スキップしてメイン コンテンツに移動

★トルコクーデターで危機一髪だったエルドアン大統領、空軍の動きを中心にロイターが伝える



エルドアン大統領は強運の持ち主のようですね。今回のお粗末なクーデター事件の背景がよくわかります。なんか中途半端な反乱軍の動きですが、拙速になった理由があったのですね。一応戦略的にも重要なトルコの政体が転覆することなく良かったと思います。

At height of Turkish coup bid, rebel jets had Erdogan's plane in their sights

ANKARA/ISTANBUL | BY HUMEYRA PAMUK AND ORHAN COSKUN
クーデター事件被害者の葬儀で群衆に手を振るエルドアン大統領イスタンブール, July 17, 2016. REUTERS/ALKIS KONSTANTINIDIS

先週発生したトルコのクーデターで、反乱軍F-16の二機編隊がタイイップ・エルドアン Tayyip Erdogan大統領の搭乗機を視認していたが、大統領は難を逃れていた。
  1. 大統領は先週金曜日にクーデター発生の報を聞き、休暇中の保養地マルマリスMarmarisからイスタンブールへ戻る途中だった。
  2. 「二機のF-16が大統領機に嫌がらせをし、護衛の別のF-16二機にレーダーロックオンをした」と内部事情に詳しい軍の元関係者がロイターに語っている。「射撃しなかった理由は謎だ」
  3. 反乱部隊はマルマリスで襲撃しようとし、大統領が移動したあと同地を爆撃したとエルドアン大統領は述べている。上記高官も「数分の差で殺されるところだった」と述べている。
  4. マルマリスのホテルにヘリコプターで兵士25名が降下したのは大統領の移動直後で、明らかに大統領の身柄拘束をねらったものだとCNNトルコが報じている。
  5. ビナリ・イディリム Binali Yildirim 首相もイスタンブールで狙われたが間一髪で逃れたと関係者は述べている。
  6. ウェブサイトのフライトトラッカーFlight trackerによればガルフストリームIVビジネスジェット機(トルコ政府保有)がダラマン Dalaman 空港(マルマリスから1.25時間ほどの距離にある)を金曜日2240 GMTに離陸している。
  7. 銃声と爆発音はイスタンブール、アンカラの両都市で金曜日夜を通し聞かれたが、反乱部隊はトルコ情報機関本部と議会を首都アンカラで制圧しようとした。一時は国営テレビ放送で全国に外出禁止令を伝えさせようとした。
  8. だがクーデターの陰謀はエルドアン大統領に忠実を示す部隊による制圧で失敗し、大統領はCNNトルコに携帯電話から出演し、国民に街頭に出て支持を示すよう求めた。
  9. 今回の事件で290名以上の生命が失われ、うち104名がクーデター支持勢力で残りは一般市民と警察官である。
  10. 航空関係の反乱勢力の中心はアキンチ Akinci 空軍基地、アンカラから50キロ北東、のようで、少なくともパイロット15名が反乱部隊司令官の命令に従ったと上記元軍関係者が述べている。
  11. 国軍司令官フルシ・アカールHulusi Akarは反乱の最中に身柄を拘束されたが、後に救出された。アキンチ基地のジェット戦闘機は反乱部隊が操縦しイスタンブール、アンカラの上空を繰り返し低空飛行した。ソニックブームで民家の窓が破れ、住民が混乱した。
  12. アンカラ西方のエスキセヒルEskisehir基地からもジェット戦闘機が緊急離陸し、アキンチ基地を空爆し反乱部隊を制圧しようとした。反乱部隊の機体は空中給油を受け夜通し飛行を続けたと上記政府高官が述べている。
  13. この給油機はトルコ南部のインチリック Incirlik 基地から離陸しており、基地司令官は日曜日に逮捕されたと関係者が明かした。インチリック基地は米軍はじめ連合軍がイスラム国空爆の基地として利用している。
  14. 首都アンカラで関係者三名が元空軍司令官であり、高等軍事評議会(YAS)の一員、アキン・オズトゥルク Akin Ozturkが今回の陰謀を操った一人と断定している。オズトゥルクはじめ数千名の軍人が逮捕され、手錠をかけられ警察本部に連行されるオズトゥルクの写真が公表された。
