小説「2034年」の共著者エリオット・アッカーマン、ジェイムズ・スタヴリディス海軍大将に執筆の背景、個人の経験、心配な事項を聞いた。
Elliot Ackerman and Admiral James Stavridis, authors of the novel 2034.PHOTO-ILLUSTRATION: SAM WHITNEY/GETTY IMAGES/ALAMY
COURTESY OF PENGUIN RANDOM HOUSE
Wiredは小説2034: A Novel of the Next World Warの抜粋を六回に分けて公開した。
「国旗を掲げず無理やり航走してくる船舶があり、遭難信号も出していない。何か変だ」
Part II: ワシントンDCが連絡不能へ
「目まぐるしいほど多くの事件があった。Wen Rui、F-35、エアフォースワン...でもどれも報道がない。すべて隠ぺいされている」
Part III: 生存者はひとりのみ
「攻撃に向かってくる機体が見えず、艦の乗員は全員沈黙に包まれた。なぜ仕留めに来ないのか」
「千年後にはアメリカは国家ではなく、一瞬の出来事として記憶に残っているだろう」
「ブラックホールの中のどこかに中国艦隊がいる。司令官はその位置を突き止め撃破するよう期待されている」
「米軍には最終的に見つかるだろうが、その時ではもう遅すぎる」
今年初めWIREDは2月号で小説2034年を特集した。その後6回に分け原作短縮版をウェブ上で公開した。今回は最終回として共著者とのインタビューを掲載する。
マリア・ストレシンスキー(WIRED): 執筆のきっかけは?
ジェイムズ・スタヴリディス海軍大将: 何年も前に読んだ小説で、米国とソ連の世界規模の戦闘を描いたサー・ジョン・ハケットの「第三次世界大戦」から着想を得た。
ここ数年にわたり中国と米国が冷戦に向かう状況が現実味を帯びてきた。ヘンリー・キッシンジャーが「まだ冷戦ではないが、冷戦の入り口にきている」と発言したのを覚えているだろうか。
そこで考え始めた。中国との戦争をどうしたら回避できるか。ソ連との戦争は回避できたが、実際に開戦となっていれば恐ろしい結果が生まれていただろう。そこで「第三次世界大戦」が道しるべになった。
ストレシンスキー: おふたりとも深い知識に基づいて執筆されている。小説の筋はどこまで現実なのだろうか。どの程度までお二人の経験に基づいているのか。
スタヴリディス: 登場人物で自分の経歴から一番身近なのがサラ・ハントだ。違いは多い。サラは自分より背が高く、髪の毛も多い(笑)。だが二人の経歴は似ている。彼女は准将で自分も准将だった。駆逐艦戦隊の司令官で南シナ海に展開した。実際に冒頭場面にあるように中国漁民を救難したことがある。こうした経験を活用できた。
また空母打撃群の司令という重責を得たのは幸運だった。サラも同じ立場になった。だから状況はよくわかる。また司令官としてサラは不安な状況に置かれるが、指揮官なら同じ経験はある。
エリオットは小隊、中隊の指揮官を経験し、30回もの戦闘を経験している。次の状況は誰にも予測できない。サラも同じだ。
エリオット・アッカーマン: 作中でサラが抱く疑念は自分も経験したことがある。友人が傷つくのを見れば答えが出てこない厳しい課題に直面する。
ストレシンスキー: 南シナ海事件の描写は経験に基づいているのでは。
スタヴリディス: とても現実的なものだ。
ストレシンスキー: 他にどこから着想を得たの?
