ドイツというと強力な経済力が思い起こされますが、国防に関しては状況は厳しいようです。米国が求めるような国防費の大幅増を阻む国内事情があるのでしょう。エアバスの構想が構想どまりのため、F-35採用は確実と思われますが、国政選挙が終わるまで動けないということでしょうか。それにしてもロシアのサイバー攻撃による他国選挙への介入は現実の問題なのですね。
Germany Might Join the F-35 Program ドイツがF-35導入に動く可能性
Officials in Berlin ask for more information on the Joint Strike Fighter as they try to replace their aging Tornado multi-role jets. ドイツ政府が供用打撃戦闘機の詳細情報開示を要望し、老朽化してきたトーネード多用途戦闘機の後継機選定に入っている
ドイツ空軍がロッキード・マーティンF-35共用打撃戦闘機の追加情報を請求していることが明らかになった。旧式化してきたパナヴィア製トーネード多用途戦闘機の更新用候補のひとつとして2035年までの導入を目指す。
- 2017年5月にルフトヴァフェは米軍にJSF機密データの開示を要請したとロイターが伝えている。公文書ではドイツ政府・軍関係者は現時点では特定機種に絞り込んでいないと明言している。
- ただしドイツ国防相は「F-35含む機種の導入可能性を今年後半に検討する」としており、そのため「F-35の先端技術特にセンサー類の性能について秘匿情報の開示をもとめ、その他情報制御関連、作戦関連情報を求める」とある。
- ドイツがF-35採用に動けば、NATO加盟国でJSF導入を決めているベルギー、カナダ、デンマーク、イタリア、オランダ、ノルウェー、トルコ、英国に加わることになる。
- ドイツが同盟各国と共通装備を導入すれば補給面の問題が解決され、作戦能力が向上する。ロッキード・マーティンはオランダ、イタリアと共同して同機運用の支援拠点作りを進めている。
- 2015年10月にオランダ政府はエンジンの試験・整備施設設置を100百万ドルで進める決定をしており、自国機材に加えイタリア空軍機にも開放する。イタリアは欧州唯一の最終組み立て点検施設FACOを稼働中で、イタリア向けF-35Bとオランダ向けF-35Aの最終組み立てを行う。将来は他のヨーロッパ各国向け機材の生産も実施する。
- 地域内協力では政治面にも影響が出ている。ドイツが更新しようとしているトーネードとは英独伊が1960年代に始めた共同開発の産物だ。ドイツはその後ユーロファイター・タイフーン事業でも開発生産両面で関与している。ドイツは登記上は両機種を産んだ多国籍企業の本社所在地だ。
- 過去の経緯からドイツが第五世代戦闘機をエアバスに求めようとするのは当然だろう。ドイツはエアバスに出資しており、ユーロファイターもエアバス傘下にある。アルベルト・ギュティエレス(ユーロファイター社長、当時)は2015年にFlightGlobalに対して無人機部隊を将来の戦闘機部隊の中心にする構想を述べていた。2017年にエアバス・ディフェンスアンドスペースのCEOダーク・ホークは構想は次世代兵器システム(NGWS)として検討が進んでいるとドイツ国内誌 Handelsblattに述べている。「現在のところは設計前検討段階で機体の姿を研究中」とホークは述べ、「はるかに先進的な新技術」を採用すると語っていた。
- その時点でエアバスはフランスとドイツ両国にNGWSの推進役を期待していた。だが両国間で事業の進め方で対立が生まれる可能性が出てきた。ドイツは新型機を2025年にも稼働させ85機残るトーネードと交代させたいとする。これに対しフランスでもミラージュ2000の旧式化が進んでいるが、2040年まで待ち最新鋭機材を運用したいとの考えだ。
- ドイツにはこの日程は受け入れがたい。ルフトヴァッフェはトーネード(1998年生産終了)の更新を今すぐにも始めたいところだ。ダーシュピーゲル誌が稼働可能なのは66機しかなく、ドイツ国外で運用できるのは38機しかないと暴露した。タイフーンも同様に109機導入済みだが「展開可能」区分されたのは42機しかない。翌年にドイチェヴェレ放送は状況はさらに悪化しているとする報告書を入手している。
- トルコのインチリック空軍基地からISIS戦闘員の偵察用にトーネード6機の運用を2016年1月に開始した直後に苦しい状況に直面した。ドイツ紙ダスビルドは翌月に改修済みのコックピット内照明が強すぎ、夜間飛行できないと伝えた。テロリストは夜間に移動し探知を逃れようとする。2016年11月には2機がエルビルに緊急着陸した。イラク内のクルド人自治区の首都である。飛行中に緊急事態に遭遇したためだ。その後の点検で機体はトルコへ戻れる状態と判定したが燃料タンクの欠陥はそのままだった。同分遣隊は2017年2月にイラク、シリアでソーティー750回2,300時間の飛行を達成している。
- 対ISIS作戦のような遠征作戦の実施の必要もあるが、本国近隣地での脅威でも対応が必要になってきた。ロシアはクリミア併合(2014年)をきっかけにNATOに一層厳しい姿勢を示しており、ドイツは国防方針見直しに迫られている。二十年間にわたりドイツ国防軍はゆっくりと縮小してきたがソ連崩壊(1991年)のあとでヨーロッパ内での軍事衝突の危険は減少していたのも事実だ。
- ドイツ国防予算は2017年に370億ユーロに増え、2020年までに390億ユーロになる見込みだ。NATO加盟国に求められるGDP2%相当の負担をめざすとドイツは再確認しているがすぐには実現できないとしている。予算以外に隊員募集に苦しみ、装備近代化のペースも冷戦終結後遅くなっている。ドイツがF-35導入の負担に耐えられるかがトーネード更新時の検討事項になる。消息筋が追加情報の請求にあたりJSF機体価格の低下動向を注視しているとロイターに伝えている。
- 将来の部隊編成構想で政界で意見が一致していない。ドイツは人道救済・平和維持活動で貢献しており、2017年時点でコソヴォ、イラク、レバノン、マリ、ソマリアの各地に展開している。「難民対策だけで300億400億ユーロを支出しているのは軍事介入策がうまくいかなったからだ」とドイツ外相シグマー・ガブリエルは述べ、国防予算増は「安定化効果に直結すべき」との考えだ。
- ロシア含む敵対勢力に対応できる十分な防衛体制を維持し、とくにNATOが実施中のバルト地方航空警戒態勢活動に参加するなかでトーネードの機材更新はドイツの即応体制維持に待ったなしである。米国や同盟各国は議論の種となったJSFに多大な投資をしており、2017年4月に米空軍はF-35の8機を英国に派遣し、JSF事業に批判的な筋とともにロシアにメッセージを送っている。その中で突如としてエストニア、ブルガリアにも機材を展開したことがこの見方を裏付けている。
- F-35やエアバスのNGWS構想のような第五世代戦闘機はルフトヴァッフェに必要な機材であり、とくにロシアが長距離対空レーダー、地対空ミサイル、高性能戦闘機を配備する中でその性能がドイツに必要だ。ただし2017年9月の国政選挙で優先順位付けそのものが変わる可能性がある。選挙戦ではロシアによる影響と干渉が懸念されている。
- トーネード後継機がF-35になるのか別の機材になるのかを考える際にベルリンはヨーロッパやその他で軍にを求める役割を明確に定義する必要がある。■
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