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主張「NATO拡大を無条件に歓迎していいのか。ロシアと戦争する覚悟はあるのか。ウクライナを米露代理戦争にしていいのか」

 Javelin

ジャヴェリン対戦車ミサイル Credit: Creative Commons

全保障の強化をめざす国がこれまで同盟に参加してきた。だが米国にとって、同盟は慈善事業になっている。ヨーロッパでは、アメリカは軍事上の小人と同盟を結んでいる。最近では、北マケドニアとモンテネグロをNATOに加盟させた。

慈善のための同盟

両国は軍事的に無力だ。ロシア軍がヨーロッパを制圧しようと押し寄せたとしたら、ポドゴリツァとスコピエでは止められない。しかし、ワシントンは両国が重要のように装っている。

さらに悪いことに、NATOに早くから加盟の各国は、自分たちが不可欠であり、自分たちの助言に耳を傾けるべきだと考えるに至った。このため、NATOが進める加盟政策が危険になっている。

エストニア、ラトビア、リトアニアは、ジョージ・W・ブッシュ時代に加盟した。この三国はアメリカに「もっとくれ」と叫びながら、自分たちはほとんどやらずに数年過ごしてきた。ウクライナは、断固とした領土防衛が侵略の代償を大きくすると実証している。バルト三国は、NATOの2%基準をようやく達成したが、アメリカの防衛にとって重要でないにもかかわらず、自分たちはアメリカの保護を受ける権利があると考え、米軍駐留を求めロビー活動を続けている。

ウクライナ戦争までは、バルト三国の嘆願は煩わしかったが、脅威でもなかった。歴代のアメリカ大統領は、アジアへの「ピボット」または「リバランス」を望み、ヨーロッパでのアメリカの軍事的プレゼンスを高める願望はほとんどなかった。

しかし、残念なことに、状況は変わってしまった。これらの国々には、モスクワとの戦争が迫っている。NATOは各国の声に耳を傾け続けている。

対露戦の覚悟はあるか

ただし、各国の言いぶりは異なる。アメリカを戦争に巻き込もうとするウクライナに続き、バルト諸国も飛行禁止区域を提唱した。アメリカは、有効な空軍を持たないイラクに飛行禁止区域を設定した。しかし、ウクライナをロシアの空襲から守ろうとすれば、ロシア機を撃墜し、ウクライナだけでなくロシア国内の防空網を破壊していく必要がある。モスクワは自国領土を米国に明け渡すことはないだろうから、その結果、戦争になる公算が高い。

バルト諸国はこれを知っている。さらに、この政策を実施した場合も、自国が避けられない戦闘を行うことはないともわかっている。モンテネグロや北マケドニアもそうだし、ドイツやイタリアもそうだろう。ロシアを倒すのはアメリカの仕事であり、核戦争になればなおさらだ。

リトアニアは、戦争を公然と提唱して迫っている。ビリニュスでは間接的な主張がなされている。外務大臣ガブリエリウス・ランズベルギスGabrielius Landsbergisは、モスクワの政権交代を要求し、「領土外で戦争をする体制がロシアにある限り、周辺諸国は危険だ」と主張している。

結論はこうだ。「現政権が消えるまで、周辺諸国は危険にさらされたままだ。プーチンだけでなく、政権全体が危ない。プーチンが変わり、側近が変わっても、別のプーチンがトップの座に就くかもしれない」。

政権交代を推し進めるとどうなるか

原則だけみれば、プーチンを放逐するのが良いように見える。しかし、米国には、ロシアを全面戦争で倒す以外に方法はない。しかも、プーチンを排除しても、誰が後任になるかは誰にも分からない。ロシアにはリベラル派より真正のナショナリストの方が多い。プーチンを追い出せば絶好の機会となる支配エリート、安全保障に関心のあるシロビキは、目的より手段を考え直す可能性が高い。そして、数千発の核兵器を抱えたロシア国家が暴力的に崩壊すれば、世界中がつらい思いをすることになる。

さらに、ロシアのウクライナ戦が、モスクワとワシントン間の戦争に発展すれば、全員にとって危険度が高まる。政権存続がプーチンの最重要目的だ。政権交代を要求すれば、プーチンは話せなくなる。西側諸国が現在の支配的なエリートを翻弄しようとすれば核兵器の応酬の引き金になる。プーチン政権を崩壊させるなら、米国はどこまでのコストとリスクを覚悟しているだろうか。

米国の政策立案者は、核兵器のエスカレーションを恐れるあまり、適切なロシアへの圧力を実施できないと不満を抱く。しかし、最良の政策は、現場の現実を反映したもののはずだ。モスクワにとって最も重要な要素の1つはウクライナで、同国はロシアにとって大きな権益だ。

