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ウクライナ戦に見るインテリジェンス、オープンインテリジェンス優勢に見えるが、秘密はどこまで守れるのか。

  

NASA FIRMS fires in Ukraine osint

 

多分不人気のインテリジェンス論です。先に2回掲載した記事を補強する内容ですので、必要なら前の記事もご参照ください。

 

クライナ戦争前に情報機関が驚くほど目立っていた。アメリカとイギリスはロシアの意図について評価を下し、政策立案者はロシア侵攻に反対する支持を集めるため情報を利用した。また、戦争の口実を作ろうとした疑惑について具体的な詳細を発表し、ロシアの虚構の主張への「前哨戦」としてインテリジェンスを利用した。開戦後も公開情報は続き、毎日要約が発表され、スパイ機関が注目を浴びた。スポットライトを浴びることを受け入れ、陰で働く伝統を捨てたように見える。秘密の世界はもはや秘密でないようだ。

 

 

 オープンソース情報は、戦争の描写や、一般的な議論でも大きな役割を果たしている。商業衛星画像は、戦場の風景を毎日提供している。ソーシャルメディアは、軍事作戦や戦時中の残忍な行為をクローズアップするプラットフォームになった。オープンソースのアナリストは、画像や映像を文脈から分析している。学術界、シンクタンク、民間情報企業は、戦術と戦略、資源とコスト、敵と味方、勝利と敗北など、戦争に関連するあらゆることについて詳細な評価を行っている。

 ほとんどのオブザーバーが、この傾向に価値を見いだしている。指導層が公開情報を有効活用し、秘密の共有に拍手を送っている。情報機関がオープンソースを評価に取り入れたことが、戦前の明確な勝利につながり、情報機関の警告は正しかったと判明した。政策立案者が公の場で情報を活用することで、ロシアに対抗する強固かつ持続的な連合体を構築できた。ロシアのエナジー輸出に依存し、失うものが大きい同盟国もいることを考えれば、これは並大抵のことではない。このような国も取り込み、モチベーションを維持するため、情報の共有が不可欠だった。

 ウクライナの経験の意味は明らかだ。パブリック・インテリジェンスは、外交官に限らず将軍の手にも渡る重要なツールだ。情報機関がオープンソースにオープンマインドであればインテリジェンスが機能する。後戻りはできない。秘密主義が王道で、国家が個人情報を保有することが戦略的成功の鍵であった時代は終わった。インテリジェンスに詳しい学者グループは「歴史的にみて、諜報活動の成功は秘密主義と背中合わせだった」「過去50年間のどの出来事よりも、ロシアのウクライナ侵攻は、もはやそれが真実でないと如実に示している」と著している。同じ著者は別の記事で、われわれは今、「グローバルなオープンソース情報革命」の真っ只中にいると論じている。戦争から得た圧倒的な証拠に直面し、この革命を受け入れないと、戦前・戦中の情報機関のパフォーマンスが低下する危険性がある。秘密を最高とする時代遅れのスパイ活動に頑固にこだわれば、大惨事を招く危険性がある。

 そうかもしれない。技術の進歩により、情報の量と質は飛躍的に向上した。リアルタイムのデータも豊富で、秘密は重要でないように思われ、秘密主義は無意味になった。しかし、ロシアがウクライナに侵攻する前や侵攻中に秘密が重要な役割を果たしたと考えてよい理由はある。そして、戦争を終わらせるため秘密が不可欠になるかもしれない。

 

オープンソースに関する公開質問

ロシアは2月の開戦に先立ち、数カ月かけて大規模な侵攻部隊を編成した。その軍事的な動きは隠されていなかったが、何を意味するのかについて合意が得られなかった。大規模侵攻を確信したものがあり、限定的な侵攻を予想したものもあった。また、戦争への前哨戦ではなく、西側に譲歩を強いるための動きと考える人もいた。結局のところ、戦争はコストがかかり、ロシアの安全保障上の利益には逆効果になる。プーチン大統領は、大きな代償を払うことなくライバルを緊張させ、過剰反応して不条理に見せようと鍋をかき回していたのかもしれない。

 米国の同盟国も分裂していた。前出の著者が指摘するように、疑念を抱き続ける者もいた。米英が公然と侵攻を予測する一方で、フランスやドイツの高官は、ロシアは別の道を選ぶと考えていたようだ。NATOの情報提供が考えを変えるのに役立ったとされるが、開戦前夜になってからだ。フランスのティエリー・ブルカールThierry Burkhard国防参謀総長は、3月に次のコメントを残している。「アメリカは、ロシアが攻めてくると言っていた。ウクライナを征服するには途方もない犠牲が必要であり、ロシアには他の選択肢があると考えていた」。