スタヴリディス: 戦闘発進の部分は現実に近い。1990年代には国家安全保障会議で働いた。シチュエーションルームがどんなところか知っているし、行政府ビルからホワイトハウスのウェストウィングに移動するのも経験している。コードレッドについても詳しい。
ロシア側の登場人物コルチャックはロシア人の経験に基づく人物だ。NATOの最高司令官をしていたからね。また中国大使館付き武官 Lin Baoが醸し出す雰囲気が好きだ。両方の世界に詳しい人物だね。フレッチャー時代のクラスメートに中国人がいて、米国で教育を受けており、この男がまさしく両方の世界に足を踏み入れていた。Lin Baoは魅力ある人物だが複雑な人物だね。
そしてエリオットがウェッジのもとになった人物を知っている。
アッカーマン: うん、そうだね。作中のウェッジはパイロットで海兵隊戦闘攻撃飛行隊323デス・ラトラーズの指揮官となる。親友の一人が実際にこの瞬間にペルシア湾にデスラトラーズ指揮官として出動中なので、敬意を表し、同飛行隊の設定にしたんだ。
執筆する小説では登場人物の内面を描くことが多いよね。一定の地点を超えると人物がみんな自分になってしまうんだ。各自が自分の一部を切り取った人物になるんだ。
例えば、ウェッジは冒頭でくりかえし祖祖父が第二次大戦で示した実績に触れている。本人は同様の功績をあげる機会は来ないと思っている。私自身はパイロットではないが心情的に同じような心の旅路が理解できる。その他の登場人物でも国家安全保障会議のチョードリーがおり、複雑な経歴の持ち主で離婚も経験している。私も離婚している。
さらにDCで暮らしてきた。政府で働き、極秘の政府の仕事で名を秘して働いたこともある。チョードリーがこのことを語っている。本人の性格の一部だ。作中では実際の経験が反映される。意識下の話も登場人物の一部になっている。
ストレシンスキー: こうした登場人物の性格付けをもとに一読してみたら、強い感情を持った。こう問い続けている。どうして止められなかったのか。ボタンを押してはいけない。爆弾投下してはいけない。この本は強い警告を発している。でも自制心があるのに止められない。私自身も同じなのか。軍の組織内だからこうなるのか、指揮命令系統の中では避けられないものなのか。
スタヴリディス: 軍に限った話ではない。むしろ、社会、人間全般にかかわる話だろう。ここ百年の歴史を見てほしい。種として進化したはずで、各国が交易し、女性や少数派の権利が上がり、その他素晴らしい成果がこの百年で実現した。ただし世界大戦が二回発生した。合計すると80百万人が殺害されたのが20世紀だ。
二度の大戦で誤った指導者もいた。事態の悪化を止められたはずなのに止めなかった。特に第一次大戦では血縁でつながった各国が結局ずるずると破滅的な戦争に進んだ。
アッカーマン: お尋ねの問いは本書の中心テーマだ。人間はなぜ何度も何度も繰り返しているか。著者はともに戦争を終わらせたいと考えている。アメリカの世紀は二回の世界大戦で特徴づけられた。ともにアメリカが始めた戦争ではないが、終わらせたのはこちらだ。その結果、大繫栄時代を迎えた。では米中間で戦争が始まれば、どうやって終戦させるのか。両国にとって益のある形で終結できるのか。このテーマが作中通じ繰り返し問いかけられている。
スタヴリディス: 本書は未来を予見するものではないと強調したい。このような事態に足を踏み込まないよう警告している。また、これからの傾向を示した本でもある。
ストレシンスキー: 心配になる傾向には何があるのか
スタヴリディス: 第一に米国への大規模サイバー攻撃だ。敵陣営はサイバー技術をステルスにし人工知能を利用しわが国に向けている。
二番目に米中両国が実際の開戦に向かう事態を憂慮すべきだ。発生するとすれば南シナ海だろう。なぜなら両軍の実力が拮抗しているからだ。南シナ海から意図しない結果が生まれる。
またイランやロシアといった国の役割にも注意を喚起している。イラン、ロシア両国がかつての帝国の後を引き継ぐ国家であることが興味深い。ともに栄光の時代は終わっている。それでも国際分野で相当悪いことを行う力がある。エリオットはどう思う?
