四極安全保障対話(Quad)の各国首脳が東京に先週集結した。その後、ホワイトハウスは、日本、オーストラリア、インド、米国の4カ国が、インド洋太平洋を合わせた広大な地域で「海洋領域の認識」を強化する協力の意向と発表した。ホワイトハウスによれば、インド太平洋パートナーシップは、「太平洋諸島、東南アジア、インド洋地域のパートナーが自国の沿岸海域を完全監視する能力を変革し、ひいては自由で開かれたインド太平洋を維持する」ものとある。
海洋領域認識とは、海に関する偵察、監視、諜報を意味する不格好な言葉だ。2005年、ジョージ・W・ブッシュ政権下の国土安全保障省は、「米国の安全保障、安全、経済、環境に影響を与える可能性のある、グローバルな海洋領域に関連するあらゆるものを効果的に理解すること」と定義した。これは「積極的かつ深層的な海上防衛の重要要素」であり、「実用的な情報とあわせ情報を収集、融合、分析、表示し、作戦指揮官に伝達する能力を向上させる」ことで強化される。
クアッド構想は、情報機関が目前の問題を解決するため収集すべき情報を計画し、技術的・人的資源から生データを集め、データを処理・分析し有用な洞察を引き出し、結果を正しい利用者に伝え、戦略や作戦の立案・実行を支援する「情報サイクル」の海洋多国間版だ。そして、利用者は計画プロセスにフィードバックを提供し、次の段階を形成する。インテリジェンス・サイクルに終わりはない。
海外パートナーを情報サイクルに活用することには意味がある。現在は緊迫した平和の時代であり、中国やロシアのような悪党が、武器を使わずに地政学的な利益をねらう時代だ。特に中国は「グレーゾーン作戦」が得意で、劣勢な周辺国をいじめ、不法行為を容認させる。南シナ海は中国のグレーゾーン戦略が最も顕著な場所になっており、沿岸国の排他的経済水域を含む海域の大部分を中国の領海としようとしている。中国共産党の大物が言うところの「青い国土」だ。しかし、中国共産党は陸上でも同じアプローチを展開し、クアッドパートナーのインドに被害を与えている。例えば、ここ数カ月、インド国境沿いの係争地に軍事・民生インフラを建設し、インド指導部に戦争の危険を冒して中国兵をその地から追い出す姿勢を迫った。現地で事実を作り上げ、他国を挑発する。中国のライバルが武力衝突の可能性にひるめば、中国の勝ちとなる。
これは対抗が難しい戦略だ。しかし、クワッドの情報作戦は、侵略者による不法行為の抑止に役立ちそうだ。行為を探知し、国際的な非難を浴びせることで、北京やモスクワなど犯罪国家では得ることのない影響力を増幅させることができよう。また、海洋領域の認識により、クアッドは海上での不正行為に対してより強力に対応できる。結局のところ、現場がどこで、何が起きているのかがわからなければ、資産を現場に直行させられない。海軍の戦術家である故ウェイン・ヒューズ大佐Captain Wayne Hughesが、指揮統制や兵器の射程距離と並び、戦術的有効性を決定する3大要素の1つとして「スカウティング」(実質的には偵察と監視)を挙げているのも不思議ではない。目標を探知し、追跡し、把握する能力は極めて重要だ。
ヒューズ大佐は有事の海戦について書いているが、同じ論理が平時の戦略的競争にも適用される。強気の海上外交は、平和的外交で事態を解決できない場合に、潜在的な軍事的オプションを各方面に認識させ、重要地点で優れた戦闘力を発揮する能力次第で効果が変わる。ヒューズの偵察・指揮統制の機能に情報サイクルを加えれば、インド太平洋の海空の抑止や強制機能に、クアッド加盟国が海軍や軍事力という大きな棒を振り回したり、クアッド非加盟のインド太平洋諸国へ自国の権利のため立ち上がれと鼓舞したりでき、質感も増す。そしてもちろん、海域領域認識の論理は、戦時作戦にも当てはまる。平時から有事まで、海洋領域で行うすべての基礎となる。
だが、リソースと労力をプールするのは大変だ。海上でのクワッド情報作戦での最大の課題は相互運用で、それぞれ異なる軍隊や情報機関が調和して協力する能力を意味する。東京、キャンベラ、デリー、そしてワシントンの意思決定者がまず注目するのは、間違いなくハードウェアだろう。そして、互換性あるセンサーと指揮統制技術の重要性には疑う余地がない。米国、日本、オーストラリアは長年の同盟国で、共同運用に慣れているため、装備の相違を回避できる。しかし、インドの情報機関、軍、法執行機関は、国内外の異なるサプライヤーからハードウェアを調達してきたため、インドとの協力は難易度が高くなりそうだ。インド自体の国家安全保障機関間でも相互運用性に課題があり、ましてや海外との連携は難しい。この格差を克服できれば、大きな成果を生むだろうが、その過程で問題が生じるのは間違いない。
また、海洋領域認識での共同作業では、共通の利益のため各パートナーの制度的慣行を調整することが求められる。つまり、技術面だけでなく、人間的な側面もある。クワッドのパートナーはそれぞれ異なる社会であり、異なる遺産と文化的特質を持つだけでなく、情報機関や軍部には独自の官僚的文化や世界観がある。そのため、もう一つ複雑な要素となる。海洋領域の認識、ひいては侵略に対する共通の政策と戦略という目標に向かって、各国を連携させることは、関係者の頭痛の種となるだろう。要は、海洋領域の認識には小道具より重要なことがある。それは、協力し合うことを日々の習慣にすることだ。これが官僚の頭痛の種を和らげる最良の方法となる。
これが海洋外交の複雑な背景事情だ。しっかり対応していこう。■
How the Quad Can Take on China in the 'Gray-Zone' - 19FortyFive
A 1945 Contributing Editor, Dr. James Holmes holds the J. C. Wylie Chair of Maritime Strategy at the Naval War College and served on the faculty of the University of Georgia School of Public and International Affairs. A former U.S. Navy surface warfare officer, he was the last gunnery officer in history to fire a battleship’s big guns in anger, during the first Gulf War in 1991. He earned the Naval War College Foundation Award in 1994, signifying the top graduate in his class. His books include Red Star over the Pacific, an Atlantic Monthly Best Book of 2010 and a fixture on the Navy Professional Reading List. General James Mattis deems him “troublesome.” The views voiced here are his alone. Holmes also blogs at the Naval Diplomat.
In this article:China, featured, India, Japan, Quad, Quadrilateral Security Dialogue
WRITTEN BYJames Holmes
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