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主張 中国共産党体制を内部崩壊させるため中国国民の心をつかめるかが米国西側のこれからの課題だ

 

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中国人の心をつかむ戦いに勝利する

 

経済的自由、法の支配、財産権、宗教の自由などの理念が、党の提示より大きな利益を中国国民にもたらすとアメリカが示せれば、中国共産党の正統性は脆弱になる。

 

国の台頭に対し米国は技術やインフラ投資を拡大し、軍事資産をアジアにシフトし、同盟関係を強化するなど、世界の指導力を維持する措置を講じている。しかし、あくまで防衛的なものであり、米国の立場を弱めたい中国に対抗しているにすぎない。「攻め」の発想はないようだ。つまり中国人民の中国共産党(CCP)への支持を弱め、政権を内部から崩壊させる発想はない。冷戦終結の鍵は、「攻め」の戦略だった。

 

 

冷戦勝利の理由から中国対応を考える

 冷戦時の戦略には、ソビエト政権の最も脆弱な部分、すなわち国内での正当性を損なうねらいがあった。軍事力と同盟関係で侵略は抑止できたが、資本主義、法の支配、民主主義、人権といった概念で鉄のカーテンの向こうの人々の心をつかむのが時間と空間を稼ぐ防御的な手段であった。2つの体制の違いが明らかになり、ソ連のエリート層や国民をゆっくりと魅了していった。やがて、共産主義体制は信頼を失い、体制は内部崩壊した。

 今後数十年間は、中国共産党と長期にわたる戦いが繰り広げられる。中国の経済力、米中の相互依存関係、両国の歴史と文化の隔たりを考えれば、今回の競争の性質が異なるのは必至だ。とはいえ、経済的自由、法の支配、財産権、信仰の自由などの理念が、党より大きな利益を中国国民にもたらすとアメリカが示せれば、中国共産党の正当性が国内で脆弱になる。

 党=国家の経済運営を中国国民は是認しているが、威圧的な姿勢は多くに負担であり、予測不可能な事態を引き起こす原因となっている。例えば、最近のハイテク企業向けの取り締まりは、企業家や経営者を神経質にさせ、精神を鈍らせ、富や活動を海外に移す方が安全だと思わせている。一方、草の根活動で多数が拘束され、何百万人が市民活動の制限を認識し、何千万人が信教の自由で制限を受けている。2012年、習近平が政権についてから、こうした傾向は悪化し、現在の中国は1990年代後半から2000年代より自由度がはるかに低くなっている。

 習近平の積極的な党支配は、党と国民の間に楔を打ち込んだ。楔はどのような形をとるのだろうか。米国は、中国の経済パフォーマンスを低下させ、中国国民に選択肢を伝えることで、CCPの正統性を弱めることができる。米国は、CCPを支える資金の流れを抑制し、抑制を行動に結びつけ、中国のエリート中間層の移住に門戸を開き、中国語メディアを創造的に使い国民に訴えかけるべきだ。国民感情を変えるのは、CCPの情報統制を考えると容易には行かない観があるが、影響力の経路を的確に選択すれば可能だ。党=国家の体制と強さを考えると、短期的には大きな成果は得られないだろう。むしろ民族主義的な反動と抑圧を更に招くかもしれない。だが、不満が広がれば、党は方向転換を迫られ、結束と決意が弱まる。

 

CCPは国内の不満表出を恐れる

 

 中国共産党は、旧ソ連のように自国の統治モデルを世界に普及させる大戦略は持っていないが、自国民の高い支持を維持するため、中国の特色ある社会主義と呼ぶモデルの優位性を国内で証明することに躍起だ。中国共産党はソ連共産党をモデルとし、積極的な援助を受け建設されたマルクス・レーニン主義政党であり、1921年の創立以来、中国国民の心をつかむ戦いを続けてきたが、2012年に習近平が政権をとってから、その努力が一層強まっている。

