日本は安部前首相が提唱した積極的貢献策を継続し、域内平和と安定に役立てるとする菅首相の姿勢を最新の防衛白書で確認した。
「力が正義となる」動きを食い止めようと白書は広範な外交努力でルールに基づく秩序を守る日本の姿勢を強調している。2016年版白書で登場した「自由で開かれたインド太平洋」の実現をめざす三本柱に法の支配、経済面の繁栄、平和安定を掲げている。
最新版白書はワシントン、キャンベラが好意的に受け止めているが、北京は予想通り非難してきた。特に台湾に関するくだりで「台湾が日本の安全保障とともに国際社会の安定に重要」と明確に表現したことで反発を招いている。習近平は「国家再統一」を繰り返しており、米インド太平洋軍は今後六年以内に武力衝突が発生すると警告し日本にも警戒心が生まれていた。
台湾海峡から域内全体にかけての軍事力バランスが中国に優位に推移していることから白書では日本は「これまで以上の危機感を持って状況を注視すべきだ」としている。日本は台湾と友好関係を維持しているが、同国への大っぴらな支援は避けてきた。2021年版白書ではこの方針で変化が進みつつあるとしている。台湾支持派で知られる麻生太郎副総理が中国が台湾侵攻に踏み切れば「日米で台湾防衛に協力すべき」と発言したことが大きい。同発言は撤回されたものの、日米両国は「一つの中国」原則を形式的に口にしているに過ぎない。一方で東京の空気はワシントン同様にこれまで以上の台湾支持に傾いており、麻生以外に岸信夫防衛相含む政策決定層が台湾への共感を強めている。
白書では中国が日本へ向けた強い主張を向ける背景に軍事力増強を取り上げている。日本は尖閣諸島をめぐり東シナ海でまさにこの実例に直面している。白書は「中国は力により既成事実を一方的に変更しようとしており、尖閣諸島周辺海域が重大な懸念事項となっている」とした。典型的なグレイゾーン戦術として中国沿岸警備隊艦艇が日本領海侵入を繰り返している。白書は中国の海上警備法改正特に武器使用の許可へ懸念を表明している。
白書では安全保障上のその他懸念事項も列挙し、北朝鮮が核戦力整備を止めていないこともあるが、自然災害に関連して環境面の課題にも触れている。
白書は言葉を並べただけではない。日本が域内外交と安全保障でこれまで以上に前向きな役割を果たすのを支援すべく、日本の防衛技術の最新動向に触れており、特に宇宙、サイバー空間や電磁スペクトラムの新しいドメインに触れている。その背景に9年連続で増額となった防衛予算がある。
状況を一変する防衛技術に人工知能、極超音速兵器、量子コンピュータや5Gがあり、日本は各国と共同開発を進めている。白書では日本版トマホークと呼ばれるスタンドオフミサイルを攻撃手段として取り上げている。ただし、国内および国際法秩序の枠組みの中で先制攻撃には投入しないと明記している。
また白書は域内安全保障は「一国のみで対処できない」と認識している。防衛力と合わせ外交力を適正に活用することが域内各国を支援する日本の動きにカギとなる。米国との長年に及ぶ同盟関係では着々と強化が進んでおり、軍事力に加え外部への影響力、さらに米国も自由で開かれたインド太平洋原則を採択して日本を外交面で支援している。
オーストラリアも同原則を事実上支援する側で、同国政府は日本と「特別な戦略的パートナーシップ」の強化を進めている。在オーストラリア日本大使山上信吾は東シナ海問題でのオーストラリア支援を求めた。インドも日本が域内秩序の維持で頼りにする国で、四か国による安全保障対話を通じ提携関係の構築をめざす。
最新版白書への批判がさっそく北京から出ており、外交チャンネル、報道機関を利用し台湾に関する記述を問題視している。批判はさらに白書のデザインにも及び、表紙を騎乗侍にしたのは「好戦的」で軍国主義復活を匂わせるとまで主張。
とはいえ、域内での戦略競合状況が進み、日本は安全保障環境の悪化が進むと認識しており、白書は積極外交、国内防衛力整備、同盟国友邦国との協力強化を通じ国益を堅持しつつ法に基づく秩序を域内で実現していくとする菅政権の決意を明確に示している。■
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Japan Signals More Robust Security Posture in New Defence White Paper
By Thomas Wilkins & Daisuke Akimoto
July 30, 2021
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