  15. オズトゥルクは今年8月にYASを退任する予定で、本人の経歴が国軍ウェブサイトに残っており、生年は1952年だ。
  16. 二番目の首謀者としてムハレム・コセ Muharrem Koseの名前が上がっている。参謀総長付の法律顧問を務めていた人物だと上記首都関係者三名が述べた。コセはアメリカ在住の聖職者フェトゥラ・グレンFethullah Gulenの信奉者で、エルドアン大統領はグレンのネットワークがクーデターを実行したと非難している。
  17. コセは不適切な行為により3月に職を解かれたが、軍は除隊していないと関係者が明らかにした。本人の所在は不明。
  18. エルドアン政権は以前からグレンの信奉者が「並行政府機構」として司法、警察、軍、メディアを巻き込み、権力奪取を狙っていると追求しており、グレンは嫌疑を否定していた。
  19. エルドアン自身の政治基盤はイスラム主義にあるが、軍とは難しい関係を経験してきた。軍はトルコ世俗主義の守護者と自負し、三回のクーデターのほか、四回目ではイスラム主義手動の政府を政権の座から追い出した実績がある。
  20. クーデター失敗で将校数百名が逮捕されたが、エルドアン政権は司法の力で軍内部の反乱の芽を潰した格好だ。一部の嫌疑は解かれ、身柄拘束が止まっているが、軍内部の士気は傷つき、反感に火をついた。
  21. クーデター首謀者は軍内部でもっと支援が得られると楽観視していたようだ。
  22. カーネギーヨーロッパで客員研究員を務める元トルコ外交官シナン・ウルゲン Sinan Ulgenは「利用可能な装備が不十分で戦略目的の達成にはお粗末な装備しか準備しなかった。以前のクーデター成功例より今回は実施能力が相当低かった」と述べている。
  23. 一時はCNNトルコの放送を沈黙させ、放送局から局員を排除していた。放送再開でアンカーウーマンのネブシン・メングNevsin Menguは反乱部隊隊員は若く「目に恐怖が見え、献身的態度や決心のほどは見られなかった」と述べている。
  24. 前出元軍関係者によればクーデター首謀者が実施を焦ったのは政府の監視を受けているとわかったためだろうという。「明らかに準備不足でした。計画が漏れて、監視対象になったとわかったので、予定より早く行動に移す必要が生まれたのでしょう」
  25. またエルドアン大統領に群衆を動員する力があると見抜けず、大統領支持派は街頭に出てイスタンブール、アンカラ、その他で戦車やジェット機をものともしなかった。
  26. アキンチ基地があるカザン市の市長報道補佐官を務めるセルタック・コッチSertac Kocによれば地元住民はジェット機離陸が増えているのに気づいたという。
  27. 「ジェット機がアンカラの議会を攻撃し、イスタンブールの市民を狙ったと知り、自主的に住民は基地に移動し、やめさせようとした」とロイターに電話で伝えてきた。「住民は自分たちの車で道路を封鎖し、わらを燃やして離発着時の視界を妨害しようとし、基地への送電線を切断した」
  28. 反乱部隊が発砲し、住民7名が死亡したとコッチは述べ、全国では更に数十名の一般市民が命を失うトルコ史上最悪の流血の夜となった。■
(Additional reporting by Tom Miles in Geneva, Paul Taylor in Brussels; Writing by Nick Tattersall; editing by David Stamp)


コメント

  1. 本件については反乱軍の事情もあるが、それ以上にエルドアン大統領の軍への影響力が強い時期(軍事行動の最中)であった事、そしてなにより民衆の支持が得られなかった事が失敗の要因だろう。
    拘束を免れた大統領や首相は運が良かった。
    ただトルコが民主主義国家であることを考えれば民衆の支持を得られないクーデターは必ず失敗する。
    反対にクーデターに成功したタイでは大統領以下政府高官のスキャンダルで軍が政府機能を停止させた事に対して民衆からの反発はほとんど無かった。