 中国共産党の立場からすれば、国内で正当性を求める戦いは、党による統治が他より優れている(道徳的に優れる)、より良い成果、特に物質的繁栄をもたらしていると示すことで達成される。民衆のニーズや不満に対し、パフォーマンスなどで党のモデルが最善だと「証明」し、ナショナリズムや反外国感情を利用して人気を高め、情報、教育、娯楽を統制し、社会に流れる物語をコントロールし、強固な規制と安全機構で市民社会さらに集団行動を制限することで、多くのレベルで「勝利」を目指している。過去数十年の間にほぼゼロから数億人規模へ急拡大した都市中産階級の支持を得ることは、こうした層が国際情報に接し、不満表明の能力が高いことを考慮すれば、特に重要と考えられている。

 中国におけるな正統性の歴史的概念(王朝がどれだけ効果的に統治したかにより、統治を保持あるいは喪失するのが天命)、現代の物質的繁栄の概念、さらに共産主義の理想を反映し、ブルース・ディクソンBruce Dicksonは、CCPの正統性は「被治者の同意ではなく、国内を近代化する能力に基づく」と確信している。近代化とは安定して力強い経済成長、生活水準の向上、貧困の減少の実現を意味する。近年、中国共産党の目標は、より良い環境、より強い国際的地位、さらに中産階級の3つの懸念事項つまり腐敗の減少、格差の縮小、道徳水準の向上に広がっている。

 

情報統制の背景

 

 CCPは人気を高めるため、教育、報道、映画でナショナリズムのメッセージを吹き込み、国民が党を「最高の愛国的勢力、民族の誇りの保護者」だと認識させるように仕向けている。学校では中国共産党が独立を確保し、屈辱の世紀(1839-1949)を終わらせ、国家統一に果たした役割を強調する愛国教育を取り入れている。映画も同様の役割を担っている。趙馬Zhao Ma が言うように 

 中国共産党は長い間、映画によるプロパガンダの重要性を認識してきた。映画は、怒りや思いやりといった感情を呼び起こし、教訓的なメッセージを伝える絶大な力を有する。映画は教育し、興奮させる。党による「情緒活動」の促進に不可欠な道具だ。

 しかし、民族主義勢力の扱いを誤れば、あるいは党の利益に反する行動に駆り立てられれば、危険であることをCCPは認識している。

 情報統制は、ソ連共産党のように、党の成功例を強調し、失敗例や党の立場を損なう真実や物語の報道を制限することにより、党の立場を強化するねらいがある。この手法は、COVID-19パンデミックにも見られた。CCPは、まず地方当局への批判を許し、危機に対処できるようになると、情報の独占を利用して、米国や西側諸国と比較して、自らのCOVID-19への対処が成功したと喧伝した。さらに国民が党による対応を肯定的にとらえるように、本やテレビ番組が制作された。異なる見解、あるいは複雑な描写は封じられた。

 蕭強Xiao Qiangは次のように説明する。

 中国には政治兵器になった検閲システムがあり、洗練され、組織化され、調整され、国家によってサポートされている。単に何かを削除するためだけではない。また、物語を構築し、巨大な規模であらゆるターゲットに照準を合わせる強力な装置もある...非常に大きく、他の国にはない機能だ。

 習近平が政権を握る前の10数年間、新聞は政策に批判的な調査記事を掲載し、弁護士は法律と国民の力を使い市民の権利を拡大し、知識人は政治改革をオープンに議論できていた。

 党は早くから世論管理におけるサイバースペースの重要性を認識し、世界と全く異なる道を歩んできた。欧米がグローバルなインターネット統合を勝ち取ったのに対し、中国共産党は外部からの情報流入を規制するためグレートファイアウォールという独立ゾーンを設け、外国企業の関与を制限した。これにより、中国共産党はネット上で言論を操作し、自分たちの真理を強制し、世論を形成できるようになっている。アメリカの巨大インターネット企業フェイスブック、ツイッター、アマゾン、グーグルは、いずれも中国で存在感を示していない(アップルは自社でコンテンツを制作せず、例外的存在だ)。中国のインターネット規制機関、中国サイバースペース管理局のある官僚が「インターネット上に流出したり、社会に深刻な悪影響を与えないよう、情報を常時コントロールするのが目的」と述べているのがハッカーグループが流出させたメッセージで見つかっている。

 こうしたツールはすべて、中国の強固な規制と内部セキュリティ機構が支えており、言論の自由を制限し、市民や組織を監視し、抗議活動を局地的にとどめ、大規模かつ組織化された活動に発展しないようにしている。これにより、集団行動は常時制約される。たとえ地方レベルの特定の問題(汚染工場や特に腐敗した役人に対する動員)でも、脅威に発展することは許されない。香港をコントロールする党の能力と波及効果への懸念から、中国共産党は2020年に香港にも同じ対応を導入した。

