は、2024年度に新型のハイエンド防空駆逐艦13DDXの設計作業を開始する 日 本の防衛省(MoD)高官が最近の会議で語った内容によれば、2030年代初頭に就役開始予定のこの新型艦は、就役中の駆逐艦やフリゲート艦の設計を活用し、変化する脅威に対し重層的な防空を提供するため、異なるコンセプトと能力を統合する予定である。  防衛装備庁(ATLA)の今吉真一海将(海軍システム部長)は、13DDX先進駆逐艦のコンセプトは、「あさひ」/25DD級駆逐艦と「もがみ」/30FFM級フリゲート艦の設計を参考にすると、5月下旬に英国で開催された海軍指導者会議(CNE24)で語った。  この2つの艦級は、それぞれ2018年と2022年に就役を始めている。  13DDX型は、海上自衛隊(JMSDF)が、今吉の言う「新しい戦争方法」を含む、戦略的環境の重大かつ地球規模の変化に対抗できるようにするために必要とされる。防衛省と海上自衛隊は、この戦略的環境を2つの作戦文脈で捉えている。  第一に、中国、北朝鮮、ロシアが、極超音速システムを含むミサイル技術、電子戦(EW)を含むA2/AD能力の強化など、広範な軍事能力を急速に開発している。第二に、ウクライナにおけるロシアの戦争は、弾道ミサイルや巡航ミサイルの大規模な使用、EWやサイバー戦に基づく非対称攻撃、情報空間を含むハイブリッド戦争作戦、無人システムの使用など、新たな作戦実態を露呈したと説明した。  新型駆逐艦は、敵の対接近・領域拒否(A2/A...