    確かにエルドアン大統領の思想や行動は従来の軍の方針に沿う物ではないし、憲法すら反故にしようとする態度には将来的な不安を隠せないのも事実だ。

    それでもISISやクルド人勢力によるテロ活動、シリア情勢、更に難民流入やロシアとの摩擦といった逼迫した課題に対して強気なリーダーを求めているのがトルコの現状なのだから、将来的な不安や思想的な問題は国民にとってクーデターを正当化するに至らなかったのも頷ける。

    ただ、個人的には今回のクーデターを起こした軍関係者の処分は保留すべきだとも思う。
    トルコに今必要な物はクーデターやその後始末ではなく、国内の結束であり、外交的孤立を避けることだ。
    経済発展の余地、軍事プレゼンス、難民問題、どれもトルコが持つ強力なカードであり、失えばトルコのみならず中東の安定化は遠のくだろう。

    返信削除

コメントを投稿

コメントをどうぞ。

このブログの人気の投稿

漁船で大挙押し寄せる中国海上民兵は第三の海上武力組織で要注意

目的のため手段を択ばない中国の思考がここにもあらわれていますが、非常に厄介な存在になります。下手に武力行使をすれば民間人への攻撃と騒ぐでしょう。放置すれば乱暴狼藉の限りを尽くすので、手に負えません。国際法の遵守と程遠い中国の姿勢がよく表れています。尖閣諸島への上陸など不測の事態に海上保安庁も準備は万端であるとよいですね。 Pentagon reveals covert Chinese fleet disguised as fishing boats  漁船に偽装する中国軍事組織の存在をペンタゴンが暴露   By Ryan Pickrell Daily Caller News Foundation Jun. 7, 3:30 PM http://www.wearethemighty.com/articles/pentagon-reveals-covert-chinese-fleet-disguised-as-fishing-boats ペンタゴンはこのたび発表した報告書で中国が海洋支配を目指し戦力を増強中であることに警鐘を鳴らしている。 中国海上民兵(CMM)は準軍事組織だが漁民に偽装して侵攻を行う組織として長年にわたり活動中だ。人民解放軍海軍が「灰色」、中国海警が「白」の船体で知られるがCMMは「青」船体として中国の三番目の海上兵力の位置づけだ。 CMMが「低密度海上紛争での実力行使」に関与していると国防総省報告書は指摘する。 ペンタゴン報告書では中国が漁船に偽装した部隊で南シナ海の「灰色領域」で騒乱を起こすと指摘。(US Navy photo) 「中国は法執行機関艦船や海上民兵を使った高圧的な戦術をたびたび行使しており、自国の権益のため武力衝突に発展する前にとどめるという計算づくの方法を海上展開している」と同報告書は説明。例としてヘイグの国際仲裁法廷が中国の南シナ海領有主張を昨年7月に退けたが、北京はCMMを中国が支配を望む地帯に派遣している。 「中国は国家管理で漁船団を整備し海上民兵に南シナ海で使わせるつもりだ」(報告書) 中国はCMMはあくまでも民間漁船団と主張する。「誤解のないように、国家により組織し、整備し、管理する部隊であり軍事指揮命令系統の下で活動している」とアンドリュー・エリク...

