スキップしてメイン コンテンツに移動

ウクライナ軍(だけで)ロシアをウクライナ領土内から駆逐するのは難しい

 

Ukraine Russia

ウクライナ戦車の主砲発射. Image Credit: Creative Commons.

ウクライナがロシアを国土から追い出したいとする願望は理解できるが、地理的・戦闘的な現実のため、実施すれば大きな代償を払うことになるだろう。

ォロディミル・ゼレンスキー大統領の防衛軍がプーチン侵攻部隊を戦術的に敗北させ、ドンバスで現在まで防衛していることはウクライナ人にとって大きな励みとなっている。米国やNATO諸国はウクライナに大量の武器・弾薬、さらに高性能な重火器装備を送り、ウクライナ軍(UAF)が防衛から攻撃に移行し、ウクライナ国内からロシアを追い出す日が近いと期待する向きさえある。

しかし、戦時下での攻撃から防衛への移行は、見た目より複雑で、多くの人が想像するよりはるかに長い時間がかかる。

ゼレンスキー軍が移行を急ぎ、攻勢に転じれば、破滅的な結果になる可能性がある。キエフと西側各国の政策立案者は、最良のケースでも、地理的条件と戦闘の現実のため、攻勢に転じるには多額の費用がかかること、費用や期間を投じても、成功の保証は得られないことを理解する必要がある。

防衛から攻撃へ転換するのは簡単に思うかもしれない。欧米がウクライナ軍に十分な数の新しい戦車、大砲、長距離防空ミサイルを提供すれば、ウクライナは攻撃に転じ、ウクライナ領土からロシアを追い出せると多くの人が結論付けている。キエフ北部のロシア軍を撃退し、ドンバス地方でもモスクワの攻撃に耐えてきたUAFが優秀なのは明らかであり、十分な数の戦車があれば、攻撃も成功できる、という論理はいかにも正しいように思われる。

だが、なぜロシアがキエフ北方への最初の攻撃に失敗し、ドンバスの戦いで何の打開策も見出せないままなのか、根本的な理由を理解することが重要なのだ。

プーチンの最初の失敗は、限られた戦力を4つの進攻軸に分けてしまった戦略にある。特にキエフ軸では、市街戦を展開する戦力が不足していた。

しかし、都市という制約のある環境での戦闘では、防御側がほぼすべてで優位となる。UAF部隊は高層ビルから戦い、戦車が砲を高くしても応戦できない位置から対戦車ミサイルで撃破できる。防御側は、建物の周囲から至近距離でロシア装甲車に忍び寄り、脆弱な背面や側面を攻撃できる。装甲火力の利点は、3km先の目標にも対応できることだが、市街地では100ヤード以下までしか射撃できない。

ドンバスの戦いでも、防衛側に大きな優位性がある。ウクライナは8年かけて、強壕、塹壕線、地雷原、キルゾーンに設置された砲撃目標、何マイルにもわたる防御陣地を精巧に構築してきたのである。キエフでの戦いと同様、ロシア軍はこのようなウクライナの多くの利点と戦わなければならないが、最初の突入以来、ロシア軍は突破口を開くことに成功していない。

ウクライナがドンバスで達成したいこと

現在、ウクライナ空軍はドンバスで守りを固めようとしており、ロシア軍による戦線侵入を防ぎ、ロシアがウクライナ陣地を攻撃しようとするたびに、代償を払わせようとしている。キエフの最初の目的は、ロシアの攻撃を足止めさせ、攻撃力を奪い、膠着状態に陥らせることにある。攻勢をかける前に、ウクライナはロシアの攻撃力を削がねばならない。

ウクライナ戦線へのロシア侵入の脅威を抑えた上で、ゼレンスキー軍は攻勢用に戦闘部隊を創設しなければならない。現在の部隊はすでに手薄で、ドンバスを膠着状態にすることに成功すれば、ウクライナ部隊は疲弊しているはずだ。

UAFはロシアの執拗な砲撃で毎日犠牲者を出しており、何カ月も続けば、部隊に与える心理的ダメージは小さくない。攻勢に転じるためには、ウクライナは機械化部隊を新たに編成する必要がある。

攻勢部隊の創設に必要なものとは

ロシア軍を自国から追い出すには、ウクライナは少なくとも大隊戦術グループ(BTG)75個を編成する必要がある。戦車、装甲兵員輸送車、野砲、迫撃砲、兵站トラック、医薬品、司令部、通信機器、大量の弾薬、燃料、食糧、水など、あらゆる側面をゼロから構築する必要があるのだ。

そのためには、75個BTGに配属される兵士が最低6万人、さらに歩兵と補充兵が2万人から3万人必要である。さらに、必要な装備、車両、予備部品、維持管理などをすべて西側が提供する必要がある。そして、ウクライナ兵士は、攻撃から安全なウクライナ西部で訓練を受ける必要がある。訓練は基本的な戦闘技術から始まる。

次に、戦車操縦手、砲兵、ミサイルシステムのオペレーターなど、特定の訓練、小隊運用、中隊レベルの訓練、そして最後にBTGレベルの複合武器訓練のあらゆる側面を学ばなければならない。

