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「核を嗅ぎ分ける」特殊改装コンスタントフィーニクスが8月5日にバルト海上空で特異なフライトを展開した背景に核事故があったのか?

 An Air Force WC-135 Constant Phoenix aircraft.

USAF

空軍に1機しかないWC-135Wコンスタントフィーニクス「核嗅覚機」が本日8月5日バルト海上空を異例の形で飛行した。同機は通常は飛行中に集めた大気標本から放射線レベルの急上昇を探知するのが役目だが、核実験後や原子力事故後の情報収集や、放射能物質の拡散を追跡することもある。

このWC-135Wは機体番号61-2667でコールサインをジェイク21とし、RAFミルデンホール基地から離陸したのがフライト追跡サイトADS-B Exchangeで判明している。

ADS-B EXCHANGE

WC-135W コンスタントフィーニクス機体番号61-2667の本日のフライト経路をADS-B Exchangeデータで示した。

USAF

WC-135W コンスタントフィーニクス(61-2667)

同機はオランダ、ドイツ、ポーランド上空を通過してから北に転じバルト海上空に到達した。その後バルト海上空を一定のパターンで飛行してから、同じ航路で帰投した。オンラインのフライトデータを見るとバルト海上空を5千から6千フィートで飛行している。だが往復移動では20千から30千フィートだった。

ADS-B Exchangeのデータでは同機は7月28日にネブラスカのオファット空軍基地を出発し、ミルデンホールに7月31日到着している。英国に移動してから本日まで一回も飛行していない。

だがバルト海上空を飛んだコンスタントフィーニクスの目的がはっきりしない。The War Zoneは第16空軍の空軍技術応用センター(AFTAC)に照会し、詳しい情報を求めた。AFTACは機密性の高い組織でWC-135W機上の各種センサーを運用している。同センターの主たるミッション1963年の部分的核兵器実験禁止条約の関係者へ地上核実験が行われていない裏付けを提供することだが、他の核関連イベントも監視している。

ソーシャルメディアがさっそくとびつき、ロシアの原子力艦艇二隻が今回のフライトに関係していると主張する向きが出たが、関連があるか疑わしい。

今回のフライトのほぼ一週間前にロシア海軍のオスカーII級原子力誘導ミサイル潜水艦オレルがバルト海から北海への移動中に機関故障を起こしていた。

ROYAL DANISH NAVY THIRD SQUADRON VIA FACEBOOK ロシア海軍のオスカーII級原子力誘導ミサイル潜水艦オレルはデンマーク沖合で機関故障に見舞われた。

ロシア海軍も以前のソ連海軍同様に事故を多発させているが、原子力潜水艦オレルの原子炉に問題が発生し放射能漏れが発生した兆候はなく、同艦は自力で航行を続けたものの、推進力喪失の理由は不明だ。また61-2667機が英国に到着したのは同艦で故障が発生した後のことで、同機はその前からミルデンホールに向けて飛行中だった。

ロシアが建造した4隻の原子力砕氷貨物船のうち唯一供用中のセブモルプチがオンライン船舶追跡サイトではフィンランド湾内を航行していたのが判明している。2020年11月ロシア国営原子力企業ロサトムの北海航路局長ヴャチェスラフ・ルクシャは同船のプロペラ四基のひとつが破損したためサンクトペテルブルグの乾ドックに向かうと発表していた。破損の原因は不明だが、同船は今年に入りアンゴラ沖合を航行中だった。

KINBURN VIA WIKIMEDIA

セブモルブチは2020年2月にバルト海を航行していた

セブモルプチの現在の状況はわからず、プロペラ修理を終え公試中の可能性がある。だが、同船の原子炉が原因でトラブルが発生したとの報道は出ていない。61-2667機のフライトはフィンランド湾は対象としておらず、同地より南方海上の飛行経路をとっていた。

バルト海上空のフライトでは天候条件により放射性粒子を捉えるため、さらに北方や東方へ飛ぶことがある。ロシアは原子力推進の核巡航ミサイル、ブレヴェスニクをさらに北東に位置する白海でテストして物議をかもしたのが2019年のことで、開発は北極海のノヴァヤゼムリヤでのテストに変更された。

同地にはロシアの海軍基地数か所があり原子力潜水艦の母港として、民生用原子力発電所、核廃棄物処理場もあり、以前も放射能レベル急上昇の観測結果が得られている。昨年夏にも同じ現象が発生し、原子力発電所あるいは廃棄物処理施設での事故が疑われた。

コンスタントフィーニクス機は世界各地に派遣され空中放射線レベルに異常がないかをAFTACの部分核実験禁止条約に基づき観測していいる。AFTACからは2017年にコンスタントフィーニクスが北極海上空に派遣されたのもこの目的のためだったと説明が出ているが、当時は放射性ヨウ素131が大気中に高レベルで検出され、ロシア北西のコラ半島が発生地とわかった。ヨウ素131は核分裂反応の副産物で、濃度急上昇は核実験あるいは何らかの核事故の発生を示唆する。

61-2667機のフライトが通常の形だったのかはともかく、「核の嗅覚探知」能力が空軍で限られていることがあらためて明らかになった。前述のとおり、WC-135は一機しかなく、もう一機のWC-135C(62-3582)は昨年退役している。

両機とも1960年代の製造機をコンスタントフィーニクス仕様に改装されたもので、現在は運用維持が著しく困難になっている。62-3582では大きな問題がたびたび発生する中で廃止された。61-2667機もオーストラリアのRAAFアンバリー基地で今年初めに機械関係の故障で二カ月にわたり飛行不能状態になっていた。

空軍はKC-135Rの三機をWC-135Rに改装し、コンスタントフィーニクスミッションの実行能力拡張を企画しているが、追加機材がいつ運用可能になるか不明だ。ポッドに収集システムを搭載して別機材での運用もめざしており、無人機で同じ機能を実現する日が来そうだ。

とはいえ、本日の61-2667のバルト海上空飛行には興味が集まり、The War Zoneは追加情報が入り次第、情報を更新する。■

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Curious Mission Flown Over The Baltic Sea By US Air Force Nuke Sniffing Plane

The Air Force only has one Constant Phoenix jet, which is used to collect air samples that could show evidence of nuclear testing or accidents.

BY JOSEPH TREVITHICK AUGUST 5, 2021



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