アジア太平洋地域の沿岸域での作戦に最適化した新型ハイブリッド輸送機コンセプトがDARPAから発表された。
米国防総省がめざす水上輸送機構想は、ボートと飛行機の中間に位置する「エクラノプラン」、地面効果翼(WIG)の原理を応用する。地上効果を利用して水面を高速で滑走するエクラノプランは、これまで旧ソ連を中心に限られた地域で軍事利用されただけだったが、米軍で採用されれば、革新的な一歩となる。
国防高等研究プロジェクト庁(DARPA)は、エクラノプランのコンセプトを応用した長距離・低コストのXプレーンをめざすリバティ・リフター・プロジェクトを立ち上げた。DARPAは、同機で海上での戦略的・戦術的揚力を実証することを期待し、「作戦用のロジスティクス能力の飛躍を実証する」としている。
メディアリリースでDARPAはこう説明している。「想定の機体は、大型貨物の高速で柔軟な戦略的輸送と、水面離着陸能力を兼ね備える。機体構造では、水面近くでの高度な制御飛行と、中高度飛行の両方が可能となる。さらに、同機は低コスト設計と製造の理念に基づき建造される」。
現在、プログラムは初期段階にあり、DARPAの戦術技術室のプログラムマネージャー、アレクサンダー・ワランAlexander Walanによれば、「水上飛行機の航続距離、ペイロード、その他のパラメータ」を再定義するという。
しかし、ワランは、プログラムの目標について、「長期にわたる海上作戦において、戦闘部隊に新しい能力を提供するXプレーンの実証機になる」と自信たっぷりに語る。
リバティリフターのコンセプト図のひとつ DARPA
コンセプトアートと合わせ公開したビデオで、このXプレーンの姿がわかるが、機体はコンセプト図にある双胴形式の貨物機より相当小さいものになる。
このデザインは、直線翼を、コックピットをつけた2つの箱型胴体と結合させ、小さなカナード前翼を備えている。動力装置は、主翼に沿って取り付けた10個のプロペラユニットとして描かれているが、各ユニットが共通の動力装置を使用しているかは不明。さらに、別のコンセプト図では、プロペラはプッシャー配置になっており、さらに別のコンセプトでは前方に向いている。胴体には、わずかに傾斜した尾翼があり、その上に水平安定板が装着されている。
DARPAが公開したビデオでリバティリフターが装甲車両を海岸に発進させ強襲攻撃を加える DARPA
映像でわかる重要な点は、上方に開く機首扉から海岸に車両を走行させる荷揚げプロセスだ。
リバティリフターが水面を滑走するだけでなく、高度1万フィートまでの「中高度」でも飛行可能であることは、同機が、エクラノプランの利点と従来型の固定翼機の優れた性能特性および柔軟性を組み合わせたハイブリッド機であることを示している。
水上を滑走することで、エクランオープンは貨物を迅速かつ効率的に移動させる。ただし、低空飛行で機動性に乏しいため、水面上の各種物体に衝突し、ダメージを受ける危険がある。DARPAによると、エクラノプランの定義は、水上(または陸上)の飛行距離が翼幅以下としている。
リバティリフターのコンセプトは、エクラノプランのように、滑走路に依存せず、必要に応じ水上を低空飛行することだ。
また、通常のエクラノプランの場合、波が高いと運航に支障をきたす。離陸が穏やかな海域に限られるのは、従来型の飛行艇にも共通する欠点だ。
DARPAによれば、リバティリフタープログラムで取り組む主な課題の1つは、荒れた海域での運用方法。「低速で高揚力を生み出し、離着陸時の波の衝撃負荷を軽減し、波の力を吸収する革新的な設計ソリューション」を実現することだ。
「高度なセンサーと制御機能」が、大きな波を回避し、離着陸手順の間に空力/流体力学の相互作用を処理するため開発される。
こうした各種技術の融合は、DARPAがリバティリフターを輸送機だけでなく貨物船にも拡張する構想で考えているためだろう。しかし、従来型の輸送機と異なり、リバティリフターは水上から離着水が可能である。また、貨物船と対照的に、リバティリフターは、エクラノプランの機能で、より速く、より高い生存率で積載物を輸送できる。
DARPAが指摘するように、「現在の海上輸送は大量のペイロードを輸送する上では非常に効率的だが、脅威に対して脆弱で、港湾施設を必要とし、輸送時間が長くなる」。米空軍の輸送機は、貨物を迅速に輸送できるものの、滑走路の制約を受け、また非常に脆弱という欠点がある。また、米国防総省が重視する海上作戦の支援もできない。
リバティリフターは滑走路に依存しないだけでなく、陸上での整備を大幅に減らし、「数週間、海上で連続運用できる」想定だ。
この考え方は、明らかにアジア太平洋地域における中国との将来の紛争の可能性に基づくものだ。 中国との紛争では、海上輸送が主体となり、貨物や人員の移動は長距離に及び、通常の飛行施設は中国の長距離攻撃により緒戦から脅かされる。
こうした懸念のため、米軍全体が想定する戦い方が大きく変化し、特にアジア太平洋の海上における航空輸送は、この新しい考え方の応用になる。
ここ数カ月、米特殊作戦司令部(SOCOM)は、特殊作戦部隊の支援用に沿岸部で運用する水陸両用C-130ハーキュリーズの変種、MC-130J Amphibious Capability(MAC)を発表した。同機は、リバティリフターと同じ課題に答える想定だが、DARPAは幅広い要求を満たすため、より根本的なアプローチを考えているようだ。
MC-130J MACの構想. U.S. Special Operations Command
米空軍は日本の新明和US-2水陸両用機の導入に公式な関心を示していないものの、米空軍がアジア太平洋でのコープ・ノース演習で、同機とともに訓練を行ったことも注目される。US-2は、現在も供用中の数少ない水陸両用機であり、沿岸部での特殊作戦任務にも適しているようだ。
新明和US-2がコープノース22演習でティニアン島沖合に展開した。2022年2月 U.S. Air Force/Senior Airman Joseph P. LeVeille
リバティリフター・プロジェクトから量産機が誕生するとしたら、DARPAは「精巧で軽量なコンセプトよりも、低コストかつ製造が容易な設計を優先する」としている。手頃な材料を使えば、「大量に」購入できるはずだ。
リバティリフターから派生した航空機がコープ・ノース演習に参加するまでは数年先になりそうだ。
しかし、DARPAが海上空輸の概念全体の見直しに入ったのは、アジア太平洋地域で互角の戦力を有する敵との紛争を国防総省が真剣に受け止めているためだ。■
Cargo Hauling Ekranoplan X-Plane Being Developed By DARPA | The Drive
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MAY 19, 2022 2:27 PM
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