鹵獲・破壊したロシア軍装備品から発見されたとする、米国製マイクロチップのリストをウクライナ情報部が見せてくれた。
ウクライナ情報部がThe War Zoneに示した部品リストによると、ウクライナ軍が鹵獲または一部破壊したロシア軍装備を分解して、外国製マイクロチップ(特に米国製)への依存が強いことが判明した。
問題のチップは、回収された9S932-1、大型バルナウル-Tシステムのレーダー装備の防空指揮所車両、パンツィール防空システム、Ka-52「アリゲーター」攻撃ヘリコプター、Kh-101(AS-23Aコディアック)巡航ミサイルから発見されたものだ。
今回の部品リストは、ロシアが重要なマイクロチップ、半導体、その他部品をどこでどの程度入手しているかについて、これまでで最も詳細に情報を提供している。リストは、戦闘装備に必要な技術的部品を生産するロシアの能力への疑問とあわせ、米国等の保安能力に深刻な疑問を提起している、と専門家はThe War Zoneに語った。
例えば、バルナウルT防空指揮所車両では、ウクライナ情報部の専門家が、インテル、マイクレルMicrel、マイクロン・テクノロジーMicron Technology、アトメルAtmel Corpといった米国メーカーのマイクロチップ8個を通信システムで発見した。 Intel,, and.
また、パンツィール防空システムの方向探知機からは、AMD、ロチェスター・エレクトロニクスRochester Electronics、テキサス・インスツルメンツTexas Instruments、リニア・テクノロジーLinear Technologyの米国製チップ5個が発見されている。
Kh-101巡航ミサイルからはテキサス・インスツルメンツ、アトメル、ロチェスター・エレクトロニクス、サイプレスCypress Semiconductor、マキシムMaxim Integrated、インテル、オンセミOnsemi、XILINX、インフィネオンInfineon Technologies、マイクロンなど、少なくとも35個の米国製チップが見つかった。
Tu-95ベアに搭載されたKh-101
CSIS.org
Ka-52アリゲーターの砲塔型電気光学システムを開けたところ、ウクライナ専門家は米国製チップ22個と韓国製チップ1個を発見した。米国製はテキサスインスツルメンツ、IDT、アルテラAltera USA、バー・ブラウン Burr-Brow、アナログデバイシズAnalog Devices Inc、マイクロンテクノロジー、リニアテクノロジー、TEコネクティビティTE Connectivity製だった。
ウクライナのキエフ郊外の野原に強制着陸させられたKa-52攻撃ヘリコプターの前に立つ男性(2022年2月24日撮影)。AP Photo/Efrem Lukatsky
ロシアが2月24日に全面侵攻を開始した後、米国はじめ各国は、マイクロチップ含む機器を販売できなくする制裁を設けたが、捕獲・破壊したロシア装備品内のチップが禁止規定に違反している証拠はない。メーカーの中には、その後他社に吸収されたものもある。
例えばIDTは、2019年に日本企業のルネサスが買収した。マイクレルは2015年にMicrochip Technology Incorporatedに買収された。アトメルも2016年、Microchip Technologyに買収された。サイプレスセミコンダクターは2020年にインフィネオンテクノロジーズInfineon Technologiesに買収された。アルテラは2015年にインテルに買収された。バー・ブラウンは2000年にテキサス・インスツルメンツに買収された。
ロシアの兵器から見つかったマイクロチップには起源が不明なものもある。製造業者から直接調達したものではないものがある。また、中国由来のリサイクルチップの大規模市場には規制の手が及んでおらず、かなり古いものもあるようだ。
部品リストを提供したウクライナの情報当局者も、チップの原産地を明言できなかった。
しかし、NATOと米軍の対ドローン/指向性エネルギー兵器/電子戦/レッドチームの専門家スキップ・パリッシュSkip Parishは、ウクライナ情報部が提供の部品リストを検討し、問題が多く提起されていると指摘している。
ウクライナ情報局がバルナウルT型防空システムの通信システムから発見したとするマイクロチップの写真。ウクライナ情報局の写真。 Ukraine intelligence photo
ロシアの兵器システムの重要機密部分である標的、航法、通信、攻撃に必要な統合チップセットは、「西側技術に完全に依存している」という。
また、国際武器取引規制における「米国の管理体制の破綻または不在」を示し、「外国兵器で発見された場合、どちらでも調査が必要となる」と述べている。
5月11日、ジーナ・ライモンド商務長官Commerce Secretary Gina Raimondoは上院公聴会で、ロシアは制裁により、主要部品の代替調達先を探さざるを得なくなっていると発言した。
