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核兵器だけじゃない。北朝鮮の化学兵器の脅威をもっと真剣にとらえるべき。本当に面倒な国になっている原因は目的のためには手段を問わないとする思考方法にあるのではないか。

 

NK News

 

朝鮮には5000トンもの化学兵器貯蔵量があり、有事に使用する可能性は高い。

北朝鮮の化学兵器は核兵器の影に隠れることが多くなっている。しかし、危険度は高いままだ。朝鮮人民軍(KPA)が劣勢になれば、化学兵器の投入が一層重要になる。北朝鮮が化学兵器を使用する可能性はほぼ確実で、群衆制御から致死性の高い神経ガスまでの使用が想定される。

 

化学兵器を前線で使えば、局地的戦術的な優位性を実現できる。また航空基地を攻撃すれば敵戦力を無力化できる。北朝鮮にはミサイルや火砲が豊富にあるので、遠隔地攻撃も可能だ。北朝鮮が化学兵器攻撃を非武装地帯からプサンまで南朝鮮全域を対象に展開する事態が発生しそうだ。

 

有事となれば、KPAの化学兵器脅威の除去は運搬手段が多数あることから不可能になる。

 

北朝鮮の化学兵器使用原則

 

北朝鮮は大量破壊兵器の定義を独自に解釈している。核兵器は戦略抑止力と位置付け、金王朝の存続を守るカギだ。北の核兵器は戦時シナリオでは投入想定がないようだ。使用すれば南朝鮮と米国が北朝鮮政権を崩壊させる動きに出るからだ。

 

これに対し化学兵器投入は実際に想定がある。北朝鮮軍は化学戦環境下での運用を日頃から訓練しており、化学防護装備や検知装置は国産調達している。その一部がシリアで発見されている。

 

化学兵器で期待される効果として、まず敵防衛体制の制圧があり、KPAは米韓連合軍に勝利を収めるつもりだ。化学防護服を着用すれば兵員の動きは鈍くなり、防衛体制は分散して化学兵器の効果を最小化しようとする。北朝鮮は化学兵器を初期段階で投入して、戦闘の行方を有利に進めようとするだろう。戦闘が続けば、不確実性が高まり、化学兵器の投入効果は減るどころか逆効果にもなりかねない。

 

北朝鮮が保有する化学兵器の種類

 

北朝鮮は広範な種類の化学物質をそろえており、任務に応じて選択するものと思われる。化学兵器の効果は一時的な無力化から致死性までそれぞれだ。

 

南朝鮮国防部の2012年推定では北朝鮮は2,500トンないし5,000トンの化学兵器を保有しているとある。年間生産は平時で4,500トン、戦時で12,000トンとの推定だ。

 

北朝鮮の化学兵器は五種類に分類される。騒擾対策、窒息性、血液剤、水疱性、神経性だ。このうち、騒擾対策用にはアダムサイト(DM)、CN、CSの各ガスがある。こうしたガスは「催涙」ガスの特徴があり、群衆を解散させるものの健康な成人なら致死性はない。

 

これと別に窒息性ガスがあるといわれ、呼吸系に悪影響を与える効果がある。吸気が短時間でも病院治療が必要となる。より長く吸気すれば死に至る。KPAは塩素ガス、ホスゲンガスを使用するとみられる。

 

血液剤には水酸化シアンや塩化シアンがある。

 

北朝鮮にはマスタードガスもあり、皮膚に作用し水疱を発生するほか、眼球や鼻などの粘膜も悪影響を受ける。

 

さらに北朝鮮には高度の致死性がある神経ガスもあるといわれ、窒息を起こす。サリン、ソマン、タブン、VM、VXがある。

 

運搬手段

 

北朝鮮にはこうした化学兵器の運搬手段が長距離ミサイルから特殊部隊まで多数ある。南朝鮮以遠も攻撃可能で、理論上はロシアや中国の国境地帯も含まれる。

 

重要なのは戦場使用なら比較的短距離運用で事が足りることだ。朝鮮半島は朝鮮中国国境から南端まで500マイルに満たない。ピョンヤンからDMZまで100マイル、ソウルからDMZも120マイルだ。

 

ロケットやミサイルが北朝鮮が化学兵器投入にまず利用される手段となる。米国防総省の2014年推計では北朝鮮の短距離ミサイル発射装備は100基未満で、そのうちToksa/KN-02は射程75マイルで、スカッドミサイルも最大射程は185マイルから625マイル程度だ。こうした装備品は国境付近に配備する必要がある。

 

だがノドンミサイルは射程800マイルで南朝鮮からさらに日本も標的に収める。

 

野砲も化学兵器発射に利用できる。北朝鮮にはロケット発射機5,100門、自走砲4,400門があるとの推定がある。ロケット砲は122ミリ以上、野砲は152ミリ以上あれば化学砲弾を運用できる。

 

