金正恩の姿を見る機会が昨年すっかり減った。公式の場から姿を消すと、本人病気説さらに死亡説が同時にでてきた。本人はその後再び姿を見せ、死亡を願う筋はばつの悪い状況になった。
本人が公の場で姿を見せ続けて再び推測が出てきた。まず、体重の変化で、南朝鮮の推定で44ポンド減とある。意図しての減量なら本人には良い結果だ。一時は308ポンドだったとの推測で、すぐ死亡してもおかしくない水準だった。本人は飲酒好きで愛煙家でもあり、この二つもリスク要因だ。心臓病、糖尿病他の症状がある。減量は延命効果を生む。
しかし、減量は必ずしも本人の意思によるものではない。むしろ深刻な疾病の可能性を示すことがあり、ガンが一例だ。だが体重減少が健康状態悪化と無関係なら、やはりダイエットに成功したのか。ただし、その後頭部に包帯をつけているのが目撃されている。
もちろん公式発表は皆無で、こうした事象は些細なことなのかもしれない。7年前にも一時姿を消したあと、つえを使い歩行する姿を見られたことがある。踝の手術を受けたが術後は良好とされた。2008年に本人の父も卒中で姿を長く消し、その際も公式発表はなかった。最新の事例もさしたる重要さはないのかもしれない。
とはいえ、金正恩本人あるいは側近が権力移譲を画策している兆候がある。今年に入り早々に最高指導者は朝鮮労働党総書記に昇格している。そして第一書記は不在とした。これまでは実父のため空席とされていたが、この就任も重要ではないのかもしれないが長年の北朝鮮ウォッチャーは権力移譲と関係があると見ている。権力継承第二位が空席のままの共産国家はこれまで皆無だからだ。
金一族はこれまでも非公式に権力を分与してきた。金正日は事実上の首相として金日成の晩年に国内政策を取り仕切っていた。金日成が卒中から回復した2008年8月には義兄の張成沢が代理を務め、金正恩の指導役にもなったが、金正恩は本人を処刑した。権力奪取を図ったためとされる。
金正恩の現在の健康状態でわかっていることは憶測、噂、その他非公式情報の域を超えない。独裁体制にある同国の政治体制を考えれば本人が死去した場合の影響は重い。レーニン、スターリン、毛沢東の死亡後に権力闘争が長期にわたり発生したからだ。
これに対し金日成は権力移譲を数十年にわたり準備できた。ライバルを排除し、金正日を昇格させ、日常の運用を任せた。だが金正日には自身の子息に使える時間が足りず、本人が脳卒中に倒れてから権力移譲が始まった。この間三年しかなかった。移譲そのものは支障なく進んだようだが、金正恩がどこまでの権力を即座に引き継いだのか、またその後に障害を取り除きどこまで権力を入手したのかは不明だ。
いずれにせよ、現時点では後継者が不在だ。自らの子どもたちは小さすぎる。妻には政治的な役割が皆無だ。兄は父親から素質なしと判断され、政治面で無力だ。腹違いの兄は金正日により大使として国外追放された。一人だけ可能性を残すのが妹の金世与だ。重責にあるものの権力は兄に依存している。昇格、降格は兄の意思のようで、本人独自の権力基盤はないようだ。
一族の血を引き継ぐものの、本人の地位が公的に示されていないのなら意味がない。特にここにきて血筋がものをいう事態になっている。南朝鮮発の情報の連発に金正恩が怒りを高めており、北朝鮮側はここ数年になく不信感を強めている。同様に重要なのがDPRK政治体制はかたくななまで男性優位であることで、実質的権力があるのは金一族の妻、姉妹のみで、かつその力も権力移譲が始まれば消失する。
ではだれが次の権力者になるのか。金正恩のこれまでの側近の処遇を見るとナンバーツーは不在で、まさしくそれが本人の狙いなのだろう。今年6月に党トップ数名を「人民の安全並びに国家の安泰の維持で重大な事態を招いた」として処分している。ただし、叔父の例と異なり、単なる降格にとどまっている。
後継者不在のままだと、その座をめぐる戦いは血なまぐさくなりそうで、かつ結末が予測できない。保安関係機関トップが権力を握る可能性がある。ソ連では秘密警察トップを長年務めたラブレンティ・べリアがやはりトップの座を狙ったが失敗している。1953年のことだ。KGBトップのユーリ・アンドロポフが1982年に共産党最高指導者の座に就いたが直後に死去した。
北朝鮮の政治体制では常に単一の指導者が力を握ってきた。その点では南朝鮮も同様で選挙による大統領選出は1987年から機能しているに過ぎない。北朝鮮の政治体制とはいったん失敗すれば安全がおぼつかなくなる独裁体制でつねにライバルの上に立つ必要がある。ドナルド・トランプが言うように二番手は敗者なのである。
米国がこの点で何らかの影響力を行使する可能性は皆無に近い。とはいえ、バイデン政権は不安定さが脅威に進展しないよう事態を注視すべきである。ワシントンには中国との連絡を維持し、北の政治局面の難関に対応すべき大義がある。一番良いのは改革指向の新政権が発足することだが、これを期待する向きは皆無だ。
最悪の場合は内部抗争が進展し、暴力が跋扈し軍が動き、核兵器、化学兵器生物兵器の管理がゆるむことだ。ブルース・ベネットはDPRK崩壊の可能性を10年前から分析しており、以下警句を発している。「北朝鮮の全体主義が近い将来に終焉を迎える可能性は十分あり、暴力や混乱を伴う終わり方になる可能性が高い」とし、ROKと中国にとってはDPRK内部崩壊による朝鮮半島の平和安定への影響をあらかじめ備えておく必要がある。
もちろんこうした事態が今すぐ発生するわけではない。金正恩はまだ数年は存命のままとなりそうだ。そうなると次の観測が出てくる。本人が死亡した場合の影響は甚大で西側では本人の健康を祈る向きが多い。
金王朝が姿を消す日がいつか来る。それまでは金正恩の不在、あるいは絆創膏を付けた姿に朝鮮半島の住民のみならず世界が一喜一憂するだろう。望むらくは本人には平和理にこの世から消えてもらいたいのだが。■
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What If Kim Jong-un Dies? It Could Mean Nuclear War.
by Doug Bandow
August 9, 2021 Topic: Kim Jong-un Death Blog Brand: Korea Watch Tags: Kim Jong-unNorth KoreaMilitaryNorth Korea WarNorth Korea Civil War
Doug Bandow is a Senior Fellow at the Cato Institute. A former Special Assistant to President Ronald Reagan, he is author of several books, including Tripwire: Korea and U.S. Foreign Policy in a Changed World and co-author of The Korean Conundrum: America’s Troubled Relations with North and South Korea.
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