海自の次期イージス艦ASEVはここがちがう。中国の055型大型駆逐艦とともに巡洋艦の域に近づく。イージス・アショア導入を阻止した住民の意思がこの新型艦になった。

  Japanese Ministry of Defense 日本が巡洋艦に近いミサイル防衛任務に特化したマルチロール艦を建造する  弾 道ミサイル防衛(BMD)艦2隻を新たに建造する日本の防衛装備整備計画が新たな展開を見せ、関係者はマルチロール指向の巡洋艦に近い設計に焦点を当てている。実現すれば、は第二次世界大戦後で最大の日本の水上戦闘艦となる。 この種の艦船が大型になる傾向は分かっていたが、日本は柔軟性のない、専用BMD艦をこれまで建造しており、今回は船体形状から、揚陸強襲艦とも共通点が多いように見える。 この開示は、本日発表された2024年度最新防衛予算概算要求に含まれている。これはまた、日本の過去最大の529億ドルであり、ライバル、特に中国と歩調を合わせる緊急性を反映している。 防衛予算要求で優先される支出は、イージスシステム搭載艦 ( Aegis system equipped vessel, ASEV) 2隻で、それぞれ26億ドルかかると予想されている。 コンピューター画像では、「まや」級(日本の最新型イージス護衛艦)と全体構成が似ているものの、新型艦はかなり大きくなる。また、レーダーは艦橋上部に格納され、喫水線よりはるか上空に設置されるため、水平線を長く見渡せるようになる。日本は、「まや」、「あたご」、「こんごう」各級のレーダーアレイをできるだけ高い位置に取り付けることを優先してきた。しかし、今回はさらに前進させる大きな特徴となる。 防衛省によると、新型ASEVは全長約620フィート、ビーム82フィート、標準排水量12,000トンになる。これに対し、「まや」クラスの設計は、全長557フィート強、ビーム約73フィート、標準排水量約8,200トンだ。一方、米海軍のタイコンデロガ級巡洋艦は、全長567フィート、ビーム55フィート、標準排水量約9,600トン。 サイズは、タイコンデロガ級が新しいASEV設計に近いが、それでもかなり小さい。Naval News報道によると、新型艦は米海軍アーレイ・バーク級フライトIII駆逐艦の1.7倍の大きさになると指摘している。 武装に関して言えば、新型ASEVは以前の検討よりはるかに幅広い能力を持つように計画されている。 同艦の兵器システムの中心は、さまざまな脅威に対する防空・弾道ミサイル防衛用のSM-3ブロックII...

次期高性能駆逐艦13DDXの概要が明らかになった 今年度に設計開始し、2030年代初頭の就役をめざす

最新の海上安全保障情報が海外メディアを通じて日本国内に入ってくることにイライラしています。今回は新型艦13DDXについての海外会議でのプレゼン内容をNaval Newsが伝えてくれましたが、防衛省防衛装備庁は定期的にブリーフィングを報道機関に開催すべきではないでしょうか。もっとも記事となるかは各社の判断なのですが、普段から防衛問題へのインテリジェンスを上げていく行為が必要でしょう。あわせてこれまでの習慣を捨てて、Destroyerは駆逐艦と呼ぶようにしていったらどうでしょうか。(本ブログでは護衛艦などという間際らしい用語は使っていません) Early rendering of the 13DDX destroyer for the JMSDF. ATLA image. 新型防空駆逐艦13DDXの構想 日本は、2024年度に新型のハイエンド防空駆逐艦13DDXの設計作業を開始する 日 本の防衛省(MoD)高官が最近の会議で語った内容によれば、2030年代初頭に就役開始予定のこの新型艦は、就役中の駆逐艦やフリゲート艦の設計を活用し、変化する脅威に対し重層的な防空を提供するため、異なるコンセプトと能力を統合する予定である。  防衛装備庁(ATLA)の今吉真一海将(海軍システム部長)は、13DDX先進駆逐艦のコンセプトは、「あさひ」/25DD級駆逐艦と「もがみ」/30FFM級フリゲート艦の設計を参考にすると、5月下旬に英国で開催された海軍指導者会議(CNE24)で語った。  この2つの艦級は、それぞれ2018年と2022年に就役を始めている。  13DDX型は、海上自衛隊(JMSDF)が、今吉の言う「新しい戦争方法」を含む、戦略的環境の重大かつ地球規模の変化に対抗できるようにするために必要とされる。防衛省と海上自衛隊は、この戦略的環境を2つの作戦文脈で捉えている。  第一に、中国、北朝鮮、ロシアが、極超音速システムを含むミサイル技術、電子戦(EW)を含むA2/AD能力の強化など、広範な軍事能力を急速に開発している。第二に、ウクライナにおけるロシアの戦争は、弾道ミサイルや巡航ミサイルの大規模な使用、EWやサイバー戦に基づく非対称攻撃、情報空間を含むハイブリッド戦争作戦、無人システムの使用など、新たな作戦実態を露呈したと説明した。  新型駆逐艦は、敵の対接近・領域拒否(A2/A...