 国内で党が強い立場を保持しているのは1978年以来、中国が生活水準の向上に多大な成功を収めているためだ。調査では一貫して国民は高い満足度を示しているが、慢性的な食糧不足、貧弱なインフラ、政情不安の記憶のない世代は、快適さを当然と考え、継続的な改善を期待するだろう。これは、高度な学位を持ち、国際的な経験を積み、物質的なニーズが容易に満たされる、増え続ける都市部の中国人に特に顕著だ。中国の民意を長期間追跡する著者が結論づけるように、「効果的な政策で政府高官を賞賛する市民は、政策の失敗が自分や家族に直接影響を与えれば、政府高官を非難する」。あるいは、Dingxin Zhaoが言うように、「パフォーマンスの正統性がパフォーマンスに依存しすぎている。国民との関係は......取引的なものだ。人々は......一日一日、一件一件判断している」。

 

中国国民の意見を把握できるか

 

 中国の環境下で市民の意見を推し量るのは困難なため、米国アナリストは中国共産党のメッセージを観察する方が早いとする。実績が悪化し、疑問視する考えが出回れば、CCPは脆弱性を感じ、西側からの代替的な真実が脅威となるとを積極的に警告してきた。2013年、中国共産党中央委員会総局は、立憲民主体制、普遍的価値、市民社会、報道の自由、経済自由主義など「誤った思想傾向」で公職者に警告を発するため、内部機密文書「思想圏の現況に関する通知」、通称9号文書を回覧した。同文書では、敵対思想が党のイデオロギーを破壊する方法として、直接通じるメディア、文化製品、教育交流、他国での共産体制崩壊の情報、近代化が民主化につながるとの考え方、多様な価値観の推進など幅広く挙げている。

 中国共産党の正統性を高める包括的な内部戦略を外部からサポートしているのは、党の地位を守り、脅威とみなす国家や組織を弱体化させる措置だ。

 こうした努力の最も明確な表れが、党によるパブリックメッセージの「統制と抑制」だ。過去20年間、中国政府と国営メディアは世界に巨大なグローバル・メディア・インフラを構築してきた。通信技術でメディアの風景が一変した時代に、中国共産党はソ連共産党(CPSU)よりはるかに容易に国際メディアと関われるようになった。中国共産党は非常に巧妙に国際的メディアとの関わり、時には素人的であったり、手際が悪かったり、失敗もあるが、党のばくだいな資金力、国家機構、多くの党員と関連組織が支える規模で、ソビエトより広く多様な網をかけている。多くの場合中国共産党は「都市を包囲するためまず地方を利用する」発想で、ライバルが無視したり、投資を控える地域や対象(例えば、発展途上国、非英語メディア、地方自治体、小国)を包囲している。これは、中国共産党が中国内戦で弱い立場から出発し勝利できた戦略を世界的に応用したものだ。

 中国共産党は、多くの地域で中国語メディアを支配しており、米国、カナダ、オーストラリア、その他の地域に暮らす中国語話者数百万人に毎日直接接触できる。このようなアクセスは、ソビエト連邦が夢見たものだ。中国の海外居住者と海外旅行者の規模は党に同意しつつ、米国の影響を否定する存在となる。

 米国で毎日2000万人近いが利用するWeChatは、中国系アメリカ人にとって海外の家族とつながるため不可欠かもしれないが、Alex Joskeらが書くように、「検閲、情報統制、監視の実績があり、北京の目的と一致しているため懸念される」。ソーシャルメディアの支配と登録により、北京との連携を避けたいメディアも、党の利益のために行動することを余儀なくされている。

 より広範には、党はレーニン主義理論から着想を得た統一戦線United Front活動を通じ、米国やその他の地域で中国を好意的に見せる影響工作を広範に実施している。統一戦線は、ビジネス・エリートから学者、政治家に至るまで、あらゆる人々を取り込み、「党機関や党とつながった組織で構成する広大なインフラで実施し」、「党の海外影響力と干渉活動の中核」だと。Clive HamiltonとMareike Ohlbergが書いている。