このプロセスは、UAFが勝利を望むのであれば、y短縮化できない。訓練には時間がかかる。おそらく6カ月から9カ月の集中訓練だろう(あるいは最低でも1年は必要だ)。この時点で、キエフのUAF司令部は攻勢を計画できる状態になる。しかし、この新編成にどんなチャンスがあるのかを考えるには、この6〜9ヶ月の間に敵がどう動くかも考えなければならない。

ロシアが想定する対抗策

UAFが部隊を編成し訓練する間に、ロシアは攻勢から守勢に転じてると思われる。工兵を投入し、防御陣地を掘り、要塞や障壁、戦車トラップなどを構築し、攻撃作戦を阻害する活動を開始しているだろう。また、戦闘による損失を補うため予備部隊を追加で投入し、防衛的な機動戦の方法を含め、部隊を訓練しているだろう。

ウクライナ軍が十分な攻撃能力を身につければ、攻勢に転じる段階に入る。しかし、ここでウクライナの指揮当局は全く新しい難題に取り組むことになる。これまでの戦いでは、ウクライナ側には防御側に有利な地形の利点があった。しかし、攻勢に転じれば、利点を捨て、攻撃側に課されるリスクを負うことを意味する。

UAFは開戦以来、自分たちを守ってくれた防御陣地を離れ、開けた場所に移動する。そうなれば、2月のロシア軍同様に脆弱になる。挑戦的なロシアは、防衛施設を建設し、前線の奥深くで反撃ルートをリハーサルし、新しく訓練された兵員を投入し、長期戦闘用に物資を備蓄する時間が十分あったはずだ。

ウクライナの攻勢がもたらしそうな結果

ウクライナが戦時中に新たな攻撃力をゼロから構築し、同時に東部で激化するロシアの攻勢から防衛できる可能性は高くないだろう。平時において、外圧を受けずに質の高い攻撃力を生み出すには、通常、何年もかかる。想像しうる最悪の状況下で、数カ月で部隊を編成するのは、信じられないほど困難である。

しかし、いったん部隊が編成されれば、数カ月かけて防御態勢を整えてきた敵を相手に攻撃作戦を展開することになり、ウクライナの防空能力も限られる。この編成のまま、現在ウクライナ領土の数百平方キロを支配しているロシア軍の駆逐に成功する可能性は、驚くほど低い。

ウクライナ人の勇気と闘志は伝説的であり、疑問の余地はないが、キエフがこの新規攻撃部隊を編成し、ロシアを追い出す新作戦を開始した場合、ウクライナ軍は後退を強いられ、領土の奪還は限定的となり、結局再び膠着状態に陥る可能性がある。

その間、ウクライナ国民は軍事、民間両面に多大な犠牲を払い続け、都市は瓦礫と化し、経済は破壊されたままとなる。そして、戦争は何年も続き、数年おきに能力を回復して攻撃を再開するロシアのサイクルが繰り返されるだろう。

結論

ロシア兵を一人残らず領土から追い出したいとするウクライナの気持ちはよくわかる。筆者が彼らの立場なら、間違いなく同じ思いを抱くだろう。しかし、ウクライナの地理や戦闘の現実を客観的に分析すれば、ウクライナの成功の可能性は極めて低く、失敗の可能性が高いと分かる。キエフ当局は、戦闘継続以外の選択肢を考えるのが賢明だろう。

ドンバスの戦いが終わるまでは、ゼレンスキーもプーチンも戦闘終結の真剣な交渉に応じない可能性が高い。最終的にロシアがドンバスでUAF戦闘部隊を包囲・撃破すれば、プーチンの交渉力は大幅に向上する。ゼレンスキー軍がロシアの攻撃力を枯渇させ、ドンバスで膠着状態を作り出せば、キエフの交渉力は大きく向上することになる

しかし、厳しい現実として、ウクライナ側による軍事的勝利が期待できる合理的な根拠はない。試行錯誤のコストは高く、甚だしい。キエフは望まない取引にも応じざるを得なくなり、はるかに高いコストで取引に応じなければならないだろう。そうなると、最も論理的で合理的な道は、キエフがモスクワと本格交渉し、戦争を終わらせる取引をすることだろう。

最後に、この結論は、ウクライナのいかなる指導者や市民より、筆者がはるかに容易に出せることを率直に認める。侵略してきた敵に対する憎しみの強さには想像を絶するものがあり、ロシアから解放されたいという願いは正義を超えたものである。

結局、ウクライナ国民は、成功する確率が低く、失敗したときのコストが高いことに挑戦するとしても、どのような行動をとるかを決めなければならない。そんな恐ろしい選択を迫られるのは筆者は願い下げだ。■

Ukraine Wants to Drive Russia from its Soil. Is That Really Possible? - 19FortyFive

ByDaniel DavisPublished6 hours ago

Now a 1945 Contributing Editor, Daniel L. Davis is a Senior Fellow for Defense Priorities and a former Lt. Col. in the U.S. Army who deployed into combat zones four times. He is the author of “The Eleventh Hour in 2020 America.” Follow him @DanielLDavis1.



