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持続可能航空燃料(SAF)への国防総省の投資は安全保障、エナジー供給に大きな可能性を開く。

  


ミー・ドリトル将軍といえば、第二次世界大戦中の戦闘指揮官としての活躍が一般に知られているが、1930年代、ドリトルがシェル石油の重役として、戦争への最大の貢献をしていた。1930年代、ドリトルは当時使われていた87オクタン燃料に代わる新等級の航空燃料、100オクタン製造に投資するようシェルを説得した。100オクタン燃料は、エンジン技術の進歩と相まり、アメリカの航空機に競合他社に対する性能上の優位性をもたらした。まさに先見の明であった。

新燃料は、速度や上昇率、離陸距離の短縮など、性能を向上させた。これは、連合国空軍が最終的に勝利するため使用した多くの技術の1つだ。戦時中の100オクタン価燃料の大量使用は、次世代の民間航空機に燃料を供給した。今日でも、一般的な航空機は、ヨーロッパや日本の上空でアメリカの戦闘機や爆撃機を動かしたのと同じ100オクタン価燃料を改良したものを使用している。

今日、民間産業と政府には、国防に提供する新燃料、すなわち持続可能な航空燃料(SAF)に投資する機会がある。1930年代同様に課題はあるものの、米国に大きなチャンスだ。国防総省がSAFを一定量購入すると約束すれば、民間投資を促し、国家安全保障に有意義な利益をもたらすだろう。SAFは、100オクタン価と同等の性能向上は見込めないが、その他の戦略的利益をもたらすので、検討の価値がある。利点には、エネルギー安全保障の向上、国防用航空燃料価格の安定化、外交的勝利などが含まれる。米国は、エネルギー源の最先端に位置する100年に一度の機会を得ており、この機会を逃す手はない。 

持続可能な勝利へ

国防総省の最大の航空燃料消費者は空軍で、年間約70億ドルを航空燃料に費やす。米国は相当量の原油埋蔵量に恵まれているものの、市場力学と無縁ではない。わずかな価格変動でも、国防予算に大きな影響を与える。例えば、ロシアのウクライナ侵攻やその他のインフレ圧力により、国防総省は2022年に燃料費を予想より30億ドル多く使うことになった。イラン・イラク戦争やイラクのクウェート侵攻など、その他の歴史的な出来事も価格上昇を招いた。燃料価格の大変動は、国防総省の効果的な計画・予算編成能力に悪影響を及ぼす。中東などでは、石油市場への懸念から、米国が物価安定を確保するためにコストのかかる軍備を展開・維持するケースもある。

持続可能な航空燃料は、こうした問題の軽減に役立つ。現在、SAFは、持続可能な原料から作られ、消費者の要求に応じ10%から50%の割合で通常の燃料と混合される。原料は、持続可能な航空燃料の構成要素だ。研究者たちは、ハイドロプロセシング・エステル&脂肪酸(HEFA)、アルコール・トゥー・ジェット(AtJ)、ガス化・フィッシャー・トロプシュ(gas/FT)、パワー・トゥ・リキッド(PtL)の4つの主要な原料経路を開発してきた。いずれも、基本的には現在の化石燃料と同じ炭化水素の連鎖を構築する。例えば、ネスレは食品メーカーから使用済み食用油を回収し、民間航空会社向け航空燃料に精製している。重要なのは、これらの原料は国内で調達できるため、アメリカの政策立案者が生産と価格設定をコントロールできることだ。さらに、現在燃料の大半を船で輸送しているハワイなど、戦略的に重要な地域に持続可能な航空燃料精製所を建設できるというメリットもある。

今日の持続可能な航空燃料は、航空機の性能をわずかに(1パーセントのオーダーで)向上させることができ、NATOの相互運用性で管理可能な問題があるものの、ロジスティクス要件に変更を加える必要はない。例えば、NATOの航空燃料パイプラインである中欧パイプラインシステムは、現在サステイナブル燃料に対応していない。しかし、米国はこの面で先導的な役割を果たしており、適切な投資で欧州のモデルとなる可能性がある。 