 

...中国の文化に関わりたい、あるいは中国のビジネスマンと知り合いになりたいと思う影響力のある西洋人は、相手の組織が党の統一戦線の秘密の一部で、自分が働きかけられていることに気づくかもしれません。

 

中国国内に直接アクセスできるか

 

 アメリカの政治家やシンクタンクがこの問題への理解が低いのは驚くほどだ。中国や中国の戦略文化を熟知する者は皆無に近い。また、中国や中国の戦略文化に精通した者もほとんどおらず、中国語を話す者もいなければ、中国に長期滞在した経験もない。多少知識があっても、学者やシンクタンクは、自国の利益を図ること(そのためには通常、中国や中国の当局者に接触する必要がある)と真実を知ることの間の微妙なバランスで調整を迫られる。あまりにも対立的なアプローチをとると、入国ビザが下りず、中国当局から排斥される。

 その結果、学界では、議論を呼ぶ問題を避ける傾向がある。ワシントンでは、安全保障問題や中国の第三国政策(一帯一路、借款など)を研究するアナリストや学者が多く、中国の影響力行使を研究する者はわずかだ。米国議会も同様で、中国との競争に備える中国競争力法案では、産業競争と一帯一路対策の必要性を強調しているが、議会は中国メディアに言及しておらず、統一戦線の国内浸透にもっと対応できるはずだ。

 CCPの正統性を損なおうとするなら、冷戦時の成功要因を考えるべきだ。冷戦の大半の期間を通じ、この問題は焦点ではなかったが、最終的には、ソ連民衆の意見をめぐる戦いが勝利の鍵だった。ソ連、そして共産圏指導者たちは、一貫して自らの権威を、自分たちの事業の道徳性に基づかせようとした。ソ連の戦略は、共産党の体制が道徳的に優れており(例えば、貧しい人々や労働者階級の利益をよりよく代表し、よりよく奉仕する)、物質的に競争力がある(例えば、技術的、軍事的に強く、生活水準を引き上げることができる)と説得し主張できる限りは、うまく機能した。しかし、世代が過ぎ、外部から情報が入り、経済的進歩が停滞すると、イデオロギーの保持力は弱まっていった。

 ソ連のエリート層は、「力の相関関係」(双方の長所と短所の計算)が自国に有利に働くと考え、アメリカの長所(経済的活力、法の支配、財産権制度、自由、機会の広がり)を無視できたが、1980年代に相対的衰退と停滞が起こると、これらの長所が無視できないほど明白になった。軍事や設備投資に資金を振り向けたため、もともと大きかった生活水準の格差が、著しく拡大し、政治・法体系の弱点も目立ってきた。一方、アジア諸国では、資本主義や自由と権利の導入が優れた成果を上げた。こうした動きが明らかになるにつれ、ソ連共産党のシナリオは崩れ、ソ連国内で反対運動が活性化した。

 米国は、共産主義のシナリオに挑戦し、ソ連の正当性を弱めるため、さまざまなコミュニケーション・チャンネルを構築した。国際放送、パブリックディプロマシー、書籍配布、文化交流、反全体主義組織への秘密資金提供など、表向きと裏向きあわせた幅広い活動によって、ソ連の物語に代わるものを多くの人々に伝えようとした。レーガンは、1987年にベルリンでゴルバチョフに「ベルリンの壁を壊せ」と挑発し、共産主義の正統性に挑戦する演説を繰り返し、こうした活動を活性化させた。

 攻勢に転じるため、米国は中国共産党の正当性の源泉であるパフォーマンス、ナショナリズム、情報、市民社会の限界それぞれをターゲットにするべきだ。冷戦時代同様に、米国(およびその同盟国)と中国の違いを明確にする必要がある。自由と不自由、法治と人治、権利の平等と民族・性別・地理・家柄による差別、民間企業中心の経済と国家の利益促進が中心の経済の違いだ。中国共産党が米国の自己批判を利用しプロパガンダを行っているように、米国の指導者は米国の成果を誇らしく語るべきで、欠点に固執してはならない。より多くの中国人が高等教育、国際経験、物質的な快適さを身につけるにつれて、目でわかる違いがますます重要になる。党とその政策へ不満を煽ることが党内外のエリートに習主席の政策へ反発を抱かせる上で重要だ。

