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★★歴史に残る機体④ F-4ファントムII




ドイツ空軍 F-4 Phantom 2013.年撮影  U.S. Air Force photo

The F-4 Is a Great Fighter With a Bad Reputation

Phantom jets overcame their flaws

by SEBASTIEN ROBLIN
マクダネル・ダグラスF-4ファントムIIは伝説の域に達した機体で、ヴィエトナム戦の象徴であり第三世代戦闘機の典型と言える。1960年代から供用開始し合計5千機が生産され、現在も数百機が現役で活躍する大型超音速戦闘機だ。
  1. ヴィエトナム戦での空戦実績から同機は大出力エンジン推力と時代遅れの武器技術にあぐらをかいた不器用な大男との印象が生まれてしまったが、これは不当な言い方だ。
  2. ファントムの欠陥は1970年までに修正され、エイビオニクスや兵装は近代的標準仕様に変わっている。この性能改修型ファントムはトルコやギリシャでF-15同様の役目をずっと低い費用で実施している。
スペインの射爆場で爆弾投下演習をする米軍F-4。1986年3月。U.S. Air Force photo

戦火の洗礼

  1. 1958年に登場したF-4は革命的な設計とされ、すぐに航空記録を塗り替える飛行性能を示した。
  2. 巨大なJ79エンジンを双発搭載する同機は今でも優秀な推力性能を発揮し、重い機体をマッハ2、時速1,
  3. 473マイルまで加速する。
  4. 初期型は最大兵装18,000ポンドで第二次大戦時のB-17爆撃機の三倍の搭載量だった。後席に兵装士官が乗りレーダー、通信、兵装システムを扱い、パイロットは操縦に専念できた。
  5. F-4は地上運用型、空母運用型があり、米空軍、海軍、海兵隊に採用された。三軍が同時に使用した戦闘機は同機の後はF-35まで現れなかった。
  6. 軽量MiG-17やMiG-21戦闘機と初めてヴィエトナムの上空で対決するとファントムは被害を受けている。
  7. 朝鮮戦争で米空軍は空対空戦で米側一機損失に対し6ないし10機の敵機を撃墜したが、ヴィエトナムでは2対1近くになっていた。
  8. F-4が最初に遭遇した問題は機関砲がないことで、兵装はすべてミサイルという想定で最新式レーダー誘導方式のAIM-7スパロウと熱感知式AIM-9サイドワインダー、そして旧式AIM-4ファルコンを搭載していた。
  9. 空軍が初期型ミサイルがとんでもない存在だと気づいていなかった。
  10. 研究成果によればヴィエトナム戦時代のAIM-7では45パーセント、AIM-9の37パーセントが発射時やロックオンで不良となり、各機は慌てて回避行動をとっていた。このため撃墜の可能性は各ミサイルで8%、15パーセントしか期待できなかった。ファルコンミサイルはもっと悪く、ペンタゴンはまず同ミサイルを実戦使用から外したほどだ。
  11. 北ヴィエトナム空軍のMiGは機関砲とミサイル(MiG-21の場合)を両方装備し、重いF-4を出し抜く飛行ぶりを示し、全速度域でF-4は敏捷さが不足していた。さらに米パイロットは近接ドッグファイト訓練を受けておらず、空軍は空対空戦はミサイルで長距離から行う前提だったのだ。
  12. さらにJ79エンジンは黒い排気煙を発生し、機体の大きさと相まって遠隔地から位置を簡単に突き止められた。その一方で交戦規則で米パイロットは有視界距離外では未確認機の撃墜が禁じられ、せっかくのミサイル性能を自ら減じていた。
米空軍のF-4GがAGM-45シュライクミサイルを発射。1988年8月。 U.S. Air Force photo

各種改良策

  1. だがそこからF-4の問題は解決されていく。空対空ミサイル技術は大幅に改良され、スパロウ、サイドワインダーともに性能が上がっている。F-4EではM161ヴァルカン砲を最初から機内に搭載した。
  2. 以前はガンポッドで機銃を運用したファントムもあったが射撃時にひどく振動が発生した
  3. 1972年にフィル・ハンドレイ少佐のF-4がMiG-19を機銃で撃墜したが超音速での機銃による撃墜で唯一の例となった。
  4. さらに空軍はF-4Eに主翼スラットを付け操縦性を大幅に改良し速度を若干犠牲にした。新型J79エンジンは初期の黒煙問題を解決している。
  5. これに対し海軍は早い段階で航空戦闘操縦訓練の不足が問題の根源と認識し、トップガン教程を1968年に創設している。海軍パイロットの撃墜記録の方が優秀で7機のファントムを喪失したが40機を空対空戦で撃墜している。
  6. 空軍のファントムは空対空戦で喪失33機で107機を撃墜し、海兵隊も三機を撃墜と公表している。だが三軍で474機が地上砲火で撃墜されたのは大型のファントムに対地攻撃任務も課せられていたためだ。
  7. さらに派生型二機種も登場した。RF-4写真偵察型は速度を武器とし、ワイルドウィーゼルは敵の地対空ミサイル攻撃に特化した機体だ。
  8. 米軍がF-4を作戦投入したのは砂漠の嵐作戦が最後で機体は1996年に退役しており、一部はQF-4標的無人機に改造された。

