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北朝鮮が北京を核攻撃する日。中朝関係は一枚岩ではない。北朝鮮を国家としてではなく、犯罪組織としてみればより良く理解できる。

 

Hwasong-12 IRBM. Image Credit: North Korea State Media.

 

 

北朝鮮核兵器の脅威はもうひとつある

習近平国家主席は、朝鮮半島に対し「戦争しない、混乱させない、核兵器を持たせない」という「3つのNO」政策を掲げている。これまでのところ、習近平は3つのうち2つを達成している。北京は北朝鮮の核兵器の増加を、中国への直接的な脅威ではない前提で、見過ごしてきた。しかし、北京の「3つのNO」へのコミットメントが、この仮定を覆す危険性がある。北朝鮮が崩壊したり、韓国を攻撃する事態になれば、北京は混乱や戦争を防ぐため介入したくなるだろう。その際、北朝鮮の核兵器を強引に確保しようとするかもしれない。北朝鮮は中国に核兵器を使用したくなるときが来るだろう。

 

 中国と北朝鮮の同盟関係には葛藤がある。北朝鮮の最高指導者金正恩は、中国の真意を常に警戒し、北京が北朝鮮をコントロールしようとしていることに疑念を抱いてきた。この70年間で同盟の亀裂は深まり、金正恩が北京の意向に反し核兵器製造や実験を重ねる中で、今後もそうなる可能性が高い。北朝鮮のチュチェ思想は、西側世界との関係だけでなく、中国の保護に依存することに関しても自立を強調している。金正恩にとって、核兵器は究極の「自立」を意味する。さらに、金正恩のイデオロギーは明確に反事大主義であり、大国のニーズに応えることに反対である。これには、他の敵国から守る見返りに中国に仕えることも含まれる。2018年、北朝鮮の著名なエリートは、「日本は(北朝鮮の)100年来の敵だが、中国は1000年来の敵」と宣言した。

 平壌と北京の関係が不安定であることを認識したからといって、中国が米国と協力して北朝鮮を封じ込めようと躍起になるとは限らない。むしろ、半島での軍事的な有事で米韓両軍にもたらすリスクを増大させる。このリスクを回避するため、ワシントンと北京は、朝鮮半島有事におけるコミュニケーションと協調を改善するため土台を築くべきである。

 

北朝鮮が中国にとって脅威となる

北京は長い間、半島での紛争が北朝鮮の難民危機や、放射性降下物が中国領土に飛来する可能性など、中国に損害をもたらすことを恐れてきた。しかし、北京は、将来、朝鮮半島有事で北京が第三者として介入した場合、金正恩の核兵器が直接的な脅威となる可能性について言及するのを避けてきた。

 北京が地域的、世界的に優位に立とうとする中で、「兄」への敬意に欠ける好戦的な核保有国が隣国にあることは、特にその隣国の核活動がその他国を核武装させる危険性をはらんでいる場合、何の役にも立たない。ランド研究所上級政治学者のアンドリュー・スコベルAndrew Scobelの言葉を借りれば、北京は平壌を「すぐ隣の老朽化した古家に住み、大量の殺傷兵器を備え、大人の監督下にない問題児」であり、「強い自己破壊的傾向」によって中国の「新しく改装された邸宅」に損害を与えかねない存在と見ているのである。

 それでも北京は、金正恩の核開発への執拗な野心を抑えることは不可能に近いと知っているので、現状を維持しようとする。制御不能な「弟」に従順さを示し、北朝鮮国内の安定を保ち、体制崩壊の防止を期待している。しかし、この戦略にも賞味期限が迫っている。

 金正恩が内部クーデターを回避するため韓国を陽動攻撃した場合、北京はほぼ間違いなく自国の利益を確保するため介入してくるだろう。中国は、北朝鮮が韓国と米国に対して紛争を起こした場合、北朝鮮を支援することはないと明言している。それどころか、中国は巻き添え被害と、それが招く米軍の対応を懸念しているのだろう。したがって、北京にとって最善の行動は、北朝鮮の攻撃を阻止するか、封じ込めることになる。

 

North Korea

北朝鮮の新型極超音速ミサイル。Image Credit: KCNA/North Korean State Media.

 

しかし、北京が平壌を支援しないこと、さらにソウルへの攻撃を阻止しようとする可能性があることは、さらなる緊張と不信感を生む。金正恩は、北京が紛争に乗じ傀儡政権を樹立したり、安定化の名目で北朝鮮に軍を派遣して領土拡大を狙うのではないかとさえ懸念しているのだろう。

 平壌の懸念は当然である。中国の著名な軍事作家は、指揮官は危機を国益増進のための「機会の窓」に利用すべきだと主張している。北京は、金正恩の脆弱性を利用し、より有利な条件を作り出す必要に迫られているのだろう。しかし、朝鮮民族の千年来の敵である中国に北朝鮮を支配されることは、米国に支配されるのと同様に、いやそれ以上に金正恩にとって受け入れがたいことであろう。そのような状況下では、中国の介入を抑止するために、核兵器で北京を脅すことが必要だと金正恩は結論づけるかもしれない。

 