また、軍用機には戦術的なメリットもある。よりきれいに燃焼する燃料は、性能をわずかに向上させるだけでなく、飛行機雲の発生を抑え、どちらも戦闘機にとって戦術的な利点となる。さらに、エネルギー密度の高い燃料を製造することで、航空機の積載量と航続距離を増加させる可能性もある。

課題

短期的な課題として、原料や精製コストが高いため、SAFは現在のところ通常のジェット燃料にコスト競争力がないことがある。また、市場のインセンティブも課題だ。製油所の建設には多額の資本投資が必要で、同燃料への需要がどの程度あるのか、また、その需要が投資を正当化できるのか、正確には不明。しかし、国防総省がSAF購入を約束すれば、民間投資の触媒となりコストを下げ、企業が低い資本コストを確保して立ち上げコストを支援できる。このような購入は、SAF産業に大きな影響を与えるだろう。

政府の初期投資は、イノベーションのテーマであり、特にエネルギー分野のイノベーションにはつきものである。政府により刺激された需要は、しばしば技術革新、投資、新規市場参入と相互作用し、供給を増加させ価格を下げる。例えば、1930年代、空軍が100オクタン価にこだわったことで、民間投資家は生産能力の増強と技術革新を進め、それが精製コストの低減につながった。1930年代前半、100オクタン価のガソリンは1ガロン30ドル以上したが、低オクタン価のガソリンは20セントであった。1940年代半ばには、15セント程度で販売されるようになった。石炭、石油、太陽光、風力など、再生可能エネルギーについても同様の傾向がある。したがって、持続可能な航空燃料も今後数十年の間に同様の傾向をたどると考えるのが妥当であろう。

もちろん、米国は二酸化炭素の排出量を減らすことができると同時に、輸入化石燃料に代わる代替燃料を国内で作り出す利点もある。このように、明らかな環境への影響を超えて、供給源の多様化とサプライチェーン管理という国家安全保障上の要請も、持続可能な燃料コストを引き下げる幅広い投資を促進するはずだ。

緑の連合

アメリカの最も忠実な同盟国や潜在的パートナーの多くは、気候変動を今世紀最大の問題のひとつと見ている。特に、米国が中国と影響力を争う南太平洋地域では、その傾向が強い。アメリカは、中国との差別化を図り、各国を取り込む中で、気候変動緩和への投資を協力の柱とできるだろう。

アメリカの政治体制や生活様式が中国と差別化しているという意見も多いが、自分の家がすぐに水没してしまうようでは、資本主義や民主主義のメリットは少ない。したがって、島嶼国家は、民主主義国家との同盟を望むとしても、気候変動を緩和するインフラへの中国の投資を受けることを合理的に選択する。中国はすでに太平洋地域での外交努力に多大な投資を行っており、安全保障や援助に関する協定を多数結んでいる。中国がこのような進出を果たした理由のひとつは、太平洋諸島の国々が、周囲の気候変動に伴って必要となるプロジェクトの資金調達能力に懸念を抱いているためだ。ソロモン諸島の当局者が指摘するように、「(中国は)...気候変動に対する世界的な取り組みをリードするために、リーダーシップとコミットメントを示している」のである。

米国は、同盟国や将来のパートナー国が気候関連インフラに投資する際で重要パートナーであるべきである。その要素の1つとして、SAFの精製所や貯蔵施設を建設し、地元開発に拍車をかけることができる。この取り組みは、既存のエネルギー生産者と行うことで、賛同者を増やし、市場安定性を確保し、民間資本を活用できる。また、戦略的に意義のある分野に的を絞り投資することも可能です。例えば、フィリピンは現在、韓国と台湾から輸入するジェット燃料に大きく依存している。食用油や廃棄物原料を活用すれば、年間1億6000万ガロン(B-52爆撃機約3000機分)を現地生産できる可能性がある。これは同盟国への経済支援となるだけでなく、航空燃料施設のネットワークが貿易の途絶から影響を受けにくくし、太平洋におけるアメリカの戦力投射に資する。