 いずれも愚かな考えであった。膨大なコストとリスクを考えれば、ロシアが戦争前に自制心を示すと主張するのは妥当だった。しかし、ロシアの動員規模やプーチンのウクライナへの姿勢を考えると、開戦を推理するのも合理的だった。重要なのは、自由に入手できる情報は、明白な結論をひとつだけ指し示ていないことだ。同じデータから、アナリストは正反対の、もっともに聞こえる推論を行った。だが事実は自己解釈できない。

 では、懐疑的だった欧州の関係者が、ロシアで考えを改めたのはなぜなのか。NATO関係者はどのような情報を内部で共有していたのか。ロシア動員の大枠は既知だったから、情報でロシアの計画について詳細かつ説得力ある洞察が得られたのだろう。米国の報道官がロシアの虚偽の可能性をすでに知っていた事実は、情報機関がロシアの通信に異常なまで接近していたことを示唆しており、すべてが公の場に出たわけではないことも示唆している。人的・技術的な情報源を組み合わせて、オープンソース画像を超える形でプーチンの計画がわかる窓ができていたのかもしれない。

 ウォー・オン・ザ・ロック記事の執筆者は、インテリジェンスは政策立案者が聞く態度がある場合にのみ重要となる、と正しく指摘している。今回の事案では、アメリカの指導者たちはロシアの軍事行動に関する警告を受け入れたが、パブリック・インテリジェンスがその理由だったのかは不明だ。なにしろジョー・バイデン大統領は、戦争の1年前からプーチンを「殺人者」と断じ、ロシアの意図について皮肉を言っていた。パブリック・インテリジェンスが既成概念をせいぜい補強した程度だ。政策立案者の信念や期待を裏切る情報であれば、より良いテストになるのだが、今回はそうではなかった。

 

ロシアの不幸の根源はどこにあるのか

戦争の帰趨は定かでないものの、3カ月でロシア軍は大きく痛手を負った。ウクライナは、各種推定によれば、ロシアの数千人を殺傷し、装甲車両、航空戦力、海軍戦力を破壊した。ロシアの作戦は、圧倒的な物的優位があるように見えたにもかかわらず、見事に失敗した。その後、ロシアは南部と東部で成果を上げているが、これにも相当の犠牲を払っている。これは、2月にクレムリンが「特別軍事作戦」を発表した際に示唆した限定的紛争ではない。

 この失敗を説明するものは何だろうか。モスクワからの報道が限られていることを考えれば、判断は時期尚早だ。しかし、この戦争がロシア情報機関の大失敗であった兆候がある。ロシアは、ウクライナの意志、防衛能力、国際的な対応などについて、恐ろしいほど誤った推測に基づいて行動した。ロシアの諜報機関が思い込みを助長し、政策立案者の攻撃性を高めたのだろう。情報機関の粛清に関する報道は、少なくともロシアの指導者たちがパフォーマンスに失望していることを示唆している。

 War on the Rocks記事の執筆者は、我々はまだ初期段階にあり、ロシアの意思決定について知らないことが多数あると正しく指摘している。しかし、ロシア情報機関については予備的判断は厳しい。「ロシアは、グローバルなオープンソース情報革命からますます切り離されて、21世紀の情報環境で戦争する準備がまったくない状態で、ウクライナへの攻撃を開始した」。ウクライナの革新的な指導層は、オープンソースを活用し、大きなライバルに優位に立つため利用できる新しいテクノロジーを模索していた。これに対しロシアの指導者たちは、時代遅れのインテリジェンス・モデルに固執した。もし、ロシア指導者たちが、自由に入手できる情報に賢明で、新しい方法に投資していたならば、戦争の初期段階はもっと慎重だったはずだ。侵略しない選択をしていたかもしれない。