北朝鮮人民空軍は化学兵器運用能力を有するが、機材が老朽化し信頼性が低下しており、南朝鮮の防空網を突破できる可能性は低い。とはいえ、Su-7BMK「フィッター」18機、Su-25「フロッグフット」32機に化学兵器搭載が可能だ。

 

北朝鮮の大規模な特殊部隊には有事に重要な任務が想定されており、化学兵器の運用もある程度行われるだろう。潜入訓練を受けており、化学兵器使用で混乱が生まれそうだ。

 

北朝鮮は探知されずに化学兵器を分散するべく潜水艦や無人機を利用するだろう。さらに未発見トンネルも使い南朝鮮の背後に化学攻撃をしかける想定もある。

 

標的はどこか

 

北朝鮮が化学兵器使用をいとわない理由としてハイテク装備の他国との関係を変えることがある。最重要標的は国境を挟み展開する南朝鮮軍部隊で、地上攻勢支援として化学兵器を投入し突破口を開き、ソウル攻略からその先も狙う。

 

航空基地も攻撃対象で、一時的にせよ航空活動を止めれば、米韓両軍の航空戦力の優位性を無効にできる。テグ航空基地がROK空軍のF-15K戦闘爆撃機の拠点となっており、米軍のクンサン、オサン両基地も北朝鮮ミサイル攻撃の対象になりそうだ。

 

プサンはじめ港湾も攻撃対象で米国の援軍部隊が到着する地点となる。ROK陸軍の補給処を攻撃すれば前線への追加部隊を遅らせる効果が生まれる。

 

北朝鮮特殊部隊が民間を標的にする可能性がある。政治家、重要インフラ他高価値の民間標的が狙われればパニックとなり、政府への信頼も下がる。東京で1995年に発生したサリンガス襲撃事件でも一般市民の士気が下がり、パニックが生まれた。いったんパニックに陥ると市民は厄介な問題となる。道路交通をふさぎ、戦闘から逃避するだろう。

 

さらに朝鮮半島外に展開する米軍施設も化学攻撃の標的になりうる。嘉手納航空基地、三沢航空基地や横田航空基地は日本から米航空戦力を支える重要拠点だ。さらに横須賀基地、厚木基地、佐世保基地も米海軍の重要施設だ。グアムには潜水艦部隊、爆撃機部隊があり、北朝鮮のテポドン長距離ミサイルの射程に入る。

 

結論

 

北朝鮮は化学兵器を本当に使用するだろうか。同国の通常兵力の劣化からガス兵器投入の必要度が高まる。KPAには戦場の行方を左右する決定的な兵器が少なく、まして単独で投入する手段は少ない。

 

これまでは化学兵器を投入すれば米韓両国から「大量報復」を招くだけと思われてきた。だが、米韓連合軍がKPA撃滅を目指し核兵器除くあらゆる手段を投入してくるはずだ。北朝鮮の視点ではこの状況なら化学兵器使用に政治的な障害はなくなるとみるはずだ。

 

シリア国内での化学兵器使用に西側がうまく対応できていないことからガス兵器の「レッドライン」警告の空虚さを露呈してしまった。シリア住民への化学攻撃と米軍部隊への攻撃はまったくちがうが、はっきりしているのは化学兵器使用のタブーが消えたことだ。

 

北朝鮮の化学兵器の脅威は現実のもので戦時に使用される可能性は高い。有事となれば米韓連合軍の最適戦略は北朝鮮の指揮命令系統を寸断したのちに攻勢をかけることだろう。北朝鮮参謀部が命令を下すのも正確な情報も受け取れなくなれば、化学攻撃の立案も困難になる。国連軍が迅速な行動を取れば、移動速度の低い火砲部隊、ミサイル部隊は絶好の標的となる。

 

北朝鮮の化学兵器の脅威を緩和するのに最大の効果を発揮する手段は撤去交渉だろう。化学兵器すべてといわず大部分の廃棄で説得が成功すれば、有事の民間人、兵員への脅威が減る。さらに朝鮮半島内外にも広がる。だが歴代の米政権は関心を払ってこなかった。北朝鮮から化学兵器が消える日を世界が本当に期待するなら、社交性欠如の同国と協議を今すぐにでも開始すべきだ。■

 

 

Its Not Just Nuclear: North Korea Also Has 5,000 Tons of Chemical Weapons

by Kyle Mizokami

August 21, 2021  Topic: North Korea  Region: East Asia  Blog Brand: The Reboot  Tags: MilitaryTechnologyNorth KoreaNuclear WeaponsChemical Weapons

Its Not Just Nuclear: North Korea Also Has 5,000 Tons of Chemical Weapons

 

Kyle Mizokami is a writer based in San Francisco who has appeared in The Diplomat, Foreign Policy, War is Boring and The Daily Beast. In 2009 he cofounded the defense and security blog Japan Security Watch. You can follow him on Twitter: @KyleMizokami.

This was originally published in March 2015. 


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