実施

SAFのリスクを最小化し、その有用性を証明するために米国はすでに多くのステップを踏んでいる。例えば、2007年に米空軍は、C-17航空機で持続可能な航空燃料の有効性を実証した。2016年には、米海軍が「偉大なるグリーン・フリート」を実証した。航空団を含む空母打撃群全体が、数ヶ月間、グリーンエネルギーと持続可能な航空燃料で運用された。そして、持続可能な航空燃料の使用をより広く試験的に行う条項が、2023年の国防権限法に盛り込まれている。

こうした成功に基づき、代替エネルギー能力を構築するために、国防総省は今後数年間、一定量のSAFを購入する約束をする必要がある。具体的には、パイロット・プログラムではなく、国防総省は新規および既存の生産者と交渉し、一定の量と価格を保証する必要がある。たとえば、国防総省は2028年から、1ガロン5.25ドルで、年間2億ガロンのSAFを購入することを約束できる。

ここで、民間企業が例を示せる。例えば、アメリカン航空は最近、2027年から年間1億ガロンの持続可能な航空燃料を、1ガロン約5.50ドルで購入すると発表した。これは市場全体の大幅な増加を意味するが、2027年までに予想される生産量を考えれば、実際の影響は小さい。このコストは、現在の市場価格でジェット機が使用する標準燃料ジェットAよりも高いが、アメリカン航空は4つを達成した。まず、将来にわたって燃料価格の安定を図ることができた。2つ目は、石油を使わない燃料を確保したこと。3つ目は、サステナビリティのリーダーとしてのマーケティング。第四に、持続可能燃料生産者へ需要の確実性を示したことだ。これらの利点は、生産者の計画能力と収益増加能力を高め、将来のコスト削減につながる可能性が高い。ルフトハンザユナイテッドなどの航空会社も同様の取り組みを行っている。  

結論

SAF購入に国防総省の予算を投じる必要性は、民間企業や既存の政府投資に排除されている、という批判があるかもしれない。しかし、最小限の投資で、具体的な利点2つが得られる。たとえば、製油所を西海岸やハワイ諸島など、太平洋作戦に必要な物流上の利点を持つ地域に集中できる。第二に、国防総省の投資は民間企業の資金調達を促進し、初期コストをはるかに上回る利益をもたらしそうだ。

筆者の試算によると、国防総省が航空燃料の約10%を持続可能資源から調達した場合、近い将来、サービス利用者の燃料費が5〜10%増加する。このコストは、潜在的な石油市場の変動に対するヘッジまたは保険と考えることができ、戦略的石油備蓄の埋め合わせになる。

コスト増は、多くの人にとって短期的には受け入れがたいものであるが、100オクタンの例は、この種の投資に対する潜在的な見返りを示している。1930年代、陸軍省は100オクタン価のガソリンへより多く支払ったかもしれないが、その投資は第二次世界大戦中に多くの利益をもたらした。SAFも、同じ傾向をたどるかもしれない。現在はコストが上がるが、将来的には戦略的効果が持続する。

エネルギー革新の物語は、機会の物語だ。石炭から石油へ、87オクタン価から100オクタン価へ、エネルギー分野の革新は、賢明な国家に安全保障の向上を可能にしてきた。今日、SAFへの投資も同様に、21世紀を通じ戦略的に重要な利点をもたらす可能性がある。持続可能性に費やすお金は、国家の安全保障を犠牲にしない。むしろ、持続可能な防衛は、より優れた防衛かもしれない。■

 

Sustainable Aviation Fuel: Investing in the Future - War on the Rocks

DAVID ALMAN

OCTOBER 25, 2022

COMMENTARY

 

David Alman is an officer and pilot in the Air National Guard. He holds a B.S. and M.S. in aerospace engineering. He is admittedly passionate about environmentalism and, when not flying jets, can be found in Americas national parks. The views expressed here are his alone.

The author is indebted to Damian McLoughlin for his expertise and feedback. Any errors are the author’s alone.

Image: U.S. Navy photo by Mass Communication Specialist 3rd Class Ian Thomas.


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