だがアメリカにとって、ウクライナは周辺的な問題にすぎない。キーウがロシアの犯罪的な侵略を阻止することは素晴らしいからといって、米国が戦争の危険を冒していいわけではない。

欧米がウクライナを支援すればするほど、ロシアには圧力がかかる。プーチンには、負けることは許されない。交渉よりも戦い、妥協よりエスカレートを選ぶかもしれない。ロシアを完全な戦時体制に移行し、核兵器含む火力の優位性を利用する誘惑に駆られるだろう。そして、戦いが本格的な代理戦争となり、ワシントンがウクライナ防衛よりロシア討伐に力を入れれば、モスクワは予測不能な方法で対応し、紛争がさらに拡大するかもしれない。

同盟は無料ではなく、同盟国にはコストがかかることをワシントンは覚えておくべきだ。NATOの第一の目的は、ソビエトを西ヨーロッパから締め出すことだった。ソ連が東ドイツとハンガリーで弾圧したとき、ドワイト・アイゼンハワー大統領でさえ攻撃側に回ることを拒んだ。ジョンソン大統領も、ソ連がチェコスロバキアを制圧したとき、同様に慎重姿勢だった。

しかし、同盟は拡大しそうだ。フィンランドとスウェーデンが次の加盟国となる。ウクライナはどうなるか。米国とヨーロッパ大国は、戦争のラインまで、そしておそらくそれを越えて進んでいく。キーウは中立の代償として、NATO憲章第5条に似た西側の軍事的保証を要求している。欧米の支援が着実に増えて、ウクライナに戦闘を促している。ウクライナがモスクワを打ち負かせば、NATOにウクライナ加盟を認める気運は高まるだろう。ただし、東部でロシアの進撃が遅いながらも続いているため、その可能性は低いが。

同盟加盟国の関係者は、加盟を希望する国はすべて受け入れる義務があるかのように振る舞い続けている。これはナンセンスだ。NATO憲章には、同盟は共通の安全保障を強化すると信じる国々を加盟に招くと記されている。ウクライナは2014年のブカレスト協定以来、ジョージアと同様で、加盟させれば戦争の可能性が高まるため、後回しにされてきた。NATO加盟の扉を単純に閉じなかったことが、ロシアのウクライナ侵攻で引き金になったのだろう。

大統領、あるいは現在米国の政策担当者は、瀬戸際から退くべきだ。ウクライナ戦争が長引けば長引くほど、ウクライナの死と破壊は拡大し、ロシアの孤立と過激化が進み、紛争が西方へ拡大する可能性が高くなる。米国とNATO同盟国には、紛争を拡大させるのではなく、終結させるのが急務のはずだ。■


Are the US and Russia Destined for War over Ukraine? - 19FortyFive

By Doug Bandow

Doug Bandow is a Senior Fellow at the Cato Institute. A former Special Assistant to President Ronald Reagan, he is author of Foreign Follies: America’s New Global Empire.


コメント

  1. ぼたんのちから2022年5月14日 9:49

    NATOに加盟している「軍事上の小人」に米国の安全保障に対する寄与は少ないとしても、記事のように邪険に扱うのはいかがなものか。
    欧州の小国がNATOに加盟しようとするのは、第一に自国の安全保障のためであり、ロシアの脅威が目前にあるためだ。
    ロシアは、とりわけ旧ソ連圏の国へ圧力をかけ、旧宗主国の権威を振りかざしてきた。冷戦後、ロシアは衰退し、旧ソ連圏への圧力も減っているにしても、ウクライナ戦争で見せたような凶暴さは減ってはいなかった。中欧・東欧の小国が、NATOに加盟しようとするのは、当然のことと思われる。
    NATOに加盟できなければ、ロシアの跳梁を許し、過去の世界大戦の序奏のように大国に挟まれた地域で様々な紛争や問題を引き起こすことになり、次の世界大戦の引き金になっていたかもしれない。いや、ウクライナで既に引き金は引かれたかもしれない。東欧諸国のNATO加盟がなければ、ウクライナでの戦争の前に、バルト3国やポーランド、あるいはフィンランドで紛争が起きていたかもしれない。
    記事は、現在の瀬戸際の状況から手を引けと述べるが、それを行えば、ロシアの行為を認めることになり、より多くの混乱を起こし、より第3次世界大戦に近づくと思える。「ロシアを倒すのはアメリカの仕事であり、核戦争になればなおさら」と筆者は記事で言うが、この考えは危険で、根本的におかしいと感じる。

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