 これらは真実かもしれない。しかし、問題は、ロシアの失敗は、軍の組織やドクトリンよりも、プーチンに大きく関係していることだ。プーチンは権威主義的な権力者で、国内統治は非常に効果的だが、海外での権力行使は非常に下手だ。プーチンがロシアを支配し続けるため使うのと同じ手段が、情報と政策の関係の質を低下させている可能性がある。 プーチン政権は反対意見を受け付けない。政敵は刑務所に入れられたり、死ぬ。これでは情報当局との健全な交流ができる環境とはいえない。悪い知らせの運び屋になるよりも、結論を甘く見て、喜ばせる情報を提供するインセンティブがあるのは明らかだ。プーチンが戦前に、情報部のチーフを公然と辱めたことで、このメッセージが強くなった。

 このような状況下で、ロシアの情報機関がどのような手を打っていれば結果が変わったのか、想像もつかない。ロシアの泥沼化は、プーチンのウクライナへの執着、戦略的な無策、冷酷さが招いた。たとえ情報当局がオープンソースなど斬新なアプローチにもっと投資していても、プーチンが冷静で慎重な見積もりを受け入れていたと信じる根拠はない。

 さらに興味深いのは、プーチンの非情なアプローチが戦術的なインテリジェンスにトリクルダウン効果を及ぼしたことだ。ある意味で、ロシアの軍事組織はプーチンの権威主義的本能を反映している。「指揮官の指示は正しいとされ、幕僚は命令をどう実行するかという具体的な戦術を決定するだけである」とある執筆者が書いている。これでは熟慮の余地はなく、情報報告は二の次であるのを暗示している。すべては指揮官の判断にかかっている。情報部の任務は、結果を正直に評価するよりも、司令官を成功に導くことであるため、作戦開始後に情報部の問題が深刻化する可能性が高い。ここで情報将校は、悪い知らせを伝えているオープンソースを無視したり、軽視する。戦術的な情報収集が充実していれば、もっとオープンな気持ちで取り組めるはずだ。

 しかし、秘密情報源に頼る情報将校にも、同じような問題が起こりうる。例えばベトナム戦争では、反乱軍の規模と回復力の推定をめぐり秘密の世界で論争が起きた。米軍は消耗戦に勝とうとしており、一部将校は、敵の人員補充より多くを殺害していると確信していた。しかし、CIAアナリストは、捕虜の尋問や捕獲した文書から、別の結論を導き出した。結局、ホワイトハウスが介入し、CIAを引きずり下ろした。政策立案者は、楽観的な軍部の予測を好み、それがベトナム戦争における政権側の戦略を支持することになった。

 CIAの問題は、情報源の選択でも分析方法でもなかった。問題は、ジョンソン政権に悲観的な評価に警戒心を抱かせた国内政治にあった。モスクワの現状についてはよくわからないが、プーチンはウクライナの戦闘力の強さと回復力に関する戦前の評価にアレルギーを感じていたと考えてよい。ロシア情報機関の問題は、国内政治が諜報機関と政策との生産的な関係を促進するかどうかにある。

 

秘密主義と戦略の関係

ウクライナ戦をめぐる議論が、パブリック・インテリジェンスにより形成されたことは否定できない。戦前のロシア軍増強の商業画像は、迫り来る紛争に注意を促した。侵攻後、ソーシャルメディア上に溢れた生の声は、ロシア軍を不道徳かつ無能な存在として描き出した。このことは、ウクライナへの同情とともに猛攻に耐えることができる期待を抱かせた。ウクライナへの国際的な広範な支援は、膨大な量の軍事装備品を提供する圧力となり、NATO加盟国はウクライナが非加盟なのにもかかわらず、実行に移した。この戦争は、新しい情報環境が国際政治に与える影響、秘密主義が相対的に重要性を失っているのを示す事例と考えてよい。

 しかし、結論を出すのは早計である。この戦争から得られた証拠は、情報機関にとっておなじみの課題を示唆している。リチャード・ベッツが言うように、諜報活動は国家に「図書館機能」を提供し、公的・私的情報を意思決定者にとって有用な形にまとめ上げるという点で最も優れている。現在の課題は、多様化する情報源の情報量にいかに対応するかだ。ウクライナ当局によると、ロシア軍の動向について、市民から政府アプリを通じ毎日数千件の報告を受けている。こうした情報は、他の情報源の情報と組み合わせれば、ウクライナ軍を迅速に対応させるかもしれない。しかし、組織的な問題が水面下に潜む。iPhoneを持つ市民からの戦術報告の信憑性を判断し、適切なタイミングで適切な部隊にそれを届けることは、複雑な作業となる。オープンソース情報は、過去の戦争で指揮官に有用であったが、それは効果的な配布方法を学んだからにほかならない。