ライモンド長官はウクライナ首相と会談し、「ウクライナから、ロシアの軍事装備に食器洗い機や冷蔵庫から取り出した半導体が詰まっているとの報告を受けた」と証言した。
家電製品部品が悪人の手に渡るのを防ぐのは難しいが、米国当局は、軍事的に重要な用途があると判断すれば、デュアルユースのチップとして出荷を阻止する権限があると、パリッシュは言う。
そして、このことは、「現地に行かずともロシア装備品の成功を止めるための明確な道筋と、同盟国であるオーストラリア、カナダ、ニュージーランド、イギリス(総称して「ファイブ・アイズ」と呼ばれる)からの「技術の出荷を止めるため緊急国内プログラム」の必要性を強調するものだと述べた。
ライモンド長官は、ウクライナはロシア戦車が家電部品を使用していると証言したが、ウクライナ情報部が示した高度システム装備品リストは異なると、パリッシュは言う。なかでも「Ka-52武装ヘリの照準とミサイル誘導の光学システムが最大の懸念」と述べた。
The War Zoneは、今回の記事で名前が挙がった各社に問い合わせたところ、数社から返事を得た。ほとんどが、ロシアと取引を停止したと言っている。多数は、自社のチップの行く先は知らないし、コントロールもできないと回答してきた。また、ある企業は、ロシア装備品からチップが発見されたとするウクライナ情報機関の主張そのものに異議を唱えた。
例えば、オンセミonsemiの広報担当者は、同社のチップは軍用仕様ではなく、簡単に入手できると指摘した。
インフィニオン・テクノロジーズInfineon Technologiesの広報担当グレゴー・ローデヒューザーGregor Rodehüserは「具体的にコメントはできませんが、当社は制裁を遵守すべく適切な措置を実施しています」とし、ウクライナ戦争開始後、「ロシア、ベラルーシならびにウクライナ内のロシア支配地区への直接・間接の出荷をすべて停止しました。技術サポートもここに含まれています」と回答した。
インフィニオン・テクノロジーズは、「ロシアで当社製品が軍事利用されている証拠は見つかっていない」が、「当社製品を調達する顧客や市場を対象に、輸出規制の遵守を審査しています」という。
ウラジーミル・プーチンがウクライナに全面戦争を仕掛けたことで、ロシアにマイクロチップ含む厳しい制裁が課された Getty images.
インテルは、チップがどこに行き着くかはわからないが、ロシア、ベラルーシとも取引はないと述べた。
インテルのコーポレート・コミュニケーション・ディレクター、ペニー・ブルースPenny Bruceは、「顧客がどんな製品を開発し、エンドユーザーがどんなアプリケーションを開発するか常に把握しておらず、コントロールもできませんが、インテルは当社製品が人権侵害に使われることは支持・容認していません」と述べている。「インテル製品がビジネスパートナーにより人権侵害に使用されている懸念が生じた場合、当社製品が人権侵害に使用されていない確証が得られるまで、該当サードパーティとのビジネスを制限または停止します」 と述べている。
ブルースは、「インテルは、ロシアとベラルーシ両国の顧客への出荷をすべて停止済みです」とし、さらに、「インテルは、事業を展開する各国で適用されるあらゆる輸出規制と制裁を遵守し続けます。米国と同盟国が出したロシアとベラルーシ向け制裁と輸出規制の遵守を含みます」と述べた。
アナログ・デバイセズは、「輸出規制、貿易制裁、規制を含む米国、EU、その他国の法律を完全に遵守することをお約束します」と、広報担当フェルダ・ミランFerda Millanは述べた。
一方、TEコネクティビティは、ウクライナ情報機関が提示した部品リスト自体に異議を唱えている。
「当社の部品データベースで検索したが、リストの部品番号と一致するものは見つからなかった」と同社広報ジェフ・クローニンJeff Croninは述べた。
制裁にもかかわらず、外国部品がロシアの軍事装備に混入する問題は、以前からあった。
2014年にロシアが初めてウクライナに侵攻した後もロシアは制裁を受けた。しかし、機能しなかったようだ。
ウクライナの情報機関がロシアの防空システム、ヘリコプター、巡航ミサイルで見つかったマイクロチップについて、商務省がどこまで懸念しているかは不明だ。商務省には、金曜日午後までにコメントを求めたが、回答はない。
制裁がロシアの防衛産業に打撃を与えている証拠がでてきた。そしてウクライナは、ロシアが使う古い部品、特にKh-101が効果を下げていると主張している。しかし、ロシアが大量のマイクロチップや半導体部品に依存していること、そしてこうした部品のトップメーカー兼リサイクル業者の中国と密接な関係にあることを考えれば、チップなどハイテク部品での制裁の影響はまだ不明だ。■
Captured Russian Weapons Are Packed With US Microchips | The Drive
BY
MAY 27, 2022 3:47 PM
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