コメント

このブログの人気の投稿

フィリピンのFA-50がF-22を「撃墜」した最近の米比演習での真実はこうだ......

  Wikimedia Commons フィリピン空軍のかわいい軽戦闘機FA-50が米空軍の獰猛なF-22を演習で仕留めたとの報道が出ていますが、真相は....The Nationa lnterest記事からのご紹介です。 フ ィリピン空軍(PAF)は、7月に行われた空戦演習で、FA-50軽攻撃機の1機が、アメリカの制空権チャンピオンF-22ラプターを想定外のキルに成功したと発表した。この発表は、FA-50のガンカメラが捉えた画像とともに発表されたもので、パイロットが赤外線誘導(ヒートシーキング)ミサイルでステルス機をロックオンした際、フィリピンの戦闘機の照準にラプターが映っていた。  「この事件は、軍事史に重大な展開をもたらした。フィリピンの主力戦闘機は、ルソン島上空でコープ・サンダー演習の一環として行われた模擬空戦で、第5世代戦闘機に勝利した」とPAFの声明には書かれている。  しかし、この快挙は確かにフィリピン空軍にとって祝福に値するが、画像をよく見ると、3800万ドルの練習機から攻撃機になった航空機が、なぜ3億5000万ドル以上のラプターに勝つことができたのか、多くの価値あるヒントが得られる。  そして、ここでネタバレがある: この種の演習ではよくあることだが、F-22は片翼を後ろ手に縛って飛んでいるように見える。  フィリピンとアメリカの戦闘機の模擬交戦は、7月2日から21日にかけてフィリピンで行われた一連の二国間戦闘機訓練と専門家交流であるコープ・サンダー23-2で行われた。米空軍は、F-16とF-22を中心とする15機の航空機と500人以上の航空兵を派遣し、地上攻撃型のFA-50、A-29、AS-211を運用する同数のフィリピン空軍要員とともに訓練に参加した。  しかし、約3週間にわたって何十機もの航空機が何十回もの出撃をしたにもかかわらず、この訓練で世界の注目を集めたのは、空軍のパイロットが無線で「フォックス2!右旋回でラプターを1機撃墜!」と伝え得てきたときだった。 戦闘訓練はフェアな戦いではない コープサンダー23-2のような戦闘演習は、それを報道するメディアによってしばしば誤解される(誤解は報道機関の偏った姿勢に起因することもある)。たとえば、航空機同士の交戦は、あたかも2機のジェット機が単に空中で無差別級ケージマッチを行ったかのように、脈絡な

主張:台湾の軍事力、防衛体制、情報収集能力にはこれだけの欠陥がある。近代化が遅れている台湾軍が共同運営能力を獲得するまで危険な状態が続く。

iStock illustration 台 湾の防衛力強化は、米国にとり急務だ。台湾軍の訓練教官として台湾に配備した人員を、現状の 30 人から 4 倍の 100 人から 200 人にする計画が伝えられている。 議会は 12 月に 2023 年国防権限法を可決し、台湾の兵器調達のために、 5 年間で 100 億ドルの融資と助成を予算化した。 さらに、下院中国特別委員会の委員長であるマイク・ギャラガー議員(ウィスコンシン州選出)は最近、中国の侵略を抑止するため「台湾を徹底的に武装させる」と宣言している。マクマスター前国家安全保障顧問は、台湾への武器供与の加速を推進している。ワシントンでは、台湾の自衛を支援することが急務であることが明らかである。 台湾軍の近代化は大幅に遅れている こうした約束にもかかわらず、台湾は近代的な戦闘力への転換を図るため必要な軍事改革に難色を示したままである。外部からの支援が効果的であるためには、プロ意識、敗北主義、中国のナショナリズムという 3 つの無形でどこにでもある問題に取り組まなければならない。 サミュエル・ P ・ハンチントンは著書『兵士と国家』で、軍のプロフェッショナリズムの定義として、専門性、責任、企業性という 3 つを挙げている。責任感は、 " 暴力の管理はするが、暴力行為そのものはしない " という「特異な技能」と関連する。 台湾の軍事的プロフェッショナリズムを専門知識と技能で低評価になる。例えば、国防部は武器調達の前にシステム分析と運用要件を要求しているが、そのプロセスは決定後の場当たり的なチェックマークにすぎない。その結果、参謀本部は実務の本質を理解し、技術を習得することができない。 国防部には、政策と訓練カリキュラムの更新が切実に必要だ。蔡英文総統の国防大臣数名が、時代遅れの銃剣突撃訓練の復活を提唱した。この技術は 200 年前のフランスで生まれたもので、スタンドオフ精密弾の時代には、効果はごくわずかでしかないだろう。一方、台湾が新たに入手した武器の多くは武器庫や倉庫に保管されたままで、兵士の訓練用具がほとんどない。 かろうじて徴兵期間を 4 カ月から 1 年に延長することは、適切と思われるが、同省は、兵士に直立歩行訓練を義務付けるというわけのわからない計画を立てている。直立歩行は 18 世紀にプロ