BELL TEXTRON
ベルが高速垂直離着陸機HSVTOLの構想を発表し、米特殊作戦部隊が関心を示している。同社のHSVTOL構想は「ヘリコプターのホバリング機能に戦闘機の速力、航続距離、生存性を組み合わせるのが狙い」と同社は発表。空軍で供用中のCV-22Bオスプレイ等ティルトローター各型の後継機になる可能性がある。
発表されたHSVTOL構想には三型式あり、一つは無人機仕様だ。各型は翼端の推進用ローターで垂直離陸するが、その後ローターは格納し抗力を減らし、ターボファンで高速水平飛行を行う。ベルはこの構想を特許申請している。
USTPO (TRADEMARK AND PATENT OFFICE)
初期のベルHSVTOL設計研究内容の特許申請より
今後登場する「変換型エンジン」がHSVTOLの動力となり、ターボシャフトからターボファンへモード変換して離陸用、巡航用でエンジンの使い分けが不要となる。翼端ナセルに空気取り入れ口が見当たらないことからハイブリッド電気推進がローター回転に使われるのだろう。ジェットエンジンは発電用に使い、ローターを回転させる仕組みのようだ。
ベルの構想図のうち二型式は有人操縦のようでコックピットへのアクセスドアがついているが、三番目の機体は無人機のようだ。各型式の推進系は共通のようだ。ただし、詳細面で各型式に違いがあるようで、エンジン用インテークの配置が異なり、テイルフィンにも違いがある。機体は低探知性のようである程度のステルス性能を盛り込んでおり、格納式ローターもこの一環だろう。
「ベルのHSVTOL技術は回転翼機の性能を飛躍的に伸ばす」と同社のイノベーション部門副社長ジェイソン・ハーストが述べている。「当社による技術投資でリスク低減が実現しデジタルエンジニアリングの応用で短期間でHSVTOLを開発できた。背景にこれまでの技術蓄積とあわせ国防総省下の諸研究機関との密接な協力がある」
同機の性能は明らかにされていないが、ベルは「新推進技術」としており、変換型エンジンに言及している。さらに、同社はHSVTOL設計構想の詳細面にも触れている。そのうちホバリング機能についてCV-22Bよりダウンウォッシュが減り、ジェット機並み巡航速度400ノット、滑走路不要、ホバリング維持時間の長さ、さらに各種ミッションに応じた柔軟な運用をうたっている。
ベルによればHSVTOLの機体自重は4千ポンドから100千ポンドまでとあり、今回発表の3型式以外に別の機体の開発を示している。比較するとCV-22Bは60,500ポンドである。三機並んだ想像図の左の機体はオスプレイを上回る大きさで、中間にはオスプレイ並みの大きさとなっている。三番目の無人機は逆に小型となっている。機体の大きさは自由に変更できる仕様のようだ。
ベル発表の想像図で興味を引くのは有人操縦仕様の二型式のうち大型機に輸送機同様のテイルフラッシュがついていることだ。小型版にはノーズアートが描かれ機体下にセンサータレットがつき、全体としてCV-22Bに通じる強襲輸送機の外観を呈している。無人機型は兵装搭載が可能で大型HSVTOL機の援護任務を想定しているようだ。
BELL
大型版有人HSVTOL構想の想像図を拡大してみた。米空軍標識がついている。機体上部に空気取入れ口がつき、テイルフラッシュは輸送機、給油機と同様のものだ。
BELL
有人機版のうち小型のものを拡大すると、シャークマウスのノーズアートが描かれセンサータレットが機体下に見える。
BELL
無人機版HSVTOLの想像図の拡大。
報道発表でベルは高速垂直上昇機の技術の系統にも触れており、X-14、X-22、XV-3、XV-15を同社がNASA、米陸軍、米空軍向けに開発してきた実績を強調している。現在のベルはボーイングと共同でV-22オスプレイティルトローター機を製造している。
ベルは今年4月に総額95万ドルでHSVTOL研究契約を空軍研究本部(AFRL)から交付されている。一か月後に空軍特殊作戦軍団の固定翼機開発統括ケン・キューブラー大佐は同軍団はベル構想含む各社の技術はHSVTOL要求水準を満たす可能性があると認めた。
インキュベータ機能を果たす空軍のAFWERXはHSVTOLの画期的な性能実現をベル以外の企業にも期待している。
AFWERXが各種コンセプトを期待し速力、航続距離、生存性、ペイロード、機体サイズで将来のHSVTOL要求内容の実現を求める一方で、ベルは機体サイズを各種提供する方向のようだ。HSVTOLは将来型垂直輸送機(FVL)より野心的な要求内容でありながら、実現までの時間軸は同じようだ。
一方でAFWERXはHSVTOLの「重要ミッション性能」を定義しており、特殊作戦部隊の投入、撤収や人員回収、医療搬送、戦術機動性を内容としているが、応用分野はさらに広がり、現在は各種固定翼機・回転翼機が行うミッションの肩代わりも想定している。
空軍特殊作戦軍団もCV-22Bの後継機種の企画を始めようとしており、オスプレイの時速280ノット以上をめざす。AFSOC司令官ジェイムズ・スライフル中将は「ジェット機並みの速力」が欲しいとかねてから述べており、ベル案のHSVTOL構想が同じ方向性を示している。
高速VTOLは迅速展開かつ高い生存性を実現し、通常の滑走路等インフラに依存せず、ペンタゴンが目指す分散型運用を実現する手段となる。とくに将来の同等の戦力を有する相手とのアジア太平洋作戦で活躍が期待される。
となると、中国も同様のねらいで開発を進めていてもおかしくないわけで、タスタービンと電気推進のハイブリッド機の戦闘用回転翼機が今年初めに姿を現している。ベル構想同様に中国も折りたたみ機構を採用し前方飛行時の抗力削減をめざしている。
高速VTOL飛行の実現には相当の技術課題が控える。とはいえ、米国以外でもこの性能の実現を目標とし、実現に真剣さが増してきたのは明らかだ。■
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Bell Unveils VTOL Aircraft Concepts That All Feature Fold-Away Rotors For Jet-Speed Flight
BY THOMAS NEWDICK AUGUST 2, 2021
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