スキップしてメイン コンテンツに移動

ロシアの戦略爆撃作戦はウクライナ戦を終結できるのだろうか

 Tu-160

Tu-160 Bomber. Image Credit: Creative Commons.

 

ロシアはウクライナ戦で無差別爆撃作戦に踏み切った。だが、この作戦で勝算はつかめるのだろうか。

 

 

戦略爆撃の歴史と概要

第一次世界大戦では、ドイツがツェッペリンや長距離重航空機を使い、主にイギリスの都市に被害を与えたのが、最初の戦略爆撃作戦だ。この作戦は、イギリスの産業に大損害を与えるほど規模ではなかったが、かなりの数の民間人が死亡し、イギリス本国では戦意喪失とまではいかないまでも、パニックを引き起こした。ドイツは第二次世界大戦の初年に再び戦略爆撃を中途半端に試みたが、ドイツの産業と士気を破壊する英米の連合爆撃機攻勢に急速に道を譲ることになった。

 日本に対する同様の作戦は、2発発の原子爆弾の投下で幕を閉じた。アメリカは朝鮮戦争とベトナム戦争で戦略爆撃を行ったが、実質的な軍事的効果はほとんどなかった。日本への原爆投下を除けば、これらの作戦はどれも戦争に勝つための決定的なものではなかったと考えられているが、ほとんどすべての作戦で多くの人々が死亡し、多くの財産が破壊された。

 

Enola Gay

Enola Gay B-29. Image was taken on October 1, 2022. Image Credit: 19FortyFive.com

 

被害の性質

戦略爆撃は、概念的には各種標的を攻撃することができる。第二次世界大戦の連合爆撃機攻勢では、アメリカはドイツの工業能力の攻撃に、イギリスはドイツ国民の士気の打破に集中したが、米爆撃の精度が低かったため、実際には作戦の差は比較的少なかったとされる。

 対日戦は、技術的には工業を対象としていたが、ほとんどが民間人を殺害した。北朝鮮とベトナムに対する作戦は、インフラストラクチャーと工業を主な標的としたが、朝鮮半島の作戦では、民間の農業にかなりの付随的損害が発生した。

 ロシアは一般に民間人に対する直接攻撃を避け、民間と軍事の二重の意味で使用する標的を選んだ。ウクライナ戦争初期にロシアはウクライナの産業、特に防衛部門を標的にしたが、ウクライナが西側から輸入している軍備が多いことから、ロシアはこうした攻撃の戦略的影響は限定的と判断したようだ。

 現在、ロシアはウクライナのエナジーインフラに注目し、発電所や送電所を攻撃している。ウクライナ当局は、次は配水施設に攻撃が来ると予想している。

 

ロシアのウクライナ作戦の性質

戦略爆撃作戦は、しばしば被害者だけでなく、その実施側にも犠牲を強いる。全容解明はできないが、西側連合国にとって連合爆撃機攻勢の実施に要した費用は莫大であった。大型で高価な四発爆撃機を、比較的安価なドイツ防空網の牙城に飛び込ませた。ドイツは爆撃機を攻撃するため小型で安価な単発戦闘機に頼ることができたし、戦闘のほとんどを自国の領土内で行えたので、損傷した航空機を修理し、パイロットを救出できた。

 

ロシアは、高価な固定翼機での防衛力の高いウクライナの戦略目標攻撃を避けてきた。むしろ、ロシアは巡航ミサイルや長距離ドローンを使って、ウクライナのインフラを攻撃している。これらの無人機やミサイルは小さな目標に当てるには十分な精度があり、甚大な被害をもたらしたようである。弾道ミサイルの追加取得(および無人機製造のためのロシア産業の再編成)により、ロシアは今後もウクライナ領土の奥深くにあるターゲットを破壊すできるだろう。

 しかし、ウクライナが無力でないことは確かだ。ウクライナへの大規模な対空防衛の移転は、ロシアが侵攻するとすぐに始まり、今日まで続いている。しかし、攻撃と防御の経済学では、ウクライナに有利とは言えないかもしれない。ウクライナがロシアの無人機やミサイルに対して使用しているミサイルの多くは、その目標よりも高価だ。もちろん、西側諸国が一般的にそのツケを払っているので、ウクライナはこうした能力の多くに実際にお金を払っているわけではない。

 それでもウクライナは、ロシアが無人機やミサイルを追加で発射する資金を使い果たすという希望に頼ることはできない。

 ある意味、このロシアの戦略は、親ウクライナ連合の強みに直結している。ドイツは、ウクライナがロシア軍を打ち負かすための致命的な軍事装備を派遣することには消極的かもしれない(あるいはできないかもしれない)。しかし、送電所修理のため技術者や部品を送ることは可能である。また、ロシア作戦は、民間人に悲惨な思いをさせるだけで、軍事的な目的はほとんどないと思われるので、ヨーロッパにおけるロシアの広報活動に役立たないだろう。

 

LIKELY IMPACT ON UKRAINE 

The Russian strategic campaign is not likely to succeed in either toppling the Ukrainian government or in forcing Kyiv to capitulate. If Ukrainian morale fell because of this bombing campaign, it would become a huge outlier in the history of strategic air campaigns. Robert Pape (author of Bombing to Win, an account of the history of strategic bombing) is deeply skeptical about the effectiveness of Russian efforts. Moscow may believe too much of its own propaganda about the weakness and decadence of the West and, by extension, Ukraine.