 中国国民への繊細なアプローチで、そのような努力を支援できる。過去にアメリカが過度なまで自己主張したことで、反米感情を刺激し、CCPがメディアやエンターテインメントの支配を通じて厳格なナショナリズムを助長したのに対し、中国国民に直接語りかけるアプローチは、改革を活性化させるだろう。この微妙なアプローチと同時に、米国は中国共産党の最大の弱点である、経済パフォーマンスに狙いを定めるべきだ。抗議行動の多くは、党の全体的なパフォーマンスよりも、公害や土地占有といった特定の不満に的を絞っている。中国への投資や中国からの購入でコストとリスクを段階的に高めていけば、中国の経済成長を抑えつつ、米国経済を混乱させずに、中国への依存を減らすことができる。その方法とは、軍事やウイグル虐殺に関連する企業から始め、対象を徐々に拡大し、広範な権利侵害や二重使用技術を対象にした制裁、時間をかけ関税を増加させ、監視と投資制限を強化することだ。アメリカの輸入品の約半分を対象としたトランプ政権の関税措置は、COVID-19以前だが「中国の輸入品が激減し...購入先が他国にシフトしている」と指摘されていた。

 制裁や関税を人権や企業統治に関する基準と結びつけることで、中国共産党の政策とアメリカの行動の関連性を明確にし、中国共産党の政策がいかに中国の企業や中産階級、国家の利益に反しているかを浮き彫りにできる。バイデン政権が、ヨーロッパ、オーストラリア、日本、インドなどアメリカの同盟国に、アメリカに同調した並行法案を通すよう説得できれば、効果はさらに大きくなる。共産主義国との貿易関係を人権記録と結びつけた1974年のジャクソン=ヴァニック修正条項Jackson-Vanik Amendmentを復活させれば、対ソ連冷戦時代のように貿易特権を一部問題と結びつけることができる。中国への適用は、1970年代後半から米中関係の進展に伴い毎年免除され、2002年の世界貿易機関(WTO)加盟を機に終了したが、更新の過程で中国の人権問題が注目された。特に1989年の天安門事件の後、中国の人権問題が議論を呼び、議会で権利放棄を覆すという声が出てきた。

 これと並行して、米国は中国投資にかかるコストとリスクを高める必要がある。急速に拡大する環境・社会・ガバナンスの分野を、大量虐殺行為、宗教の自由の制限、市民社会の制限なども包含するように規制すれば、投資家は中国を投資先として敬遠するようになる。現在、投資機関は中国共産党の弾圧を是認し、何の懸念もなく中国に集まっている。

 中国共産党が情報源を遮断しても、こうした措置は中国の中流階級と上流階級に伝わるはずだ。たとえ党が自分勝手なシナリオで情報を包み込もうとしても、否定するのは難しいだろう。

 中国国内の視聴者に到達する最良の方法の一つは、国外の中国語メディアを利用することであり、党の直接的な支配の及ばないメディアを使うことだ。そのため、米国と同盟国では、中国共産党がメディアに及ぼす影響力を排除することが不可欠となっている。つまり、党や統一戦線と関係がある個人や団体の所有を制限すること、WeChatへは方針を変えない限り禁止すると脅し、変えない場合は実行すること、民間企業による中国政府関連の放送や記事の使用を停止すること、強力な独立系媒体(BBC中国語、Apple Dailyなど)に市場拡大や参入を奨励すること、などが挙げられる。中国共産党の情報源に代わる信頼に足る情報源の記事配信を助成すること、中国語メディアに独立資金源を確立すること、中国語ソーシャルメディアを積極的に活用すること、メディア空間で働く組織や個人を党や工作員が脅迫しないようセクター全体を綿密に監視すること、などがある。市場がこうした解決策を提供する可能性は低いため、政府の行動が必要だ。台湾はかつて中国の在外華人社会で重要な役割を果たし、中国共産党によるメディア潜入で影響を及ぼす試みへの対抗手段について、経験から必要知識をすべて有しているので、有用なパートナーとなり得る。同盟国にも同様の措置を奨励するべきだ。