アッカーマン: 今回のプロジェクトの前はもっとよく眠れたね。
ストレシンスキー: 本書を読了する前は寝つきがよかった。
アッカーマン: 現実世界のイベントが原稿より先に現実に発生していることだ。とくにカセム・ソレイマニ、イランの革命防衛隊のクッズ部隊司令官が無人機により暗殺されたのが2020年1月だった。原稿の先の版では本人が何度も登場しており、2034年時点でも存命の想定だった。そこで書き直しになったが、コロナウィルスが発生した。これも言及する必要が出た。
思い返すと執筆を始めた時点とは全く違う世界になっている。となれば2034年の世界などだれにも想像できないことになる。
スタヴリディス: そうだね。書き始めた段階ではトランプ政権が中国と貿易交渉にあたっており、うまくいきそうな感触だった。執筆を始めると対中関係が悪化の一途となった。バイデンに代わってもコースが逆転するとは考えられない。ということでご指摘の点の通りだ。われわれは小説2034の世界に近づいている。
アッカーマン: そもそも2034という年号からスタートしたのではない。もっと先の未来を考えていた。でも執筆が進むと年号は近づいて、これはまずいぞと気づいた。実際に事態は発生しつつある。
ストレシンスキー: 11月の大統領選挙と1月6日の米議会占拠事件の間に作中の警告のメッセージで変化は生まれたのだろうか。
アッカーマン: 小説の結末に向かうところでチョードリーがリンカーン演説について考察している。リンカーンは「欧州、アジア、アフリカのすべての軍隊が連合し、世界の富がすべて各国の手にわたり、ボナパルトが司令官となっても、オハイオから水一滴も、ブルーリッジに足を踏み入れることは一千年かけても実現しない....自由国民の国家としていかなる時も存続を維持するか、できなれば自害する」というもので、選挙が終わり議事堂占拠までは「自害」に向かっていたといえる。だがこの回避方法は見つかるとの希望がある。
ストレシンスキー: 現実世界でこうした声が大きくなれば安心して眠れるようになるかな。
スタヴリディス: 1月21日になり、バイデンチームに主役が変わり、中国への対処、サイバーセキュリティ、貿易関税問題、5Gネットワーク、南シナ海、人工島構築等の深い知識があり安心した。
このチームなら中国に対応できる戦略を構築できると期待している。ここ四年は事案ごとに戦術対応しただけでマー・ア・ラゴでの夕食会から疑似合意になった貿易問題も航行の自由作戦が南シナ海で展開した事実に遠く及ばない。すべて戦略的な意味での手段、結果、方法につながらない。バイデンチームは戦略を打ち立てるはずで、専門家の意見を拝聴するだろう。以前より意味のあるアプローチを示すはずだ。
だからといってグローバルシステムで一定の地位を占めようとする中国にこちらから妥協する必要もない。その時代は終わった。中国は戦略、作戦案を用意している。一帯一路と呼んでいる。バイデンチームはこれを十分認識している。また我々も戦略面を同時に考えていく。どうやって戦争を回避するか、国際社会の主導的立場を中国にむざむざ渡す必要はない。これをしたら米国の間違いとなる。カギを握るのはインドだと思う。
ストレシンスキー: 小説ではインドが大きな役割を果たしている。フィクションなのはわかっているが、インドの将来についてどこから着想を得たのか。
アッカーマン: 小説家として人間の行動にパターンがあるとみている。2034の中ではインドがグローバル大国として台頭しているが、その行動様式には米国を思わせるものがある。小説の大きな教訓は戦争を始める国になってはならない、戦争を終わらせる国になるべきという点だ。アメリカの優位性が20世紀に確立した際の教訓だ。この国は第一次大戦、第二次大戦ともに始めていないが、終わらせたのはこの国だ。その結果がほぼ一世紀にわたる世界支配を生んだ。では次の大戦に火をつけることを回避できる賢明さが残っているだろうか。ないのであれば、どの国なら終了させられるのか。
ストレシンスキー: おふたりとも現政権で働きたいと思っているみたいね。
アッカーマン: 押しつけがましい小説を書くような連中が必要となればね。(笑)
スタヴリディス: 作家兼評論家という役割で十分だよ。今回のWIREDとの仕事に興奮しているんだ。大のヘミングウェイのファンでね、彼の「老人と海」は全編ライフに連載されたんだ。
ストレシンスキー: それに近いことをWIREDがやってます。マイクロソフトの反トラスト法裁判で丸々一冊を使っていた号が数年前にあった。
アッカーマン: ぼくたちの小説のほうが反トラスト法よりは興奮度が高いと思うけど。
スタヴリディス: そうだな、反トラスト法裁判とヘミングウェイ小説の比較なら、我々の勝ちだな。■
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