But the people Russia is trying to coerce are the children, grandchildren, and great-grandchildren of the people who survived the Holodomor and the Nazi invasion of the Soviet Union. It is not likely that the weather will force them to knuckle under and give up on their resistance to Russia’s invasion. But Russia can undoubtedly make life unpleasant for Ukrainians, especially in the face of what could be a dreadful winter.

ウクライナへの影響はどうか 

ロシアの戦略的作戦は、ウクライナ政府を倒したり、降伏するのに成功する可能性はない。空爆作戦でウクライナの士気が下がれば、戦略的航空作戦の歴史上、大きな異例となる。ロバート・ペイプ(戦略爆撃の歴史を記した『Bombing to Win』の著者)は、ロシアの取り組みの効果に深く懐疑的だ。モスクワは、西側諸国、ひいてはウクライナの弱さと退廃に関する自国のプロパガンダを信じすぎているのかもしれない。

 しかし、ロシアが強要しようとしているのは、ホロドモル(飢餓による殺害)やナチスのソ連侵攻を生き延びた人々の子や孫、ひ孫たちである。天候に左右され、彼らがロシアの侵略への抵抗をあきらめざるを得なくなることはないだろう。しかし、ロシアはウクライナ人にとって、特に恐ろしい冬を前に、生活を間違いなく不愉快にさせることができる。■

 

Can Russia Terror Bomb Its Way to Victory in Ukraine? - 19FortyFive

ByRobert Farley

 

WRITTEN BYRobert Farley

Dr. Robert Farley has taught security and diplomacy courses at the Patterson School since 2005. He received his BS from the University of Oregon in 1997, and his Ph.D. from the University of Washington in 2004. Dr. Farley is the author of Grounded: The Case for Abolishing the United States Air Force (University Press of Kentucky, 2014), the Battleship Book (Wildside, 2016), and Patents for Power: Intellectual Property Law and the Diffusion of Military Technology (University of Chicago, 2020). He has contributed extensively to a number of journals and magazines, including the National Interest, the Diplomat: APAC, World Politics Review, and the American Prospect. Dr. Farley is also a founder and senior editor of Lawyers, Guns and Money.


コメント

このブログの人気の投稿

漁船で大挙押し寄せる中国海上民兵は第三の海上武力組織で要注意

目的のため手段を択ばない中国の思考がここにもあらわれていますが、非常に厄介な存在になります。下手に武力行使をすれば民間人への攻撃と騒ぐでしょう。放置すれば乱暴狼藉の限りを尽くすので、手に負えません。国際法の遵守と程遠い中国の姿勢がよく表れています。尖閣諸島への上陸など不測の事態に海上保安庁も準備は万端であるとよいですね。 Pentagon reveals covert Chinese fleet disguised as fishing boats  漁船に偽装する中国軍事組織の存在をペンタゴンが暴露   By Ryan Pickrell Daily Caller News Foundation Jun. 7, 3:30 PM http://www.wearethemighty.com/articles/pentagon-reveals-covert-chinese-fleet-disguised-as-fishing-boats ペンタゴンはこのたび発表した報告書で中国が海洋支配を目指し戦力を増強中であることに警鐘を鳴らしている。 中国海上民兵(CMM)は準軍事組織だが漁民に偽装して侵攻を行う組織として長年にわたり活動中だ。人民解放軍海軍が「灰色」、中国海警が「白」の船体で知られるがCMMは「青」船体として中国の三番目の海上兵力の位置づけだ。 CMMが「低密度海上紛争での実力行使」に関与していると国防総省報告書は指摘する。 ペンタゴン報告書では中国が漁船に偽装した部隊で南シナ海の「灰色領域」で騒乱を起こすと指摘。(US Navy photo) 「中国は法執行機関艦船や海上民兵を使った高圧的な戦術をたびたび行使しており、自国の権益のため武力衝突に発展する前にとどめるという計算づくの方法を海上展開している」と同報告書は説明。例としてヘイグの国際仲裁法廷が中国の南シナ海領有主張を昨年7月に退けたが、北京はCMMを中国が支配を望む地帯に派遣している。 「中国は国家管理で漁船団を整備し海上民兵に南シナ海で使わせるつもりだ」(報告書) 中国はCMMはあくまでも民間漁船団と主張する。「誤解のないように、国家により組織し、整備し、管理する部隊であり軍事指揮命令系統の下で活動している」とアンドリュー・エリク...