中東

  1. F-4は世界に広く普及した。イスラエルは同機を広く稼働し1969年からの「消耗戦」でエジプト、シリアを相手に116機を撃墜している。
  2. ヨム・キッパー戦(1973年)の初日にエジプト空軍のMiG28機がオフィル空軍基地を奇襲攻撃し、ファントムは二機しか緊急発進できなかったが7機を撃墜している。
  3. イスラエルのファントムの主要標的で一番恐ろしい敵はアラブの地対空ミサイル陣地だった。SAMでイスラエルはファントム36機を喪失した。
  4. そのイスラエルのファントムも1982年のレバノン介入が最後の戦闘機会となった。F-15やF-16の護衛を受けたファントムはベカー渓谷でシリアのSAM陣地三十か所を一日ですべて壊滅させたが一機も喪失していない。
  5. イランは革命前に米国からF-4を225機供与されている。その後イラクと9年間続いた戦争でイラン空軍の主力装備となった。イラクのMiGに対し優秀な戦績を残したといわれる。またイラク石油施設への長距離空襲を数回実施している。ただしイラン発表の空対空撃墜比率は疑問がついたままだ。
トルコ空軍のF-4E。2014年6月。Royal Air Force photo

21世紀のファントム

  1. ファントムは一部国でまだ供用中だが、いかにも常軌を逸している。F-15イーグルと比較してみてほしい。
  2. F-15は1975年に供用を開始した第四世代戦闘機のはしがけと言える機体で今日でも主要空軍部隊の主力だ。F-15では意図的にF-4との違いが加えられている。やはり大型双発で二名搭乗だが敏捷なドッグファイターになった。
  3. F-15と軽量F-16が初めて実戦投入されたのは1982年のレバノンで両機種でシリアの第三世代MiGを80機撃墜しながら喪失はゼロだった。
  4. 第四世代戦闘機の優越性が再び証明されたのが湾岸戦争で、イラク戦闘機が撃墜できた第四世代戦闘機はわずか一機(F/A-18ホーネット)で逆にイラクは第三世代機33機を失っている。ではF-4に新しい環境で生き残ることができるのだろうか。
  5. 答えは簡単だ。第四世代機と同じ新型ハードウェアを搭載すればよい。
  6. トルコ空軍とギリシア空軍のファントムには共に新しいパルスドップラー式レーダーが搭載され、「ルックダウン・シュートダウン」性能が実現した。これまで高高度からのレーダー観測では抵抗う飛行中の航空機の捕捉は困難だった。レーダー波が地上から反射されるクラッターが原因だ。アクティブドップラーレーダーはクラッターを減らす。
  7. 今のF-4は各種新兵装の運用が可能となり、AIM-120 AMRAAM空対空ミサイルは射程65マイルで、AGM-65マーヴェリック精密誘導兵器やスパロウやサイドワインダーの後期改良型も搭載した。
  8. これでF-4も第四世代機のF-15やSu-27と同等の兵装運用性能を手に入れたことになる。
  9. 電子装備や計器類は旧式なままではない。近代化改修を受けたF-4はヘッズアップディスプレイも搭載しており、パイロットは計器盤をいちいちチェックしなくてもよい。
  10. ドイツは改修型F-4Fを2013年まで稼働させたが、現在は非常時に備え機材を備蓄している。韓国はF-4Eに中程度の改修を加え71機運用中だ。日本はF-4EJ改にパルスドップラーレーダーと対艦ミサイルを搭載した。.
  11. 改修ではイスラエルが1980年代にファントム2000クマス(大槌)で先鞭をつけている。すでにイスラエルでも同機は2004年に退役しているが、イスラエル企業はギリシアのピース・イカルス・ファントム41機にANPG-65パルスドップラーレーダーとAMRAAMミサイル運用能力を与える改修作業を実施した。
  12. イスラエルはトルコ機ターミネーターも改修し主翼ストレーキの追加で操縦性を向上している。.延長20キロの配線を取り換え1,600ポンド減量に成功している。またセンサーと電子装備も近代化している。兵装ではペイヴウェイ爆弾、HARM対レーダーミサイル、また射程48マイルのポパイミサイルの運用が可能となった。
  13. ターミネーターは対地攻撃が主任務で評判の悪い任務にも投入されてきた。クルド人抵抗組織PKK戦闘員をトルコ国内とイラクで空爆している。その間にRF-4偵察機がシリアで撃墜され2015年にはF-4が三機墜落しているため、トルコのメディアでは「空飛ぶ棺桶」の異名がついた。
  14. イラン空軍によれば2009年時点でF-4D、E型あわせて76機が稼働中でRF-4も6機あった。イランはロシアや中国製の対地、対艦ミサイルの運用のため機材を改修したといわれるが、空対空ミサイルではAIM-7スパロウの中古品が中心だ。また補修部品も密輸により確保しているのはF-14トムキャットと同じだ。
  15. イランのファントムもイスラム国の空爆に2014年12月に投入されており、現在もペルシア湾上空で米軍偵察機や無人機と追いかけっこをしている。
  16. だが強化したとはいえF-4が本当に第四世代機と互角に戦えるのだろうか。21世紀に入ってファントムの空戦記録はないがギリシアのF-16とにらみ合いをしたファントムはある。また演習だが中国のSu-27と模擬空戦をし0対8の結果で勝っている。
  17. また主翼スラットを装着したF-4が180度方向転換をする画像を見ると、F-15と比べると両機種とも旋回を終えるのにともに7から8秒で差がないことに気づくはずだ。ただしF-15の方が制御は容易にできている。
  18. だからと言って改修F-4がその後登場した機体より優秀というわけではない。これだけの重量の機体を操る性能として第四世代機並みというだけだ。
  19. ファントムは長年にわたり性能とともに順応性を発揮してきた。初飛行の1958年にまさか同機が60年近くも第一線で活躍すると想像できた人は少ないはずだ。■



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