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オスプレイのギアボックス問題に真剣に取り組む米空軍。傍観する海兵隊、海軍、陸上自衛隊

 

 

  • 空軍は新型ギアボックス・アセンブリの導入を検討

  • 海兵隊、海軍、日本は米空軍に追随していない

 

 ル・ボーイングV-22オスプレイで、運用側はギアボックス内で起こる現象を回避しようとしてきた。スプラグクラッチsprag clutchが滑ると、エンジンにダメージを与え、飛行の安全性に影響を及ぼす可能性がある。

 8月中旬、米空軍特殊作戦司令部(AFSOC)は、CV-22をノルウェー遠隔地に不時着させた。この事件を受け、AFSOC司令官ジム・スライフ中将Lt. Gen. Jim Slifeは、「スプラグクラッチ現象が同機を不時着させたのなら、他の事故も引き起こす可能性があるのではないか」と問いかけている。また、この問題への理解が深まるにつれ、たとえ滑りの根本原因が不明でも、安全性を向上させる暫定的な措置は可能なのだろうか?

「8月の飛行停止では、クラッチが固く結合していたことが原因で大惨事になったことはないと強調した」とスライフ中将はアビエーション・ウィークに語っている。「しかし、これは深刻な現象で、AFSOCは、機体を操縦するクルーの技量によって、致命的な事故にならずにすんだこれらの出来事をいくつも経験してきた」。

 問題の中心は、ロールス・ロイスAE 1107Cエンジンとプロペラをつなぐ部品であるプロペラギアボックスのスプラグクラッチ部品にある。AFSOCは最近、CV-22の62件の重大な事故について、機密扱いの調査報告書と一般公開報告書の両方を精査した。専門家と法律顧問のグループは、ハードクラッチ現象が事故の一因であったかどうかを見極めるため、利用可能なデータを徹底的に調べた。V-22プログラムオフィスは、海軍と海兵隊とともに、墜落事故の歴史を調べ、この問題で墜落事故の疑問に答えられるかを確認した。

 その結果、スライフ中将等によれば、現在判明していることに基づいて「重大な」変更となるような知見は皆無であったという。だからといって、クラッチの硬すぎる結合が事故と関係がなかったとは言えない。ただ、新しい調査から得られる情報によって、既存の調査が実質的に変更されることはないということであり、調査を再開する極めて稀な対策をとってもメリットはない、とスライフ中将は言う。

 AFSOCは、ハードクラッチの噛み合わせが原因でV-22を着陸させた唯一の司令部で、この問題を軽減するために機体に変更を加える可能性を検討中の唯一の司令部でもある。ハード・クラッチ接続時に剪断されるプロモーター・ギアボックスの主要コンポーネントの再生産を検討し、新しいインナーレースとアウターレース、スプラグクラッチを備えるものとして、ベル=ボーイングと検討しているという。スライフ中将によると、司令部は、交換を進めた場合の部隊への全体的な影響を判断しながら、最終決定を下すとという。V-22プログラム・オフィスは、AFSOCを支持するとの声明を発表した。海兵隊海軍が追随するか不明だ。

 

物議を醸した墜落事故

2010年4月、アフガニスタンで4人が死亡、16人が負傷した墜落事故は、AFSOCの歴史で最悪の事故で、見直しを決定する原動力となった。この事故は、当時の司令部が調査官を公式に非難するなど、調査をめぐり論争がよく知られるようになった。

 空軍の公式見解である事故調査委員会(AIB)報告書では、エンジン全体や飛行データ記録装置などの重要な証拠が紛失または破壊されていたため、主原因を特定できなかった。報告書は、エンジンの出力低下が潜在的な要因であるとし、地上マークと近くのA-10からのビデオでエンジン劣化と 「異常なエンジン反応」を示したと述べている。分析によると、機体が荒れた路面にローリング着陸を試み、プロペラ速度が低かったと当時のAIB主査ドナルド・ハーベル准将は書いている。

 しかし、当時のAFSOCはハーベルの調査結果に同意せず、エンジンのパワーロスは事故の主要因ではないとの声明を発表した。また当時の航空総隊は、エンジン出力の低下は墜落の主要因ではないとする声明を発表し、パイロットの責任とした。

 ハーベルは報告書が発表された直後に退官したが、その後、墜落事故、AIBのプロセス、司令部の対応について本を執筆した。その本「Rotors in the Sand」には、「My Unofficial Opinion of What Really Happened」という章があり、ギアボックス問題が原因だったと主張している。オスプレイの降下中に左エンジンのコンプレッサーストールが発生し、フライトエンジニアが重量軽減のために燃料を投棄したと書かれている。乗員は突然のエンジン出力低下に圧倒され、パイロットは急降下を逆転させようとフルパワーまで推力を上げた。この失速で右エンジンのトルクが急上昇し、プロペラギアボックスクラッチが破損し、エンジンが破壊された。

 

CV-22’s proprotor

 

米空軍はCV-22のプロップローター部分のギアボックスの交換の是非を検討中。ギアボックスが未解決問題の根本原因とみている。 Credit: Staff Sgt. Christopher Callaway/U.S. Air Force

 

「乗員はパワーロスの状況を引き起こした原因について何も知らなかった」とハーベルは書いている。「クラッチの故障については、手順もなければ、フライトマニュアルにも書かれていなかった。しかし、右エンジンに取り付けられたドライブシャフトとギアボックス部品に関する「注意事項」をエンジン計器に掲示しておくべきだった」。

 オスプレイの墜落後に回収されたエンジンをロールス・ロイスが分析した結果、墜落時にエンジンは稼働していたことが分かった。ハーベルも同意見だ。「エンジンは動いていたが、プロペラギアボックスのクラッチが壊れていた。異常な低出力で作動していた」。この事件は、その後のオスプレイ墜落事故に関する報道で言及されたが、調査は再調査されなかった。ハーベルは2020年に死亡した。