 たとえば、ラジオ・フリー・アジアを強化し、短波ラジオ(中国国境のすぐ外側にある国から放送している「希望の歌」など)、仮想プライベート・ネットワーク、各種の秘密チャネルなど新しい手法を活用して、党による外部情報の妨害・遮断の努力を克服可能な方法で中国国民に到達できる。メディアの状況が大きく変化し、中国共産党が情報をコントロールできるようになったため、冷戦時代とは到達範囲が異なるものの、十分なクオリティがあれば、主要な視聴者(たとえば都市の中間層)に対して、フィルターを通さないニュースや別の真実を伝えることが可能だ。これによって、虐待(汚職、官僚による虐待など)や行動(ストライキなど)の報告や、国外の別の意見(ジョー・バイデン大統領、反体制派など)が、はるかに多くの読者に届き、現政権へ不満が広がる。

 最後に、中国エリート層の移住を促進するべく協調努力が必要だ。移住は最も強い不満の表れで、優秀な人材を国外に流出させる可能性がある。米国は、高度技術を有する人々のために、ボーナス、住宅補助、家族支援などを提供し、同様に高度な技術を持つ外国人の移住を誘致する中国の制度に似たプログラムを開発すべきだ。このような機会を利用するエリートが増えれば、国内では海外の方が暮らしやすいという意識が高まり、党のメッセージの正統性が損なわれていく。一部分野では安全保障上の懸念のため、制限や監視が必要かもしれないが、大半は機密性のない分野で働き、その才能で米国は豊かになる。

 

米国、西側の課題

 

 米国も成功をめざすべきだ。アメリカの努力が実を結び、中国共産党が中国国民から支持を失うことを恐れるようになれば、どのようなことが起こるだろうか。中国共産党は、上記の4つの戦略を(戦術を変えながらも)長い間堅持してきたことから、おそらく倍返しするだろう。一方で、民間部門に経済的自由を与える改革や、外国の要求(例えば、選択的人権問題)を満たす改革、価格を制限したり企業に国益(あるいは党益)を強制する統制などを通じて、生活の安全を確保するため必要な措置を取るだろう。後者については、不平等を助長し、生活コストを上昇させる方法で利益を上げているとみなされる民間企業(例えば教育分野)への集中的な攻撃がすでに見られており、習近平政権下で実行の可能性が高い。

 一方、中国共産党の対応としては、現在すでに実施しているようにメディアを通じた民族主義的な感情の扇情、あるいは海外で行動を起こすことが考えられる。後者では、日本(常に格好の敵)やオーストラリア(アメリカの手先)との緊張を煽ったり、インドや南シナ海など国境紛争で攻撃的な態度を取るなど、リスクは限定的でも国内で最大限の効果を発揮するものになりそうだ。一方、中国政府はソーシャルメディアなどで情報統制や市民社会への統制を強めるだろう。

 米国にとって最大のリスクは過剰反応や中国に突発的な行動(不必要な紛争を誘発する可能性)を強いる、妥協するのいずれかだろう。中国共産党が弱体化すれば、暴挙に出るか、交渉方法を見直すか(中国は経済を利用して、野心的な対話、枠組み、合意を作り出してきた)、いずれかになると思われる。米国は、粘り強さ、忍耐力、自制心を駆使し戦略を完遂すべきだ。

 米国が中国の挑戦に立ち向かい、世界各国や中国人を取り込んだ幅広い連合体を構築するためには、CCPの正統性を弱めることに焦点を当てることが攻撃で重要な要素となる。経済的相互依存関係を考えれば、政策の変更は短期的に一部の利益を犠牲にし、最大の利益を得ている層(ウォール街の銀行や中国から調達中の企業など)の抵抗を克服する必要がある。しかし、中国へ挑戦するのは、米国の大きな国益のためであり、これからの米国と世界の安全保障のため不可欠と考えるべきだ。■

 

Winning the Battle for Chinese Hearts and Minds | The National Interest

by Seth D. Kaplan

April 30, 2022  

Topic: China  Region: Asia  Tags: People's Republic Of ChinaPeople's Liberation ArmyTaiwanXi JinpingGreat FirewallPropagandaInformation Warfare

 

Seth D. Kaplan, a lecturer in the Paul H. Nitze School of Advanced International Studies (SAIS) at Johns Hopkins University, lived in China for seven years and is an expert on political transitions.


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