核使用に踏み込むケース

もちろん、北京は北朝鮮有事の際には、平壌の核兵器を奪取または破壊に動く可能性が高い。しかし、介入が強い反発を受けないと北京は早合点してはならない。人民解放軍は朝鮮人民軍よりはるかに優れているからこそ金一族は大量破壊兵器を作り上げたのである。核兵器は、大国の影響力を阻止し、主権を維持する政権の究極の手段となっている。さらに、北京が卓越した情報力を持ち、金正恩の核兵器のありかをすべて把握しない限り、中国軍が核兵器を全数押収・破壊することはできないかもしれない。そうなると、平壌には残存兵力で北京に反撃する機会が残されることになる。

 北京が明確な核の優位性を保っている中で、金正恩が果たしてそれを敢行するだろうか。可能性はある。米国が実質的な核優位にあるにもかかわらず、ワシントンは平壌の核兵器を脅威とみなしている。さらに、平壌が介入を抑止するために1、2箇所の目標を人質に取ることができれば、核の同等性や優位性はそれほど重要ではなくなる。抑止力を確立するためには、金正恩は許容できない損失を脅し、それを実行する意思を伝えることができればよいのである。米朝間の核の非対称性は、金正恩がさらなる兵器を製造することを妨げてはいないし、金正恩が米国に対して兵器を使用すると脅すことを妨げてはいない。さらに、平壌は大陸間弾道ミサイルよりも短距離・中距離弾道ミサイルを多数保有しており、北京はワシントンよりも近い。

 金正恩体制がより広範かつ高性能な核兵器の蓄積を積極的に進めているのは、この戦略を強化する意向を示すものだ。専門家の中には、金正恩が2027年までに保有する核弾頭は200発以上と予想する者もいる。北朝鮮が生存可能な報復攻撃能力を開発すれば、平壌は米国と北京の両方に対し妨害工作をさらに多く行うことができる。体制崩壊の崖っぷちに立たされた金正恩は、こうした脅しを実行に移そうとするかもしれない。金正恩の核兵器は彼の生存と同義であり、それを奪おうとするいかなる勢力も金正恩の核の影の下で活動することになる。中国の安全保障専門家はこれまで、北京に対する核の脅威を深刻に受け止めてこなかっただけに、そのリスクはいっそう高くなる。

 

なぜ米国が懸念すべきなのか

北京とワシントンは共に懸念材料を抱えているにもかかわらず、北朝鮮問題で意見が一致する状況にはない。最近、ある元朝鮮半島米軍司令官は、半島での将来の戦争計画に中国を含める必要があると主張した。しかし、米中間の戦略的競争が続いているため、将来の北朝鮮有事における政治的協力は困難である。しかし、中国に対する核兵器の威嚇や実際の使用を含む有事計画を立てなければ、すべての当事者に破滅的な結果をもたらす可能性がある。さらに、北京がこの地域で経済的・政治的影響力を拡大し続けているため、紛争のない安定した朝鮮半島を実現するための賭け金はさらに高くなるであろう。したがって、北京とワシントン双方の戦略家は、化学兵器や生物兵器はもちろん、大量の核兵器で武装し、好戦的になっている金正恩にどう対処するかを考えておく必要がある。

 

 金正恩が中国を標的にするリスクは、北京にとっては単なる問題の一つに過ぎないと結論づける楽観論者もいよう。しかし、連合軍司令部にとっての危険性も同様に検証すべきだ。米韓の兵士が中韓の間で銃撃戦に巻き込まれれば、深刻な巻き添え被害が発生しかねない。さらに、核危機の際に中国と連合軍司令部の間で連携やコミュニケーションが不足すれば、不用意なエスカレーションにつながる可能性さえある。例えば、北京は、北朝鮮に向けられた連合軍司令部の対ミサイル能力が中国軍を標的にしていると誤解するかもしれない。このリスクは、2016年のTHAAD案件で実証ずみだ。

 将来の北朝鮮有事における中国の介入は、米国にとって問題と機会の両方をもたらす。もし中国が、平壌の核兵器が自国の国家安全保障を直接脅かしていると知れば、北朝鮮の核の脅威をより深刻に受け止めるだろう。そうなれば、米国と北京は金正恩の核開発を阻止するための負担を分担し、おそらくは半島での将来の不測の事態に備えた計画を共同策定することさえ可能になるだろう。逆に、北京が平壌の核兵器を脅威とみなしつつも、将来の北朝鮮有事のための計画を独自に策定し続けることにした場合、コミュニケーションの改善を促すことに大きな価値がある。北京とワシントンの利害が対立し、相互不信が深まっていることを考えれば、偶発的なエスカレーションや巻き添え被害のリスクを軽減することは、双方の優先事項であるはずだ。■

 

Would North Korea Ever Turn Its Nuclear Missiles on China? - 19FortyFive

ByDiana Myers

 

Diana Y. Myers is a former Air Force Ph.D. fellow at the RAND Corporation and holds a Ph.D. in public policy analysis. A more detailed analysis of this issue can be found in her doctoral dissertation, “Thinking About the Unthinkable: Examining North Korea’s Evolving Military Threat Against China.” She currently serves as an active-duty officer in the United States Air Force.

The opinions presented in this article are entirely her own and do not represent the views of the U.S. Air Force or of the U.S. government. 

In this article:China, featured, Military, North Korea, Nuclear Weapons

 

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