 関連する問題として、情報の過多がある。情報機関は、敵に関係するあらゆる事柄に関し、詳細情報を好み、自分たちの情報システムは誤った報告を排除できると自信を持っているかもしれない。しかし、最近の経験では、高度なまで洗練された軍部でも、各種情報源からの膨大なデータの処理に苦労している。曖昧さを断ち切るため、一層多くの情報を収集しなければならないのに、結局は自分たちの情報システムに「戦争の霧を移す」ことになってしまう。軍事情報は常に、徹底的な収集と効率的な情報活用との間のトレードオフと格闘してきた。ウクライナ側は新しい情報収集法に熱心だ。しかし、このトレードオフをうまくコントロールできるかどうかにかかってくる。

 また、継続の兆しは他にもある。過去の戦争では、共通の敵に対して同盟国をまとめ、戦後も同盟国を維持するため、秘密情報の共有が重要だと証明された。対ロシア連合が成立したのも、主要同盟国の懐疑的な見方を克服するだけの秘密情報が提供されたからだろう。米情報機関は、ロシアの意図を戦略的に警告し、侵攻のタイミングと場所を警告し、ロシアが戦争を正当化する方法を示していた。こうした秘密を共有することで、一致団結して対応する土台を築くことができた。

 また、戦時下でも秘密工作が不可欠であることがわかる。バイデン政権は、ウクライナ軍がロシア地上軍や軍艦を狙う情報の共有を増やしてきた。一部では、ロシア将官をターゲットにした情報を提供したとの報道もあるが、米政府関係者は否定している。また、米国が提供した情報は、ウクライナ軍がロシア軍の動きを予測し、ロシアの士気を評価するのに役立ったかもしれないが、推測に過ぎない。

 最後に、秘密情報がウクライナのサイバー防衛に役立ったか考えてみたい。米サイバー軍司令部は戦前、ウクライナを「ハント・フォワード」任務で支援していた。このミッションでは、海外パートナーが自国ネットワークの防御の強化で米国の支援を要請し、また悪意あるサイバースペース・アクターに関する情報の向上について調整を行う。これにより、外国の脅威に対して、発生地点にできるだけ近いところで対処できる期待が生まれている。サイバースペースの脅威を先制するには、外国の情報機関とその非国家的な代理勢力の不透明な世界を明確に見通すことが必要である。オープンソースの分析は、特にサイバー空間での活動を事後的に特定する場合には有用だが、事前の阻止が目的ならば、秘密裏の情報収集に代わるものはない。サイバースペースでロシアに関する情報を得る努力によりロシアのサイバースペース作戦が有効でないのかもしれない。

 戦争終結のためには、秘密諜報機関が重要だと判明するかもしれない。ウクライナと米国の国内関係者は、譲歩を含む和解策を嫌うかもしれない。しかし、ウクライナがロシア軍を国土から追い出し、2014年以前の国境線を永久に守るとロシアに約束させ、完全勝利しない限り、何らかの譲歩が必要になるはずだ。これは国を挙げてロシアの侵略に反対してきたウクライナ指導者にも、プーチンを戦争犯罪人と呼んだバイデンにも、政治的に困難なことだろう。

 諜報機関は、政治的な争いから切り離された地下の外交チャンネルを開くのに有効かもしれない。静かな会談は、平和がいつ実現し、どのような条件で行われるかを見極めるのに役立つかもしれない。こうした対話は政治的に非常にデリケートで、また、表立った和平工作は凍結されているため、秘密裏に働きかけることが重要となる。諜報部員は秘密保持が仕事のため、この取り組みを進めるのに有利だ。

 戦争はいつか終わる。すべての戦争は終わらなければならない。しかし、今回の紛争は根が深いため、和平は微妙なものになるだろう。ロシアが真の平和ではなく、傷を癒すための小休止を求めているとウクライナは心配するだろう。一方、ロシア側は、拡大し続けるNATOにウクライナが接近するのを懸念するだろう。脆弱な和平を情報面で監視するには、秘密裡の情報収集と慎重な分析が必要だ。今回の紛争からオープンソースやパブリック・インテリジェンスも重要とわかるが、それだけでは十分ではない。■

 

 

 

Intelligence and War: Does Secrecy Still Matter?

JOSHUA ROVNER

MAY 23, 2022

SPECIAL SERIES - THE BRUSH PASS

Joshua Rovner is an associate professor in the School of International Service at American University.

Image: NASA fires mapping


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