海自の次期イージス艦ASEVはここがちがう。中国の055型大型駆逐艦とともに巡洋艦の域に近づく。イージス・アショア導入を阻止した住民の意思がこの新型艦になった。

  Japanese Ministry of Defense 日本が巡洋艦に近いミサイル防衛任務に特化したマルチロール艦を建造する  弾 道ミサイル防衛(BMD)艦2隻を新たに建造する日本の防衛装備整備計画が新たな展開を見せ、関係者はマルチロール指向の巡洋艦に近い設計に焦点を当てている。実現すれば、は第二次世界大戦後で最大の日本の水上戦闘艦となる。 この種の艦船が大型になる傾向は分かっていたが、日本は柔軟性のない、専用BMD艦をこれまで建造しており、今回は船体形状から、揚陸強襲艦とも共通点が多いように見える。 この開示は、本日発表された2024年度最新防衛予算概算要求に含まれている。これはまた、日本の過去最大の529億ドルであり、ライバル、特に中国と歩調を合わせる緊急性を反映している。 防衛予算要求で優先される支出は、イージスシステム搭載艦 ( Aegis system equipped vessel, ASEV) 2隻で、それぞれ26億ドルかかると予想されている。 コンピューター画像では、「まや」級(日本の最新型イージス護衛艦)と全体構成が似ているものの、新型艦はかなり大きくなる。また、レーダーは艦橋上部に格納され、喫水線よりはるか上空に設置されるため、水平線を長く見渡せるようになる。日本は、「まや」、「あたご」、「こんごう」各級のレーダーアレイをできるだけ高い位置に取り付けることを優先してきた。しかし、今回はさらに前進させる大きな特徴となる。 防衛省によると、新型ASEVは全長約620フィート、ビーム82フィート、標準排水量12,000トンになる。これに対し、「まや」クラスの設計は、全長557フィート強、ビーム約73フィート、標準排水量約8,200トンだ。一方、米海軍のタイコンデロガ級巡洋艦は、全長567フィート、ビーム55フィート、標準排水量約9,600トン。 サイズは、タイコンデロガ級が新しいASEV設計に近いが、それでもかなり小さい。Naval News報道によると、新型艦は米海軍アーレイ・バーク級フライトIII駆逐艦の1.7倍の大きさになると指摘している。 武装に関して言えば、新型ASEVは以前の検討よりはるかに幅広い能力を持つように計画されている。 同艦の兵器システムの中心は、さまざまな脅威に対する防空・弾道ミサイル防衛用のSM-3ブロックII...

次期高性能駆逐艦13DDXの概要が明らかになった 今年度に設計開始し、2030年代初頭の就役をめざす

最新の海上安全保障情報が海外メディアを通じて日本国内に入ってくることにイライラしています。今回は新型艦13DDXについての海外会議でのプレゼン内容をNaval Newsが伝えてくれましたが、防衛省防衛装備庁は定期的にブリーフィングを報道機関に開催すべきではないでしょうか。もっとも記事となるかは各社の判断なのですが、普段から防衛問題へのインテリジェンスを上げていく行為が必要でしょう。あわせてこれまでの習慣を捨てて、Destroyerは駆逐艦と呼ぶようにしていったらどうでしょうか。(本ブログでは護衛艦などという間際らしい用語は使っていません) Early rendering of the 13DDX destroyer for the JMSDF. ATLA image. 新型防空駆逐艦13DDXの構想 日本は、2024年度に新型のハイエンド防空駆逐艦13DDXの設計作業を開始する 日 本の防衛省(MoD)高官が最近の会議で語った内容によれば、2030年代初頭に就役開始予定のこの新型艦は、就役中の駆逐艦やフリゲート艦の設計を活用し、変化する脅威に対し重層的な防空を提供するため、異なるコンセプトと能力を統合する予定である。  防衛装備庁(ATLA)の今吉真一海将(海軍システム部長)は、13DDX先進駆逐艦のコンセプトは、「あさひ」/25DD級駆逐艦と「もがみ」/30FFM級フリゲート艦の設計を参考にすると、5月下旬に英国で開催された海軍指導者会議(CNE24)で語った。  この2つの艦級は、それぞれ2018年と2022年に就役を始めている。  13DDX型は、海上自衛隊(JMSDF)が、今吉の言う「新しい戦争方法」を含む、戦略的環境の重大かつ地球規模の変化に対抗できるようにするために必要とされる。防衛省と海上自衛隊は、この戦略的環境を2つの作戦文脈で捉えている。  第一に、中国、北朝鮮、ロシアが、極超音速システムを含むミサイル技術、電子戦(EW)を含むA2/AD能力の強化など、広範な軍事能力を急速に開発している。第二に、ウクライナにおけるロシアの戦争は、弾道ミサイルや巡航ミサイルの大規模な使用、EWやサイバー戦に基づく非対称攻撃、情報空間を含むハイブリッド戦争作戦、無人システムの使用など、新たな作戦実態を露呈したと説明した。  新型駆逐艦は、敵の対接近・領域拒否(A2/A...