 スライフ中将は、この墜落事故と、その2年後にフロリダ州ハールバート・フィールドで起きた、機体は破壊されたものの死者は出なかった別の事故は、いまだに謎のままだと言う。この2つの事故は、中将にとって個人的にも身近な出来事だった。アフガニスタン事故では、長年の友人であるジェームズ・ラッキー上級曹長が死亡し、スライフは葬儀に出席し弔辞を述べた。ハールバートでは、墜落事故当時、彼は航空団司令だった。

 「私がチームに問いかけ、答えさせたのは、次のようなことでした。以前の委員会の調査結果や結論は、スプラグクラッチの滑りとそれに続くハードクラッチ現象について理解していなかったと思われるが新たな知見が、重大な変化をもたらすだろうか?

「そして返ってきた答えは、ハードクラッチ締結で現在わかっていることによって変わるような、以前のの調査結果や結論はないというものでした」。

 「それは、ハードクラッチ係合が過去の事故のいずれにも存在しなかったということではなく、その現象に対する我々の理解によって、調査結果や結論そのものが大きく変わることはなかっただろうということなのです」。

 アフガニスタンの墜落事故では、事件の再調査能力は限られていた。証拠がほとんどなかった。機体は破壊され、墜落現場は対応した地上部隊がデータレコーダを回収できなかったために荒らされた。副操縦士は最初の調査で墜落時を思い出せないと言っていたが、AFSOCチームは当時の証言に注目した。スライフ中将によると、当時のハーベルの正式な報告書は、原因不明の機械故障が原因であると結論付けていた。クラッチが固く結ばれていたことについて現在わかっていることは、「その結論を支持も否定もしないことだ」とスライフ中将は言う。

 「そのことが、あの事故につながった一連の出来事の一部だったのだろうか」と彼は問いかける。「可能性はあるが、それを示唆する証拠はない。そのため、調査再開を正当化するものではありませんでした」。

 

根本原因を探る

海兵隊は、少なくとも2010年以来、この問題を知っていると言っていうが、V-22オペレータは誰もクラッチ締結が問題の根本原因を理解できていない。8月に空軍が不時着陸させたときも、海兵隊と海軍は飛行を続け、航空機乗務員は回避方法を知っていると述べていた。この問題は、V-22の飛行の安全性に影響を及ぼす可能性のあるカテゴリー1の欠陥13点の1つである。プログラムオフィスは、他の欠陥の特定を拒否した。

 スライフ中将によると、AFSOCクルーは、リスクコントロールの一環として、戦術的な離着陸操作でパワーのかけ方を調整する手続きの変更など、飛行方法を変えてきたという。

 この問題を調査するため、データ収集が進行中だ。オスプレイのクラッチが硬くなった場合、クラッチはベル=ボーイングに送られ、素材が調査され、長期的な修正方法が決定される。

 「そもそもなぜクラッチが滑るのか、根本原因を特定し、それが何であれ解決しなければならないことは分かっている」とスライフ中将は言う。「クラッチが根本原因なのかはわかりません。しかし、クラッチが滑っていることは分かっているのだから、その根本原因を突き止めなければならない」。

 短期的には、AFSOCはクラッチが硬くなる事故に先立ち、インプットクイルアセンブリ input quill assembliesの交換を検討している。「その間に、滑りの原因となる部品を交換できるだろうか?[クラッチ内部の細かい部分やスプラグそのもの、クラッチのインナーレースやアウターレースなどです」とスライフ中将は言います。「滑る可能性のあるクラッチに十分な時間がかかるのを避けるために、時間ごとで部品を交換するのは可能でしょうか」。

 AFSOCは、ベル=ボーイングと協力し、この取り組みを行っている。そのため、AFSOCとプログラムオフィスは、新コンポーネントを構築する業界のスケジュールを理解し、オスプレイ全機種への取り付けを計画しようとしているため、すぐに解決できるものではない。司令部は、新型部品が納入され、部隊全体に組み込むのに約半年かかると見積もっている。ベル=ボーイングは、製造スケジュールを明らかにしておらず、質問はプログラム・オフィスに 照会してほしいという。

 海兵隊とプログラムオフィスは、AFSOCの進展に伴い、海兵隊、海軍、陸上自衛隊が追随するかを決定すると声明にある。

 スライフ中将は、2010年2012年の事件との関連と、本人のキャリア初期の経験が、8月のCV-22全機の飛行中止の決断とAFSOCのオスプレイ計画の進め方を形作ったと言う。

 「キャリアの初期、1993年のモガディシュ(ソマリア)の戦いは、個人的に知る人たちが初めて戦闘で殺された時だった」と振り返る。「大きな傷跡を残しました。私はリーダーとして、自分が誰かに頼んだことを振り返って、機会があれば何かを変えたいと思うようなことは決してしたくありません。だから、今回は私にとってのモガディシュ・テストのようなものだ」。

 もし、ノルウェー事件の後、飛行隊が飛行を続け、その後、飛行士が死亡する事件が起こり、その後の調査でハードクラッチ係合が一因だとわかれば、彼は自分の決定を振り返り、問題の根本原因を突き止めるためにできることはすべてやったのかと問うだろうと、スライフは言う。

 「友人の埋葬はもうしたくない。インプットクイル内部で起こっている現象を完全に理解していないとしても、今は以前より良い場所にいると思います」。■

 

Gearbox Issue’s Root Cause Elusive As USAF Investigates V-22 Crashes | Aviation Week Network

Brian Everstine November 16, 2022


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